「い〜ち、に〜い、さ〜ん…」  
楽は自分の部屋で柱に向かい、30数えていた。  
(何で勉強会を中断してかくれんぼなんだ…集のヤツ…)  
内心愚痴を零しながら、律儀に目を腕で覆い、数え続ける。  
集が誠士郎を焚き付け、るりがそれに乗っかり、万里花も賛成した。  
小咲と千棘は流されたようだ。そして楽の反対は無視されてしまった。  
そしてあれよあれよと言う間にじゃんけんに負け、楽が鬼になってしまった。  
「にじゅうく、さ〜んじゅ…っと…!?」  
辟易しながら振り向いた瞬間、見知った顔が視界に飛び込んできた。  
「……橘」  
「はい♡」  
「何で真後ろに立ってんだ…」  
「私、楽様の前から消えるなどと言う不埒な選択肢は御座いませんの♡」  
両手を合わせ、頬に当て、にこやかに首を傾げる。  
「お前、かくれんぼの意味無ぇじゃねえか」  
「私、楽様の前から隠れたくありません…それに今は二人きりですわ♡」  
摺り寄る万里花と攻防を重ねる事5〜6分、漸く檻代わりの部屋に座らせ、楽は捜索を開始した。  
他のメンバーは流石に上手く隠れたようだ。  
「皆どこ行ったんだ?」  
勘で適当に障子を開け、部屋に入る。  
押入れの襖を開けて顔をぐいっと中に入れ――仕切りの奥に人影が見えた。  
「誰だ?」  
声を掛けるとびくっと震える。暗くて誰か分からない。  
確かめようと体ごと押し込み、仕切りに手を掛けて一気に顔を突っ込む。  
「あっ」  
「あ、おのd…!?」  
見つけたと思った瞬間、勢い余ってそのまま乗り越えてしまった。  
「きゃあっ!?」  
「うわっ!」  
ばふっと音がして、小咲の上に覆い被さる。  
小咲は仰向けに、楽は俯せに、向かい合わせに倒れ込んだ。  
押し倒した格好になり、体が密着した。心臓が早鐘を打つ。  
慌てて腕を突っ張り、自分の体を持ち上げた。  
「わわわわ、わりぃ」  
「あ、ううう、うん、わわ私はだだだだだいじょぶ…うぅ…」  
二人とも顔が熱くなる。  
ふと気付いた。互いの顔が正面に位置し、目線が絡み、見つめ合う状況だ。  
いつものように、3秒経たずに二人とも顔を逸らす。  
(どどどどどどうしよう、一条君に押し倒されちゃったぁぁあああ…)  
(あわわわわわわ…おおおおお押し倒しあばばばっばばばば…)  
 
 
取り敢えずかくれんぼの最中である事を思い出す。  
「おおお小野寺、とととと取り敢えず出るか」  
「ああああ、う、うん、そそそそうだね…」  
楽は、パニックになった事で天井が低い事を忘れ、勢いよく起き上がった。  
 
――ガツン――!  
 
「ぐあっ!」  
後頭部を打ち、脳裏に火花が散る。  
そのまま再び、どさっと小咲の上に倒れてしまった。  
「きゃっ!?…いいいいい一条君!?」  
楽の顔が胸の谷間にうずまる。  
「い、一条君?…だ、大丈夫…?」  
小咲は恥ずかしさを堪えつつ、心配そうな表情で楽の体を揺さぶった。  
「う…うぅ〜ん…」  
意識が朦朧とする中、顔に柔らかい物が当たっている。  
(あれ…何だこれ…気持ちいいな…)  
左右両方から当たる柔らかさの正体を突き止めようと両手を伸ばした。  
フニフニと揉んでみる。  
 
――両方ともお椀のような形で適度な弾力性が有り、それなりに重量感が――  
 
「んっ!やっ、だ、だめっ」  
小咲の声がして、お椀が震えた。  
「えっ?…小野寺…?」  
意識がはっきりしてきた。ゆっくりと顔を離し、声のする方に首を曲げる。  
「……!!?」  
漸く状況を理解したらしい。  
「あ……あわわわわわわ…!!」  
小咲が横を向いてプルプルと震えている。ぎゅっと目を瞑っているようだ。  
「おおおおお小野寺…あああああの、その…」  
直ぐに手を離すが、その後が動けない。  
「んっ…だ、大丈夫、だよ…じ、事故、だもんね…え、えへへ…」  
楽には、無理に笑っているように見えた。  
(ぎゃあああああ!嫌われたっ、絶対嫌われたああああああ!!!)  
もうこの世の終わりのような気分でしょぼくれた。  
 
「ホント…わりぃ…」  
一応謝ってはみるが、どんよりした暗いオーラが楽を包む。  
「あ、べ、別に気にしてないから、ホントに」  
泣きそうな顔の楽を見上げ、小咲が照れ笑いを浮かべた。  
「ふ、不可抗力だし…」  
気丈に振る舞うが、顔が熱い。体が少し火照っている。  
(い、言えない…実はちょっと気持ち良かったなんて…い、言えないよぅ…)  
小咲は小咲で悶々としているようだ。  
「い、いや、でも…」  
真意を知らない楽は、尚も食い下がる。  
やはり何かお詫びをしないといけないと小咲に告げる。  
「や、ほ、ホントに大丈夫だから」  
「え、だって、好きでも無いヤツに触られたら嫌だろ?」  
楽の言葉に、小咲の何かが切り替わった。  
「だ、だって一条君の事好きだもん!」  
早口で捲し立てた後、ハッと気づいた。  
「…えっ?」  
「…あっ」  
二人とも固まってしまった。  
 
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(えっ!?わ、私、今、何言ったの!?)  
自分の言葉を理解するのに数秒、のち、一瞬で顔面が沸騰する。  
「ああああわわわわわ、いいい一条君、今のは、ああああのぉ…」  
口をパクパクと開け、大汗を掻いてテンパる。  
「…お、小野寺…い、今のって…」  
楽も顔から蒸気を吹き出しながら恐る恐る問う。  
緊張で、二人の喉がカラカラに渇く。  
 
――まさか――。  
 
「はゃっ、いや、えっと…」  
「お、俺の…事…?」  
楽に見つめられ、目を離せない。  
小咲は観念したようにコクリと頷いた。  
楽の心臓が飛び跳ねる。  
瞬間、何かに背中を押された。  
「お、俺も…」  
「え?」  
「す、すすすす…好き、だぁ!」  
なけなしの勇気と度胸を振り絞り、叫ぶ。  
「へぁっ!?い、一条君…へっ!?あ、えっ?嘘、えっ!?」  
断られると思っていたが。嬉しさのあまり涙で視界が歪む。  
「あ、ちょっ、あ、あれ?な、何で?えっ?う、嬉しいのに、えっ?」  
溢れる涙をぬぐう姿に、楽の体が突き動かされた。  
小咲の両手を掴み、床に押し付け、顔を近づける。  
「えっ、んむぅっ!」  
そのまま唇を奪い、目を瞑る。  
小咲も瞬時に理解し、目を瞑った――。  
 
〜fin〜  
 

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