「マリー…なんで、コスプレなんかしてんだ…?」
万里花の寝室で、楽は唖然としている。
「男性はこういうのがお好きと聞きましたので、気分転換にと思いまして」
えへっとポーズを取るが、色々詰め込み過ぎだ。
「ちょ、ちょっと整理しねぇか」
楽は慌てて万里花を窘めた。
フリフリのエプロンを裸で身に着け、頭に猫耳を被っている。
右手におもちゃの手錠を、左手におもちゃの注射器を持っている。
褒められるかと、期待に目を輝かせて楽に迫る。
「ま、まあ、可愛いっちゃ可愛いけども…」
流石に混ぜ過ぎじゃないか、と言いかけた。
「えへへへへへへへ、そうですか、可愛いですか」
照れながら体をくねらせ、続きを聞かずに楽に近づいてくる。
「楽様、決め台詞が有るのですが、聞いて頂けますか?」
言いたそうな表情を浮かべて楽を凝視する。
「お、おう…」
楽は渋々聞く事にした。
万里花は、コホンと咳払いをすると、楽と少し距離を取った。
「ご主人様、イケナイ事すると、逮捕して治療しちゃうニャン♪」
両手を招き猫のように顔の横にやり、身体を曲げ、てへっと笑う。
「…」
「…えっと…ら、らく、さ、ま…?」
突如固まり無表情になった楽に、万里花は不安を覚えた。
楽に近寄り、顔をじっと観察する。
「…マリー」
楽が徐に口を開いた。
「は、はい…」
顔色一つ変えない楽に、万里花は恐る恐る返事をする。
楽がすっと手を伸ばし、注射器を奪い取る。近くの棚に置くと、今度は手錠を奪った。
「あ、あの…お、お気に召しませんでしたか…?」
楽の無反応ぶりに、万里花の顔が少し青ざめ、おろおろと慌て出す。
楽は万里花に、両手を差し出させた。
「あ、あの、何を…」
不安に顔が歪む。楽は質問に答えず、万里花の両手に手錠を掛けた。
「えっ?えっ?あの、えっ?」
訳が分からない。一体、何をするつもりか。
楽は、混乱する万里花を部屋の隅に引っ張っていく。
コートを掛けるフックに、万里花の手錠を引っ掛けた。
少し前かがみになり、お尻を突き出す形で立たされる。
「マリー、お前を逮捕する」
楽が後ろに回り込みながら言った。
「へあっ!?…あ、あの、な、なぜですか?」
羞恥心で真っ赤になりながら理由を尋ねる。
「俺の心を撃ち抜いた罪だ、隅から隅まで取り調べるからな」
「えっ、ら、らくs」
万里花の口が楽の手で一瞬塞がれた。
「今日は猫メイドなんだろ」
「うっ…ご…ご主人様…にゃ、にゃあ…」
その日、楽は萌えという物を体感したそうな。
因みにその日はいつもより激しかったという―。
〜fin〜