「小野寺、足大丈夫か?」
「いいい、一条君!?」
保健室のベッドでるりを待っていた小咲の前に、楽がジュースを持って現れた。
「な、何で!?え、るりちゃんは?」
「いや、宮本に頼まれたんだ」
急用が出来たらしい、と楽が言う。いつものサポートのようだ。
ほい、とジュースを差し出され、胸が高鳴った。
「あ、ありがとう…」
天にも昇る気持ちで受け取る。顔が熱い。
「あぁ…でさぁ、足本当に大丈夫か?」
心底心配そうな顔で聞いてくる。
「あ、うん、テーピングもしてもらったし、2・3日無理しなきゃ大丈夫みたい」
「そっか」
ほっとした顔で笑い、向かい合わせに椅子に座った。
(え、ていうか二人きりなんだけど…)
気づいた途端、緊張してきた。
「あ、そう言えばさぁ、劇凄かったね」
「ああ、あれな…まあ、細かい所はアドリブだけど…」
楽は照れながらははっと笑う。何とか誤魔化せたようだ。
それをキッカケに、雑談が盛り上がる。
「セット壊れちゃったね」
「あ〜、あいつら、乱入してきやがって…」
楽が苦笑いを浮かべるが、小咲は、あれも面白かったと笑った。
「そういやぁさ、本当は小野寺がジュリエット役だったんだよな…」
申し訳無さそうに頭を掻く。挫いたのは自分の所為なのに。
「ううん、やっぱりお似合いだったよ…」
えへへ、と微笑む。本当はやってみたかったが、多分あんな風には出来ない。
そんな事を呟くと、楽が徐に立ち上がった。
「じゃあ、今からやるか」
え、とびっくりする小咲の前に片膝を付き、頭を垂れた。
「ジュリエット…」
「!…ロミオ…?」
座ったまま、楽に合わせて台詞を喋る。
「いつか、迎えに行きますから…それまでそこで…待っててくれ」
そう言って手を差し伸べる。
「…あっ、一条君、台詞間違えてる」
「えっ、マジで」
楽が思わず顔を上げる。くすっと笑いながら立ち上がり、楽の手を取った。
「あれ?おっかしいなぁ…」
楽が照れ笑いを浮かべながら立ち上がり…まだ手を繋いでいる事に気づいた。
「う゛ぁっ!わ、わりぃ…」
「う、ううん、いいよ、別に…」
慌てて手を離す。二人とも顔を真っ赤にしてそっぽを向く。お互いの顔を見られない。
「…あ、じゃあ…俺、そろそろ戻るわ」
「あっ…うん…」
名残惜しいが仕方ない。そう思ってベッドに戻ろうとした。
「つっ!…きゃっ!?」
くるりとターンした瞬間、怪我をした足に体重を掛けてしまい、転びそうになる。
「おっと…うわっ!」
小咲を支えるが、いきなり一人分の体重が掛かり、楽も勢いにのみ込まれた。
ばふっとベッドが軋む。何とか怪我は免れたようだ。
楽が小咲をかばう恰好で抱きしめ、下敷きになっている。
「…あっ、一条君、大丈夫?」
「うぅ〜ん…あぁ、何とか…そっちは…」
むくっと上体を起こして…顔が近い。よく見ると、二人で寄り添う形だ。
二人とも沈黙して、思わず顔を背ける。硬直して動けない。
「あ、わ、わりぃ」
慌てて楽が体を離そうとすると、小咲の手が楽の胸を掴んだ。意を決して楽を見上げる。
「わ、わたし…助けてくれて嬉しいから…謝ったり、しないで…」
それに、と楽の目を真っ直ぐに見つめて続けた。嫌われても構わない。
「ずっと…中学の、時からね…好き…です…」
とうとう言ってしまった。身体が熱い。恥ずかしくなり、胸板に顔を埋めた。
「あっ……な、何だよ…片思いかと思ってたのに…」
楽も顔を真っ赤にしながら小咲を抱きしめる。
「俺も、さぁ…ずっと…小野寺の事……好き、だったんだ…」
「えっ!?」
耳を疑い、顔を上げた。両想いとは思ってもいなかった。
楽の真剣な眼差しが小咲の目を捕えて離さない。見つめ合う状況に、心臓がバクバクと脈打つ。
背中に回った腕が体を支え、楽の顔が近づく。小咲は無意識に目を瞑った。
「んっ…」
唇が触れ、官能が刺激される。一旦顔を離すと、二人の口からため息が漏れる。
もう一度見つめ合い、再び口づけを交わす。今度は口を開け、おずおずと舌を絡めた。
二人ともぎこちない動きで突っつき合い、唾液を送り合う。
楽の片手が小咲の後頭部を支え、小咲の両腕が楽の首に回る。
互いの感触を堪能すると、顔が離れた。
小咲が目を開ける。瞳がうるうると湿り、楽を誘惑しているように見える。
楽の胸がどくんと跳ねた。思わず腕に力を籠め、小咲を引き倒した。
「きゃっ!?」
ぐるりと体勢を入れ替え、小咲を体の下に組み敷く。
「あっ…ご、ごめん、俺…」
身体を離そうとしたが、小咲の腕がそれを許さない。
「…いい…よ……でも、初めて、だから…」
優しく、と言いかけた所で、楽の理性が停止した―。
〜fin〜