土曜日、楽は待ち合わせ場所に来た人物に驚いた。
「あれ?鶫じゃねえか…千棘は?」
何気ない会話から、海沿いの遊園地で遊ぶ事になったのだが。
てっきり千棘が来ると思っていたのに、まさか誠士郎が来るとは。
「ちょっと風邪気味で」
「風邪?アイツ、俺より丈夫だろ」
「引いてしまったものは仕方無いだろう」
珍しい事もあるものだ。万里花ならいざ知らず。
「大丈夫なのか?」
「一応医者には診せてある。お前は心配しなくていい」
デートをかなり楽しみにしていたらしいが、こればかりは仕方が無い。
「しかし…何で私が貴様と…」
少し顔が赤いのは気のせいか。
折角用意したチケットが勿体無いと言われ、代わりに行くように頼まれたそうな。
直々に二人分のチケットを渡され、頼み込まれては断れない。
しかも、女の子らしくファッションに気を遣え、と厳命された。
そんな訳で、普段は穿かないスカートを身に着けている。結構短い。
因みに武器は全て取り上げられた。
「ううっ…こ、こんな恰好…恥ずかしい…寒いし…」
そろそろ空気が冷たくなる季節だ。千棘みたいに風邪引くんじゃないか。
もじもじと俯いて顔を赤らめる誠士郎に、楽は事も無げに言う。
「そうか?似合ってると思うぞ、可愛いし」
「え゛ぇっ!?」
驚いて楽を見るが、向こうは気にしてない様子で入り口に向かう。
「何してんだ?行くぞ?」
「うっ、ま、待て!…くそ…」
入り口で待つ楽の所へ、小走りに駆け寄った。
楽は誠士郎にチケットを貰い、受付を済ませる。
二人で中に入り、パンフレットの地図を確認した。
「どっか行きたいとこ有るか?」
「わ、私は別に…」
「ふ〜ん…じゃあ、取り敢えずあっちに行くか」
楽が先に歩き出す。誠士郎は慌てて付いて行った。
思いの外楽しいようで、誠士郎は楽の腕を掴み、グイグイと引っ張って行く。
「おい一条、今度はあっちだあっち」
「ちょっ、分かったからそんなに引っ張んなって!」
戸惑いながらも、楽はくすっと笑んだ。やっぱりコイツも女の子か。
最初はいつも通り、なんやかんやと愚痴っていたが、いつの間にか目が輝いていた。
ぶんぶんと腕を振り、次のアトラクションを嬉々として指差している。
楽は苦笑しながら付いて行く。傍から見ると、カップルそのものだ。
幾つか遊ぶと、一旦休憩し、ベンチに腰掛けた。
ジュースを片手に、二人で並んで座る。
「お前、結構はしゃいでるな」
苦笑いしながら、楽がテンションの高さを指摘した。
「う、うるさい!」
恥ずかしがっているようだ。顔を真っ赤にして叫ぶ。
いつの間にか昼を過ぎ、もうすぐ夕暮れだ。こんな楽しい時間は初めてだった。
今まで千棘が全てで、こういう事はした事が無い。もうすぐそれも終わる。何となく名残惜しい。
(楽しいな…もっと続けば…はっ!わ、私は一体何を考えているんだ…)
顔をぶんぶんと振り、浮かんだ想像を追い払った。
「何やってんだお前?」
「な、何でも無い!本当に何でも無いからな!!」
「わ、分かったから落ち着けって…」
必死の形相に気圧され、楽はタジタジだ。
そんなやり取りをしている内に、そろそろ帰る時間になってしまった。
「なんだかんだ言っても楽しかったな」
「ああ…そう、だ、な…」
楽は気軽に話すが、誠士郎は少し俯き加減で応える。
「折角だから、土産でも買ってくか?」
入り口付近に有る店を指差した。
「土産…お嬢は何を喜ばれるだろうか…」
ぶつぶつ考える誠士郎を見て、楽がふっと笑う。
「な、何だ、顔に何か付いてるか」
「あぁわりぃわりぃ、そうやって悩んでる所を見るとさ、普通の女の子にしか見えねえから…いつものお前と違ってよ」
ニッと笑って店に入って行く楽を見て、不覚にもドキッとしてしまった。
(おおおおお落ち着け、雰囲気のせいだ、絶対そうだ)
半ばテンパりながら、楽の後ろを追いかけた。
数十分後、腰から首元ぐらいまで有る紙袋を両手で抱え、誠士郎が満足そうに出て来た。
「結構デカいぬいぐるみだな」
「悪いか」
いつものように悪態を吐くが、顔はにやついている。
「貴様は何買ったんだ」
「ああ、まぁ色々だけど」
紙袋を開けると、小物が色々入っていた。
小野寺、橘、集、宮本と、普段一緒に居る仲間の名前を挙げながら、指差していく。
「あ、そうそう、これ千棘の分なんだけど、渡しといてくれねえか」
言いながら、ごそごそと紙袋の底を漁る。
「断る。そういうのは、直接渡した方がいいんじゃないか」
誠士郎が釘を刺した。
「お、おう…そうか」
「そうだ、お嬢はロマンチストな所が有るからな。大体貴様はお嬢の…こ、恋人、だろう」
恋人という言葉に反応し、顔を赤らめる。
やはりまだ認めるには抵抗が有るらしい。まあそれだけでは無いようだが。
「ま、まあそうだな、わりぃ」
楽は頭をポリポリ掻きながら土産を元に戻した。
出入り口まで戻って来た二人は、そこで立ち往生してしまった。
ゲートの周辺に人が集まっている。
「ん?どうしたんだ?」
楽が集団に歩み寄ろうとした時、場内アナウンスが流れてきた。
―ピンポンパンポーン♪ただいま、交通規制により、道路が通行止めとなっております―
「…え?通行止め?」
楽が目をぱちくりさせる。
「事故か何かか?」
誠士郎も呟くように応えた。
「え〜、帰れないの〜?」
二人の近くに居た子供が声を荒らげた。
「まことに申し訳ございません…」
係員が両親に頭を下げている。
周囲でも、似たようなやり取りが散見されていた。
情報を総合すると、唯一外界と繋がる道路で交通事故が有り、復旧には時間が掛かるとの事だった。
もしかしたら一晩掛かるかも知れないらしい。
敷地内のホテルを臨時に解放し、無料で宿泊させてくれるそうだが。
まあ、明日は日曜日だから、学校云々は気にしなくてもいい。
しかし泊まったとなると、明日から変な噂が立たないか?
「おい一条…どうするつもりだ」
「どうって…他に方法あんのかよ」
無論、他に道路は無い。
と、そこで誠士郎が閃いた。
「そうだ、船かヘリで迎えに来てもらえば」
「おう、それだ!さすが鶫だな」
名案とばかりに楽が乗っかる。
直ぐに誠士郎がクロードに電話を掛けた。
「…えっ!?ちょっ…そ、そんな…」
幾つかやり取りをした後、青ざめた顔で誠士郎が電話を切った。
「ど、どうした…?」
「ヘリは…全部一斉点検の最中で…低気圧が近づいてるから船は出せないと…」
「マジかよ」
気まずい雰囲気が二人を覆う。
「ちょ、ちょっとこっちでも聞いてみる」
楽が慌てて携帯を操作した。
「あ、竜か…かくかくしかじかで帰れねえんだ、ヘリか船を…えっ?…いや、おい!切るな!こら!」
肩を落として携帯を切る。
「…なんて言われたんだ」
悪い知らせである事は分かるが、恐る恐る訊いてみる。
「…ヘリは持ってねえし…船は嵐で出せねえし…折角だから男になって来いってよ…」
相手が千棘だと思っているらしく、冷やかされて一方的に切られた。
どうやら泊まるしか無いようだ。
「へ、部屋は別だからな一条!」
「あ、当たり前だろ!」
二人とも顔を真っ赤にしながらホテルに向かった。
「申し訳ございません、一組で一部屋となっております」
「え゛っ…」
ホテルのカウンターで、楽と誠士郎は固まった。
客が多いため、別々の部屋には出来ないそうな。
一応ベッドは別だそうだが、やはり同室というのは気まずい。二人で顔を見合わせ、黙りこくる。
震える手で鍵を受け取ると、エレベーターに案内された。
「何で…貴様と同じ部屋なんだ…」
「しゃーねーだろ…他に部屋無えんだから…」
二人きりでエレベーターに乗りながら、ぶつぶつと言い合う。
「大体、何でこんな日にデートなんか…」
「日にちを決めたのは千棘だぞ…」
密室に二人きりでは、これ以上会話が続かない。
並んでそっぽを向き、沈黙してしまった。
(ううっ…くそっ、コイツと居ると調子が狂う…)
誠士郎の心が定まらない。楽の事を考えると集中が乱れるし、気持ちが浮ついてしまう。
以前、それは恋だと言われた事が有った。
最初の頃は断じて違うと思っていたが、こんな状態では認めざるを得ない。
かも知れない、と誠士郎は思った。お嬢の恋人だから認めたくは無いが。
エレベーターを降り、廊下を歩き、部屋に着いた。
一応ベッドは二つあるようだ。
「こ、こっち側には来るなよ!」
「分かってるよ」
必死の誠士郎をいつものようにいなし、荷物を下ろす。
ベッドに座り、一息ついた。
「あ゛〜、疲れたぁ」
楽が首を回し、肩を揉む。
「一条、年寄みたいだぞ」
「てめーがはしゃぐからだろ、あっちこっち引っ張り回しやがって」
誠士郎の言葉に、苦笑いしながら反論した。
「まあ…なんだかんだ言っても楽しかったけどな」
笑ってトイレに向かう楽を、誠士郎は何も反応できずに見送る。
体が少し熱い。心臓が脈打っている。
感情を持て余し、窓の側に寄る。悶々と立ち尽くし、外の闇を見つめた。
窓に映る自分の顔は、少し赤くなっている。
(お、落ち着け…ヤツはお嬢の恋人で…私はお嬢のボディガードで…)
頭の中を楽と千棘の顔がぐるぐる回り続け、他の思考が排除される。
いつもなら敏感な周囲への警戒も、今は疎かになっていた。
「鶫?何やってんだ、お前?」
「ひゃああ!?」
ポンと肩を叩かれ、心臓が縮み上がった。
「き、貴様、いきなり脅かすな!」
「そりゃこっちのセリフだ!突然大声で叫ぶなよ」
呆れた顔でやれやれと首を振り、ベッドの方に戻って行く。
「うっ…すまん……で、何か用か?」
恥ずかしさで顔を赤くしながら楽の背中に声を掛けた。
「あぁ、特に用は無ぇけどさ、これからどうしようかと思ってよ」
冷蔵庫を物色しながら楽が言う。
「ウノとかトランプとかありゃあいいけど……酒が多いな」
苦笑しながら、ジュースの瓶を取り出して続ける。
「まだ寝るには速えし」
ホテルに来る前に晩ご飯は食べ終わった。正直する事が無い。
そんな事を話しながら、楽はテーブルに陣取った。
椅子に座り、ジュースをテーブルに置いて誠士郎を見遣る。
「むぅ…確かに…そうだな…」
一緒にテーブルに着いた。
楽からコップを貰い、ジュースを注いでもらう。
「…宴会、とか…?」
「いやいやいや、酒飲めねぇし…それとも二人でバカ騒ぎしろってのか」
楽が苦笑しながら、顔の前で手を振った。
確かに未成年では…いや待てよ。
誠士郎は、以前千棘が言っていた言葉を思い出した。
―楽の酒癖が酷かった―
一度飲ませた事が有ったらしいが、具体的な話になると口を噤んではぐらかしていた。
大変な思いをしたのは確かなようだが、それ以上は聞いてない。
無理に聞き出すのも失礼なので、千棘が話すまで放っておく事にしていた。
(そう言えば顔が赤かったな…何が有ったんだろう)
楽に直接聞いてみようか。しかし千棘が恥を掻く事になったら。
(待てよ…コイツを酔わせて様子を探ればいいのか)
無理やり飲ませればいい。抵抗されても体術は心得ている。
「…あ?俺の顔に何か付いてるか?」
「え?…あ、いや、ちょっとお嬢の事を考えていただけだ」
凝視していたらしい。危ない危ない。
誠士郎は内心ほくそ笑み、席を立った。
「他に飲み物有るのか?」
冷蔵庫を開けながら、楽に尋ねる。
「あ〜、奥までは見てないからなぁ…ジュースとビールは見たけど」
ふうんと相槌を打ちながら、冷蔵庫の中を調べた。
ジュースとビールが多いが、日本酒も有るようだ。
何を飲ませるかを瞬時に弾き出した。後は飲ませるだけだ。
頭を回転させながら、冷蔵庫のドア越しに楽を見る。
ちびちびとジュースを飲み、窓の外を見つめている。
誠士郎はニヤリと笑い、瓶を何本か取り出した。
新たにコップを取り、アルコールを幾つか混ぜ合わせる。
それを空いた小瓶に注ぎ、楽の方を向いた。
「おい一条」
獲物を狙うような目つきで背中を睨み、声を掛ける。
「ん?何だ?つぐm」
ぼーっとした声で振り返った瞬間、楽の口目掛けて小瓶を投げた。
「ふぐっ!」
見事に口に挟まり、楽の首が仰け反る。
「うっ、んぐっ、んぷっ、んぐっ…」
調合した液体が楽の腹に納まって行く。
全てを飲み干した所で、誠士郎が小瓶を楽の口から引き抜いた。
空になった小瓶を片付け、一応水の入ったコップをテーブルに置く。
「おい、一条、大丈夫か?」
ニヤニヤしながら、楽の頬を叩いた。
片腕を背もたれの後ろに回し、辛うじて椅子に座っている状態だ。
「う〜…うぁ…?」
返事が虚ろで、目も焦点が合っていない。そろそろ酔いが回ってきた頃だ。
誠士郎に視線を合わせると、ボソッと呟いた。
「…はれぇ……ちゅぐみぃ…3人いるろ…?」
「お前、酔ってるな」
「よっれないよ〜」
苦笑する誠士郎の言葉に、楽はへへへ、と笑う。
笑い上戸か?いや、まだ分からない。千棘が大変だと言っていたから、この程度では無いだろう。
「一条、水飲むか?」
コップに手を伸ばす。
「あ〜…いらねぇ」
脱力して俯きながら返事を返した。
「…あぁ、そうら…ちゅぐみぃ」
何かを思い出したように誠士郎を見上げる。
「ん?何だ?」
向き直った誠士郎に、楽が手を伸ばした。
「あくひゅぅ」
「…何故だ」
白けた顔で誠士郎が訊く。
「へへへぇ…しらねぇ…へへ〜、あくひゅ」
無邪気な笑顔でいたずらっぽく笑い、腕をぶんぶん振った。
子供が催促しているようにも見える。
(仕方ないな…)
誠士郎は穏やかな眼差しで微笑んだ。
握手ぐらい構わないか。そう思い、腕を伸ばす。
楽の手を握ろうとした瞬間、手首を掴まれた。
「なっ!?」
そのまま引っ張られ、楽の脚の上に座らされる。
油断していた事も有り、咄嗟の抵抗が出来ず、両腕をそれぞれの脇に挟まれた。
楽が両腕を背中に回し、抱きしめる格好になった。身動きが取れない。
顔を誠士郎の胸にすりすりと擦りつける。
「いいいいい一条!?おい、ちょっ、馬鹿!や、やめろ!」
「うぁ〜…やぁらかいらぁ…」
がっちり両腕を拘束され、されるがままだ。顔を赤くして抵抗するが、意味が無い。
「…やっぱりおめー女の子らなぁ」
「そ、それがどうした!?」
「あ〜…べちゅにぃ…おっぱいでけーなぁ…へへへへ…」
そう言うと、また胸に顔を埋没させた。
(な、なんだコイツはぁ!)
普段の楽とは違い、随分と強引で積極的だ。
理性のブレーキが利かず、本能に忠実なようにも見える。
「おおお、おい一条、ちょ、ちょっと、や、やm」
抗議しようとした誠士郎の体が引っ張られ、口を塞がれた。
柔らかい感触に、一瞬何が起きたのか分からない。
(ききききき、キスぅ!?)
状況を理解した瞬間、耳まで真っ赤になった。
今までキスなどした事が無い。
人生初なのに、こんな状況なんて。ショックで思考が停止する。
戸惑っている隙に、舌が侵入してきた。
「むぅっ!?んぐぅ…」
逃げようとしても絡め取られ、吸われる。唾液を送り込まれ、捏ね回される。
頭の奥が痺れ、体が弛緩していく。
誠士郎は無意識の内に目を瞑り、楽の感触を貪る。
官能が誠士郎の体に居座り、意識を支配していく。
楽が口を離した。
「んっ…ふぁっ…」
ちゅぱぁっと音がして、二人の舌を繋ぐ糸がライトに照らされ、切れた。
はう、と誠士郎が溜息を漏らす。少し熱を持っているようだ。目も潤んでいる。
楽が誠士郎の顔を覗き込む。何となく誘っているような気がして、手を動かした。
「ひゃうっ!?」
服の上から胸を鷲掴みにされ、誠士郎の体がびくっと震えた。
ぼうっとしていた意識が少し鮮明に戻る。
「うぁ〜…やぁらけぇ〜…へへへ…」
無邪気に笑いながら、豊満な膨らみを弄った。
「なぁっ!?ちょっ…」
顔を真っ赤にして抵抗を試みるが、力が入らない。
腕を拘束されている上に、先ほどの余韻で体の内側が火照っている。
そんな状態で胸を揉まれ、抵抗する気力が削がれた。
本能が期待感と昂揚感をもたらし、理性と鬩ぎ合う。
「うあっ…くっ……はぁっ」
悩ましげな表情で、艶めかしい吐息が零れた。
服のボタンを外されるが、抵抗する素振りを見せず、上を向いて恥ずかしさに耐えている。
シャツをたくし上げられ、ブラジャーのホックを外された。
張りの有る乳房が、ぶるんと姿を現す。楽の手が、直接乳房を触る。
「あっ、んっ」
柔肌を触られた感触に、重量感の有る双丘がぶるっと震えた。
「い、いち、じょぉ…や、やめ…」
楽が顔を谷間に埋め、指で先端を突っつく。
「んっ!ふぁっ!」
誠士郎の背中がピンと仰け反り、楽の方に胸を突き出してしまった。
「うぁっ!…くる、ひぃ…」
危うく窒息しかけ、楽は思わず顔を離す。
「き、きさま…そ、そのまま、死ねっ」
誠士郎が楽を睨みつけるが、肌を上気させ、目を潤ませていては、いつもの威勢が出ない。
上擦った叫びは、楽には届いてないようだった。
「へへへ〜…はむっ」
誠士郎の声を無視し、硬くなった乳首を口に含んだ。
「ひぁぁああっ」
生暖かい感触に、誠士郎の首が反り返る。
普段からは想像出来ない艶やかな悲鳴が、部屋に響いた。
舌のざらざらした愛撫が、脳裏に火花を散らせ、快楽を連れてくる。
理性が隅に追いやられ、思考が鈍る。
楽の口から、れろれろと声が聞こえる。
もう片方の突起も摘み、擦り、掌で乳房を包み、形が変わるぐらい揉み上げる。
誠士郎の息が荒くなり、時折声が出る。肌がピンク色に染まり、快感に打ち震えている。
いつの間にか、拘束された腕で楽を抱きしめていた。
「はぁっ、はんっ、あっ、はあ…んはっ」
熱い吐息と女の声が部屋に木霊する。
身悶える姿は、いつもの殺し屋とは程遠い。快感に身を任せ、プルプルと痙攣している。
楽の脇が緩んで拘束が解かれても、片手がするすると下に移動しても、気付かない様子で呆けていた。
スカートを捲られ、下着の中に手を入れられた。
「きゃんっ!」
秘所を弄られる冷たい感触が、誠士郎の意識を少し引き戻す。
「あぅ、あっ…い、いち、じょ…」
少し離れようともがくが、力が入らず、思い通りに体が動かない。
「あっ、やぁっ!?」
楽の指が中に侵入して来た。蕩けるような感覚に、意識が混濁する。
「ちゅぐみぃ」
「ふぇあっ…?」
遠くの方で、楽が呼んだ気がする。誠士郎は、それに反応するのが精一杯のようだ。
「もうぬれてんろぉ…」
楽は心底愉しそうに言うと、指を奥まで入れていく。
「あぁっ、はぁあっ…い、いち、じょぉ…あひぃぃっ」
何か言われた気がするが、その後に陰核を摘まれ、軽く達してしまった。
とぷっ、と音が聞こえた気がする。楽の手を愛液が伝い、下着に染みを作る。
全身の力が抜け、思わず楽にしがみ付く。
「おぅ〜…ろうしらぁ」
「はっ、あくっ、うぁ…」
誠士郎は楽の問いかけに反応せず、朦朧とした意識でひくひくと痙攣している。
楽は、へへへ、と笑うと、胸と膣の愛撫を再開した。
「ふぁっ!やっ、あんっ、はぁっ」
内部に侵入した指のストロークが加速する。余った指でクリトリスを捏ね回す。
ジュブジュブと音がしてショーツが濡れる。吸収の限界を超え、楽のズボンにも染みが出来始めた。
「あっ、あぁっ、あはぁぁああっ、あっ、あんっ、あっ」
背筋を反らし、首を仰け反らせ、目に涙を溜め、ガクガクと痙攣する様は、最早ただの女だ。
誠士郎は何も考えられず、ただ快楽に身を捩らせている。
自由になった手を楽の肩に乗せ、ひたすら喘ぐ。
楽は仕上げに、内部で指を曲げ、同時に陰核を摘み上げた。
「あひぁあああ!」
頭が真っ白になり、楽の方に倒れ込む。首に抱きつき、プルプルと体を震わせる。
ドプドプと蜜が溢れ、楽のズボンと椅子を濡らした。
指を抜くと、残りの愛液がタパタパと滴り落ちる。
楽は指に絡み付いた名残を舐め取った。
「む〜……うめぇ…」
全て舐め取ると、誠士郎を抱き抱えるようにして立つ。
スカートを緩め、床に落とし、下着をずり下ろしていく。
「あ、う…」
誠士郎は楽にしがみ付いたままで、されるがままに片足を持ち上げられている。
ショーツを脱がし、自分のズボンのベルトを緩め、トランクスと共に脱ぎ捨てた。
興奮してそそり立つオスが、外気に晒される。
再び同じように座り、誠士郎を腰の上まで運んだ。
「あっ、ふぁっ!」
男根が入り口に触れると、誠士郎の体がびくっと震える。
楽は何となく面白くなり、腰を揺すって陰核と膣をくすぐった。
「はっ、うぁっ、んっ…はぁっ」
背筋をピンと張り、甘い吐息を吐き出しながら、目をトロンと蕩けさせている。
楽は誠士郎の腰をがっしりと支え、ゆっくりと沈めて行った。
先端が埋没し、膣を刺激する。
徐々に進む動きが快楽を呼び起こし、誠士郎の意識を侵食していく。
少し進んだ所で一旦止まり、往復運動を開始した。
ゆっくり、馴染ませるように上下に動かす。
結合部から音がして、誠士郎の口から声が漏れる。同じリズムで椅子が軋む。
三つの音が楽の耳朶を打ち、理性を麻痺させる。
楽は動きを止め、侵入を再開した。
ズブリと入った所で、誠士郎の体に力みが入る。
「はぅっ!…つっ…」
両足の指がぎゅっと閉じられ、床を掴んだ。
顔を歪め、苦しそうに耐えているようだ。
「い、いち、じょぉ…や、やめ…」
痛みで現状を理解したらしい。目に涙を溜め、ブルブルと体を硬直させている。
「うぁ?…らにを〜?」
誠士郎の声は、楽の頭には届かなかったようだ。
代わりに、目の前に有る豊満な膨らみと先端の突起を口に含んだ。
誠士郎の体がピクッと反応する。
楽はそのまま乳首を捏ね繰り回した。
誠士郎の息が熱を帯び、体が少しずつリラックスしていく。
子宮が解れ、力みが徐々に消えていく。
楽は再び挿入を開始した。
「ふっ…あぁっ…くふっ…」
痛みと快感が同時に襲い掛かり、頭が混乱する。
異物が侵入してくる感覚に、期待と不安が入り乱れ、理性を締め出していく。
理解不能な感覚に翻弄されている内に、動きが止まった。
結合部から、愛液と血が混じり出る。
「はっ…あぅ…?」
「う〜…わりぃ、れんぶはいっちまったぁ」
へへ〜と無邪気に笑い、ゆっくりと腰を動かした。
「ふぁっ…あっ…んふっ、くぅっ…」
痛くて甘い衝撃が誠士郎の体を貫く。波の様に繰り返し、意識を洗っていく。
解れた子宮が蠢動を開始した。
襞が絡み付き、楽の陰茎を締め付ける。
蜜が分泌され、潤滑油のように加速を促していく。
繰り返される抽挿に慣れて来たのか、痛みが弱まり、誠士郎の表情が蕩けてきた。
性器が擦れる音が響く。同じリズムで二人の声が聞こえる。
少しずつリズムが加速し、誠士郎も膝を屈伸し始めた。
意識が真っ白になり、欲情が体を支配する。
「う゛ぁっ、はぁ、あぅっ」
「あっ、はんっ、ふぁっ、くはっ」
楽の苦しそうな呻き声、誠士郎の喘ぎ声、椅子の軋みが空間を包み込み、淫卑な雰囲気を醸し出している。
内壁がぎゅうぎゅうと締め付け、楽の脳裏に火花を散らした。
射精感が迫ってくる。無意識の内に腰の動きが加速し、爆発させたい欲求に駆られる。
「あ゛ぁっ、もう、でるぅ…」
「はっ、あっ、やっ、だめっ、うっ、い、ちじょ、あんっ、はっ」
抗議の声を出したが、快楽に塗り潰され、抗えない。
牝の本能が未知の期待感をもたらし、体を突き動かす。
汗ばんだ谷間が楽の目の前で揺れる。思わずまたしゃぶりついた。
「ふぁっ!」
不意の快感に、誠士郎の体がビクッと跳ねる。
子宮がキュッと締まり、楽にとどめを刺した。
「うあ゛っ!ああっ!ぐぁあっ」
「あふっ、んぁあっ!はぁああっ、あ、あつ、いぃっ、はぁっ、あっ」
暖かいモノが誠士郎の中を満たしていく。
子宮のうねりが、ドクドクと流れ込む欲望を飲み込む。
牡の本能が全てを流し込もうと楽の体を動かし続ける。
襞が絡み付き、内壁が全てを飲み込もうと波打つ。
結合部の隙間から、白濁したカクテルが溢れ出す。
少しずつストロークが緩慢になり、やがて二人とも果てた―。
誠士郎は熱めのシャワーを浴びていた。浴びながら記憶を辿る。
千棘が言っていた。楽に酒を飲ませちゃダメだ、と。
今まで忘れていたが、その後で、酒癖が酷くて大変だったとぼやいていた。
(何やってるんだ私は…お嬢の話を忘れるなんて…)
それに、と今日の事を思い出す。
最初、引っ張られた後でも、対処は出来た筈だ。
頭突きでも何でもすれば良かった。
あれだけで混乱するなんてどうかしている。
やはり、普段と違う状況で油断していたか。
それとも、他の人間だったら油断せずに済んだのか。
(ヤツだから?…ハッ!ち、違う!断じて違う!)
頭をぶんぶんと振り、千棘の顔を思い出す。
そもそもアイツはお嬢の恋人で、自分はお嬢の目付け役だ。
自分にとってヤツは、それ以上でも以下でも無かった筈だ。
お嬢の大切なモノを、自分が横取りして良い訳が無い。
いや、元々そんなつもりは毛頭無かった。
自分が恋愛、ましてやこのような行為など、無縁だと思っていた。
だが結果として、こんな事になってしまった。
お嬢にどんな顔して会えばいいのか。嫌われたりしないだろうか。
そんな事を悶々と考え込み、俯いてシャワーに打たれた。
楽は殊勝に頭を垂れ、自分のベッドの上に正座している。
誠士郎は、楽に向き合う形でベッドに腰掛け、ガウンを羽織っている。
「おい」
誠士郎がドスの効いた声で殺気を飛ばす。
「な、何だよ?」
ビクつきながら、楽が顔を上げた。
「お嬢には…秘密だぞ」
「あ、当たり前だろ、言える訳ねぇよ」
睨む誠士郎に固まる楽。さながら蛇と蛙のようだ。
「あと…」
誠士郎が言葉を続ける。
殺気が消え、顔が赤くなった。
「も、もうこれっきりだからな!こ、こっちに来るなよ!」
叫ぶと、布団を被ってベッドに潜り込む。
「いやもうしねえよ」
誠士郎は、楽の呟きが聞こえない振りをして目を閉じた。
〜fin〜