土曜日、楽は待ち合わせ場所に来た人物に驚いた。  
「あれ?鶫じゃねえか…千棘は?」  
何気ない会話から、海沿いの遊園地で遊ぶ事になったのだが。  
てっきり千棘が来ると思っていたのに、まさか誠士郎が来るとは。  
「ちょっと風邪気味で」  
「風邪?アイツ、俺より丈夫だろ」  
「引いてしまったものは仕方無いだろう」  
珍しい事もあるものだ。万里花ならいざ知らず。  
「大丈夫なのか?」  
「一応医者には診せてある。お前は心配しなくていい」  
デートをかなり楽しみにしていたらしいが、こればかりは仕方が無い。  
「しかし…何で私が貴様と…」  
少し顔が赤いのは気のせいか。  
 
折角用意したチケットが勿体無いと言われ、代わりに行くように頼まれたそうな。  
直々に二人分のチケットを渡され、頼み込まれては断れない。  
しかも、女の子らしくファッションに気を遣え、と厳命された。  
そんな訳で、普段は穿かないスカートを身に着けている。結構短い。  
因みに武器は全て取り上げられた。  
「ううっ…こ、こんな恰好…恥ずかしい…寒いし…」  
そろそろ空気が冷たくなる季節だ。千棘みたいに風邪引くんじゃないか。  
もじもじと俯いて顔を赤らめる誠士郎に、楽は事も無げに言う。  
「そうか?似合ってると思うぞ、可愛いし」  
「え゛ぇっ!?」  
驚いて楽を見るが、向こうは気にしてない様子で入り口に向かう。  
 
「何してんだ?行くぞ?」  
「うっ、ま、待て!…くそ…」  
入り口で待つ楽の所へ、小走りに駆け寄った。  
楽は誠士郎にチケットを貰い、受付を済ませる。  
二人で中に入り、パンフレットの地図を確認した。  
「どっか行きたいとこ有るか?」  
「わ、私は別に…」  
「ふ〜ん…じゃあ、取り敢えずあっちに行くか」  
楽が先に歩き出す。誠士郎は慌てて付いて行った。  
 
思いの外楽しいようで、誠士郎は楽の腕を掴み、グイグイと引っ張って行く。  
「おい一条、今度はあっちだあっち」  
「ちょっ、分かったからそんなに引っ張んなって!」  
戸惑いながらも、楽はくすっと笑んだ。やっぱりコイツも女の子か。  
最初はいつも通り、なんやかんやと愚痴っていたが、いつの間にか目が輝いていた。  
ぶんぶんと腕を振り、次のアトラクションを嬉々として指差している。  
楽は苦笑しながら付いて行く。傍から見ると、カップルそのものだ。  
幾つか遊ぶと、一旦休憩し、ベンチに腰掛けた。  
ジュースを片手に、二人で並んで座る。  
「お前、結構はしゃいでるな」  
苦笑いしながら、楽がテンションの高さを指摘した。  
「う、うるさい!」  
恥ずかしがっているようだ。顔を真っ赤にして叫ぶ。  
いつの間にか昼を過ぎ、もうすぐ夕暮れだ。こんな楽しい時間は初めてだった。  
今まで千棘が全てで、こういう事はした事が無い。もうすぐそれも終わる。何となく名残惜しい。  
(楽しいな…もっと続けば…はっ!わ、私は一体何を考えているんだ…)  
顔をぶんぶんと振り、浮かんだ想像を追い払った。  
「何やってんだお前?」  
「な、何でも無い!本当に何でも無いからな!!」  
「わ、分かったから落ち着けって…」  
必死の形相に気圧され、楽はタジタジだ。  
 
そんなやり取りをしている内に、そろそろ帰る時間になってしまった。  
「なんだかんだ言っても楽しかったな」  
「ああ…そう、だ、な…」  
楽は気軽に話すが、誠士郎は少し俯き加減で応える。  
「折角だから、土産でも買ってくか?」  
入り口付近に有る店を指差した。  
「土産…お嬢は何を喜ばれるだろうか…」  
ぶつぶつ考える誠士郎を見て、楽がふっと笑う。  
「な、何だ、顔に何か付いてるか」  
「あぁわりぃわりぃ、そうやって悩んでる所を見るとさ、普通の女の子にしか見えねえから…いつものお前と違ってよ」  
ニッと笑って店に入って行く楽を見て、不覚にもドキッとしてしまった。  
(おおおおお落ち着け、雰囲気のせいだ、絶対そうだ)  
半ばテンパりながら、楽の後ろを追いかけた。  
 
数十分後、腰から首元ぐらいまで有る紙袋を両手で抱え、誠士郎が満足そうに出て来た。  
「結構デカいぬいぐるみだな」  
「悪いか」  
いつものように悪態を吐くが、顔はにやついている。  
「貴様は何買ったんだ」  
「ああ、まぁ色々だけど」  
紙袋を開けると、小物が色々入っていた。  
小野寺、橘、集、宮本と、普段一緒に居る仲間の名前を挙げながら、指差していく。  
「あ、そうそう、これ千棘の分なんだけど、渡しといてくれねえか」  
言いながら、ごそごそと紙袋の底を漁る。  
「断る。そういうのは、直接渡した方がいいんじゃないか」  
誠士郎が釘を刺した。  
「お、おう…そうか」  
「そうだ、お嬢はロマンチストな所が有るからな。大体貴様はお嬢の…こ、恋人、だろう」  
恋人という言葉に反応し、顔を赤らめる。  
やはりまだ認めるには抵抗が有るらしい。まあそれだけでは無いようだが。  
「ま、まあそうだな、わりぃ」  
楽は頭をポリポリ掻きながら土産を元に戻した。  
 
出入り口まで戻って来た二人は、そこで立ち往生してしまった。  
ゲートの周辺に人が集まっている。  
「ん?どうしたんだ?」  
楽が集団に歩み寄ろうとした時、場内アナウンスが流れてきた。  
 
―ピンポンパンポーン♪ただいま、交通規制により、道路が通行止めとなっております―  
 
「…え?通行止め?」  
楽が目をぱちくりさせる。  
「事故か何かか?」  
誠士郎も呟くように応えた。  
「え〜、帰れないの〜?」  
二人の近くに居た子供が声を荒らげた。  
「まことに申し訳ございません…」  
係員が両親に頭を下げている。  
周囲でも、似たようなやり取りが散見されていた。  
 
情報を総合すると、唯一外界と繋がる道路で交通事故が有り、復旧には時間が掛かるとの事だった。  
もしかしたら一晩掛かるかも知れないらしい。  
敷地内のホテルを臨時に解放し、無料で宿泊させてくれるそうだが。  
まあ、明日は日曜日だから、学校云々は気にしなくてもいい。  
しかし泊まったとなると、明日から変な噂が立たないか?  
「おい一条…どうするつもりだ」  
「どうって…他に方法あんのかよ」  
無論、他に道路は無い。  
と、そこで誠士郎が閃いた。  
「そうだ、船かヘリで迎えに来てもらえば」  
「おう、それだ!さすが鶫だな」  
名案とばかりに楽が乗っかる。  
直ぐに誠士郎がクロードに電話を掛けた。  
「…えっ!?ちょっ…そ、そんな…」  
幾つかやり取りをした後、青ざめた顔で誠士郎が電話を切った。  
 
「ど、どうした…?」  
「ヘリは…全部一斉点検の最中で…低気圧が近づいてるから船は出せないと…」  
「マジかよ」  
気まずい雰囲気が二人を覆う。  
「ちょ、ちょっとこっちでも聞いてみる」  
楽が慌てて携帯を操作した。  
「あ、竜か…かくかくしかじかで帰れねえんだ、ヘリか船を…えっ?…いや、おい!切るな!こら!」  
肩を落として携帯を切る。  
「…なんて言われたんだ」  
悪い知らせである事は分かるが、恐る恐る訊いてみる。  
「…ヘリは持ってねえし…船は嵐で出せねえし…折角だから男になって来いってよ…」  
相手が千棘だと思っているらしく、冷やかされて一方的に切られた。  
どうやら泊まるしか無いようだ。  
「へ、部屋は別だからな一条!」  
「あ、当たり前だろ!」  
二人とも顔を真っ赤にしながらホテルに向かった。  
 
「申し訳ございません、一組で一部屋となっております」  
「え゛っ…」  
ホテルのカウンターで、楽と誠士郎は固まった。  
客が多いため、別々の部屋には出来ないそうな。  
一応ベッドは別だそうだが、やはり同室というのは気まずい。二人で顔を見合わせ、黙りこくる。  
震える手で鍵を受け取ると、エレベーターに案内された。  
「何で…貴様と同じ部屋なんだ…」  
「しゃーねーだろ…他に部屋無えんだから…」  
二人きりでエレベーターに乗りながら、ぶつぶつと言い合う。  
「大体、何でこんな日にデートなんか…」  
「日にちを決めたのは千棘だぞ…」  
密室に二人きりでは、これ以上会話が続かない。  
並んでそっぽを向き、沈黙してしまった。  
(ううっ…くそっ、コイツと居ると調子が狂う…)  
誠士郎の心が定まらない。楽の事を考えると集中が乱れるし、気持ちが浮ついてしまう。  
以前、それは恋だと言われた事が有った。  
最初の頃は断じて違うと思っていたが、こんな状態では認めざるを得ない。  
かも知れない、と誠士郎は思った。お嬢の恋人だから認めたくは無いが。  
 
エレベーターを降り、廊下を歩き、部屋に着いた。  
一応ベッドは二つあるようだ。  
「こ、こっち側には来るなよ!」  
「分かってるよ」  
必死の誠士郎をいつものようにいなし、荷物を下ろす。  
ベッドに座り、一息ついた。  
「あ゛〜、疲れたぁ」  
楽が首を回し、肩を揉む。  
「一条、年寄みたいだぞ」  
「てめーがはしゃぐからだろ、あっちこっち引っ張り回しやがって」  
誠士郎の言葉に、苦笑いしながら反論した。  
「まあ…なんだかんだ言っても楽しかったけどな」  
笑ってトイレに向かう楽を、誠士郎は何も反応できずに見送る。  
体が少し熱い。心臓が脈打っている。  
感情を持て余し、窓の側に寄る。悶々と立ち尽くし、外の闇を見つめた。  
窓に映る自分の顔は、少し赤くなっている。  
(お、落ち着け…ヤツはお嬢の恋人で…私はお嬢のボディガードで…)  
頭の中を楽と千棘の顔がぐるぐる回り続け、他の思考が排除される。  
いつもなら敏感な周囲への警戒も、今は疎かになっていた。  
 
「鶫?何やってんだ、お前?」  
「ひゃああ!?」  
ポンと肩を叩かれ、心臓が縮み上がった。  
「き、貴様、いきなり脅かすな!」  
「そりゃこっちのセリフだ!突然大声で叫ぶなよ」  
呆れた顔でやれやれと首を振り、ベッドの方に戻って行く。  
「うっ…すまん……で、何か用か?」  
恥ずかしさで顔を赤くしながら楽の背中に声を掛けた。  
「あぁ、特に用は無ぇけどさ、これからどうしようかと思ってよ」  
冷蔵庫を物色しながら楽が言う。  
「ウノとかトランプとかありゃあいいけど……酒が多いな」  
苦笑しながら、ジュースの瓶を取り出して続ける。  
「まだ寝るには速えし」  
ホテルに来る前に晩ご飯は食べ終わった。正直する事が無い。  
そんな事を話しながら、楽はテーブルに陣取った。  
 
椅子に座り、ジュースをテーブルに置いて誠士郎を見遣る。  
「むぅ…確かに…そうだな…」  
一緒にテーブルに着いた。  
楽からコップを貰い、ジュースを注いでもらう。  
「…宴会、とか…?」  
「いやいやいや、酒飲めねぇし…それとも二人でバカ騒ぎしろってのか」  
楽が苦笑しながら、顔の前で手を振った。  
確かに未成年では…いや待てよ。  
誠士郎は、以前千棘が言っていた言葉を思い出した。  
 
―楽の酒癖が酷かった―  
 
一度飲ませた事が有ったらしいが、具体的な話になると口を噤んではぐらかしていた。  
大変な思いをしたのは確かなようだが、それ以上は聞いてない。  
無理に聞き出すのも失礼なので、千棘が話すまで放っておく事にしていた。  
(そう言えば顔が赤かったな…何が有ったんだろう)  
楽に直接聞いてみようか。しかし千棘が恥を掻く事になったら。  
(待てよ…コイツを酔わせて様子を探ればいいのか)  
無理やり飲ませればいい。抵抗されても体術は心得ている。  
 
「…あ?俺の顔に何か付いてるか?」  
「え?…あ、いや、ちょっとお嬢の事を考えていただけだ」  
凝視していたらしい。危ない危ない。  
誠士郎は内心ほくそ笑み、席を立った。  
「他に飲み物有るのか?」  
冷蔵庫を開けながら、楽に尋ねる。  
「あ〜、奥までは見てないからなぁ…ジュースとビールは見たけど」  
ふうんと相槌を打ちながら、冷蔵庫の中を調べた。  
ジュースとビールが多いが、日本酒も有るようだ。  
何を飲ませるかを瞬時に弾き出した。後は飲ませるだけだ。  
 
頭を回転させながら、冷蔵庫のドア越しに楽を見る。  
ちびちびとジュースを飲み、窓の外を見つめている。  
誠士郎はニヤリと笑い、瓶を何本か取り出した。  
新たにコップを取り、アルコールを幾つか混ぜ合わせる。  
それを空いた小瓶に注ぎ、楽の方を向いた。  
「おい一条」  
獲物を狙うような目つきで背中を睨み、声を掛ける。  
「ん?何だ?つぐm」  
ぼーっとした声で振り返った瞬間、楽の口目掛けて小瓶を投げた。  
 
「ふぐっ!」  
見事に口に挟まり、楽の首が仰け反る。  
「うっ、んぐっ、んぷっ、んぐっ…」  
調合した液体が楽の腹に納まって行く。  
全てを飲み干した所で、誠士郎が小瓶を楽の口から引き抜いた。  
空になった小瓶を片付け、一応水の入ったコップをテーブルに置く。  
「おい、一条、大丈夫か?」  
ニヤニヤしながら、楽の頬を叩いた。  
片腕を背もたれの後ろに回し、辛うじて椅子に座っている状態だ。  
「う〜…うぁ…?」  
返事が虚ろで、目も焦点が合っていない。そろそろ酔いが回ってきた頃だ。  
誠士郎に視線を合わせると、ボソッと呟いた。  
「…はれぇ……ちゅぐみぃ…3人いるろ…?」  
「お前、酔ってるな」  
「よっれないよ〜」  
苦笑する誠士郎の言葉に、楽はへへへ、と笑う。  
笑い上戸か?いや、まだ分からない。千棘が大変だと言っていたから、この程度では無いだろう。  
「一条、水飲むか?」  
コップに手を伸ばす。  
「あ〜…いらねぇ」  
脱力して俯きながら返事を返した。  
 
「…あぁ、そうら…ちゅぐみぃ」  
何かを思い出したように誠士郎を見上げる。  
「ん?何だ?」  
向き直った誠士郎に、楽が手を伸ばした。  
「あくひゅぅ」  
「…何故だ」  
白けた顔で誠士郎が訊く。  
「へへへぇ…しらねぇ…へへ〜、あくひゅ」  
無邪気な笑顔でいたずらっぽく笑い、腕をぶんぶん振った。  
子供が催促しているようにも見える。  
(仕方ないな…)  
誠士郎は穏やかな眼差しで微笑んだ。  
握手ぐらい構わないか。そう思い、腕を伸ばす。  
楽の手を握ろうとした瞬間、手首を掴まれた。  
「なっ!?」  
そのまま引っ張られ、楽の脚の上に座らされる。  
油断していた事も有り、咄嗟の抵抗が出来ず、両腕をそれぞれの脇に挟まれた。  
楽が両腕を背中に回し、抱きしめる格好になった。身動きが取れない。  
 
顔を誠士郎の胸にすりすりと擦りつける。  
「いいいいい一条!?おい、ちょっ、馬鹿!や、やめろ!」  
「うぁ〜…やぁらかいらぁ…」  
がっちり両腕を拘束され、されるがままだ。顔を赤くして抵抗するが、意味が無い。  
「…やっぱりおめー女の子らなぁ」  
「そ、それがどうした!?」  
「あ〜…べちゅにぃ…おっぱいでけーなぁ…へへへへ…」  
そう言うと、また胸に顔を埋没させた。  
(な、なんだコイツはぁ!)  
普段の楽とは違い、随分と強引で積極的だ。  
理性のブレーキが利かず、本能に忠実なようにも見える。  
「おおお、おい一条、ちょ、ちょっと、や、やm」  
抗議しようとした誠士郎の体が引っ張られ、口を塞がれた。  
柔らかい感触に、一瞬何が起きたのか分からない。  
(ききききき、キスぅ!?)  
状況を理解した瞬間、耳まで真っ赤になった。  
今までキスなどした事が無い。  
人生初なのに、こんな状況なんて。ショックで思考が停止する。  
 
戸惑っている隙に、舌が侵入してきた。  
「むぅっ!?んぐぅ…」  
逃げようとしても絡め取られ、吸われる。唾液を送り込まれ、捏ね回される。  
頭の奥が痺れ、体が弛緩していく。  
誠士郎は無意識の内に目を瞑り、楽の感触を貪る。  
官能が誠士郎の体に居座り、意識を支配していく。  
楽が口を離した。  
「んっ…ふぁっ…」  
ちゅぱぁっと音がして、二人の舌を繋ぐ糸がライトに照らされ、切れた。  
はう、と誠士郎が溜息を漏らす。少し熱を持っているようだ。目も潤んでいる。  
楽が誠士郎の顔を覗き込む。何となく誘っているような気がして、手を動かした。  
「ひゃうっ!?」  
服の上から胸を鷲掴みにされ、誠士郎の体がびくっと震えた。  
ぼうっとしていた意識が少し鮮明に戻る。  
「うぁ〜…やぁらけぇ〜…へへへ…」  
無邪気に笑いながら、豊満な膨らみを弄った。  
「なぁっ!?ちょっ…」  
顔を真っ赤にして抵抗を試みるが、力が入らない。  
腕を拘束されている上に、先ほどの余韻で体の内側が火照っている。  
そんな状態で胸を揉まれ、抵抗する気力が削がれた。  
 
本能が期待感と昂揚感をもたらし、理性と鬩ぎ合う。  
「うあっ…くっ……はぁっ」  
悩ましげな表情で、艶めかしい吐息が零れた。  
服のボタンを外されるが、抵抗する素振りを見せず、上を向いて恥ずかしさに耐えている。  
シャツをたくし上げられ、ブラジャーのホックを外された。  
張りの有る乳房が、ぶるんと姿を現す。楽の手が、直接乳房を触る。  
「あっ、んっ」  
柔肌を触られた感触に、重量感の有る双丘がぶるっと震えた。  
「い、いち、じょぉ…や、やめ…」  
楽が顔を谷間に埋め、指で先端を突っつく。  
「んっ!ふぁっ!」  
誠士郎の背中がピンと仰け反り、楽の方に胸を突き出してしまった。  
「うぁっ!…くる、ひぃ…」  
危うく窒息しかけ、楽は思わず顔を離す。  
「き、きさま…そ、そのまま、死ねっ」  
誠士郎が楽を睨みつけるが、肌を上気させ、目を潤ませていては、いつもの威勢が出ない。  
上擦った叫びは、楽には届いてないようだった。  
「へへへ〜…はむっ」  
誠士郎の声を無視し、硬くなった乳首を口に含んだ。  
「ひぁぁああっ」  
生暖かい感触に、誠士郎の首が反り返る。  
普段からは想像出来ない艶やかな悲鳴が、部屋に響いた。  
舌のざらざらした愛撫が、脳裏に火花を散らせ、快楽を連れてくる。  
理性が隅に追いやられ、思考が鈍る。  
 
楽の口から、れろれろと声が聞こえる。  
もう片方の突起も摘み、擦り、掌で乳房を包み、形が変わるぐらい揉み上げる。  
誠士郎の息が荒くなり、時折声が出る。肌がピンク色に染まり、快感に打ち震えている。  
いつの間にか、拘束された腕で楽を抱きしめていた。  
「はぁっ、はんっ、あっ、はあ…んはっ」  
熱い吐息と女の声が部屋に木霊する。  
身悶える姿は、いつもの殺し屋とは程遠い。快感に身を任せ、プルプルと痙攣している。  
楽の脇が緩んで拘束が解かれても、片手がするすると下に移動しても、気付かない様子で呆けていた。  
スカートを捲られ、下着の中に手を入れられた。  
「きゃんっ!」  
秘所を弄られる冷たい感触が、誠士郎の意識を少し引き戻す。  
「あぅ、あっ…い、いち、じょ…」  
少し離れようともがくが、力が入らず、思い通りに体が動かない。  
「あっ、やぁっ!?」  
楽の指が中に侵入して来た。蕩けるような感覚に、意識が混濁する。  
「ちゅぐみぃ」  
「ふぇあっ…?」  
遠くの方で、楽が呼んだ気がする。誠士郎は、それに反応するのが精一杯のようだ。  
「もうぬれてんろぉ…」  
楽は心底愉しそうに言うと、指を奥まで入れていく。  
「あぁっ、はぁあっ…い、いち、じょぉ…あひぃぃっ」  
何か言われた気がするが、その後に陰核を摘まれ、軽く達してしまった。  
とぷっ、と音が聞こえた気がする。楽の手を愛液が伝い、下着に染みを作る。  
 
全身の力が抜け、思わず楽にしがみ付く。  
「おぅ〜…ろうしらぁ」  
「はっ、あくっ、うぁ…」  
誠士郎は楽の問いかけに反応せず、朦朧とした意識でひくひくと痙攣している。  
楽は、へへへ、と笑うと、胸と膣の愛撫を再開した。  
「ふぁっ!やっ、あんっ、はぁっ」  
内部に侵入した指のストロークが加速する。余った指でクリトリスを捏ね回す。  
ジュブジュブと音がしてショーツが濡れる。吸収の限界を超え、楽のズボンにも染みが出来始めた。  
「あっ、あぁっ、あはぁぁああっ、あっ、あんっ、あっ」  
背筋を反らし、首を仰け反らせ、目に涙を溜め、ガクガクと痙攣する様は、最早ただの女だ。  
誠士郎は何も考えられず、ただ快楽に身を捩らせている。  
自由になった手を楽の肩に乗せ、ひたすら喘ぐ。  
楽は仕上げに、内部で指を曲げ、同時に陰核を摘み上げた。  
「あひぁあああ!」  
頭が真っ白になり、楽の方に倒れ込む。首に抱きつき、プルプルと体を震わせる。  
ドプドプと蜜が溢れ、楽のズボンと椅子を濡らした。  
指を抜くと、残りの愛液がタパタパと滴り落ちる。  
楽は指に絡み付いた名残を舐め取った。  
「む〜……うめぇ…」  
全て舐め取ると、誠士郎を抱き抱えるようにして立つ。  
スカートを緩め、床に落とし、下着をずり下ろしていく。  
「あ、う…」  
誠士郎は楽にしがみ付いたままで、されるがままに片足を持ち上げられている。  
ショーツを脱がし、自分のズボンのベルトを緩め、トランクスと共に脱ぎ捨てた。  
興奮してそそり立つオスが、外気に晒される。  
 
再び同じように座り、誠士郎を腰の上まで運んだ。  
「あっ、ふぁっ!」  
男根が入り口に触れると、誠士郎の体がびくっと震える。  
楽は何となく面白くなり、腰を揺すって陰核と膣をくすぐった。  
「はっ、うぁっ、んっ…はぁっ」  
背筋をピンと張り、甘い吐息を吐き出しながら、目をトロンと蕩けさせている。  
楽は誠士郎の腰をがっしりと支え、ゆっくりと沈めて行った。  
先端が埋没し、膣を刺激する。  
徐々に進む動きが快楽を呼び起こし、誠士郎の意識を侵食していく。  
少し進んだ所で一旦止まり、往復運動を開始した。  
ゆっくり、馴染ませるように上下に動かす。  
結合部から音がして、誠士郎の口から声が漏れる。同じリズムで椅子が軋む。  
三つの音が楽の耳朶を打ち、理性を麻痺させる。  
楽は動きを止め、侵入を再開した。  
ズブリと入った所で、誠士郎の体に力みが入る。  
「はぅっ!…つっ…」  
両足の指がぎゅっと閉じられ、床を掴んだ。  
顔を歪め、苦しそうに耐えているようだ。  
「い、いち、じょぉ…や、やめ…」  
痛みで現状を理解したらしい。目に涙を溜め、ブルブルと体を硬直させている。  
「うぁ?…らにを〜?」  
誠士郎の声は、楽の頭には届かなかったようだ。  
代わりに、目の前に有る豊満な膨らみと先端の突起を口に含んだ。  
誠士郎の体がピクッと反応する。  
 
楽はそのまま乳首を捏ね繰り回した。  
誠士郎の息が熱を帯び、体が少しずつリラックスしていく。  
子宮が解れ、力みが徐々に消えていく。  
楽は再び挿入を開始した。  
「ふっ…あぁっ…くふっ…」  
痛みと快感が同時に襲い掛かり、頭が混乱する。  
異物が侵入してくる感覚に、期待と不安が入り乱れ、理性を締め出していく。  
理解不能な感覚に翻弄されている内に、動きが止まった。  
結合部から、愛液と血が混じり出る。  
「はっ…あぅ…?」  
「う〜…わりぃ、れんぶはいっちまったぁ」  
へへ〜と無邪気に笑い、ゆっくりと腰を動かした。  
「ふぁっ…あっ…んふっ、くぅっ…」  
痛くて甘い衝撃が誠士郎の体を貫く。波の様に繰り返し、意識を洗っていく。  
解れた子宮が蠢動を開始した。  
襞が絡み付き、楽の陰茎を締め付ける。  
蜜が分泌され、潤滑油のように加速を促していく。  
繰り返される抽挿に慣れて来たのか、痛みが弱まり、誠士郎の表情が蕩けてきた。  
性器が擦れる音が響く。同じリズムで二人の声が聞こえる。  
少しずつリズムが加速し、誠士郎も膝を屈伸し始めた。  
意識が真っ白になり、欲情が体を支配する。  
「う゛ぁっ、はぁ、あぅっ」  
「あっ、はんっ、ふぁっ、くはっ」  
楽の苦しそうな呻き声、誠士郎の喘ぎ声、椅子の軋みが空間を包み込み、淫卑な雰囲気を醸し出している。  
 
内壁がぎゅうぎゅうと締め付け、楽の脳裏に火花を散らした。  
射精感が迫ってくる。無意識の内に腰の動きが加速し、爆発させたい欲求に駆られる。  
「あ゛ぁっ、もう、でるぅ…」  
「はっ、あっ、やっ、だめっ、うっ、い、ちじょ、あんっ、はっ」  
抗議の声を出したが、快楽に塗り潰され、抗えない。  
牝の本能が未知の期待感をもたらし、体を突き動かす。  
汗ばんだ谷間が楽の目の前で揺れる。思わずまたしゃぶりついた。  
「ふぁっ!」  
不意の快感に、誠士郎の体がビクッと跳ねる。  
子宮がキュッと締まり、楽にとどめを刺した。  
「うあ゛っ!ああっ!ぐぁあっ」  
「あふっ、んぁあっ!はぁああっ、あ、あつ、いぃっ、はぁっ、あっ」  
暖かいモノが誠士郎の中を満たしていく。  
子宮のうねりが、ドクドクと流れ込む欲望を飲み込む。  
牡の本能が全てを流し込もうと楽の体を動かし続ける。  
襞が絡み付き、内壁が全てを飲み込もうと波打つ。  
結合部の隙間から、白濁したカクテルが溢れ出す。  
少しずつストロークが緩慢になり、やがて二人とも果てた―。  
 
誠士郎は熱めのシャワーを浴びていた。浴びながら記憶を辿る。  
千棘が言っていた。楽に酒を飲ませちゃダメだ、と。  
今まで忘れていたが、その後で、酒癖が酷くて大変だったとぼやいていた。  
(何やってるんだ私は…お嬢の話を忘れるなんて…)  
それに、と今日の事を思い出す。  
最初、引っ張られた後でも、対処は出来た筈だ。  
頭突きでも何でもすれば良かった。  
あれだけで混乱するなんてどうかしている。  
やはり、普段と違う状況で油断していたか。  
それとも、他の人間だったら油断せずに済んだのか。  
(ヤツだから?…ハッ!ち、違う!断じて違う!)  
頭をぶんぶんと振り、千棘の顔を思い出す。  
そもそもアイツはお嬢の恋人で、自分はお嬢の目付け役だ。  
自分にとってヤツは、それ以上でも以下でも無かった筈だ。  
お嬢の大切なモノを、自分が横取りして良い訳が無い。  
いや、元々そんなつもりは毛頭無かった。  
自分が恋愛、ましてやこのような行為など、無縁だと思っていた。  
だが結果として、こんな事になってしまった。  
お嬢にどんな顔して会えばいいのか。嫌われたりしないだろうか。  
そんな事を悶々と考え込み、俯いてシャワーに打たれた。  
 
楽は殊勝に頭を垂れ、自分のベッドの上に正座している。  
誠士郎は、楽に向き合う形でベッドに腰掛け、ガウンを羽織っている。  
「おい」  
誠士郎がドスの効いた声で殺気を飛ばす。  
「な、何だよ?」  
ビクつきながら、楽が顔を上げた。  
「お嬢には…秘密だぞ」  
「あ、当たり前だろ、言える訳ねぇよ」  
睨む誠士郎に固まる楽。さながら蛇と蛙のようだ。  
「あと…」  
誠士郎が言葉を続ける。  
殺気が消え、顔が赤くなった。  
「も、もうこれっきりだからな!こ、こっちに来るなよ!」  
叫ぶと、布団を被ってベッドに潜り込む。  
「いやもうしねえよ」  
誠士郎は、楽の呟きが聞こえない振りをして目を閉じた。  
 
〜fin〜  
 

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