「あのさぁ…何で浴衣の下に何も着てねえんだよ」  
「えっ?そういうもんじゃないの?」  
楽の質問に、千棘はきょとんとした顔で聞き返す。  
「あのなぁ……完全に勘違いしてるな、お前…」  
「う、うそぉ!?」  
夏祭りの出店を脇目に、千棘は素っ頓狂な声を挙げた。  
外国人の間違いをそのまま体現している。  
「…ま、まあ、帯が外れないように注意しとけば大丈夫よね」  
若干焦っているようだ。強がって声が震えている。  
「あんまり無茶すんなよ…俺着付けとかできねぇから」  
「き、気を付ける…」  
呆れる楽に、少し頬を染めながら頷いた。  
 
二人で並んで歩く。寧ろ、楽が引っ張られているような感じがする。  
千棘に取っては、やはり出店が珍しいようだ。  
半分以上が組員の店であるため、楽の顔パスである事も、輪を掛けているらしい。  
「あんたと居ると大体タダになるのね♪」  
上機嫌に綿菓子を頬張り、楽に向かって言った。  
先ほどの注意を忘れたようにはしゃいでいる。  
「俺、財布係かよ」  
楽は苦笑しながら応じるが、楽しんでるならいいか、と思った。  
「あっ!次アレにしようよ♪」  
「へいへい」  
ぐいぐいと腕を引っ張られ、殆どの出店を回る事になった。  
 
結局、射的やらお面やら、組員の店は全て回らされた。  
千棘はすっかりご機嫌なようだ。まあ、地元の祭りを楽しんでくれるのは悪い気はしない。  
「なんか飲む?」  
神社の裏で座って休みながら、千棘が訊いた。  
「あ〜…そうだな」  
「じゃあなんか買ってくるね」  
流石に連れ回した事を気にしていたらしい。  
「あ、おい…」  
何を飲むのか聞いてない。  
千棘はそのまま行ってしまった。  
「はぁ…まあ…いっか」  
楽は、頭をポリポリ掻きながら座り込んだ…。  
 
「おっじっさぁ〜ん♪」  
「おぉ、お嬢さんじゃねぇですかい」  
千棘は、さっき寄った組員の店にやってきた。  
「あれ?坊ちゃんは?」  
「あぁ、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃって…」  
たはは、と笑いながらドリンクメニューを物色する。  
「しまった…聞き忘れた」  
今更戻るのも面倒臭い。  
「あ〜、適当でいいよね」  
自分が飲む分を決めて…ふと店の奥に目が行った。  
「あのビン何?」  
店の奥に有る一升瓶を指差した。  
「あぁ、あれは日本酒でさぁ」  
休憩時間や打ち上げの時に自分達が飲む、と苦笑しながら付け加える。  
「ふ〜ん…」  
お酒と聞いて、千棘がニヤッとほくそ笑んだ。  
 
いたずら心がむくむくと頭をもたげる。  
高校生でも、隠れて酒を飲む輩は居る。  
そう言えば、アイツが酔っ払ったらどうなるんだろう。  
その様子を見てみたい。首尾良く行けば、それをネタに楽を自由に出来る。  
少し良からぬ事を考え、好奇心に背中を押された。  
「おじさん、ちょっと…」  
手招きをして何やら耳打ちをする。  
「えぇっ!?いや、未成年でしょう…」  
「1回ぐらいだいじょーぶだって、ほらほら」  
強引かつ積極的な千棘に急かされ、店主は日本酒をカップに注いだ。  
残り1/4ぐらいにスポーツドリンクを入れ、千棘に渡す。  
「ほ、本当にいいんですかい?」  
「大丈夫大丈夫♪」  
不安げな組員からカップを二つ受け取ると、千棘はニヤニヤしながら、目をキラリと光らせる。  
彼女は踵を返して楽の所へ小走りに走って行った。  
因みに代金は楽の顔パスで通ったそうな。  
 
「ハイ」  
「おう、ありがとよ」  
差し出されたカップを受け取り、一緒に座った。  
「しっかし、珍しいな、お前が買ってきてくれるなんて」  
「ま、まあ流石にね…ちょっとだけ…悪いとは思った、から、さぁ…」  
少し照れる千棘に、一瞬、楽の胸が高鳴った。  
(んだよ、そんな顔しやがって…)  
気持ちを紛らわすためにドリンクを啜る。  
「ん?」  
何か違和感を感じる。  
「…ど、どうしたの…?」  
まさか、いたずらがばれたか。楽に掛けた声が少し震えた。  
 
「いや、なんか変な味すんだけど」  
「あ、あ〜、ちょ、ちょっと、スペシャルドリンク、作ってみた」  
「えっ!?お前が!?」  
楽の脳裏に、嘗ての不味い見た目が浮かぶ。  
「いや、作ったのは私じゃないけど、調合は提案してみた」  
悟られないように取り繕う。  
「…ふぅん…何混ぜたんだ?」  
「そ、それはぁ…ひ、秘密」  
じーっと疑いの目を向けられ、冷や汗が出た。  
「まぁいいけどさ…飲める味なんだよな?」  
「も、もちろん」  
実は試してない。ここまで来たら、言い張るしか無いだろう。  
楽は納得してない様子で、それでも一応飲み始めた。  
何とか誤魔化せたようだ。  
 
ドリンクを飲みながら、ちらちらと横目で楽を観察する。  
アルコールが回ってきたのか、顔が少しずつ赤くなってきた。  
「うあ〜…なんか…気持ちい〜な〜…へへっ」  
そう言って、少しずつドリンクを飲み下していく。  
最後は一気飲みのようにグイッと呷った。  
(えっ!?ちょっ、早くない?)  
思ったよりペースが早かった。それとも、コイツの普通はこんなもんなのか。  
「うい〜…へへへへへ…」  
顔を赤らめ、空を見上げて意味も無く笑っている。  
空になったカップを石畳に置き、神社の壁にもたれた。  
「ら、楽?…ど、どうしたの?大丈夫?」  
千棘はまだ半分ほど残っているドリンクを石畳に置き、楽の方を向く。  
流石に心配になったようだ。  
「あ〜…ちろげぇ…らいじょーう、らいりょーぶ」  
呂律が回らない様子で千棘に手を振った。  
壁に体重を預けながら立ち上がろうとする。少々危なっかしい。  
「ああっ、ちょっ、危ないわよ」  
慌てて手を貸し、立ち上がらせた。  
「お〜う…ちろげぇ、やさしいなぁ…へへっ」  
「全く…感謝しなさいy」  
いつものように突っ張ろうとすると、突然抱きしめられた。  
「なっ!?ちょっ、ら、楽!?」  
「えへぇ〜…ちろげぇ〜…へへへへへへへへ」  
笑いながら頬ずりをしてくる。顔から火が出るように熱くなった。  
(な、なに?これがコイツの酒癖なの?)  
抱きつき魔なのか。締め付ける腕の力が強くて振り解けない。  
 
楽に体重を掛けられ、背中が壁に押し付けられる。  
「あ、あの、さぁ…ここ、外、だよね…と、取り敢えず、離れて、くれn」  
不意に言葉が奪われた。  
「んむぅっ!?…ふぐっ…」  
それがキスだという事を理解するまで、数秒掛かった。  
楽の舌が歯列をなぞり、強引に侵入してくる。  
舌は逃げようとするが、巧みに絡め取られ、吸い出された。  
「んっ、むぐぅっ…ふっ…」  
脳の奥がピリピリと痺れる。思わず目を瞑り、楽の首に抱きつく。  
唾液を送り合い、捏ね繰り回し、舌を互いの口内に往復させた。  
楽が片脚を千棘の脚の間に割り込ませる。  
千棘は無意識の内にそれに足を絡ませ、太ももを楽の脚に擦りつけた。  
浴衣の裾がはだけ、白い足が薄闇に浮かび上がる。  
誰も見る者は居ないが、透き通るような肌が月明かりに反射し、淫猥な雰囲気を醸し出している。  
「んっ…むぐぅ……んんっ!?」  
キスの感触を味わっていると、突然、千棘の体がビクッと反応した。  
楽の片手が背中から前に移動し、薄布の上から胸を触る。  
思わず口を離し、楽の顔を見た。二人の口の間を、唾液が糸を引き、プツッと切れた。  
「あ、あの…ちょっ、ら、楽?や、やmひゃん!」  
楽の手が潜り込み、直接柔肌を揉む。  
ついでに首筋や耳たぶにキスを落とされ、体から力が奪われた。  
「あっ、やっ、んんっ…はぁあっ…あふっ…あっ、あんっ!」  
尖った先端を摘まれ、声が響く。  
千棘の背筋がピンと反り返った。  
立っているのがやっとで、何とか楽にしがみ付く。  
 
壁際に立たされ、楽の両手に、豊かな双丘と頂上の突起を揉みしだかれた。  
「やっ、ちょっ、だ、だめ…こえ、で、ちゃう、か、らぁ…あっ、あくっ、ぅんっ!」  
何とか叫ばないように声を抑える。だが、理性のブレーキはギリギリだ。  
楽の顔が少しずつ下に降りてきた。  
途中途中、キスの雨を降らせ、胸の谷間に顔を埋める。  
「ぁ〜…うぃ…おびぃ…じゃま…へへっ」  
楽が顔を離して視線を下に移した。  
「え?じゃ、じゃまって…あっ、ちょっ」  
乳房を弄っていた手が片方、千棘の腰に回り、帯を解いていく。  
「んっ、だ、だめ、ちょ、ちょっと、ら、ら、くぅ」  
精一杯の抗議をし、何とか防ごうともがいた。  
「うぁ…りゃますんらぁ」  
「ば、ばか、あ、あんたがそんなことすr…あああんっ!」  
抗議を遮るように乳首を舐める。  
千棘の頭が真っ白になり、脳裏に火花が散った。  
脱力し、ガクガクと足が震えるが、倒れないように楽の体に押され、壁にもたれる形で立たされる。  
再び楽の肩や首に手を置き、襲い来る快楽に溺れないようにしがみ付いた。  
その隙に帯が解かれ、白い裸体が露わになる。  
浴衣は服の機能を失い、ただ羽織っているだけの布きれに変わった。  
「あんっ…いやっ、だ、だめっ…」  
意識が快感に染め上げられ、肌が上気してくる。  
これ以上踏み込むと声が大きくなってしまいそうだ。  
「うぁ…てぇりゃまぁ…えへへへへ」  
「えっ?…きゃっ!?」  
楽に片手で両手首を素早く掴まれ、頭の上に挙げさせられた。  
万歳の格好で壁に押し付けられ、息を呑む。  
 
「あ、ちょっ、ら、楽…?」  
「へへ〜…らんかぁ、色っぽいらぁ」  
「なっ!?」  
羞恥心で体温が上昇する。  
楽はお構いなしに作業を続けた。  
 
「ちょ、ちょっと、は、離しなさいよ」  
「やらぁ…へへっ」  
もがこうとするが、両手を掴まれ、股に足を入れられ、十分な抵抗が出来ない。  
そんな事をしている間に、楽が浴衣の帯を千棘の手首に巻き付け始めた。  
「んぁっ、ちょちょちょちょっと、なな何してんの」  
「らにってぇ…みりゃぁわかるらろ…あははははは」  
楽は千棘の両手首を縛ると、頭上に有った取っ手のようなものに帯を引っかけ、体を固定した。  
一応足は着くし立てるが、それ以上は動けない。  
作業が終わると、楽が一旦離れて千棘を観察する。  
「うっ…な、何よ…」  
「あぅ〜…うぃっく…おう…やらしいらぁ、おめえ…へへへぇ」  
「やっ、ばばばば、ばかぁ…」  
楽の視姦に耐えきれず、顔を背けた。  
その仕草が、楽の本能を更に刺激する。  
再び近づき、体を密着させると、千棘の片膝をひょいっと持ち上げた。  
「えっ、ちょっ、ぅむぅっ」  
また唇を奪い、片方の手で胸を愛撫する。  
片脚を開かせると、胸から秘所の方に手を動かした。  
「んんっ!?ふっ、んくぅっ!」  
直ぐに入り口を探し当て、指をヌプッと中に這わせる。  
その感触に、千棘の体がビクンと反応した。  
 
指を動かし、膣を解していく。  
「んっ、んふっ、くふぅっ、んむっ」  
刺激にシンクロして、口の端から息が漏れる。熱を帯び、目が潤む。  
股間からクチュクチュと音がする。それはやがてピチャピチャという水音に変わってきた。  
楽は唇を離し、耳元に顔を近づけた。  
「…ちろげぇ〜…」  
「はっ、あんっ、やっ、うんっ…はあっ、はあっ…んっ、な、なに?」  
「…もっろ、こえきかひれ…あははぁ〜」  
回らない舌で笑い、更に付け加える。  
「お〜…そういやぁ…やらしいおろがすんらぁ…いんらんらなぁ、へへ〜」  
わざと音を立てて、ストロークを速くした。  
「あっ、やっ、ばっ、ばかっ、んっ、はっ」  
ジュブジュブと愛液が溢れ、浴衣を濡らし、パタパタと石畳に落ちる。  
脳髄が蕩け、心が快感で埋め尽くされていく。  
「あっ、あっ、あんっ、あんっ、やんっ、んあっ、あんっ」  
恥も外聞も忘れ、喘ぎ声が大きくなった。  
意識が混濁し、感覚の境界が曖昧になる。  
「うりっ」  
楽が内部の指を曲げ、同時に陰核を摘んでコリッと擦りあげた。  
「あんっ!はああああっ!」  
軽く絶頂に達し、声を挙げて仰け反る。  
体がピクピクと痙攣し、蜜がドプドプと滴り落ちてきた。  
プルプルと震えて力が抜けるが、吊り上げられ、楽に体を支えられる。  
へたり込む事は許されない。  
 
楽が指を引き抜き、体を離す。  
手に付いた汁をこれ見よがしに舐め取った。  
「むぅ〜……けっこう…うめぇ…」  
「はあ、はあ…やっ、ちょっ…な、なめないで、よぉ…」  
これをきっかけに、状況を思い出す。  
外で、裸にされ、吊り上げられ、片脚を開かされている。  
「ね、ねえ、楽…」  
「んあ?」  
「お、降ろして、くんない?」  
顔を真っ赤にして、肌を上気させながら聞いてみた。  
「やら」  
即答である。梨の礫とはこの事か。  
 
片腕で千棘の脚を抱えながら、もう片方の手で、自分のベルトを外し始めた。  
「えっ…ら、らくぅ?」  
下からのカチャカチャという音を聞きながら、千棘が楽に問う。  
「あ、あの、なに、してんの…」  
「ぬいれるんらよ…それがろうしら」  
言いながら作業を続け、ズボンとトランクスを一気に下ろした。  
「!!…お、おっきい…」  
モノを見た千棘がゴクリと唾を飲む。普段の状態も興奮した状態も見た事が無い。  
「そうかぁ?…ふつーらろ…」  
これが自分の中に入る所を想像し、ハッとなった。  
少し期待していた自分が居て、頭が混乱する。これ以上深入りすると、自分がおかしくなってしまう気がする。  
不安と期待に心が揺さぶられ、自分が分からなくなった。  
 
「いれるぉ」  
ぼうっとしている間に、楽が腰を宛がった。  
「えっ?あんっ!」  
先端が中に入った刺激で、体がビクッと反り返る。  
内部は既に受け入れ態勢を整えていた。ズブズブと楽の男根を飲み込んでいく。  
「あっ、ああっ、ぅん…んはぁっ…」  
軽く抽送をくり返すと、千棘の声に艶が出てきた。  
感じた事の無い感覚を持て余し、悩ましい喘ぎになって口から出て来る。  
吐息に熱が籠り、潤んだ目に快楽と期待の色が混じる。  
「おぅ〜…せまい〜…」  
楽は、腰をゆっくり動かしながら千棘の顔を覗きこんだ。  
「あっ、はあっ、あんっ、ふぁっ」  
首が反り、空を見上げ、パックリと口を開けて悶えている。  
その反応に満足したのか、楽が動きを止めた。  
「あっ…?…ら、らくぅ…?」  
千棘が楽の顔を見下ろす。途中で止められた失望と抗議が目に宿る。  
それを見た楽は、にへっと笑い、耳元で囁いた。  
「らぁにぃ?」  
「な、なにって…だ、だから…そ、そのぉ……!!」  
千棘が言いよどんだ隙に、楽が腰を突き上げる。  
「ひぁああっ!」  
一気に処女膜を突き抜け、奥へと侵入した。  
「はっ…あがっ…はあっ…はあっ…」  
再び首を反らせ、目を見開いて息を荒くする。  
突き破られた痛みに、思わず涙が零れた。  
破瓜の証が結合部から垂れる。  
 
「あ〜…れんう、はいっらぁ、へへ〜」  
「あっ、ぐっ…ば、ばかっ…んむっ」  
口を口で塞ぎ、空いている手で胸を愛撫する。  
舌を吸い出し、丘の先端を突っつくと、千棘の体が弛緩してきた。  
子宮筋が解れ、襞が蠢き出す。楽の陰茎を絞り、本能を促してくる。  
楽はそれに身を任せ、顔を離し、腰を動かし始めた。  
「んあっ、だ、だめっ、は、離しちゃ、あんっ、あぁっ」  
声が抑えられない。下腹部から襲い来る感覚は、既に痛みより快感の方が大きい。  
腰の動きが加速し、千棘の意識を快楽の渦へと巻き込んでいく。  
胸を愛撫していた手が、背中の方に回った。  
がっちりと掴んで支えると、千棘も無意識の内に腰を振り始める。  
二人の荒い息と喘ぎ声が闇に響き、溶けていく。  
 
「うっ、あぅっ、ち、ろげぇ…で…で、る…う゛ぁっ」  
「あっ、はっ、ぅんっ、あんっ、ま、まっ、てぇ…あっ、あふっ」  
それでもやめられない。本能の赴くまま、一心不乱に腰を振った。  
楽の中に欲求が高まり、射精感で頭が一杯になる。  
酔った頭では我慢が弱くなる。直ぐに限界を迎えた。  
「う゛ぁぁあああ!…あぁっ…」  
「やっ!あぁっ!あっ、ついぃぃ…」  
ドクドクと欲望を爆発させ、千棘の中に放出する。  
残りを流し込むため、尚も蹂躙を続けると、子宮と襞が動き、ペニスを絡め取った。  
「うぁあっ!あ゛ぁあっ!」  
やがて全てを出し切り、入り口から最奥まで一気に突き上げる。  
「あっ!はああああぁぁぁっ…」  
衝撃が体中を駆け抜け、千棘は絶頂に達した―。  
 
 
ズボンを穿いて殊勝に首を垂れる楽を、まだ吊られている千棘が睨みつける。  
「……手首…痛いんだけど」  
「お、おう…い、今外す…」  
酔いが醒め、青ざめた顔で楽が手を伸ばした。  
ごそごそと手を動かすが、中々外れない。  
「…どうしたのよ」  
「い、いや…ちょ、ちょっと、待っててくれ…」  
楽の声に焦りが見える。  
「何…どうしたのよ一体…」  
不審に思い、千棘が上を見上げた。  
月明かりに照らされた結び目は、複雑に絡み合い、容易には外れなさそうだった。  
「あんた…どんな結び方したのよ…」  
「いや…俺もわかんねぇよ…」  
「あ、あんたが結んだんでしょ」  
「よ、酔ってたんだから仕方ねえだろ」  
恥ずかしさを堪え、声を潜めて言い合う。  
5分か6分か格闘し、漸く千棘の手首が自由を得た。  
 
帯をひったくるように楽から奪い返すと、背中を向けて浴衣を着る。  
「…ね、ねえ…」  
「あ?何だよ」  
千棘が顔だけ振り向いて楽を見た。若干赤くなっているようだ。  
笑顔を浮かべるが、口元が引き攣っていた。  
「…帯……結べる?」  
「あ…」  
気まずい空気が流れる。  
「…着付け…出来ねえ…」  
「解いたのあんたでしょ!?何とかしなさいよ!」  
「ば、ばかっ!声でけーって!しー!しー!」  
千棘はハッとして、慌てて口を押えた。  
楽が壁に張り付き、神社の周りを見渡す。幸い、誰も来てないようだ。  
「お、思ったんだけど、さぁ」  
「な、何だよ」  
「む、結べればいいんじゃ、ないか、なぁ…なんて…あはは…は…」  
弱々しく笑う千棘に、楽が意見する。  
「あのさ…行きと帰りで結び方変わってたら、疑われるんじゃねえか?」  
「ぐっ…じゃ、じゃあ、他にいいやり方有るの?」  
「うっ…」  
結局、代案を思い付かず、千棘の言う通りにした。  
 
取り敢えず、楽の思う通りに結んだ。  
「…こんなもんか…」  
「だ、大丈夫?」  
正直分からない。  
「蝶々結びだから、引っ張ると解けるぞ」  
「…わ、分かった、気を付ける…」  
解けないように注意しよう。  
そして今度こそ、楽に酒を飲ますのはやめよう。  
固く誓った千棘であった…。  
 
〜fin〜  
 

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