―相変わらず、ここは凄いな―
楽はとある豪邸に呼ばれていた。
自分の所もそれなりにデカい屋敷だが、ここは更に規模がデカい。
以前にも来た事があるが、やはり2・3回では慣れない。
現在、万里花の部屋に居るが、寝室が隣にある。自分の家では、そんな事は無い。
流石は警視総監の家だ。それとも、洋風の豪邸は皆こんな構造なのか。
それにしても、いきなり部屋に通されるなんて、何か有るんだろうか。
だだっ広い部屋の、一人では大きすぎるソファに座って待っていると、聞き慣れた声が後ろから抱きついて来た。
「楽さまぁ♪」
自分は座っているため、万里花の胸が後頭部に当たる。
体格が小さいため、小咲や千棘よりは小さいが、それでも、それなりに発育している。
「うっ…橘、取り敢えず、暑いから離れてくれねぇか」
場所柄も有り、正直少し興奮した。無論、言えない。
万里花は、はぁい、と言いつつ離れるが、何故か自分の隣に座る。
楽の右腕に抱きつき、頬を彼の肩にすりすりと擦りつけた。まるでマーキングだ。
「来てくださって嬉しいですわ」
うっとりした表情で楽を見る。ついでに、彼の腕に自分の胸を押し当てている。
その感触に、楽は違和感を覚えた。妙に生暖かい。
数秒後、その原因に気づいた瞬間、汗が噴き出てきた。
―ブラジャーの感触が無い―
いや、無いというよりは、薄いと言った方がいいか。
「な、なぁ…」
「何ですか、楽さま♪」
恐る恐る訊いてみる。
どうやら、タンクトップみたいなモノにブラの機能が付いたものらしい。
その上にカーディガンを羽織っているだけだ。
部屋着はいつもこんなものだそうだ。
曲りなりにも男を呼ぶのだから、もう少しちゃんとした方がいいのでは?
そんな事を遠回りに、露出がどうとか言いながら訊くと、
「あら、楽さまでしたら一向に構いませんわよ♪」
「えっ何が」
「襲って頂いても」
万里花は、むふっといたずらっ子のように笑って返した。
若干、妖艶な雰囲気を感じ、楽の背筋がゾクッとした。
「何かお飲みになりますか?」
少し世間話をした後、万里花が聞いてきた。
そう言えば、ここに来てから何も飲んでない。
相変わらずくっつかれ、緊張も有ってか、喉がやたら渇く。
「そ、そうだな…」
楽が言い終わらない内に、万里花が執事を呼び、適当に見繕うように言った。
二人が一瞬、目を光らせたのは…気のせいだ、きっと。
数分して、ゴンドラが運ばれて来た。
荷台の上に、幾つかのドリンクが乗せられている。
セッティングを終えると、執事は部屋を出て行った。
万里花が心底楽しそうに紅茶を淹れる。
楽に飲んでもらうのが嬉しいと語り、嬉々として作業を進める。
「はい、お飲みください♪」
「お、おう…」
香りを嗅ぎ、一口啜る。種類とかは良く知らないが、結構美味い。
正直にそんな事を言うと、目を輝かせて楽の方を向いた。
「本当ですか♪」
随分と上機嫌になったようだ。
彼女はふふっと笑いながら、自分で淹れた紅茶を嬉しそうに飲む。
普段通りの味なのだが、万里花にとって、今日の味は格別だった。
楽に美味しいと言ってもらえたのだから当然か。
しかし、今日はそれだけでは無い。
用意して置いた物を、楽の飲み物に少しずつ混ぜていく。
「ん?なんかさっきと味変わったか?」
「はい、砂糖やミルクも、色々有るんですよ♪」
ふうんと感心すると、楽はそのまま飲み干した。
ゴンドラに視線を移すと、コーヒーや日本茶なども目に入る。
「他のも、お飲みになりますか?」
「おぅ…」
楽の返事を受け、万里花はハイテンションで作業を始めた…。
〜30分後〜
楽が少しフラフラしている。流石に飲ませ過ぎたか。
「楽さま?大丈夫ですか?」
「うぅ…なんか、ぼーっとする…」
彼の顔色が悪い。少し赤いようだ。ちょっと心配になった。
(アルコール、入れ過ぎましたかしら)
元々は単なる好奇心だ。
小咲が言っていた。この前、事故で酒を浴びてしまい、大変な事になったと。
どうなるか見てみたかっただけ。ついでに襲おうと思っていたが。
水を飲ませ、肩を貸して寝室に連れて行った。
楽をベッドに寝かせて、腰掛けるように、横に座る。
頭を撫でて顔を覗き込み、介抱する。
「楽さま、ご気分はいかがですか?」
万里花の問いかけに、楽は、う〜ん、とうめき声を漏らすのみで、あまり反応が無い。
彼女は流石にしょぼくれ、体を離した。
すると、楽はゆっくりと目を開け、上体を起こし始めた。
ベッドに後ろ手に手を突き、体を突っ張る。
「楽さま?大丈夫ですか?」
すかさず万里花が楽の上半身を支えた。
「ぅ〜…うぃ…」
万里花の問いかけに反応するように、顔を向ける。目が虚ろだ。
「もしかして、酔ってらっしゃいます?」
「…うぁ…ヒック…じぇんじぇん」
そう言いながら、ガバッと万里花を抱きしめた。
「きゃっ!」
いつもの楽とは違って、随分と積極的だ。確実に酔っている。
(あっ、楽さま、そんな大胆な…)
一瞬驚いたが、悪い気はしない。
大変な事になったと小咲が言っていたのはこの変貌ぶりか。
恐らくだが、小咲も抱きつかれたのだろう。
先に体験されて少し嫉妬したが、直ぐに思い直した。
―今はわたくしのもの―
楽になら襲われてもいい、と言ったのは本心だ。
万里花は天にも昇る心地で、楽の背中に手を回す。
顔を上げると、楽が頬をすりすりしてきた。
「むぅ……マぁ、リぃ…へへへへ」
思わず、万里花の体から力が抜ける。
「ら、くさ、まぁ」
とろーんと呆けて名前を呼ぶと、楽が反応して顔を覗いた。
「ん〜…よんらぁ?」
言うが早いか、そのまま万里花の唇を奪った。
「ん!…ふむぅ…」
数瞬ビックリしたが、すぐに受け入れ、目を閉じ、口を開ける。
楽の舌を迎え入れ、自ら絡ませる。
万里花の体が弛緩し、脱力していく。
無駄な力が削ぎ落とされ、楽に全てを任せる感覚に酔いしれる。
お互いの口内を往復し、唾液を流し込み、舌を吸い合う。
脳の奥が痺れてきた。
二人の口の端から涎が垂れてくるが、気にせずそのまま、互いの感覚を貪る。
頭を撫でられ、抱きしめられ、意識が遠退きそうだ。
キスをしたまま楽の手がカーディガンを脱がしていくが、それすらも為すがままだ。
パサリと音がして、床にカーディガンが落ちる。
そこで楽が顔を離した。二人の唇の間に、一瞬銀糸が輝き、切れた。
万里花の口から、ほぅ、と吐息が漏れる。女の熱を帯びている。
再び楽に抱きしめられ―引き倒された―。
万里花は楽の体をまたぎ、四つん這いの格好になる。
熱の篭った目で楽を見下ろす。まるで誘惑しているようだ。
そのまま顔を近づけた。シンクロするように、彼も彼女を引き寄せる。
また熱い口づけを交わし、体温を感じる。
楽の手が背中から前の方に回る。
少し体を上げさせ、服越しに胸の膨らみを触った。
「はぁっ…んっ…」
万里花がピクリと反応し、口を離す。艶やかな声が出る。
悩ましげに眉を顰めるが、嫌では無いようだ。
胸の先の突起は既に硬くなっていた。
二つとも弄ると、万里花の背中がのけ反った。
「あっ!はあっ、ひゃっ!」
布の上からでも、刺激は十分らしい。
「なぁ、マリぃ…」
「はんっ…な、なんですか…」
「んぁ〜…らんか、やらしいなぁ…へへ」
酔っている所為か舌が回らないが、それでも万里花の羞恥心を存分に煽っている。
耳まで真っ赤にして、しかし振り払う事はしない。
「んっ…ら、らくさまの…せい、あっ!」
言い終える前に、また乳首を弄ばれた。
背筋が反り返り、胸を楽の方に突き出す。
力が抜け、ストンと腰が落ちた。腹の上に座る形になった。
楽は手を移動させ、服を脱がしに掛かる。
肩ひもを外し、服をお腹の辺りまでずり下げた。
双丘が露わになり、突起がツンと自己主張をしている。
「んぁ〜…へへへ」
楽は万里花の背中に手を回し、抱きしめるようにしながら上体を起こす。
脚の付け根の上に万里花を乗せて座った。
「あっ、楽さま…そ、そんなに見られると恥ずかしいですわ」
頬を赤らめながら、しかし隠そうとはしない。
楽の肩に手を乗せ、抵抗しなかった。
「…なんか…かぁいぃなぁ」
そう言うと、目の前の丘に鎮座する物を口に含んだ。
「んっ!はっ、あはぁ!」
甘噛みし、舌で転がし、ツンツンとくすぐる。
刺激を受ける度に、頭が真っ白になっていく。
恍惚の表情を浮かべ、ガクガクと快感に震える。
「らく、さまぁ…はぁっ!んっ」
乳房を揉まれ、乳首を弄られ、体が淫らに反応していく。
無意識の内に、楽の体を抱き寄せた。
それに応じるように、楽が左手を下の方に移動させる。
するするとスカートの中に手を入れ、ショーツの奥に潜り込ませた。
秘所を探られる感触にも、官能が刺激される。
万里花は、本能的に腰を浮かせた。
楽が右手を背中に回し、体を支える。
やがて、中指が割れ目の中に挿入された。
「あっ!んゃっ、ふぁあっ!」
くちゅっと水音がして、万里花の体がビクッと跳ねる。
内部は既に濡れそぼっているようだ。楽の指が更に奥へと進んだ。
中で蠢く感触にシンクロして、万里花の口から悩ましげな吐息が漏れている。
ぴちゃぴちゃと愛液が漏れ、下着を濡らしていく。
指の動きが段々速くなってきた。
「あんっ!あっ!はあっ!んっ、ら、らく、さ、まぁ、あんっ!」
理性が飛び、意識が薄くなっていく感覚がする。
喘ぎながら楽を呼ぶ。返事をする代わりに、彼はクリトリスを摘み上げた。
「んあっ!あはああっ!」
背筋が仰け反り、全身が痙攣する。
指と割れ目の隙間からトプトプと蜜が溢れ、下着の許容量を突破し、太ももを伝った。
「ん〜…イッらぁ?」
プルプルと震える万里花を見て、楽が訊く。
「はぁぁあ…はぁっ、んはっ…」
万里花は返事も出来ず、息を整えるだけで精一杯のようだ。
楽が下着をずり下げ、指を抜いた。指に纏わりつく液体を舐めとる。
「ぁ〜……ぅまい…へへっ」
「やっ…ら、らく、さま…」
万里花が顔を背ける。興奮と羞恥心で耳まで真っ赤だ。
楽は、万里花を抱き抱えたまま、ゴロンと寝転ぶ。
彼女は再び四つん這いにされ、スカートとショーツを剥ぎ取られた。
ついでにタンクトップも脱がされ、一糸纏わぬ姿になる。
「マリぃ…うしろ、むいれ」
「は、はい…」
そのまま回転し、楽の顔の前にお尻を突き出す。
楽は両手で腰を掴み、引き寄せた。
舌を秘所に這わせ、膣にねじ込む。
「あっ!あひっ!んあっ、あふっ!あんっ!」
快感が体を駆け抜け、その度に背中が反り返る。
ジュルジュルと溢れる蜜を吸い続けると、また少し達したらしい。
下腹部の上に、万里花の顔がポテッと倒れた。
彼の舌が大人しくなった事で、万里花の理性が少し戻って来たようだ。
視界に楽の股間が入る。
「んはぁ…ら、らく、さまぁ…」
「ん〜…?」
「つ、つぎ、は…わた、く、しが…」
呟きながら、ズボンのベルトを外す。
トランクスと一緒に脱がせると、既に硬くなって屹立するペニスが露わになった。
「ふわっ…お、おっきぃ…」
少しビックリしたが、見よう見まねで両手を添える。
先端を口に含み舐め回しながら、胴体を握りしごく。
たどたどしい動きだが、楽を翻弄するには十分だった。
「う゛ぁっ…うぐっ…」
「はむっ…んくぅ」
万里花が口と手を動かす度に、楽の体がビクッと震える。
カリの部分が少しずつ濡れてきた。
丁寧に舐めとっていくと、陰茎が膨らみ始める。
少し苦しそうに身悶え、息づかいが荒くなってきた。
楽の反応を楽しむように刺激を与え続けると突然、ドクッと爆ぜた。
「んぐっ!?げほっ!」
喉の奥まで熱いモノが飛び出し、思わず顔を離す。
その拍子に、白い粘々した液体が万里花の鼻や頬に掛かった。
「きゃあっ!?」
一瞬何がなんだか分からなかったが、直ぐに精液であると理解する。
「わっ!まだ…あむぅ」
まだ溢れてくるのを確認すると、万里花はまた咥えた。
「あ゛ぁっ!はぅっ、ぐっ…」
楽の体がビクビクと痙攣し、万里花の口内を白濁液が蹂躙し続ける。
「んぐっ、んむっ、んんっ」
一生懸命吸い続ける万里花の口が、彼の精を根こそぎ奪おうとする。
負けじと、楽が万里花の陰核に吸い付いた。
「んぐぅっ!んっ、んふっ」
また快楽が万里花を襲ってくる。意識を保つため、必死に楽の肉棒をしゃぶる。
楽の舌が汁を掻き出し、万里花の口が溢れる欲望を飲み込む。
やがて二人はまたイッた。
暫し息を整える。
そして、時が来たように楽が口を開いた。
「マリぃ…もっかい…なめれ」
「ん…はい」
顔を赤らめながらも従う。この後の展開を想像したらしい。
もう一度口と手を使い、丁寧にマッサージをすると、直ぐに硬くなった。
「うぁ…んしょ」
楽が体をずらし、万里花の後ろに膝立ちになる。
「あ〜…あちぃや…」
上半身の服も脱ぎ、ベッドの脇に放り投げた。
万里花の腰を両手で掴み、引き寄せる。
「あっ、はんっ」
先端が陰核に当たり、万里花の体が震える。つい、熱い吐息が漏れた。
穴を探すようにカリが蠢く。まるで焦らしているようだ。
「んっ、はあぁ…ら、らく、さ…まぁ…」
懇願するような切羽詰まった声が、楽の腰を動かした。ジュプッと先端が潜り込む。
「あっ!んはああっ…」
その感覚に、万里花の顎が反りかえり、口が大きく開いた。
ゆっくりと襞を掻き分け、奥へと入り込む。
少し入った所で動きが止まり、入り口まで戻っていく。
ゆっくりと抽挿を繰り返し、内部の粘膜と陰茎を馴染ませる。
その度に万里花の口から喘ぎが漏れた。
目は蕩け、口をパックリと開け、表情は既に女を通り越し、牝になっていた。
十分に馴染んだ所で、楽が一気に腰を突き入れた。
「ひあっ!?」
ズン、という衝撃が万里花の脳天まで突き抜け、破瓜の痛みが襲いかかる。
「はがっ、あうっ、あぁ…」
思わず涙が出た。だが、処女を楽に捧げたと言う事実が、少しずつ彼女の痛みを和らげていく。
楽の手が腰から前の方に移動した。
覆いかぶさるように体を密着させ、胸を揉む。背中越しに声を掛け、振り向いた所でキスをする。
徐々に痛みが薄れ、代わりに快楽がやってきた。
肉棒がゆっくりと、だが確実に襞を押し分け、蹂躙していく。
「んぁ…はいっら…」
最奥まで達したらしい。二人の腰がぴったりくっついた。
再び体を離し、腰を持つと、少しずつ往復運動を始めた。
結合部から赤い粘液が滴り落ちる。だが、ちょっとずつ色が薄れてきたようだ。
子宮が解れ、筋肉が蠢き始めた。ペニスに襞が絡みつく。
まだ多少痛みは有るようだが、それ以上に快感の波が押し寄せている。
万里花は眉を顰め、目を潤ませ、呆けたように口を開けている。
楽の動きが段々速くなってきた。
「あっ、あんっ、んあっ、はあっ」
波の様に繰り返しやってくる感覚に、腕の力が抜け、万里花の上体がベッドに沈んだ。
涎が垂れ、シーツに染みを作るが、気付いていないようだ。
二人の腰がぶつかる音が寝室に反響する。
万里花の喘ぎ声と楽の荒い息づかいが、恥も外聞も無く垂れ流される。
そこにベッドの軋みも加わっているが、聞く者は誰も居ない。
その内、楽の陰茎に、射精感が競り上がってきた。
「ま、りぃ、ぐあっ、あぅっ」
「あんっ、はぁっ、ら、らく、さま、あふっ、あんっ」
突かれながら名前を呼び、応えると、ドクッと何かが爆ぜたように感じた。
「あっ!あつっ、いぃ、あんっ、あはあああっ」
ドクドクと熱い液体が流し込まれる。
それでも楽の腰は止まらない。襞の隙間まで行き渡らせるように押し込む。
結合部から漏れるカクテルが、少しずつピンク色になり、泡立った白に変化して来た。
万里花は牝の喜びに身を任せ、楽と一緒に腰を振る。
二人の声、結合部から漏れる音、ベッドの軋みが淫猥なハーモニーを奏でる。
襞が絡み付き、内壁が波打ち、種を搾り取って行く。
やがて、子宮筋がキュッと縮み、楽が入り口から最奥まで、一気にペニスを突き入れた。
「あんっ!はああああっ!」
「あ゛ぁっ!うあっ、ああぅ…」
二人とも絶頂に達し、果てる。
万里花の体が痙攣し、プルプルと震えている。
楽の体もぶるっぶるっと脈打ち、最後の精を送り出している。
全てを放出すると、腰を離していく。
膣から混合液が流れ出し、滴り落ちる。
ペニスを出し切ると、残滓が一瞬糸を引き、二人を繋げて切れた。
楽も力尽きたらしい。万里花の横に倒れる。
「はあ…はあ…らく…さ、まぁ…」
「うあ…ま、りぃ…」
向かい合わせに寝ると、そのまま抱き合って目を瞑った…。
1時間後―。
服を着た楽は、ソファで打ちひしがれている。
「俺…何してんだ」
「何って…結ばれましたのよ」
着替えた万里花が上機嫌で楽の腕に絡む。
「あ、あの、たちb」
「楽さま、名前で呼んで頂けますか?」
微笑みつつ、強い口調で釘を刺した。
「うっ…ま、マリー…」
「はい♪」
仕方なく、昔呼んでいたあだ名で呼ぶ事にした。
「あの…皆には…内緒、に…」
「まあ、いずれは分かる事ですのに…まあ楽さまがそう仰るなら構いませんが」
ふふっと笑ってまた顔を楽の肩に擦りつける。
「その代り、一つお願いが御座いますわ」
「えっ?」
万里花の目が妖しく光った。
「これからは、何処でも名前で呼んで下さいな」
「…外でも?」
「はい♪」
「がっk」
「はい♪」
楽の言葉を遮って勢い良く返事をする。
まあ、その程度なら構わないか。
「ああ…まあ、それぐらいならいいけど」
「本当ですか♪」
今までに無いくらい上機嫌になったらしい。
しかし、小咲と言い、自分は本当に何してるんだ。
(俺、酒嫌い…)
額に手を当てて首を振る。が、そこに万里花が追い打ちを掛けた。
「あ、楽さま、今思い出した事が…」
壁に掛かったカレンダーを見て、楽の方を向いた。
「え、何?」
何となく嫌な予感がする。万里花が不気味に笑んでいた。
「そう言えば今日は…」
一旦言葉を切って、振り返った楽と目線を合わせる。
真っ直ぐな視線に、楽は一瞬吸い込まれそうな感覚に陥った。
―危険日でしたわ―
瞬間、楽の頭が真っ白になり、混乱した。
「えっ…ちょっ…な、えっ?」
「来年には産まれるかも知れませんわね、きゃっ♪」
万里花は、顔に手を当ててくねくねと恥ずかしがる。
まだ決まった訳では無いが―楽の顔が青ざめた―。
同時刻―
警視庁の執務室で、警視総監が電話を受けていた。
「分かった…ご苦労」
携帯を切ると、目がキラリと光った。
視線を画面に移す。娘と楽が腕を組んで歩いている画像が映し出されている。
望遠で撮ったものらしい。
射抜くような目を少年に投げかけ―ふっと微笑んだ…。
〜fin〜