一大ギャング組織ビーハイブの構成員は多忙を極める。
下っ端ならいざ知らず、幹部級ともなれば末端の人間達を管理し、
形ばかりの共生関係にある対立組織との渉外や取引、
その他少年誌ではとても書けないような後ろ暗い仕事を多々抱え、
時によってはボス自身より忙しい思いをする日もある。
そのせいだ……とクロードは思った。
彼自身は組織に忠誠を誓っているし、ボスに文句を言うつもりさえ無い。
しかし自分自身が忙し過ぎたせいで、ここ最近は標的を監視する暇が無く、
最も信頼している部下に監視業務を代行させるしか無かった。
その為に鶫を抜擢した自分の人選に誤りがあった――と言えば、
今度は鶫を貶す事にもなるから、クロードは決してそうは考えないが、
自分自身がターゲットを見張る事が出来ていたなら、
もうとっくに全ての真相を暴く事が出来ていたのではないかと
内心思うところが無いでもなかった。
「お早うハニィィィィィィィっ! 今日も美しいぜぇぇぇぇっ!」
「グッモーニンダァリーン! 恥ずかしいから人前で褒めないでよぉん」
忌々しい。
クロードにとっては鼻持ちならない事だ。
せっかく久し振りに予定が空いたから、直接自分が赴いてみればこの様。
ターゲット・一条楽は未だに尻尾を掴ませておらず、
相変わらずビーハイブの至宝である千棘をハニー呼ばわりしている。
心なしか、自分が現れるまで楽も千棘もツンケンしていた風に見えたが、
これこそ楽が千棘を脅迫、或いは他の手段でか、
無理矢理従わせている事の状況証拠になるのではないのか。
「ごめんねぇクロード。私達これから学校だから、また今度ね」
千棘にそう言われたところで、クロードは監視をやめるつもりは無い。
が、どの道今日は午前中の僅かな時間しか自由が無く、
午後になる前に飛行機で成田まで飛ばなければならない。
「おいコラ一条楽ぅ……貴様お嬢に対して馴れ馴れし過ぎるんじゃないのか?」
「しっ、仕方ねぇだろ! 俺ら付き合ってんだし!」
「そうよクロード! 私達ラブラブなんだから、当たり前でしょ!?」
妙に楽も千棘も焦っているように見えるのはどういう事か。
しかし朝っぱらから高校の通学路に上下白の背広を着て立っている男は、
傍目から見て死ぬ程怪しい人物に見えるらしく、通行人の視線が痛い。
しかも高校生に絡んでいるようにすら見えるとの事で、
通りがかりの主婦がもう少しで110番してしまいそうだ。
何もやましい事は無いのだが、ギャング組織の構成員が、
こんなつまらない理由で警察に連行されては、組織の恥だ。
それに、背広の内側に仕込んでいる拳銃とホルスターの言い訳もつかない。
「お早う御座います楽様ぁん! そちらの紳士はご友人ですか?」
ふざけるな、誰が一条楽の友人だ。クロードはついそう言いそうになった。
が、すぐに思い出す。この女の顔は資料で見た事がある。
確か警視総監、橘の娘だ。
直接の面識は無いが、警察幹部の家族構成を調べておく事は、
今後この国で活動していく中で有用になるかも知れないので、
部下に命じて一通り調べさせた事がある。
確か、姿を隠しているだけで、常に護衛の警官が数名従っている筈だ。
いきなり逮捕される事は無いと思うが、万一職質でもされたら厄介だ。
やはり校門前からすぐに立ち去ろうか、とクロードは考えた。
「あ、おはようございます」
「誠士郎か。お前も今から登校か」
今日の所は大人しく引き下がろうかと考えかけていたクロードは、
ターゲットを監視させる為に放った部下にばったり出くわした。
「警視総監の実子のSPが張り込んでいる気配がある。
私はこれで失礼するが、くれぐれも一条楽への監視は怠るなよ?」
「無論であります。しかし奴めは中々ボロを出さないもので……」
「手段は問わん。一刻も早くお嬢を奴の魔の手から救い出すんだ」
言った後で、クロードは気付いた。
そうだ、そうではないか。
よく考えたら、一条楽の尻尾を掴む事が目的ではないのだ。
敬愛すべきお嬢があんなモヤシと本当に付き合ってるわけがない、とは思うが
仮に本当に二人が愛し合っていたとしても、自分には関係無いのだ。
ただ単純に個人的に一条楽が気に入らない、だからこそ千棘から引き離したい。
尻尾を掴む必要は無い。ボロを出させる必要も無い。
「尻尾を掴む」のではなく「魔の手から救い出す」のが目的なのだから。
自分からボロを「作って」やれば良いじゃないか、と。
「楽様ー! 今度の日曜日に私とデートしましょう!」
校門を潜って校舎へと向かう橘が、先を歩いていた楽に言う。
「ばっ、何言ってんだ橘! 俺にはハニーっつう大事な彼女がだなぁ」
「そうよそうよ! てかアンタも何鼻の下伸ばしてんのよ!」
別に鼻の下なんかクロードから見ても伸びてなさそうだったが、
千棘はどういうワケか楽をブン殴っている。
少し溜飲が下がる心地だが、それよりも注目すべきやり取りが、
今の楽、千棘、橘の会話の中にはあった事を、彼は認めた。
「待て、誠士郎。あの警視総監の娘、一条楽の何なんだ?」
「さぁ……。旧知の間柄だそうですが、彼女の片想いのようですよ」
良い事を聞いた。
奇しくも、楽が千棘の事を「ハニー」と呼んでいる事もヒントになった。
「誠士郎。お前、一条楽にハニートラップを仕掛けろ」
ハニートラップ。
平たく言えば、女を使ってターゲットの男を籠絡する事。
それにより必要な情報を引き出すとか、隙を引き出して暗殺するとか、
マフィアの世界では当たり前に行われている荒事だ。
「はひっ!? ハッ、ハニートラップ、ですか!」
「そうだ。一条楽がボロを出すのを待つ必要など無い。
こちらから手籠めにしてやれば良いのだ。我々にとっても一石二鳥だ。
何しろ――」
そこから先の言葉を、鶫は聞いていなかった。
クロードが「あの橘と言う娘を利用してやれ」とか
「そうすれば警視総監の弱みも握れる」とかいろいろ言っているのだが、
今までクロードに女扱いされた事の無かった鶫は、
彼の突然の提案に度肝を抜かされ、赤面する事に忙しかった。
(いつの間にかこの人、私を女だと気付いてくれていたのか……?)
(今まで様々な仕事をこなしてきた私だが、とうとうこの日が来たのか)
(ハニートラップを実行する日が……!)
一応女なのだから、体を使って男をオトす事に抵抗もあったが、
標的が楽だという点で、何故か鶫はホッとしていた。
他の男性ターゲット相手でなくて、本当に良かったと。
この淫靡な仕事の初めての相手が、彼で良かった――と。
「分かりました! 経験は無いですが、全力で事に当たります!」
「うむ、頑張ってくれ。必ずやあの橘の娘を忠実な手駒にするのだぞ」
「……は、え? 橘万里花をですか?」
うっかり話を聞き洩らしていたらしい事に気付いた鶫は、
すぐさまクロードに話を聞き直そうとしたが、遅かった。
クロードは余程面倒事が嫌なようで、警察連中が物陰からにじり寄る前に
足早に学校の前を立ち去って行ってしまった。
「うーん……。よく分からないが、
彼女と手を組んで一条楽を落とせば良いのか?」
経験の無い自分の事を慮って、クロードは二人組で行動するよう、
自分に指示してくれたのだろう、と鶫は解釈してしまった。
そう思い込んでからの鶫の行動は早かった。
「橘様。ちょっとお話が……」
作戦を持ちかけられてからの、橘の返答も早かった。
「妙案でございますわね、それは」
昼休み。
人気の無い校舎裏に呼び出された橘は、鶫からのハニートラップの申し出を、
二つ返事であっさり了承してしまった。
鶫の真意がどうのこうのと言った事は、橘には興味が無い。
詮索しようとも思わない。
ただ、自ら楽を籠絡する事で、あのゴリラ女から楽を引き剥がせれば、と思っただけだ。
その為にヴァージンを喪失する事など、犠牲とすら呼べない。
どの道いつかは楽に捧げるつもりで大事に維持してきたものなのだから。
こうも話がトントン拍子で進んでしまえば、後の準備は簡単だ。
鶫からしてみれば、組織の人間に電話して睡眠薬をこっそり調達し、
それを楽の飲み物に混入する事だって造作も無い。
午後の体育の授業前、昼休みの時間にクラスの生徒達が更衣室で着替えを済ませ、
まだ少し授業開始まで時間があるからと自販機にジュースを買いに行った楽を尾行し、
そこでさも偶然会ったように装って話しかけるのに、然程の労力は必要無い。
楽がペットボトルの蓋を開けながら世間話に付き合っている時に、
頃合いを見計らって「あーっ!」と明後日の方向を指差すという、
古典的な手を用いれば、楽の視線を外してジュースに薬を入れるのも簡単だった。
「う……ん……あれ? 何か眠く……なってき……」
「まぁ、それはいけませんわ楽様! お体がすぐれないのでは!?」
白々しい橘の演技も手伝って、鶫と橘が楽を保健室に連れて行く事を、
疑問の目で以て見る者は一人も居なかった。千棘や小咲でさえ。
「……えっと? これどーゆー状況的なアレだ?」
保健室のベッドの上で目を覚ました楽は、まず最初に、
自分の手足がベッドの縁の柵に紐で結び付けられている事に気付いた。
続いて横に視線を移すと、顔を真っ赤にした鶫と、満面の笑みの橘。
養護教諭の姿が見当たらないが、今はその事を気にしていられない。
何と言っても、鶫と橘と言う、二大危険人物がこの場に揃っていて、
そのくせ他の人間は誰も居らず、そして自分は身動きを封じられているのだから。
「フッフッフ……覚悟しろよ、一条楽」
鶫は、もういろいろと残念だった。
ハニートラップと言うものは、ターゲットに気付かれたらお終いなのだ。
普通はこんな風に、さも今から悪い事をしますよと宣言するようなものではない。
目的を忘れてしまっているのか、それとも経験値の無さ故に
本気で「ハニートラップ」のやり方を理解していなかったのかは、
本人に聞いてみなければ分からないところではある。
「うふふ。お覚悟なさいませ、楽様」
橘は、もういろいろと危険だった。
鶫の考えるハニートラップがどういうものであるかは抜きにして、
彼女の方はちゃんと自分なりの目的意識を保っている。
橘からしてみれば、楽と既成事実を作れてしまえばそれで良いのである。
後はなし崩しで楽と千棘が別れれば十分だった。
ここで、鶫の服装選別基準を振り返る必要がある。
彼女が普段から男子の制服を着ている理由は二つ。
「武器を隠し易いから」と「女子の服はヒラヒラしてて動きにくいから」である。
体育の授業の直前だったから体操服に着替えるのは当然として、
夏用の半袖半ズボンは、もう武器を隠す事については諦めなければならない。
すると後者の「ヒラヒラしてない服が良い」という条件だけが残るわけだが、
普段から学校指定外の制服を着用している彼女が、
動き易さだけを念頭に入れて、わざわざブルマを選ぶのは自明の理だったのだ。
自ら率先して女性用の服を着る事は、鶫にとって滅多に無い事ではあった。
「待てオイこらちょっと鶫!」
「かっ、かかっ、観念しろ一条楽……!」
何が観念しろ、だ。観念するのは自分の方じゃないか、と鶫は内心毒づいた。
ハニートラップどころか、男と肌を合せる事自体が初めてだ。
体育の授業前に抜け出して来たブルマ姿の鶫は、
とりあえず楽の服を全て脱がせた上でベッドに括りつけるまでは頑張ったが、
そこから先、自分が何をすれば良いか見当もついていなかった。
一方橘はと言うと、最初から体操服など着ていない。
体が弱いからか、体育は見学するつもりだったようだ。
いつも通り、そもそも制服すら着ず、私服のワンピースを身に纏っている。
「まずは楽様自身を元気にして差し上げねばなりませんわねぇ」
俺自身って何の事だ?
と楽が問い返すまでもなく、その言葉の意味は明白だった。
いわゆる「男性自身」というやつだ。
今目が覚めたばかりの楽は半分朝立ちに近い状態だったが、
見た目からしてまだフニャフニャしているのは橘にも分かった。
橘は思い切って、自分のスカートの中に両手を差し入れた。
「何やってんだお前!?」
「いやですわ、楽様ったら。昔のようにマリーと呼んで下さい」
橘は器用にスカートの裾で大事な部分を隠したまま、パンティだけを脱ぎ始めた。
細い指に摘ままれた薄布が、白い太腿の上をゆっくりと滑って行く。
こうなってしまえば、男として無反応ではいられない。
本能が「あのスカートの向こう側を見たい」とせっつき、下半身に血が充填される。
「あ、あの、橘様……。私の方から誘っておいて何なんですが、その……」
こういう時、どうすれば良いんでしょうか?
と、鶫は耳まで真っ赤にしながら、束の間の相棒に問いかけた。
「私もその方面にはかなり疎いので、何とも言えませんが。
とりあえず、鶫さんはパイズリなどしてみては如何でしょう?」
「ぱいずり? 何ですか、それって」
やめろ、聞くな鶫! そんな楽の叫びはあっさり無視された。
「私はいつか楽様とこういう時を迎える為に、こっそり勉強してましたの。
鶫さんはEカップでしたわよね? そのおっぱいで、楽様のココを――」
「……は、ひぇっ!? しょっ、そんな事をするのですかっ!?」
「もしくはクンニなどして頂くのも良いと思いますが」
「くんに? それは何ですか」
だから聞くなって鶫! またしても楽の悲鳴が無視される。
「クンニと言うのは、こうするのですよ」
無類の積極性を誇る橘万里花は、ノーパンのままでベッドに上がり込んだ。
クンニの意味を分かっている分、楽としてはかなり複雑な精神状態に追いやられる。
橘のスカートの中身を拝めるという雄としての本能的な期待と、
小野寺に対する自分の気持ちを裏切りたくないという抵抗。
そもそも橘はスカートを穿いたままだからどうせ暗くて見えないだろうとも思うが、
それが残念なようでもあり、安堵するようでもあり、頭の中で天使と悪魔が口論する。
だが、スカートによって照明が遮られようが何だろうが、
顔面騎乗で鼻先に跨られるという事実は何ら変わりない。
見える見えないの問題ではなく、触れる事自体はどう足掻いても変わらない。
そして鶫の方から見ても、スカートのお陰で詳細が見えなかろうが何だろうが、
こういうのをクンニと言うんだな、という事だけは九割方分かってしまう。
「こら止めろ橘!」
「楽様。そんな他人行儀な呼び方は止めて下さいませ」
「分かった! 分かったから、マリー! 兎に角止めろってば!」
「アんっ」
楽の懇願虚しく、橘は遠慮無く彼の唇の上に、自分の下半身を思い切り乗せた。
「こっ、こんな汚らわしい事をするなんて……!」
「あら、鶫さんったら。愛する男性の為ならこのぐらい何程の事はありませんわ。
それとも鶫さんの楽様に対する愛情はその程度でらしたの?
それでは楽様を振り向かせる事など出来ませんわよ」
「べ、別に私は一条楽を愛してなどいないっ!」
「……それならそれで構いませんわ。あなたが一生指を咥えて見るだけの女であっても。
その分私なり、他の女性の方々なりが有利になるだけですものね」
そんな女同士の会話、駆け引きは、楽には全く聞こえていなかった。
別に耳を塞がれたわけではないから聞こうと思えば聞けるのだが、
楽は橘の陰唇に口を塞がれたまま必死で「モガーっ!」等と呻いているだけで、
生憎と周りの声や言葉を聞いている余裕は無かった。
しかしそれはそれとして、鶫の方はどうしても触発される部分があった。
このハニートラップが成功すれば、クロードからの依頼が完遂出来る上に、
千棘は楽と別れるわ、自分は楽と愛し合えるようになるわで、損は一つも無い。
主である千棘との関係が壊れるかも知れないと言う危機感は、
目の前で他の女に楽を奪われる事と天秤にかければ、軽過ぎるものだった。
「……あぁ、もうっ! 言っておきますが、任務の為ですからね!?
決して私が一条楽をあ、あ、愛してるとかそういう話じゃないですからっ!」
「ふふっ。存分に張り合って下さいまし。
十年に及ぶ私の愛に、あなたが勝てる自信があるのであれば」
挑発に乗せられ、鶫は楽へのパイズリを開始してしまった。
ベッドの上で身動きを奪われ、楽は口と鼻をノーパンワンピの橘に、
股間の大砲を体操服たくし上げの鶫に、それぞれ攻められる形となった。
「あぁんっ……ヤダっ……激しいですわ、楽様ぁン……」
別に楽は何もしていない。
必死で逃れようと、首を左右に振ったり、いろいろ抵抗を試みているだけだ。
だから橘としても正直快感らしい快感は何も無かったのだが、
その言葉が鶫を追い詰める為の作戦であるなどと、鶫に分かろう筈も無い。
そして鶫からしてみれば、スカートのせいでクンニの様子がよく分からない。
橘が何をされているのか、楽が何をしているのかなど、読み取れない。
ただ、スカートの向こう側で何が起こっているか分からないからこそ、
鶫はまんまと策略にはまり、焦燥を感じてしまった。
「くっ! 負けてられんっ!」
大丈夫だ、このぐらい何でもない。
鶫は必死で自分にそう言い聞かせた。
風呂上がりのクロードが平然とフルチンで自宅内を歩き回るせいで、
男性器なら幼い頃から見慣れてきている。
直接触れるのはいくら何でも初体験だが、このぐらいの事が出来なくては
愛すべきお嬢を守る事も、ビーハイブの尖兵として働く事もままならない。
鶫にとって幸いだったのは、楽が仮性包茎だった事だ。
勃起前は皮がカリ首の半分くらいを覆っていたのに、
それは勃起と同時に完全にズル剥けになっていた。
つまり、「この部分の皮はどうやら前後するらしい」という事だけは、
何とか鶫にも分かったのだ。
だからこそ「とりあえず皮を前後移動させてみようか」という発想も生まれた。
楽が非勃起状態からズル剥けだったら、この事に全く気付けないまま、
パイズリと言っても結局乳房で挟んだ後一体何をどうすれば良いか、
鶫は誰かに聞くまで一生分からないままだっただろう。
そんなわけで、偶然にも鶫は、予備知識ゼロのままパイズリを成し得てしまった。
千棘や小咲があれ程羨んだ巨乳で楽のモノを左右から挟み込み、
その乳房もまた自分の手で両側から抑えつけ、楽の皮を上下動させるつもりで、
何が何やらよく分からないまま必死で乳房を上下に振る。
「こんなものが果たして気持ち良いのか?」
「私にはよく分かりませんが、殿方にとっては喜ばしいものだそうですよ」
この体勢のせいで間近にそびえ立つ形になった楽のモノから漂う匂い。
先端に滲み出した汁の正体も判然としないまま、鶫は頑張って乳を揺らし続けた。
視界を橘の尻とスカートで塞がれている楽からしてみれば、
直前に「パイズリ」という単語を聞いていなければ、
今自分が鶫に何をされているかなど、予想も立てられなかった。
言うまでもないが、彼にだってそんな経験は皆無なのだ。
だがそれより彼にとって急迫の問題だったのは、呼吸だ。
恐らくわざとなのだろうが、橘は楽が舌など突き出そうとしないどころか、
プライドの為に口すら出来るだけ閉じたままにしようとしている事を見抜いていた。
それを分かった上で、敢えて全体重をかけてのしかかっているので、
楽としては隙間を塞がれているようなものであり、酸素を取り込むのが難しい。
やがて彼は根負けし、口を大きく開けて空気を求めてしまった。
「ぷはっ!」
それはつまり、橘のマンコに密着した状態で、唇を動かした格好になる。
本格的なクンニには程遠いとは言っても、楽にしてみれば敗北を味わった形であり、
橘としては楽から一本取った形でもあった。
「はァンっ! 楽様、激しいですわぁ……」
何も激しい事などしていないのに、そんな台詞を聞かされては、楽も鶫も焦る。
併せて、橘は自ら腰を前後左右にグラインドさせ始めた。
楽が舐めてくれないなら舐めてくれないで、いっそ構わない。
彼のこうした、絶対に流されまいとする頑固さ。
一線を何としても超えまいとする誠実さもまた、橘が楽に惚れ直した部分なのだから。
楽が舌を突き出してくれないのなら、他の部位で代用すれば良い。
顔面から突き出している部分なら、唇のすぐ上に、鼻という器官があるのだから。
「あっあ! 凄っ、これ……! 楽様が侵入してきますわっ……!」
楽が侵入していると言うより、橘の方が無理矢理彼の鼻を
膣の中にねじ込もうとしているだけなのだが、本人にとってはどちらでも良いようだ。
今日すぐに楽を落とせる筈が無いと割り切っている分、
成果を急ぎ過ぎている鶫に比べれば、橘は余裕を保っていた。
こんな簡単になびいてしまう男なら、自分は最初から惚れてなどいないのだから。
「おのれ一条楽っ! お嬢以外の女にそこまで……っ!」
この期に及んでもまだ、鶫は千棘を言い訳に使ってしまっていた。
自分の欲求の為でなく、あくまで千棘の為、組織の為という体裁を張りたがる。
どうすればクンニに勝てるだろうかと考えあぐねた挙句、
彼女が選んだ手段は、またしても偶然最適かつ最上の行為だった。
「うっ、うおぉぉぉッ!? コラ鶫っ! お前今何やってんだぁっ!?」
突如として生暖かい柔らかな感触が先端を包み込んだ事に、楽の心臓は跳ねた。
鶫は橘の言った「楽が侵入してくる」という言葉をヒントに、
自力でフェラという発想、行為に辿り着いていた。
目の前にある楽のムスコを手っ取り早く自分の体内に侵入させる方法と言えば、
確かにこれしか無いだろうな、と橘も納得する。
自分だったらここですぐさま挿入するのに、惜しい人ですわ……と橘は呟いた。
ともあれ、その橘が楽の顔面に跨っているのは都合が良い。
「橘様。しばし一条楽の口を下半身で塞いでいて頂けますか」
「ハイ、喜んでー!」
安い居酒屋のスタッフが注文を受け付けた時のような
わざとらしいイントネーションで、橘は笑顔でそう言った。
実際、彼女は本気で喜んでいるのだろう。楽からしてみれば、そのテンションが怖い。
「うむっ! んぶっ、ぶふっ!」
それまで必死で息をしながら抵抗の言葉を叫ぼうとしていた楽が、こうして再び、
保健室の外を偶然歩いているかも知れない人間に助けを呼ぶ機会を剥奪された。
鶫はここぞとばかりに、乳房の動きを一時中断、自分の首を上下させ始める。
こうすると相手が気持ち良いから、と知っていてやっているのではない。
単に、より深く楽に、自分の中に「侵入」して欲しかっただけだ。
ただ咥えこむより、何度も口の中を行ったり来たりして貰う方が、
彼女自身にとって悦ばしかっただけだ。
「ふぶっ、んんうっ、ふぅほっ、んほっ、んぐうっ」
自ら舌を使う事すら知らず、当然舐めるなど考え付きもしない鶫のフェラは、
ただ単純に楽のモノを咥え、首を動かしているだけに過ぎなかった。
テクニックも何も無いが、フェラのみに注力するようになった分、
パイズリは一時凍結されていたので、同時進行しようとする事に比べれば、
随分根元まで飲み込めるようにはなっていた。
ただ、鶫自身息が苦しく、可愛い顔が台無しになるくらい鼻息を荒くしていたが。
しばらくフェラを続けていると、鶫は自分の股間に違和感を覚え始めた。
慌てて楽から口を離し、真っ青になりながらブルマを引っ張って中を確認する。
「は? え? あれ?」
まさか、この年になってこんな……と血の気が引き始めた鶫を見て、
橘は逆に、鶫の身に何が起こったかを十全に理解していた。
「それ、お漏らしじゃありませんわよ?」
「何っ!?」
「鶫さんって、オナニーもした事無いんですのね」
「おなにぃ?」
「まぁ細かい部分は省きますけど、それは愛液と言いまして。
女性が気持ち良くなった時に分泌されるお汁ですわ」
「なっ! わっ、私は気持ち良くなってなんか……っ」
「と言うより、トキめいただけでもそこが濡れる人は居るそうですよ。
うちの本田なんか、キスしただけで濡れると言ってましたし」
「そんな……わたっ、私が……トキめいていただと……!?」
ミイラ取りがミイラになってしまった事を、鶫は自覚した。
「恥ずかしい事ではありませんわ。私も先程からビショ濡れですし」
何さらっと暴露しているんだこの人は、という当然のツッコミなど、
今の鶫には繰り出している余裕など無い。
兎に角濡れたままでは困るので、慌てて辺りを見渡し、ティッシュを探す。
出来れば替えの下着も欲しいところだった。保健室ならそのぐらいあるだろう。
が、それを橘の一声が制した。
「鶫さんはもう、楽様のモノを入れる準備が万端ですのね。うふふ」
「一条楽のモノを……入れる、だと……?」
何を、どこに。そんな事は、聞かなくとも本能で分かってしまう。
ソレを、ココに、だ。明白過ぎる事だった。
そして、楽への思慕を前々から自覚しつつあった鶫にとって、
中学の頃に保健体育で習った事を実践する下地は、心身ともに整っていた。
彼女はブルマとパンティを、穿いたままで横にズラし、楽の上に跨り始めた。
「モガーッ! フガホガっ!」
相変わらず口と声を塞がれたままの楽の股間のマグナム弾が、
鶫の弾倉に押し込まれて行く。
これから先、リボルバーに弾を込める度に、
自分は今日の事を思い出すのだろう、と彼女は妙な連想をした。
「ふぐっ……! んんっ……!」
初体験から騎乗位と言うのはかなり度胸のある行為だと、鶫はまだ知らない。
もっとも、楽が身動きが取れない以上、そして仮に身動きが取れたとしても
楽が素直に小咲以外の女と交わろうとするわけが無い以上、
騎乗位以外で楽を受け止める事は、鶫にも橘にも出来る筈は無いのだが。
不可抗力で硬くなっていた楽の先端が、次々と鶫の襞を掻き分けていく。
処女膜のところで鶫は一旦腰を停止させ、両脚の力で踏ん張った。
「はっ、くっ……こんなの……無理ィっ……」
「ファイトですわ、鶫さん」
突如、橘が顔面騎乗のまま上半身を少し前に倒し、鶫の腰に両手を伸ばす。
ズンっ、という効果音を伴ったかのような衝撃と激痛が、鶫を襲った。
「イギィッ!?」
橘の両手に上から抑えつけられて、鶫は無理矢理膜を破られた。
鶫としては、ナイフで内臓を抉られたらこんな感じだろうか、と思う程の痛みだ。
実際刃物で切り裂かれたかのごとく、自分の中から血が滲み出しているのを、
彼女は目一杯涙を溜めた双眸で見下した。
「た、橘様っ……! 何と言う事を……!」
「あら、後押しして差し上げただけですわ。ここで頑張らないと、ね?」
大嘘だ。
橘と共同戦線を張るつもりだった鶫と違い、橘はもっと打算的だ。
ここで鶫に、性に対する痛みと抵抗を植え付ければ、勝手に候補者が一人脱落する。
千棘と小咲は鶫の百倍くらい本気で楽を愛していそうだから、
同じで手でこの二人を楽から遠ざける事は出来まいが、鶫なら十分可能だ。
脱落者は多いに越した事は無い。
「こっ、こんな痛い真似……! もぅ、無理ですっ……!」
そう、それで良いんですよ。とっととフェードアウトして下さい。
橘は満面の笑みの裏にそんな本音を隠し「頑張って鶫さん!」などと
白々しい事を言ってのけた。
が、ここで橘には、大きな誤算があった。
千棘は、楽が他の女と接している時に嫉妬を感じこそすれ、
千棘自身はその嫉妬の正体に気付いていない。
自分が楽を好いているなど、まだ千棘は自覚もしていない状態だ。
それに比べると鶫は、自分自身を嘘発券機にかけたがるところから見ても、
千棘以上には楽への好意を自覚している部類に入る。
恋愛感情には本来上下の区別など無いし、自覚があろうが無かろうが、
それを以てどちらが本気で楽を好いているかという判断材料にはならないのだが、
少なくとも鶫のラブが千棘のラブより遥かに下、という話には絶対ならないのだ。
もしも鶫が自分で嘘発見器を試している場面を、橘が目撃していたとしたら
――つまり鶫が自分の恋愛感情を自覚しているらしき場面を目撃していたら――
橘もこんな作戦が鶫に通用する筈が無いと分かっていただろう。
即ち、鶫は「もう無理」などと言っておきながら、ちゃっかり腰を振り始めたのだ。
「は、あっ! んくぅっ! はっ、ひっ……おぉっ……奥ぅっ……!」
「……これは計算外でしたわね。まさか鶫さんがここで本気を出せるとは」
橘の頬に、冷や汗らしき物が一滴垂れた。
本当なら他の女が楽のモノを挿入されるだけでも我慢ならないのに、
ここで鶫が脱落してくれるなら、と思ったからこそ挿入だけはさせてやったのだ。
ピストン運動までされるなど、橘からしてみれば本末転倒も良い所だ。
「ハァアッ! これ、腰ぃっ……止まら……なっ……!」
「ズルイ……こぎゃん筈やなかったのに……」
本音と本性が剥き出しになりかけた橘の口から、ついそんな言葉が漏れる。
>>722の博多弁コンバータ大活躍である。>>722さん有難う、と筆者は呟いた。
鶫のEカップは腰の上下動と同時にタプタプと揺れ、
乳首ははち切れんばかりに固く尖っている。
もっとも、その様子すら楽からは全く見えないのが少し勿体ない。
鶫の尻肉が楽の腰の上で何度も跳ね、泡立つ愛液に血が入り混じる。
女子にしては高身長な割に、鶫の中は狭く、短い。
仮に正常位であってすら、楽の先端が悠々と子宮口を叩けていただろう。
体の奥を支配されるような感覚は、喜悦となって鶫の全身を火照らせた。
汗が飛び散り、シーツの上に小雨を降らせる。
「ンンッ! ムゴっ! もほむがっ!」
楽が何か叫ぼうとしているが、もう鶫には聞こえない。
自分の事で精一杯だ。
「ヒッ! あ、やらっ! 何かクルぅっ! はぁあんんんんっ!」
最後の言葉が「来る」だったのか「狂う」だったのか、橘の方では判然としない。
しかし仮に「何か狂う」であっても全然おかしくはないな、と思える程、
鶫は一層だらしなく表情を崩して果てた。
橘にとっては、全く面白くない。
脱落させるつもりで利用した鶫が予想に反して楽の味を覚えてしまい、
しかも一度射精した楽の方は、ペニスを萎ませてしまっている。
「こぎゃんのおかしいやなかの! ウチがらっ君ば略奪する手筈やったんに!」
「……すまない、何と言ってるのかよく分からん」
一人だけすっきりした表情で、鶫は悪気なく言い放った。
パイズリの直前に外していたブラジャーをつけ直し、
楽の精液を飲み込んだままの股間に下着とブルマの布地を戻し、
幸せそうにお腹をさする鶫の表情は、橘の敗北感を存分に煽った。
「こうなりよったらウチもなりふり構ってられんけん!」
ここからは本腰を入れさせて貰う。橘はそんなニュアンスの事を九州弁で言った。
上半身を倒し、楽に強制クンニさせたままで、橘は楽のペニスに狙いを定めた。
要するにシックスナインなのだが、こうなると鶫が手持無沙汰だ。
さっさと橘がパイズリなりフェラなりに移行してくれれば席が空いたのに、
お陰で鶫は、最後の締めにと考えていた、楽とのキスさえ出来ない状態にされた。
「らっ君のここ、ドロドロばい……」
精液と愛液と破瓜の血に塗れてしおれた楽のモノを、橘は愛おしげに眺めた。
この体勢からではパイズリは難しいが、舐めるだけなら障害は無い。
令嬢の指先が楽の卑猥な物体を遠慮がちに摘む。
この精液の一滴たりとてもう他の女にはくれてやらない、とばかりに
橘は萎びたままの楽のペニスに、小さな舌を這わせる。
多分鼻水はこれに近い舌触りなのだろうな、と余計な事を考えながら。
「んれろぉ……ふじゅっ……」
鶫に聞かせるように、橘はわざとらしく音を立てた。
橘とて当然未体験だが、知識だけなら本田に教わっている。
楽と結ばれる為だと言えば、腹心は率先していろいろ教えてくれたものだ。
実技は一度も試した事は無いし、楽以外の男で試す気も当然無かったが、
どこを責めてやれば男が喜ぶかは承知している。
橘は、鶫ですら実行しなかった、尿道舐めを実践した。
「ふごっ!? ふぅおぉぉぉっ!?」
精液の出口を舌先でちろちろと舐められると、楽は思わずくぐもった声を出した。
彼の顔面は既に橘の愛液でベトベトだ。
だがそれでも、まだ楽は理性を保とうと努力していた。
一時の情欲などに突き動かされず、本当に愛する者だけを愛したがっていた。
つまり、決して橘にクンニしようとはしなかった。
どんなに彼女に睾丸をマッサージされようと、尿道を吸われようと。
「……らっ君が。らっ君が舐めてくれんかったら、疼いて仕方なかよ……」
切なそうに半泣きで訴える橘に、鶫は余計な気を回した。
そもそも鶫からしてみれば、橘の方言は殆どよく分かっていない。
プロのアサシンなら各地の訛りも習熟すべきなのだが、
最近までアメリカに居た鶫が、ただでさえ難解な
日本語の訛りを把握するには時間がかかる。
彼女は橘が策略を巡らせていた事など全く気付いていなかったし、
せっかく橘自身がうっかりネタばらししていた事にも気付けていなかった。
鶫からしてみれば、橘はただ応援してくれただけだとしか思えていない。
自分こそ楽を愛しているのに、順番を譲ってくれただけとしか考えていない。
と言うわけで、鶫は橘に対して、その返礼をしたいと律儀に考えてしまった。
止せば良いのに。
「橘様。少し腰を浮かして頂けますか?」
「……ふぁえ? 何でそぎゃん事せんといけんね?
らっ君が大声で助けば呼んでしまうやなかか」
「交換条件を提示すれば良いのです。
クンニは諦めるから、せめて助けを呼ぶなどという事は諦めて欲しいと。
おい、一条楽。貴様としても、ここで誰かに踏み入られて良いのか?」
そんな事になったら貴様も全裸姿を人に見られて恥を掻くのだと、と鶫は言いたかった。
しかし、彼女もまた楽の紳士性を読み違えていたのだが、
楽は自分の事より他人の事の方が大事な男だ。
彼は鶫の言葉を「橘に恥をかかせて良いのか」という意味で受け取ってしまった。
「んぐぐっ、んーっ! んーっ!」
「どうやら、交渉成立だな。さぁ、橘様」
「でも交換条件どころか、そしたらウチにとって旨味が無か……」
「大丈夫ですよ。橘様にとっては妥協になるでしょうが、埋め合わせは致します」
鶫がどんな埋め合わせをしてくれるつもりなのか分からないまま、
橘は言われた通りに腰を浮かせた。
やっと、楽は自由に呼吸する事が出来るようになった。
「はぁーっ! はぁーっ! はぁーっ!」
「苦しそうだな、一条楽。安心しろ。本当にもうクンニはさせんから」
そう言いながら、鶫は楽の顔と鶫の股間の間に、横から手を突っ込んだ。
「わひゃっ!? なっ、何ばしよっとね!?」
「いや何、一条楽のクンニを諦める代わりに、橘様には私の指で妥協して貰おうかと」
「そぎゃん事誰も頼んでなか!」
酸欠で意識が朦朧としていた楽は、橘を助ける為に声を上げる余力すら無く、
どちらかと言えば既に自分の為に助けを呼ぶ事すら出来なかった。
鶫は橘のワンピースのスカート部分を捲り上げ、橘の下半身を曝け出した。
密着状態でなくなった事と、明かりの下に晒された事で、
楽からは橘の膣と鶫の指が触れ合う場面が、すぐ目の前で拝める形になった。
「はぁ……はぁ……おい……つぐみ……やめた、方が……良くないか……それ……」
今までいろいろと苦労してきたのだろう鶫の指は、よく見るとささくれ立っている。
年頃の女の子としては勿体ない事だが、代わりに恐ろしく細い。
この手でよく銃が握れるなと感心する程だが、その指が今、橘の陰唇を撫でている。
オナニーを知らぬ鶫は、これが「手マン」という物だとも当然知らなかった。
ただ、楽の舌の代わりに、自分の指を使ってやっているだけだ。
これが女にとって気持ち良いのかどうかすら分かっていない。
だが、橘の反応を見れば、気持ち良いらしい事はすぐに分かった。
「あぁ、ふわ、あぁん、やっ、らめへぇ……そこ、ウチ、弱い、からっ……」
鶫を脱落させ、楽を籠絡させるつもりだった橘が、とうとう堕ちてしまった。
楽の顔の上にあった下半身を動かし、楽の首の上を跨ぎ直し、
ベッドの脇に立つ鶫の方に、尻を向けてしまう。
意図してそうしたのではなく、橘の体は勝手にそう動いていた。
「もぉ……鶫ひゃんで良いからっ……とにかく、舐めて……」
これは流石に鶫も予想外だった。
が、彼女の頭の中にあるのは相変わらず、橘に返礼する事だけだ。
「一条楽。私と一度キスしよう」
「……はぁっ!? お前何言ってんだ!」
「世の中には間接キスというものがある。私と貴様がキスした後でなら、
私が橘様にクンニというものをすれば、つまり間接クンニになるのではないか?」
そんな理屈があるかボケェッ! と楽が言う前に、橘が蕩けるような声で囁いた。
「もう、それで良いから……お願い……早くぅ……」
楽の意思などお構いなしに、鶫は楽の唇を奪った。
小咲とのファーストキスの為に大事に温存してきた楽の唇は、
小咲どころか、仮初の恋人である千棘すらも通り越して、他の女に奪われた。
辛うじて口はキツく閉じており、決してディープキスまでは許さなかったが、
それでもお構いなしに、鶫は橘の愛液に濡らされた楽の唇を軽く吸った。
「よし、準備は整った。参りますよ、橘様」
「はやくっ……早く来てぇ……」
鶫はベッド脇に両膝を突き、突き出された橘の股間に狙いをすます。
美少女の上の口が、別の美少女の下の口に触れるのを、楽は不思議な気分で眺めた。
「じゅぷっちゅ、ずちゅっ、ぢゅぅぶふっ」
「アァっ、そこぉっ! そこもっとホジくってくれんね!」
言われるままに、鶫は橘の膣の中に舌を出し入れした。
楽を思ってオナニーをしない日の一日たりとて無かった橘の膣は、
平生の自慰より遥かに凌ぐ快感を受け止め、もはやフェラをする事すら忘れていた。
鶫の方も鶫の方で、このレズ行為に、楽と繋がる事とはまた違った快感を覚えつつある。
このクンニとやらを、自分もされたらどんな気分がするのだろう。
橘と同じように乱れてしまうのだろうか。
千棘はどうだろう? 敬愛すべきお嬢も、クンニをされたら理性が飛ぶのだろうか。
そんな事を頭の片隅で考えながら、楽の唾液を押し付けるつもりで、
熱心に橘の膣を、そして愛液を吸う。
ダダ漏れになったマン汁が鶫の顎を伝って床に散らばる。
それを見せ付けられれば、楽は既にフェラが中断されているにも関わらず、
どうしても興奮が冷めてくれず、股間はギンギンに硬くなってしまっていた。
鶫のクンニのお陰で、橘の体はもう十分にほぐれた。
そして楽の意思とは裏腹に、楽自身も二発目を出す準備は万端だ。
「ささ、橘様。ここが正念場ですよ」
「は、あっ……らっ……くんのぉ……おちん、ちん……」
クンニのせいで全身ピクピクと痙攣していた橘は呂律を回すのも難しかった。
楽としても、もう拒み切る事は出来ない。
クンニはしないで済む、という交換条件を飲んでしまった以上、
そして既に鶫相手に生中出しを済ませてしまっている以上、
橘だけは頑として拒否する、などというのは逆に非紳士的だ。
頭の中で(うぅ……小野寺、スマン……)と悔やみ、
せめて両手両足を縛られたままである事が言い訳になるだろうかと思いながら、
楽は橘の膣がゆっくりと自分のモノを飲み込んで行くのを見つめ続けた。
「ハァン……全部……入ったぁ……」
橘も血を流しているのだが、肉棒の表面には鶫の血も入り混じっていて、見分けはつかない。
本来なら見分けをつける以前に、スカートのせいで結合部は見えない筈なのに、
既成事実が出来上がった事を見せ付けたがっている橘が、
自らスカートを両手で胸元までたくし上げているから、大事な部分が丸見えだった。
動き始めた橘の股倉の下で、自分のモノが出たり入ったりしている様から、
楽はどうしても目を離す事が出来なかった。
事前の鶫への中出しのお陰で発射されていた精液の残り汁と、
二人分の愛液が潤滑油になり、橘のピストンは少しだけ鶫よりスピードがあった。
上半身は服もブラも着たままだから、乳房が揺れるような事は無かったが、
それさえ無ければきっと鶫同様乳首がコリコリに固くなっているのは、容易く想像出来る。
「凄いものだな。私もさっきはこんな顔をしていたのか?」
「おっ……俺にっ……聞かれてもっ……!」
そう言えばさっき私がヤった時は、一条楽は
視界を塞がれてたんだっけな……と鶫は思い出した。
「すごっ……きほち良かぁっ……ナカ、ゴリゴリしよるぅ……」
上の歯と下の歯の間に涎を糸を引きながら、
橘は開きっぱなしの口を閉じようともしない。否、閉じられない。
ジュッポジュッポと音を立てる下半身同様、上の唇と顎も涎まみれだ。
「うっ……あぁっ……ヤバ、いって……橘っ……」
「ウチも、もぉっ……飛んでまいよるっ……!」
無論、意識が。
「ヤベェッ……でるっ!」
「ふわぁあっ! あぁうぁぁぁぁぁぁぁぁぁンっ!!」
結局楽が拘束を解かれたのは、六限が終わって
各クラスがショートホームルームにさしかかった頃合いだった。
そもそも最初は睡眠薬を投与されていたので、五限の体育の時間中、
彼は殆ど眠っていて、実際に鶫と橘に襲われたのは六限目の始めだった。
つまり五限の間、鶫と橘はたた楽を裸にひん剥いただけで、
以降は楽が目を覚ますのをずっと待っていたらしい。
しかしこれだけ長い時間養護教諭が一度も保健室に来ないのは解せない。
ベッドから起き上がってみると案の定、養護教諭は床に倒れていた。
鶫にかなり強力な睡眠薬を投与されているらしいが、
この二時間の間に本当に怪我人が来たら一体どうするつもりだったのか。
「……ちょーっとこれはハジけ過ぎじゃないっすかね、お二人さん」
「何を言っている。標的を仕留めるのに障害を排除するのは基本だろう」
「私は楽様を射止める為なら世界中の人間すら殺しても惜しくないですわ」
何でこいつらこんな物騒な事が平気で言えるんだ、と楽は項垂れた。
しかも橘の方は兎も角、何で鶫にまで標的にされてしまったのか。
いや、そもそも鶫とは、出会った頃に既に命を狙われてはいるのだが。
それにしても、五限と六限を挟んだと言う事は、間に休み時間があったわけで、
その間集すら様子を見に来なかったというのは意外に思えた。
こんな長時間授業に戻らない友人を、あいつは心配しなかったんだろうか……
と考えながら服を着直し、保健室のドアを開けた時。
「……あ、もう終わったのか?」
「しっ!? 集! お前いいいいいいつからソコにぃっ!?」
「いつからって言うか、まぁ今来たトコだけど。
それ以前に一度、休み時間にも様子見に来たっけなぁ。
ドアの隙間からこっそり覗いたら、お前が裸にされてて、
誠士郎ちゃんと橘さんが二人仲良くお前をじーっと観察してたから、
お邪魔虫かなぁっと思ってそん時は退散したけど」
「ちょっと待てお前コラ! 何でそん時に助けてくれなかったんだよ!?」
「そんなモン、放っといた方が面白い事になりそうだからに決まってんじゃん」
ペコちゃんみたいな純度百パーセントスマイルで、集はそう言った。
「まぁまぁ。桐崎さんや小野寺にはバレてないし、
良い思いも出来たんだから結果オーライじゃんか」
「何が良い思いだ……正直結構怖かったんだぞ、この二人……」
まぁ、怖いだなんて褒め過ぎですわ楽様。
橘がそんな素っ頓狂な事を言って来たが、楽は努めて無視した。
兎も角、こんな事はもう今日限りにして貰いたい
……などという楽の期待は、直後の鶫の言葉にあっさり砕かれた。
「どうやら今回一度くらいでは、一条楽は落とせなかったようだ。
その内また二度も三度もチャレンジしましょう、橘様」
「ハイ! いずれ楽様にちゃんとしたクンニをさせてみせますわ!」
ぞっとさせられる会話だ。
と言うか、橘は何でキスもまだのくせに、クンニにそこまで傾倒するのか。
「もうお前らだけでやっててくれよ! 俺を巻き込むな!」
クンニだけならお前らだけで出来るだろ、実際さっきやってたんだし。
そう楽が言い終える前に、鶫と橘は互いに顔を見合わせ、しばし沈黙した。
ややあってから、
「……まぁ、それはそれで」
「面白そうですわねぇ。女だけでと言うのも」
楽にとって今日最大の幸運がここで起こった。
女達は本当に当初の目的を殆ど忘れており、有体に言えば
「気持ち良ければ何でも良い」という心理状態に陥っていた。
集が「俺も混ぜてよー」等と冗談めかして言っていたが、あっさり無視された。
こうして、鶫と橘は勝手に一条楽争奪戦線から脱落してくれてしまった。
終わり