小野寺「私、諦めるよ」
るり「…は? あんた何いってんの?」
小野寺「私、一条くんを諦める。うん。それで良いんだよ」
るり「それが、小咲の出した答えってわけ?」
小野寺「……私ね。一条君が好き。好きだから諦めるの」
るり「……」
小野寺「……」
るり「…そう。なら私も、もうあんたと一条の仲を応援はしない」
小野寺「うん。ありがとう」
一条楽は千棘と放課後デートをし、それにつぐみはついていき…
ただただぼんやりと残っていた放課後。下校のチャイムが鳴って、ようやく帰ろうとした時に、小野寺は隣の席で本を読んでいるるりの存在に気づいた
そして帰り道。一緒に歩いているるりに、やんわりと決意をるりに漏らした
るりは小野寺の気持ちを察して、深く言及はしなかった
千棘が転入する前なら、楽は小野寺に好意を寄せていたのは誰の目でも明らかだったが、今は違う
唐突に現れた千棘は唐突に楽の恋人を宣言した。その当初は楽に微塵も好意を抱いていないと千棘は語ったが、今は確実に…そして楽も
小野寺「…るりちゃん」
るり「なに?」
小野寺「好きになるのに、遅かった。早かった。って、あるのかな?」
小野寺「もう少し早く告白していたら、一条君は…私を見てくれていたのかな…?」
るり「小咲…」
小野寺「今も、結局告白はしていないんだけどね…でも、これで良いの」
いつも一条を見ているけど好きなの?」と冗談交じりにるりが聞くと、
小野寺は顔真っ赤にして「何で分かったの…?」と応えた
それから3年。「好き」の二文字が伝えられず…
「もし。あの時。伝えていれば」
好きだから諦めると笑顔でいった小野寺の顔は、やはり陰っていた
後悔はしたくないと、楽と千棘がニセコイと知った時から、小野寺は頑張った
放課後の教室で告白をしようとしたり、るりも知らない秘密の場所で「私は約束の娘かもしれない」と告白したり…
小野寺小咲は自分をさらけ出すのが極端に苦手だ。どうしても他者を優先したり、怖気ついてしまう。それは長所でもあり、最大の短所でもある
それでも自分ができる最大限の努力を彼女はやった。頑張った
けれど。頑張ったけれど、一条楽は何度も千棘を選んだ。小野寺の気持ちは伝わらなかった
どうしてと思う。なぜだと思う。これはきっと楽にしか答えられないことで、
そしてそれを楽に問うことを小咲は望んでいないのだ。だから私に言ったのだ
好きだから諦めると
小さな足音だけが良く聞こえたまま、分かれ道まで辿り着いた
小野寺「またね」
るり「…うん。また」
小野寺「ごめんね」
「ごめんね」と言った、その顔がるりは嫌いだった
小咲には笑顔が似合うし、何より私が好きなのだ
ウジウジしている小咲はあんまり好きじゃなくて、早く笑顔が見たくて一条との仲を応援していたんだ
暗い顔になるのは分かる。とっても分かる。ずっと一緒にいたんだからわからない方がおかしい
でも今の小咲は、好きじゃない。暗い顔は嫌いだ。むかつく。ムカムカする
るり「本当にごめんと思っているの?」
小野寺「…え」
るり「思っているなら、明日は笑顔でおはようと私に言いなさい!」ビシィッ
咄嗟に思いついた提案だった
るりは自分でも驚いたが、なかなか悪くないと思いつきに便乗することにした
目をまんまるにしている小野寺に追撃を仕掛ける
るり「じゃないと絶交だから」
小野寺「えっ…ええーーー!?」
るり「ばいびー」スチャッ
小野寺「ちょっとるりちゃーん!」
後ろで小野寺が何かを言っているが、るりは振り返らなかった
小咲なら、明日。きっと笑顔で「おはよう」と言ってくれるに違いない
諦めた傷は中々癒えないかもしれないが、笑顔でいれば、きっと良い思い出になる
小咲は小咲なりに、自分のできる最大限のことをやったのだから