「楽〜、お前ももったいねぇことしたなぁ〜! あの女子達の刺激的な会話……ブハッ!」
さっきからずっとこの調子の集。
俺は……その……間近で見たっつーか……見ちまったっつーか……まぁ……ソレだし……とにかく凄く疲れてもう寝たいのに、集にそれを阻止されてしまう。
ふかふかの布団に入って、ふかふかの枕に頭をのせても、寝れない。ただでさえ、さっきの事で頭が一杯で眠れないのに……。
耳栓持ってくれば良かったかもな……と、今更思う。
「ああ、楽も長い事潜水なんかしてないであの会話を聞いとけば良かったのにィ〜。
……覗き穴が見つからなかったのは残念だったなぁ〜!」
「……集、もう、静かにしてくれねぇか」
集の事だから無駄だろうとは思いつつも、そのおしゃべりを黙らせてみようと努力してみる。
「いやぁ!! もっと探してれば見つかったかもしれねぇのになぁ〜! なぁ、楽!」
無駄だった。
無理だ。集を黙らせれる人は、この部屋には、いない……。
ハァ、と溜め息をつく。誰か集を黙らせてくれないかな……。
「るりちゃん! 何でそんなにジョーカーを避けれるの? ズルいよ!」
「だって小咲、全部顔にでてるもん」
「えぇ!?」
隣の部屋から楽しそう(?)な女子達(小野寺&宮元)の声が聞こえてきた。多分、さっきもやってたババ抜きをしているんだろう。
小野寺は顔に出やすいもんなぁー。でも、そこが可愛いんだよなぁー。
しっかし宮元は相変わらず遠慮してねぇんだな! そういや、いつも集を押さえているのは宮元……。
……ん? 宮元……?
「あっ!」
重大な事に気付く。宮元なら集を黙らせられるかもしれない!
俺は布団から緊急脱出し、まだしゃべっている集を横目に隣のふすまを開けた。
「宮元!」
突然の登場に驚く2人。……いや、もう1人、奥にある布団のなかに驚いているヤツがいる。ゴリラ女だ!
まぁ、俺はヤツを無視し、宮元にだけ集中を集める。……温泉での"出来事"が一瞬重なってしまったが、頭を振って出来るだけ思い出さないようにする。
「宮元、集を黙らせてくれないか……?」
後ろの、誰も聞いていないのに延々と喋り続けている集を指差す。
2人……いや、2人と1匹(ゴリラ女含む)は、俺の疲れはてている顔と集とを交互に見て、納得したように頷く。
と、ここで集は、喋るのに夢中になりすぎて女子3人が聞いている事に気付かず、禁句のワードを言ってしまった。
「……覗き穴があれば、小野寺のバストも桐崎さんのバストもの誠士朗ちゃんのバストも分かったろうになぁ〜! 宮元は、あんな貧乳論外だな! アッハ」
集の言葉は途切れる。そう、それは、宮元が物凄い形相で集を見下ろしていたからだ。気のせいかその後ろにはドス黒いオーラが漂っている。
「あら、舞子君、今何て言ったのかな?」
その場で固まってしまい、ガクブルと震える集。
いつもなら、小野寺と桐崎が止めるだろう。でも、集は女子のプライドを傷付ける様な事を口走ってしまったので、この場にいる皆、集が粛正されればいいと思っている。
そう、宮元によって……。
…しばらく御待ち下さい…
平和だなぁ……。
現在、集は体が動けない位に殴られ……ゴホン、粛正されて、布団の中で大人しくしている。
コレでトラウマになっただろうか、いや、なっていて欲しい。
さて、これでやっと眠りにつける……と、思ったが、やはり温泉での"出来事"は中々頭から離れてくれない。
仕方がないので、俺は誰もいない他の部屋で少し落ち着くことにしようと思い、部屋を移動した。
出る時、集が何か言ったような気がしたが、本当に小さな声なので聞こえないフリをして、部屋を出ていった。
誰も使ってない(少なくとも、この林間では)部屋に入ろうと、ふすまに手をかけた。
……と、同時に細い、誰かの手と重なる。眠たいし、まぶたが重かったので周りが見えていなかったのだ。
横を見る。金髪の長い髪に、赤いリボン。ああ、コイツは間違いなく……
「「桐崎!?/もやし!?」」
桐崎と声が重なった。