神宮寺学園には、今ある噂が流れている。  
「二ノ宮峻護。放課後、生徒会室まで来るように」  
「はい、解りました。ほ……麗華先輩」  
 二ノ宮峻護と北条麗華が付き合い始めたという噂が。  
 皆が異変に気付いたのは月曜日。二ノ宮峻護と北条麗華と月村真由はいつものように三人で登校していた。  
 しかし、鋭い者はその光景がいつも道理でないことに気付いたであろう。なぜなら、麗華は幸せそうに、峻護は心労で疲れきったように、真由はネガティブオーラを辺りに撒き散らしていたからだ。  
 これだけでも賢い者ならば気づくであろう。しかし、それで万人が気づくわけではない。  
 その原因となったことは、峻護が麗華を名字ではなく名前で呼ぶようになったこと。これ自体は小さくはないが、さほど大きいわけではない。  
 問題は、峻護が麗華の名前を呼ぶ際、名を呼ばれる方も名を呼ぶ方も、まるで初めて口付けをしたカップルのように初々しく頬を赤く染め上げているからである。  
 これでは、どんな馬鹿でも気づくというものであろう。  
   
「二ノ宮君、今日の御夕飯は何にします?」  
「そうだなぁ、今日は―――」  
 この三人、登校するときは常に一緒だが下校時にはその限りではない。  
 麗華は生徒会長としての仕事や、北条コンツェルン次期総帥としての仕事があるため、なかなか放課後に時間が空くことはないのだが、峻護と真由は家事をしなければならないために麗華を待たずに帰路に着かなければならない。  
 ちなみに真由が峻護と二人きりになれるのは、この時間を含めてもわずかしかない。  
   
   
 その時間が昼休みの麗華による峻護の呼出によりなくなり、真由の機嫌が悪くなったとしても不思議ではない。  
「それじゃあ、すまないが月村さん。この埋め合わせは必ずするから――」  
「解りました、二ノ宮君」  
 つい先ほどまで夕飯について盛り上がっていたのに、真由が黒く、いや、暗くなるのは当然のことではないか。  
   
 放課後、真由は峻護の去って行った方向をいつまでも見つめていた。いつまでも……  
 
「遅いですわよ。二ノ宮峻護」  
 HRが終わり次第、即座に生徒会室に足を運んだのだが麗華の第一声はそれだった。  
「はぁ……、すみません。麗華先輩」  
 峻護としては何の目的かも告げられずに呼び出されたのに、理不尽としか言いようがない。  
   
   
「えっと、何のようなんですか?麗華先輩」  
 峻護としては当然の質問なのだが、麗華は赤くなりモジモジするばかりで何も答えない。いや、そもそも峻護は麗華の顔が赤くなっていることにすら気づいていないのかもしれない。  
「いや……、それはその……、えーと……その、…二ノ宮峻護、そんなことを私に言わせるつもりですの!!」  
 彼女のとった行動は逆ギレである。理不尽極まりない。  
「えーと、何のことだかさっぱり解らないのですが」  
 この男、二ノ宮峻護は鬼畜ではない。むしろ誠実である。本心から尋ねているのであって、決して他意はない。だからこそ、余計に質が悪いのであるが...  
 
「……、最近私達は恋人としての営みが少ないのではなくて」  
 やけになったよう早口で答える麗華。羞恥心に赤くなったその顔は、例外を除けば世にいる男たちの100人が100人とも劣情をもよおすであろう。  
   
 麗華の発言に気まずそうに頬を掻く峻護。確かに最近、峻護と麗華はそういう行動はしていない。しかし、それは仕方のないことではなかろうか。  
 家での行為は自ら進んで涼子や美樹彦、保坂にからかいの種を提供することになる。  
 学校では衆人環視の下でいちゃつけるはずがない。その上、麗華が峻護が付き合い始めたという噂と同時に、真由がフリーになったという噂も流れ、真由に告白する男子が後を絶たない。  
 しかし、男性恐怖症の真由を峻護が放っておけるはずがなく、麗華との時間は更に減っていったのである。  
   
「具体的にはどうしましょうか?先輩」  
 峻護としてはどうして生徒会室に呼び出されたのか腑に落ちない。別にここじゃなくとも他の場所、例えば家や学校の廊下でもいいはずだ。  
 
「この場でどうしてもわたくしと契りたいと言うのであれば、吝かではありませんがそれに応じることも考えましょう」  
 普段の麗華ならば絶対に口にしない台詞。朴念仁こと二ノ宮峻護が答えを見つけるのは無理だと判断したのか、勢いに任せて言ったのか、多分両方であろう。  
「今、此処でですか!?」  
「そうです。此処以外に何処があるというのです」  
 神聖なる学舎、その上、生徒のお手本となる生徒会長自らが生徒会室ですることを申し出たのである。峻護でなくても驚くというものである。  
「でも……」  
 『ここは学校ですよ』という言葉を峻護は呑み込む。学校とは勉学を修める場であり、恋人たちの情事の場ではない。  
「わかっておりますわ。そんなことは重中承知しています」  
「はぁ、わかりました。俺はどうしても先輩と契りたいです」  
「仕方ないですわね。わたくしとしては真に不本意ではありますが」  
 どこか諦めた表情の峻護。しかし、誤解しないで欲しい。麗華が特別淫らなのではなく、峻護にも責任があるということを。  
 
 最も傑出した神戒ヒルデガルト・フォン・ハーテンシュタインをもってして、『峻護の味を覚えた女は峻護のシモベになるか、あるいは峻護をシモベにするか、二つに一つしかない』とまで言わせしめるほどだ。  
 そんなことは両者とも知らないが、実際に峻護の味を知った麗華が我慢出来なくなるというのも当然のことだろう。  
   
 5日、5日も待ったのだ。麗華でなければ3日と持たずに発狂していたかもしれない。  
 麗華とて学校でそういった行為をすることに抵抗がないわけではない。しかし、家では真由も床を共にしているのだ。  
 初夜のときのように、真由の寝ている隣で峻護とコトを運ぶ度胸はない。  
 そのことに関して、麗華が真由を恐れているからなのか、恋敵だった真由に遠慮しているのかは定かではない。  
   
 交際を真由に宣言したときも、笑顔で祝福してくれていたが、真由の周りに漂う暗いオーラは隠しきれてなかった。  
 おそらく、理性としては麗華と峻護の関係を認めようとしているが、感情が峻護を諦めきれていないというのが原因だろう。  
   
 麗華とて、背徳感や倫理を感じていないわけではない。しかし、峻護の持つ魔力にも似た力の前では、それらは何の効果も持たない。  
 北条コンツェルン次期総帥という立場にあり、麗華のプライベートな時間は学校内か二ノ宮家にいる間ぐらいしかあまりない。  
 特に、峻護と2人っきりになれる時間はその中でも極わずかしかないのだ。真由が気を利かして2人っきりになれることはあっても、家事に追われて情事にふけるまでの時間はない。  
 真由が床を共にしているのも、男性恐怖症を克服するためであり、真由自身が遠慮しても、涼子たちがそれを許さないであろう。  
   
 麗華自身、この3日間、二ノ宮家で行うか学校内で行うか大いに悩んだ。その答えが前述の通りである。  
 『自重する』という選択肢がない時点で彼女の精神状態を察してほしい。  
   
   
「本当にいいんですか?」  
「くどいですわ。わたくしがいいと言っているのです。何を遠慮する必要があるのです」  
 
 時刻もさして遅いわけでもない。峻護のクラスのHRが終わってから、十数分ほどしか経っていない。  
 校庭からは、部活動をしている者たちの声が聞こえており、もしかするとHRすら終わっていないクラスもあるかもしれない。  
 保坂あたりが人払いをしていると思うが、峻護としては気が気でない。  
 そもそも校内でのこういった行為は、男ならば誰でも憧れるようなものだが、残念ながら堅物として有名な峻護はその例外に当てはまる。  
 本来の彼ならば、麗華の説得と説教を始めようなものだが、麗華がそのことを十分に承知しており、あまりに真剣に言っているので根負けしたのである。  
 性行為に限らず、恋人らしい営みがこの5日間なかったのも事実である。  
 きっと寂しがったのだろう。峻護はそう結論づけた。  
 
「先輩、目を瞑ってもらえませんか」  
 麗華とのキスも初めてではないのだが、麗華に見つめられながらのキスをする余裕は、今の峻護にはない。  
「んっ……」  
 啄むようなキスから、舌を絡める大人のキスへ。  
(先輩の唇、柔らかい)  
「ふぁっ……んっ……」  
麗華の口から洩れる切なげな声。その瞳が期待に濡れていたが、峻護としては次は何をすればいいのか迷っている。  
 しかし、それも仕方のないことだろう。二ノ宮 峻護という男は性に関する知識はあるが、それを活かす情報は持っていない。  
 彼ぐらいの年齢ならば、そういった性に関する資料はある程度持っていそうなものだが、生憎、彼が持っている性に関する資料は学校で使う保険の教科書だけ。18禁製品は一つも持っていない。  
 そういった彼であるこそ、理性でも手放さない限り、性交について戸惑うというのも当然と言えば当然であろう。  
 
 前回のように理性を捨て本能の赴くままに動ければいいのだが、今の峻護にはそれも出来そうにない。  
 かといって、冷静かと問われれば答えは否。今の峻護は慣れないことを麗華に求められて気が動転している。  
 恋人である麗華の期待に応えようと、不得手な分野に挑戦しているのだ。今の峻護は麗華との行為に全神経を集中していると言っても過言ではない。  
 下校する生徒の話し声も校庭から聞こえる運動部の掛け声も全て雑音として捉えている。  
 仮に生徒会室付近の廊下に誰かいたとしても、その人の気配にすら気付かないであろう。  
   
   
   
「……胸、触ってもいいですか?」  
 麗華の耳元で囁くように訊ねる峻護。峻護の反則的な攻撃の前に、麗華は顔を赤くして首を縦に振るしかない。  
   
 片手を伸ばし、ゆっくりと麗華の胸に触れてみる。  
 服の上からでも女性特有の柔らかさが、峻護の手のひらに伝わる。  
「あっ……んっ…!」  
 まるで壊れものを扱うように、弱く優しく麗華の胸を揉む峻護、いや撫でるといった表現が正しいのかもしれない。  
「んぁっ……、んっ……」  
 切なげな声を上げる麗華。  
 一般女性なら、こそばゆいだけの感覚すら、涼子曰わく感度のいい麗華では、それなりの快楽になる。  
 峻護はもう片方の手で制服のスカーフを解き、制服と肌着を上にずらす。  
 白磁のように白く、絹のようにきめ細やかな肌が露わになる。  
「先輩の肌、綺麗ですね」  
「やぁっ……」  
 峻護は思ったことを正直に口にしただけだが、麗華にはとても恥ずかしいことだったらしく、涙目で峻護を睨みながら腕で自らの胸部を隠す。  
「隠さないで下さい。恥ずかしがらずに見せてもらえませんか」  
 真摯な態度を心掛けている峻護だが、余裕がなくなりつつあるのを本人は自覚していない。  
 
 囁き口付けをする。麗華はぴくりと身を震わせて腕を外す。  
 峻護は麗華を抱きかかえ、机の上まで運ぶとそのまま横たわらせる。  
「ベッドよりは固いですけど。ないよりはましなので我慢してもらえませんか」  
 麗華の了承を得ると峻護は愛撫を再開する。  
 峻護はそっと手を伸ばし、麗華の膨らみを手で包むように触れた。ゆっくりと揉みほぐすように手を動かすと、麗華は途端に悩ましげな表情を浮かべる。  
「ああ、や……はぁ、あっ」  
 峻護は麗華の声を聞くと、感情を更に高ぶらせる。  
(先輩の声、もっと聞きたい)  
 胸の膨らみに顔を押しつけ、麗華の敏感な部分を舌で刺激する。  
「ふぁっ、ん、んぁっ……!」  
 麗華自身、自分がどんな声を出しているのかも自覚していないのかもしれない。  
 悲鳴にも似た嬌声。早い鼓動がすぐ耳元に聞こえる。  
 声にならない悲鳴の後、麗華の体が何度も痙攣する。  
 弱い力で服の袖を何度も引っ張られる。見上げると今にも泣き出しそうな麗華の顔。  
 
 途端に峻護の顔が青ざめていく。  
(何か大きな失敗をしたんじゃ……)  
 何か言いにくそうな表情。  
――胸ばかりじゃなくてその……、という呟きが峻護には聞こえた。  
「すみません、先輩。どうしても、先輩のに触りたいんです。触ってもいいですか?」  
「どうしても、と言うのでならば……」  
 普段の麗華ならば、もうちょっと納得する振りをするのだが、今の麗華にはそうするだけの余裕はない。  
 一応、形式を整えるだけ。  
 峻護は麗華の太股の間に手を潜り込ませると、下着をゆっくりと下ろしていく。  
 下ろす過程で粘り気のある蜜が絡み、卑猥な音を上げる。  
 十分に濡れた下着が擦れる度に、麗華は敏感に反応する。  
 峻護は自身の指先を湿らせると、体内で最も柔らかく、大切な部分を優しくまさぐる。  
(温かい)  
 峻護の指に付着している唾液と麗華の蜜が絡まり混ざり合う。  
「やっ、はぁんっ……んっ、んぁっ…、あっ、ああ、……んぁあっ!」  
 荒くなった呼吸に合わせて内部が小刻みにひくつく。  
 嬌声と共に、麗華の愛液が机に広がっていく。  
 
 麗華が達した後は、麗華の回復を待っていた峻護だが、先ほどの麗華を見て劣情を覚えないわけではない。  
「先輩、 いいですか?」  
 その問いに麗華は首を縦に振る。峻護は麗華を机の上から下ろすと自身も服を脱ぐ。  
「机の上で激しい運動をするのは不安定ですから、机にもたれかかってくれませんか」  
 それだけで峻護の意図を悟ったのか、上半身を机に預け、下半身を峻護に向ける麗華。  
 プライドも何もかもを捨て、素直に峻護に従う麗華。その瞳は期待と不安、欲情に塗りつぶされていた。  
 峻護は先端を入り口に宛がい体重をかける。  
「は……ん、んあっ……!!」  
 何度も達し敏感になっている麗華は、たまらずに喉を反らせて身悶える。机を掴んだ手がぎゅっときつく握りこまれ、ベッドのスプリングとは違う木の音がその空間に刻まれる。  
 峻護はゆっくりと腰を引き、先が抜ける寸前で止めては再びすぶりと挿入した。  
「はぁ、あああぁっ」  
 身体中で受け止める麗華。内側も引き攣るように収縮する。  
 
 何度もそれらを繰り返す内に、変化が訪れる。  
 無意識なのか峻護の動きに合わせて麗華自身も動いていく。より深い場所まで繋がることで、更なる快感が峻護を襲う。  
 頭の芯まで痺れてくる。  
「好、きです。……先輩」  
 麗華はもう答える気力もないのか、懸命に首を縦に振る。峻護に同意するように。  
 やがて、麗華の内部が峻護を締めつけるようにきつく収縮する。それに応えるように峻護は堪え続けた精を、麗華の子宮に満たしていく。  
 ぐったりと意識を手放しながらも、麗華は峻護の全てを受け止めていった。  
   
   
   
『もう下校時刻です。まだ校内に残っている生徒は速やかに下校して下さい。繰り返します。もう――』  
(もう、こんな時間か)  
 事後に疲れて眠ってしまった麗華の介抱兼余韻に浸っていた峻護だが、校内放送により現実に戻る。  
(学校でしたんだよな、俺たち)  
 今の今まで忘れていた峻護。とりあえず麗華を起こすか迷ったが、眠らせてあげることにした峻護。  
 麗華を背負い、鍵を持って生徒会室を出る峻護。  
 
――ピチャン  
   
 峻護の足元からの水音。  
 校内履きに足元の水気が染み込んでいく。何を踏んだのか確認するために足の裏を確認する峻護。  
 粘り気があるのか足を上げると同時に足と水溜まりとの間に橋ができる。  
 どこかで嗅いだことがあるような匂いだが、水の正体はわからない。  
 峻護は麗華を背負っていたことを思い出すと、詮索は止め、生徒会室の鍵を閉めてからその場を後にした。  
 生徒会室の扉の前にあった水溜まりを残して……  
 

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