「じゃ、ゴハン食べよっか。今夜はおごらせてね」  
「は、はいっ、ごちそうになります!」  
 楓が席に着くと、ふたりはいつもの和やかさの他に、いつもと違うそわそわとした雰囲気が  
たちこめているのを気にしないふりをした。  
「あ、すみません、それと……おハシください」  
 忍はナイフとフォークが苦手なようで、洋食は好きだが、食べるときはいつも箸を使って  
いたのだ。  
「えへへ……。ほんとに不器用ですよね、わたしって」  
「ううん、生粋の大和撫子ってカンジがして忍ちゃんらしいよ。だって忍者だもんね」  
 なんだかんだ言っても、ふたりで食事するのは楽しいようだ。  
 
 夕食を終え、店の外に出ると帰り道はもう夜の闇に染まっていた。前のデートからたった  
一週間で秋の日は目まぐるしく短くなっていたようだ。  
「ただいまー。と言っても、誰もいないんだっけ。さ、忍ちゃん、上がって」  
「はいっ。おじゃましまーす……」  
 楓の家に着いて玄関のドアを開けたが、楓の両親は泊りがけの用事で留守にしているため、  
もちろん誰もいない。楓のそばで忍は今夜の楓の家の状況がいつもと違うことを改めて認識  
した。楓の笑顔もどこかぎこちなさそうだ。  
「忍ちゃん……。あの…あらかじめおフロ沸かしてあるんだケド……。もう……入る?」  
 普段の気丈な楓からはおよそ想像できないような、恥じらいに頬を赤らめた、なんとも  
かよわげな表情で忍に問いかけた。  
「……はい。楓さん………」  
 忍もまたいつもの朗らかな大きな声ではなく、今の楓と同じような物腰で小声で返事をした。  
 
「うん、それじゃ……おフロ、入ろっか」  
「あ、あのっ、楓さん……。今回は…おフロ、いっしょじゃなくて、別々にしたほうが……」  
「えっ!?」  
 予想もしなかった忍の言葉にとまどいを隠せない楓。それもそのはずである。忍は自分と  
一緒におフロに入るときはいつも嬉々としていたからだ。  
「すみません……だって、自信ないんです……。わたし、おフロでガマンできなくなっちゃって、  
楓さんを……その、おふとんに入るまで待てなくなっちゃうっていうか……。そんな自分が  
こわくて……」  
 頬だけでなく耳まで真っ赤になってうつむく忍がとってもかわいくて、楓もその場で思わず  
忍を抱きしめそうになってしまった。  
「あははっ、いいよ、気にしないで忍ちゃん。うん、そうだね。そうしよっか。……おたがい、  
つまみぐいはお行儀わるいからね♥ ……じゃ、忍ちゃん先に入って。わたしそのあとに  
入るから」  
「はいっ。それでは、お先に入らせていただきますっ」  
 そう決めるとふたりは着替えを取りにいったん2階の楓の部屋に上がっていった。  
 楓の部屋にはすでに床の用意が整えられてあった。これまで忍がお泊まりに来たときと同じ  
ように、大きな布団が敷かれてあり、それを見て忍は楓と結ばれる時がいよいよ近づいてきた  
ことを実感した。  
「で……では、お先に……」  
 下着とパジャマを携えて忍はぺこりと会釈して階下へ下りていった。  
 
 1時間くらいは経っただろうか、楓の待つ部屋のドアをノックする音が聞こえた。  
「楓さん、おフロお待たせでしたぁ♥」  
「うん、じゃ、次わたし行ってくるね」  
 
 忍がおフロに入っている間に、楓は忍のために冷たい飲み物を用意し、エアコンの冷房を  
やや強めに効かせておいていた。テレビは特に何か見ているわけではないがつけたままだ。  
忍に浮き足立ったさまを見られたくないと大人ぶる楓はすでに落ち着きを取り戻していて、  
何食わぬ顔をして階下へ下りていった。  
 ぽつんとひとり、忍は楓がおフロに入る数10分の間、きちんとあつらえられた床のそばに  
ちょこんと正座して楓を待った。  
(うわ〜……。いよいよ……いよいよなのね………)  
 何もせずに待つという行為はことさら時間の経つのが遅く感じられるものだ。しかし、時間  
つぶしにテレビを見ても楓のことで頭がいっぱいなので何も感じない。忍は仕方なく、冷えた  
ウーロン茶をちびちび飲みながら、ゆっくりと髪を三つ編みに編み始めた。  
   
「おまたせー! 忍ちゃん!」  
「は、はいっ、楓さん!」  
 楓がようやくおフロから戻ってきた。忍ももうそろそろかとは思っていたが、それでも楓が  
部屋に入ってきた瞬間はドキンと胸がひときわ大きく高鳴った。  
「忍ちゃん、そんなかしこまったカッコで待たなくっても……。もっと楽にしてて」  
「えへへ……やっぱり、その、緊張しちゃって……」  
 くすくすと笑い合うふたり。  
「はい、楓さん。ノドかわいたでしょ」  
「ありがと?」  
 忍は会話を途切れさせまいと、とりあえずグラスにウーロン茶をついで楓に差し出した。  
 楓はつがれたウーロン茶を半分ほど飲んで一息つくと、もうそのグラスをトレイに置いた。  
「忍ちゃん、今夜は……もう……おしゃべりは……いいよね?」  
 
「え? 楓さん……? あのっ、も、もう?」  
 楓は掛け布団を敷き布団から離れるくらいに大きくめくり上げ、敷き布団の真ん中で  
しなを作るように横たわった。何の前置きもなく、いきなり行為に及ぼうとする楓に忍は  
前回とは全く違った意味で驚いた。床のそばで正座したまま動くことができない忍。  
「ほらぁ、どうしたの? 忍ちゃん。わたしのコト、欲しいんじゃなかったの……?」  
 おフロから上がってさほど時間の経っていない楓の頬はほんのり朱に染まったままだが、  
それはあるいは忍を求めているからかもしれない。かすかにまつげを震わせ、潤んだ瞳で  
忍を誘う楓。  
「あ……あ……。か、か…えで……さん……」  
 楓の思いもよらぬ媚態に忍は目を大きく見開いて唇を震わせながら、上体をゆっくりと  
前のめりに動かし始めた。しかし、肝心なこんなときになぜか金縛りにあったようにそれ以上  
体が言うことを聞かない。そんな忍を見ても楓は自分から忍の体に触れようとはしなかった。  
「エアコン効いてるのに暑いね……。なんだか体が火照っちゃって……」  
 そういうと楓はパジャマの胸元のボタンをふたつ、みっつと外していった。はだけた胸元  
から、おフロあがりのほんわかとした芳しい湯気が漂ってきそうだ。さらにそこからチラリと  
覗く白いブラがなんとも扇情的だ。  
「忍ちゃん……。わたしにいつまでもこんな恥ずかしいかっこうをさせないで……」  
 楓がおなかの辺りのよっつめのボタンに手をかけようとした瞬間だった。  
「楓さんっ!!」  
 獲物に飛びかかるネコ科の猛獣のように、忍のそのしなやかな肉体が楓の上にのしかかった。  
「うふ……。やっと来てくれたね、忍ちゃん♥」  
 
 楓は横に腕を伸ばして布団のそばに置いてあるリモコンを取り、急にうっとうしく感じ  
られるようになったテレビのスイッチを切った。  
 その直後、楓の両腕が忍の背中に巻きつき、かすかにその両腕に力が入った。それが自分を  
今度こそ求める合図なのだと確信した忍は、ためらいなく楓の唇を奪った。無論の事、前回と  
違い、楓に抵抗する気配は微塵もなかった。  
(んんっ……楓さん……。今度こそわたしを受け入れてくれるんですね……。うれしい……)  
 8日前の夜のこの場所で、楓に告白されたときにしたファーストキス以来の2度目のくちづけ  
だった。長く濃密な夜の始まりを告げるそのくちづけはただの儀礼的なあいさつに過ぎず、  
とりあえずはふたりの唇はす…と離れた。  
「ね、ちゃんと『いただきます』って言わないとお行儀わるいわよ、忍ちゃん」  
「あは……。そうですね♥ 楓さんのカラダ……頭のてっぺんから足のつまさきまで……  
全部……いただいちゃって………いいですか?」  
 肉欲にとろけたような、とろんとした目で楓を見つめる忍の手がさわさわと楓の髪を  
優しく撫でつけると、楓は小さくコクンとうなずいた。  
「楓さん………いただきます」  
「うん……。じゃ、わたしも……。忍ちゃんのコト、『いただきます?』」  
 再び、ふたりの唇が重なった。  
 さっきのとは違い、今度のくちづけはお互いの肉体を貪りあう行為の一部だった。ふたりの  
少女のやわらかな唇と唇が強烈な肉欲によってぴっちりと接着せしめられている。  
「ん……んん……」  
 鼻を鳴らしながら、先に楓がその舌を忍の口の中に進入させてきた。  
(味わってぇ……忍ちゃ…ぁん……)  
 
 唾液にぬめる楓の舌がツン…と忍の舌に触れたがそれ以上は動かず、まずは忍に味わって  
もらうべく、忍の出方をおとなしく待った。言葉は介せずとも、忍にも楓の気持ちは十分に  
伝わった。  
(ん……楓さん……♥)  
 積極的な楓が忍にはとても嬉しかった。今夜の楓の態度は確かに積極的であったが、こう  
やって実際に肉体を差し出すという行動に出てくれていることが嬉しかった。  
 言うまでもなく、忍も応じた。忍の舌が楓の舌に嬉々としてからみついた。  
「んふぅ……うぅん……」  
 美味しそうに忍は楓の舌を味わいにかかった。楓も伸ばした舌先を小刻みにくねらせて  
忍をめいっぱい悦ばせようとする。忍の舌先に楓の唾液の淡い甘さがぬめやかに伝わって  
いく。  
(楓さんの……あァん……あまぁい……)  
 ……ぷは……  
 不意に、これまでぴっちりとくっつき合っていたふたりの唇が離れた。先に離れたのは忍の  
方だった。  
(あん……忍ちゃん、どうして……?)  
 一瞬、楓は物足りなさげに思ったが、それは本当に一瞬のことだった。  
……るろ……ぴちゅう……ちゅっ……  
 忍は一度離した唇を今度は、楓の唇ではなくて舌に吸い付かせた。それをするために、  
いったん唇を離したのだった。貪欲な忍は、舌をからめ合うだけではあきたらず、楓の舌を  
まるで花芯の蜜を吸うかのようにチュウチュウとその唾液を求めて吸いたて始めた。  
(あはぁん♥ よっぽどおなかすいてたの? 忍ちゃん、かわいい……)  
 楓は一心不乱に自分を貪りにかかる忍が愛しくてならなくって、ただただ自分の肉体を  
忍の欲望のままに委ねるのであった。  
 
 忍は存分に楓の舌を味わうと、また再び口を開き、楓の口とつながった。  
(はい……。楓さんにも……)  
 お返しとばかりに、忍の舌が楓の口の中に伸びてきた。忍は楓も「いただきます」と言って  
くれたことが嬉しかったのだ。その想いが、忍の舌の表面から唾液をジワジワと、果肉を搾る  
ように滴らせていく。  
 魚がエサに食いつくように楓はそんな忍のジューシーな舌に吸いついて応えた。  
「んっ、うんっ……んんっ……♥」  
 声を漏らして美味しそうに忍の唾液を飲み下していく楓。それは初めてのディープキスと  
してはあまりにも淫靡な行為だった。  
 濃密な唾液交換がようやく終わり、その飲み交わした互いの甘い唾液が媚薬となってふたりの  
心を覆う理性という外殻を徐々に融かしていき、その中に潜む肉欲をより一層剥き出しにさせた。  
「はっ、はぁっ……。 楓さん……わたし、キスだけでもうあたまがクラクラしちゃってますぅ  
……」  
 楓からすれば意外だったが、自分の上にのしかかっている忍の体が足ではなく頭の方向に  
やや這った。そして忍の唇の標的が楓の髪に移っていった。  
「ちゅっ。んふふっ♥ 楓さんの髪……。あはっ、サラサラしてていいにおい……」  
 忍は先程、「頭のてっぺんから足のつまさきまで……」とは言ったが、その言は本当に文字  
通りのものだったようだ。  
「あん、忍ちゃんたらっ。そんなトコまで……」  
 おフロあがりの楓の髪は温かくしっとりとしていて、また、シャンプーの匂いもほのかに  
はらんで、忍のキス欲をますますそそらせた。  
 
 忍は楓の髪を優しくなでなでしては、鼻先をうずめてほんわかとしたシャンプーの残り香を  
嗅いだり、洗いたてのふわふわした栗色のクセっ毛に何度もキスを浴びせて楽しんだ。  
「あぁっ……。髪の毛なのに……どうして? なんだかきもちいい……」  
「でしょ? わたしもあのとき…楓さんに髪をさわられたときは、そうだったんですヨ。  
う〜ん♥ 楓さんの髪……すてき……」  
「あぁん………忍ちゃん……」  
 楓も忍のその肩から垂れる三つ編みにされた黒髪を撫でて応じる。楓は嬉しかった。密かに  
忍の長く美しい黒髪をうらやましくも思っていて、もっと言えばその忍と比べて自分の髪に  
コンプレックスさえ抱いていた楓だったが、忍がそんな自分の髪で悦んでくれたことが嬉し  
かった。  
 しかし、忍のそんな愛撫もまだまだ序の口に過ぎない。  
 閉ざされた楓の部屋の空気が、重なり合うふたりの全身から醸し出される愛欲の香気で  
あたかもピンク色に染まっていくようだ。  
 とりあえず楓の髪を堪能した忍の唇は次に必然的にと言うべきか、楓の顔のあらゆるところを  
攻めにかかろうとした。  
 ちゅ……  
 あいさつ代わりにまずは楓のおでこに軽くキス。  
「んっ♥ 忍ちゃん、キスするのが好き? うん、いろんなところにいっぱいしてね♥」  
「はい……。遠慮なく……」  
 楓は忍が目が合って恥ずかしく感じないよう、すっと目を閉じた。忍はその瞼にキスをする。  
 ちゅっ……ちゅっ……   
 その次に目じり、ほっぺ、鼻の頭、下あご……そしてまた唇。忍は、本当に遠慮なく楓の  
顔にキスの雨を降らせていく。  
 
「あぁんっ!」  
 思わず楓は大きな嬌声を出してしまった。楓の顔全体にひと通りキスを浴びせた忍がその舌を  
今度は楓の左側の耳に這わせたのだった。  
「!? 楓さん、くすぐったいですか?」  
 楓の声の大きさにやや驚いた忍が楓を気づかう。  
「ううん、違うの……。そこ、とってもきもちよくって……自分でもびっくりしちゃって……。  
だからね、もっと……して……」  
 楓は耳を舌で愛撫してもらうのがそこまで気持ちいいだなんて思いもよらず、その意外さに  
少なからず驚いたのだ。  
「はい、楓さん……」    
 忍も、楓がそこまで感じてくれているのが嬉しかった。  
 ……かぷ……ちろ…ちろ………ぷちゅ…ちゅぷ……れろ……   
 耳たぶを甘噛みしては、舌先で耳の端や穴をくすぐるように、そして舌の腹で耳全体を  
ねっとりとなめ回す。さらに忍は唇を使ってわざと淫らな水音をたてて楓の耳を味わっていき、  
そして楓の脳に最も近い場所から響くその水音がさらに楓の理性を侵食していく。  
「んぁっはぁっ、耳、きもちいい……。どうしよう、こんなところがきもちいいよ……」  
 初めて楓の息が荒くなってきた。首から下はまだ味わっていないとはいえ、忍は耳が楓の  
最も感じる性感帯のひとつだと確信した。そんな楓の反応を見て忍もかさにかかって攻めたてる。  
「楓さぁん、こっちの耳もちゃんときもちよくしてあげますね♥」  
 丁寧に、そして執拗に忍は楓の右側の耳にも同様の愛撫を施していった。  
 次に忍の舌は必然的にそのまま楓の首筋を這い始めたが、このとき忍は今更ではあるが、  
ふたりがまだパジャマを着たままだということに気づいた。  
 
 すでに肌蹴ている楓の胸元を見て、忍は未だにお互いがまだパジャマを着ているのがもどか  
しくてならなくなってきたが、それは楓も同じだった。  
「楓さぁん……」  
 忍の手の先がおずおずと楓のパジャマの胸の中に触れた。  
「うん……いいよ。……おっぱいも……して……いいよ、忍ちゃん……」  
 おっぱいなどという、楓にとっては口にするのはかなり恥ずかしいはずである単語がこの  
状況下ではいともあっさりと、自然に口から漏れた。  
 忍は嬉しそうにうなずくと、楓のパジャマの残りのボタンを全部外し、楓のブラジャーを  
がばっとむき出しにした。楓のミルクのような白い肌に、さらに白い色のブラが眩しく映える。  
ふと楓の顔を見ると、楓は視線を合わせないように横を向いていて、胸の白さとはまるで違う  
ほっぺの赤らんだ色がますますその赤みを深めていた。  
「楓さん、わたし先に脱いじゃいますね」  
 楓が先に脱がされるのを恥ずかしがっているのだと察知した忍は、いったん楓の体の上から  
離れると、先にパジャマをぱっぱっと思い切って脱ぎさった。あらわになったグレーと白の  
横縞模様のブラとパンティーが忍らしくて可愛らしい。しかし、忍のただでさえその年齢に  
してはむっちりと発育している肉体は日頃の鍛錬によって程よく絞りこまれて、ボリュームを  
保ちつつもたるみもなく弾力豊かに仕上げられ、ストライプの可愛らしいはずの下着もその  
肉感的なボディーにはややもすると不釣合いにも見えてしまうほどだった。  
「えへへ……。どうしてかな? 何度もいっしょにおフロ入っているんだから、楓さんの前で  
ハダカになるのは慣れてるはずなのに……。なんだかとってもドキドキしちゃってます……」  
「忍ちゃんもやっぱりそう? ありがと、先に脱いでくれて……。ね、忍ちゃんの手で脱がせて  
くれる?……」   
 
                            

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