・・・  
「ない。 わたしのパンツがない! 靴も、スパッツもない!」  
 
「なにこのどろっとしたもの・・ わたしのなかから出てきた」  
 
 
 
アスベル「やぁナウシカ、目が覚めたかい?」  
 
ナウシカ「アスベル?あなたなの? わたしの服をかえして!」   
 
アスベル「あはははは。いや、汚れが気になったんで洗濯してしまったんだよ、  
 
     ほら、ここにある。 まだ乾いていないんだけど」  
 
ナウシカ「あなた一体なにを考えてるの!? なんで勝手にこんなまねをするのよ!?  
 
     きょうは朝からペジテに向かうって約束したでしょ!!?  
 
     こんなのを穿いて飛んだら風邪をひいてしまうわ!!」  
 
アスベル「いや〜僕は潔癖症なんで、泥がちょっと付いてたみたいだからねぇ、  
 
     我慢できなかったんだよ、ははは、ごめんね〜ぇ」  
 
ナウシカ「・・・・。 それはそれとして、 あなた・・ その・・」  
 
アスベル「ん? 何? どうしたの?」  
 
ナウシカ「・・・・! あなた、わたしにいたずらしたでしょう!」  
 
 
・・・  
アスベル「えっ・・  ああ・・ うん。 ちょっとね」  
 
ナウシカ、すばやく足でアスベルを払い、引っ掛けて押したおし、そのまま馬乗りに。  
 
ナウシカ「このっこのっこのっこのっこのっこのっこのっこのっこのっ」  
 
すばらしい勢いでアスベルの顔面に無限往復平手打ちを見舞うナウシカ  
やがて平手がこぶしを作ってアスベルの顔面に無限垂直みだれ打ち  
 
ナウシカ「このっこのっこのっこのっこのっこのっこのっこのっこのっ」  
 
 
・・・  
ナウシカ「このっこのっこのっこのっこのっこのっこのっこのっこのっ」  
アスベル「・・ い、いいかげんに、 しろ!」  
 
顔面ぐちゃぐちゃになりながらもアスベル、渾身の力でナウシカをはねのけ、  
逆にナウシカにおおいかぶさる。両者とも呼吸荒げて見つめ合う。  
 
ナウシカ「う・ うぅ・・ うぅぅ・・ うあああ!」  
 
ナウシカ、顔を横にそむけ号泣。  
 
アスベル「はぁ・・ はぁ・・ はぁ・・」  
 
 
 
ナウシカ、号泣は嗚咽に変われども止まらず、泣き続ける。  
 
ナウシカ「ウッ ウッ うっ うぅ・・」  
 
 
アスベル「・・・ ごめんよ」  
 
ナウシカ無視。  
 
 
 
・・・  
 
アスベル「・・・・」  
 
 
アスベル「と、とにかく、きょうは無理だな、出かけるのは明日にしようよ」  
 
 
ナウシカ「・・・」  
 
 
静寂。  
 
 
 
 
やがてナウシカ、ゆっくりと立ち、濡れたままのパンツを穿き始める。  
 
 
 
アスベル「・・あ それ、まだ濡れてるよ・・う」  
 
 
 
ナウシカ無視のままスパッツを着け、靴を履く。  
 
 
アスベル「・・・・」  
 
 
・・・  
 
 
そして。  
 
 
 
急に面持ちを変えたナウシカ、きびすを返すと、メーヴェに向かって猛列ダッシュ!  
 
ぼうぜんと見つめるアスベル、しかしすぐ気づいてたちあがり後を追いかける。  
 
エンジンをふかすナウシカ。そこへアスベルがタックル! 翼にしがみつくアスベル。  
 
アスベル「たのむ! 置いてかないでくれ! こんなところに取り残されたら、死んでしまう!」  
 
ナウシカ「死ねば? 死ねばいいじゃない? ここで死ぬといいんだわ! あんたなんか!」  
 
アスベル「たっ、 たすけて、たっ」  
 
ナウシカ「手を放しなさい! このっ こらっ」  
 
アスベルを片翼にぶらさげたまま上昇していくメーヴェ、  
しかし天井に達する前にバランスをくずし落下。  
 
「アアーッ!」「うわーっ!」  
 
ふたたび砂の上に叩きつけられるふたり。 そしてふたりとも気を失ってしまった。  
 
 
・・・  
 
アスベル「ぁぁ・・ イチチ。 あいたたた・・」  
 
意識を取り戻したアスベル。  
 
アスベル「ハッ ナウシカ、 ナウシカは!?」  
 
見回すと少し離れたところにメーヴェが。 その影に気を失って倒れてるナウシカがいた。  
 
アスベル「ナウシカ!」 全力で駆け寄るアスベル。  
 
アスベル「ナウシカ、大丈夫かナウシカ、 ああっ!」  
 
ナウシカの体を抱き上げるとその胸が血で真っ赤になっていることに驚くアスベル。  
 
アスベル「大変だ・・ 息もしていない。 おいしっかりしろナウシカ、おい!」  
 
 
・・・  
胸元をひらいて傷を確認しようとして、思わず息をのむアスベル。  
そこには肩から斜め直線状に深さ数センチの切り傷が ぱっくりと口を開けていた。  
 
アスベル「ぐっ・・ これはひどい。 とにかく動かしちゃダメだ。 しかし、どうしたら」  
 
悩むアスベル。 そうしてるうちにも血はナウシカの胸から染み出してくる。  
 
アスベル「ああ・・ とにかく人工呼吸だ」  
 
アスベル、必死に救助を試みる。  
 
アスベル「よかった・・ まだすこし息はある。とにかくこの出血をとめなければ・・」  
 
アスベルは自身の姿勢を整えてナウシカの肩を抱きかかえ、傷が開かないように抑えて固定した。  
 
 
アスベル「・・・よし、 これで出血は止まるだろう。これで意識が回復してくれれば・・」  
 
 
・・・  
 
・・・  
 
アスベルは飛び起きた。ナウシカが冷たくなってきている。 もう虫の息だ。  
 
アスベル「ああ、血の気が引いていく・・ しっかりしろ、死んじゃダメだ、ナウシカ!」  
 
アスベルは強くナウシカを抱きかかえる。  
 
アスベル「ナウシカ、死なないでくれ、 ぼくがわるかった。 ぼくの責任なんだ、  
     ナウシカ、許してくれ。 ああ・・ 死なないでくれ ナウシカ・・!」  
 
 
・・・  
 
真っ暗な闇がおおう場所だった。  
 
ナウシカはここを知っているような気がしていた。  
 
闇の、さらに深い闇に向かって 自分が進んでいるのがわかる。  
 
音も無く 影も無く ひたすら絶対の闇に向かって 進んでいくナウシカ。  
 
何かが悲しいような気がした。  
 
何かをしなければならなかったような気がした。  
 
でも すべてがどうにもならなかったような気もした。  
 
・・・  
 
闇は無限の先にあるようにも 迫ってくるようも思えた  
 
その闇が 自分にまとわりつき 自分と融合していく  
 
やがてからみついた闇が 自分をばらばらに引き裂こうとし始めた  
 
しかしそれは悲しくなかった  
 
いまさら・・    
 
 
 
声がした。  
 
 
「死ぬな。 おまえにはまだ使命が。」  
 
 
父の声だった。  
 
 
 
・・・  
 
わずかな風が前の方からふいてきた  
 
その風は 温かいような気もした  
 
輝いているようにも感じた  
 
しばらくすると その風は 前から吹いているのではなく  
 
後ろに集められている流れだとわかった  
 
 
 
後ろを振り向くのにすこし勇気が要った  
 
そこにはなつかしい輝きのかたまりがあった  
 
「母さま・・ 」  
 
ナウシカは闇からはなれ 輝きの中へと向かっていった  
 
 
・・・  
 
アスベルが泣いていた。 祈りながら泣いていた。  
 
抱きかかえたナウシカの胸のなかで 全身全霊を祈りにこめながら。  
 
自分の下着を包帯にして ナウシカの傷にあてていた  
 
アスベルのふるえる肩にナウシカは安堵した  
 
ナウシカはアスベルの頭に手を置いた  
 
アスベルの目がナウシカの顔を覗きこむと アスベルの目に大粒の涙があふれ  
 
今度は大声で泣き出した  
 
 
 
「・・・ 明日、 出発しましょう。 操縦はあなたがやってね。 アスベル。」  
 
 
アスベルは声も無く、 ただ何度もうなずいた。」  
 
 
 
  〜完〜  
 
 
 

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