男は女の肌から身を引き剥がし、改めて彼女の体の輪郭を眺めた。
胸の円みの豊かなのに比べ、腰の辺りは細く、肉付きも薄く、どこかあどけない線が残っている。
まだ誰にも触れられた事のない娘の固さである。
この女の体のあちこちに見られるその初々しい固さを男が辿っていると、
不意にその輪郭線が捩れ、女がうつ伏せに形を変えた。顔だけは横を向けていた。
「どうした?」と男は女の背に滑らかに隆起している二つの骨の間に額を押し付け呟いた。
それは折れた翼の痕跡のようにも見えた。
「まだ恥ずかしいのか?」
「……そんなふうに見られるのは、あまり気分の良いものではない。」
男のその視線は、丹念に砥がれた刃物の切っ先でやわらかく肌をなぞるかのようだった。
それは、これまで異性に露わな姿を見せた事のなかったクシャナにとっては耐え難いものであった。
「だって、あんまり綺麗な体だから……。」
男は翼の名残の骨にそっと口付けをした。悪びれた様子などは見せるわけもなかった。
「後ろも、綺麗だな。」
ナムリスは吐息混じりにそう呟くと、背骨の隆起を唇でゆっくりと辿っていた。
なだらかな女の背中は肌を細かに顫わせながら男の愛撫に耐えていた。
これまで誰にも愛された事のない彼女の場合、この顫えは快楽からくるものではなく、
触れられる事の恥ずかしさとこそばゆさからくるものなのだろう。
そうはわかっていても、彼は唇を離す事は出来なかった。
広くもなく、かといって狭くもない、女の背中に軽い接吻を繰り返し、
時には深く押し付け、強く肌を吸い、朱い跡を残す。
そうされる度、女の唇からは小さな呻きが漏れた。
項に一際深く口付けながら、男は女の体の下に手をやり乳房をさぐった。
柔らかく戻っていた先端を親指で転がしてやると、
不本意ながらも与えられる感覚に馴染み始めた体はすぐに反応を示す。
再び硬く立ち上がった乳首を指先が捻りあげる。
「く、っ……ん…。」
切なげな声音が聞こえたのを合図に、腕がうつ伏せの体を仰向けに戻した。
「やっぱり感じやすいみたいだな。」
男の腕に逆らわずにいた女は、何も言わずに眉根を顰め、顔を横に背けた。
後ろめたさを隠す子供に似た表情だった。
「怒らないんだな。」
乱れ広がった金髪を指に絡めながら、男は女の胸の尖りを口に含んだ。
「怒ったって……どうしようもな…っ……だろ…。」
乳首を包む生温かく柔らかい感触を堪えながらクシャナは答えた。
「どう…にも……っん!……なら…な…じゃないかっ…、体の…事は…。」
女の物言いは、何かを諦めたというよりも、何かを認め、受け入れたかのようだった。
その何かが自分の事でないのはナムリスにはわかっていた。
彼女が自らの意思で彼の肌に触れた事はまだ一度も無かった。
男は痛々しい程に屹立した女の乳首をなぶるのを止め、
二つの膨らみの間にそっと顔を埋めた。
「意地っ張りのくせに、妙なところで素直なんだな。」
その声には僅かに苦笑が混じっていた。