「酷えなあ。そりゃお前みたいに綺麗な顔してるわけじゃないが。」  
ナムリスは横臥に蹲った体の脇に手を付くと、やや傾いだ顔に頸を伸ばし、文字通り美しく整った顔に目を落とした。  
その目を避けるように、それまでじっとしていた瞳が軽く瞬きした後、斜に逸れた。  
「世辞を言っても無駄だぞ。」  
「こんな時に世辞が言えるほど気の利いた性格はしちゃいないさ。」  
言い終わるや否や、倒れ込んでいる女の、少し骨張った肩の辺りに腕を回しそっと抱き起こした。  
拍子に、猫のように丸まっていた手足が力無く伸びる。  
このまま重なり合うものだと思っていたクシャナは一瞬戸惑ったが、  
自分の方から男を引き倒す事など出来るわけもなく、肩を掴む腕に自らのそれを絡ませゆっくり起き上がった。  
肩から胴へと移った腕に抱き寄せられ、丁度男の胸に背中を預け、膝の内に抱え込まれる形になった。  
背と胸が合わさり、腰と腹とが合わさり掛けた途端、既に強張った下腹を感じて俄かに女の腰が浮いた。  
「今更逃げるなよ。」  
言って、ナムリスは離れようとする体を脚と腕を使って押え込んだ。  
右の肩に顎をのせ、蒼ざめた耳元に口を寄せ、  
「怖いのか。」  
珍しく真面目な声で囁いた。  
クシャナは何も言わずに少し俯くと、小さく溜息を吐き、体の力を緩め、男の胸に静かに身を凭せていった。  
異国の男の肌はその指や唇と同じように冷えた感触を彼女に与えた。  
重みを預け切った瞬間、強引に体を押え付けていた腕がふっと解かれたかと思うと、  
脇の下を通って胸の下に巻き直り、また抱き竦められた。  
乳房をまさぐるかに思えた手はその下の肌をなぞった。  
 
「一つ、聞いてもいいか。」  
体のかたちを確かめるかのように肌に沿う手が再び胸をさぐろうとする前に、  
その手首に蝋細工のような指がしなやかに纏わり、女の明瞭な声が静かに響いた。  
「一つだけでいいのか?」  
捕えられるままに男は素直に動きを止めると、細い腰の括れを掌できつく押えた。  
クシャナは指をほどき、窮屈そうに肩を動かしそこに乗った顎をどけ、  
「お前は、私を抱きたいのか?」  
上体だけを後ろに向けるように体を捻った。  
淡く上気した肌が、男の掌の下で柔らかく縒れた。  
「それとも女が欲しいだけか?」  
化粧などしていない筈なのに、紅を差したように鮮やかな唇の端が、ほんの少し歪んでいる。  
男はそこに自分の唇を押し当てた。  
頬に接吻しようか、唇に接吻しようか、どちらにしようか迷いかねたような位置に唇を落とされて、  
それが女にはもどかしく感じられ、顔をずらし、自分の方から唇を合わせた。  
「さてね。どっちだと思う?」  
己のそれにたどたどしく触れる感触から離れるのが惜しくて、男は唇を触れ合わせたまま問い返した。  
薄目を開いた女の顔に惑いの表情が浮かび、緩く結んだ唇が微かに顫えて男から離れた。  
それに呼応するように揺れる金髪の中にふと光るものを見つけ、  
男は女の腰から右手を離し、その美しい色の髪をそっと掻き上げた。  
端正な輪郭の耳に、翠色の石と金とで出来た飾りが取り残されていた。  
涙形のそれは指の先で軽く触れると、あるかなきかの音を立てながら左右に細かく振れた。  
「じゃあ、どっちだったらいいと思う?」  
無言のままの女に囁きかけ、男は指先で遊ばせていた耳飾りを引っ張るようにして取った。  
女は驚いて一瞬肩を竦めた後、しかつめらしい顔つきをして前に向き直り、再び男の胸に背を凭れかけながら、  
「後の方が、少し気が楽だ。」とどこか投げ遣りな調子で言った。  
「なら、そういう事にしておけ。」  
ナムリスはもう片方の耳飾りも同じように取り去ると、下には落とさずに自分の耳に着けた。  
人肌に温まった金属の感触はやけに生々しかった。  
 
裸になった耳に男が唇を近付けると、女はそれがこそばゆいのか、頸を捩り身を捩りして避けようともがいた。  
そんなふうにされるとしなくてもいいような事でも無理に押し通したくなるもので、  
ナムリスは女の頸を引き寄せ、強引に耳へ接吻をした。  
「いいな?」という呟きが、呼吸に混じってクシャナの耳に触れた。  
口を寄せていなければ聞き取れぬであろうその声を聞き分けた途端、女の肩が細かに震えだした。  
それは次第に体全体に広がり渡っていき、仕舞いにくつくつと笑い忍ぶ声が唇からひそやかに漏れた。  
「そういうのは最初に言うべきじゃないのか。」  
そうだな、せめて服を脱がす前に。と付け加えて、女はまた笑いを広げた。  
「言っただけマシだろ。」  
鈴を転がすかのような可憐なそれに、男はつられて頬の筋を緩め笑いを零した。  
「……もういいから、とっとと済ませてくれ。」  
「いやだ。」  
笑いが失せ、何の表情も無くなった、輪郭のぼやけた声を女が放ったのに対し、  
男の声にはまだ悪戯っぽい笑いが残っていた。  
肩越しに男の顔を見遣った女が不平を口にする前に、また唇が重ねられ、  
男の片手が女の肩を撫で二の腕を滑り、肉付きの薄い腰の起伏を辿って下腹に忍んだ。  
「ちょっ、やめ……んっ!」  
唇を離し、抗議の声を上げかけた女の体をきつく抱き寄せ、  
男を再び唇を合わせ舌を交わらせ続けながら、ゆるく閉じ合わされた脚の間に指を差し入れた。  
抱きかかえた女の肩がびくりと竦み、喘ぎとも呻きともつかぬ音が喉元で顫えた。  
 
髪と同じ色の柔らかな茂みに覆われたそこは、湿り気を帯びてはいるものの濡れるというにはまだ遠く、  
指を受け入れる事すら頼りなく思え、男をひと撫でしただけて指を引いて、女の唇を解放した。  
「そんなに緊張するな。」  
「…して…ない……。」  
長く深い口付けの後での息苦しさもあるのか、女はあきらかに上ずった声で否定して男の腕を振り解くと、  
脚を折り曲げ膝を抱え、その膝頭に顔を埋め、体を小さくこごめてしまった。  
ナムリスは右の人差し指を口に運びながら、  
「してるじゃないか。」とまた言うと、女は顔を伏せたままかぶりを振った。  
「まあいいけどさ、脚、開いてくれない?」  
ほら、と男は極力声をやわらかくして囁きかけ、膝を抱き締める女の腕に左手を掛けた。  
「どうして?」  
「どうしてもこうしてもないだろう。後で困る。」  
女は顔をゆっくりと上げ、心持ち頸を後ろに捻り男の方を窺った。  
「……別に困らないと思うけど。」  
男は半ば呆れたような顔をつくってその横顔を見つめ返した。  
「お前が困らなくても俺が困るんだよ。」  
「嫌だと、言ったら?」  
「早く終らせてほしいんじゃないのか。」  
クシャナは自分を静めるように細く息を吐くと、されるままに体を開いた。  
 
僅かに力の緩んだ腕を払い除け、それに抱きかかえられていた膝を掌で包むと、  
男が力を込める前にぎこちなく脚が開かれた。  
「そうそう。言う事を聞けとは言わないが、少し大人しくしてくれると助かる。」  
怯えの混じった息を吐く女を宥めすかすように言って、  
男は口に咥えていた指をまだ軽く捩れている脚のあわいに持っていった。  
臍の下の、金髪の生え揃った丘を撫ぜ、その毛並みを指に絡める。  
指を先へは進ませないまま掌底を腹部に這わせると、緊張からか、ひたと締まった肌がそこにあった。  
「今だって、充分大人しいだろ…う……。」  
不服そうな声でクシャナは言い、膝に掛かったままの男の手を払おうとしたその時、  
不意に挿し込まれた男の指に違和を感じて思わず呻きを漏らした。  
「そうだな。お前にしちゃ大分大人しいかもな。」  
柔らかい笑みを含んだ声で囁きかけながら、ナムリスは唾液で濡れた指を女の体の中に沈めていった。  
その窮屈な感触に、やっぱりな、と男が指を引き戻しながら独り言でも言うように零したのを、女は耳聡く拾って、  
「“やっぱり”、何?」  
「何って、やっぱり初めてなんだな、と。」  
「そういうのって、わかるものなのか?」  
「そりゃあ、まあ。」  
「……悪いか?」  
「いや、別に。」  
寧ろそうじゃ無い方が問題だろうと心中で呟いて、男は女の襞の合わせ目にある突起に指を移した。  
 
「──あっ。」  
途端、女の口から小さな悲鳴が上がった。  
平常彼女が発する声からは思いもよらないような、甘たるい、女の声。  
自分自身で発したその声に戸惑ったような女の様子は、男の悪心を軽く擽った。  
「へえ。なかなか可愛い声、出すじゃないか。」  
「何、言っ…て……んっ…」  
おそらく、男にそんな言葉を掛けられた事はなかったのだろう。ましてやこんな状況では。  
クシャナは既に血の色の差している頬を更に赤らめ、下腹部から広がる感覚に耐えるように体を硬くした。  
けれど男の指は容赦なく敏感な箇所を攻める。  
まだ刺激に慣れない彼女の為に包皮の上からゆっくりと指を動かしながら、  
空いていた手を左の胸の膨らみに移し、その先端を掌で擦るように撫ぜ回すと、  
薔薇色の唇から漏れる吐息の甘さが強くなった。  
「や…だ…っ……やめ…て……。」  
乳房を包む手を除けようと動いた女の腕は、胸元に届く前に、空を切り、男の腿に落ちた。  
弱い部分をいちどきに捕えられ、硬直していた身が次第に弛緩していき、  
力の散漫になった女の体が男の胸にしなだれかかってきた。  
喘ぎを殺そうと顫える喉が仰け反る。そこにナムリスは唇を押し付けながら、  
「そういやトルメキアの王家ってさあ、代々好色な人間が多いって聞いた事があるんだけど。」  
「そ…れが、何…なの?」  
「お前の場合どうなのかなと思って。」  
男の腿の上で戦慄いていた指に、俄かに力が入り、短目に切り揃えられた爪が彼の肌を引掻いた。  
「そん…なの……知らない…!」  
顔を俯け、眼をきつく閉じ、女は弱々しく叫んだ。  
 

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