魔法少女リリカルなのはAs触手SS  
リリカル☆なのは VS 殴殺天使☆戸愚呂ちゃん(笑)  
第2話  
 
 
時空管理局崩壊から数日後  
 
10月下旬  大阪  
 
よく晴れ渡った空。  
夏よりも高くて深みを増した青に、真綿を千切れるまで引き延ばしたような鰯雲が  
どこまでも広がる空のキャンバスに白く彩を添える。  
季節は秋。  
高町なのはとその友人たち一同は、我が家のある横浜を遠く離れ  
古くから天下の台所として広く知られる、ここ大阪の街へと足を運んでいた。  
なぜ彼女らは、こんなところまで来たのか。  
それは管理局からの指示の元・・・・・というわけでも何でもなくて、単なる旅行であった。  
なんでも、とある小説がテレビ化され、その舞台及びロケハンの地が  
ここ兵庫−大阪にあるとのこと。  
なので彼女たちは、一泊二日の関西エリア旅行に来ていたのである。  
「あたし思うんだけどさー」  
ブロンドヘアーを可愛く括った勝ち気そうな少女、アリサ・バニングスが  
己の持論をその場に居合わせる友人たちに披露する。  
「この主人公の家って、作者の家のような気がするのよね」  
二冊の単行本を取り出しながら、皆に意見を求めるように言った。  
ちなみに彼女の手にある二冊とは、話題のテレビ化された小説の最新8巻[憤慨]と  
作者が同じで、別の出版社から販売されている、学校を出るとか出ないとかの小説の2巻。  
「う〜ん・・・・でも、それだけだと作者の家とは限らないよ?」    
紫色のロングヘアの少女が、やや気弱そうにアリサの推理に待ったをかける。  
「たまたま二つの物語の主人公の住んでる町名を、同じにしただけかもしれないし」  
彼女の名は月村すずか。  
アリサと同じ学校、同じクラスに通う  
優しく、それでいて芯の強い少女である。  
「わたしは・・・・・アリサの意見に近いかもしれない」  
議論を交わしながら歩く二人の斜め後ろ。  
地図を片手に難しい顔をした少女から声がした。  
別段姉妹でもなんでもないのだが、アリサと同じブロンドの髪に黒いリボン。  
たっぷりとした長めの髪を両後ろで結わえた、どことなく影のある人物。  
名をフェイト・テスタロッサと言うこの少女は、広げた地図を見せながら  
印の突いた場所を幾つか指し示す。  
「作者の家が、喫茶店のあるこの北口駅からそう遠く離れていないことは調べがついてるんだし  
 同じ作者の書いた話の2つの物語の主人公の家が同じ町名というのは、意図的なものを感じるよ。  
 イコール作者の家、というのは行き過ぎかもしれないけど、でもその近辺に住んでるのは間違いないと思う」  
顎に指を当て、思案顔。  
「まあ、その考えはわからんでもないけどな。 この物語の舞台になった市に『八番町』っていう地名は  
 二箇所しかあらへんし」  
フェイトの後ろから、また別の少女が広げられた地図を覗き込むように顔を出す。  
「でもな、可能性としては作者が書いてる途中で2つの物語をゴッチャにしてしもたとか  
 面倒くさいから、まあええやろっていう理由でそうなったんかもしれへんし」  
 
口調はごゆっくり。  
だけど京都弁で鋭くツッコミ。  
「それに祝川商店街は阪急沿線でもない隣の市やし、1話の映画の中の1コマなんて京アニのある京都やで」  
ショートヘアーにバッテンの髪飾り。  
矢神はやてが、アリサやフェイトの推理に指摘を入れる。  
「う〜ん、なのはちゃんはどう思う?」  
難しい顔をしながら、すずかがもう一人の少女に話を振る。  
「わたしは・・・・・それより部長さんの家と駅前公園がどこなのか気になるよ」  
母親譲りの艶のある茶色い髪。  
左右の後ろ頭で結わえられた、ひょっこり小さなツインテール。  
胸元の赤い玉。  
高町なのはは苦笑いを浮かべ、別の問題点を持ち上げる。  
「カマドウマのときのコンピ研部長の家はともかく、駅前公園は物語中に何度も出てきてるのに  
 未だに実際の場所が発見されてないの。 神奈丼総社や他のサイトも頑張って探してるのに  
 特定できてないんだって・・・・」  
彼女の手には、同人誌のZOZガイドやどこかのホームページの探訪記、  
ネットにアップされていた画像などをプリントアウトした紙束が握られている。  
「あーもうっ、ごちゃごちゃと鬱陶しいね!」       
ややこしい話に頭をボリボリと掻きながら話に割り込んできたのは、橙がかった頭髪に犬の耳。  
もちろん特徴的なその部分はベレー帽で隠してはいるが、額の宝石までは隠せていない。  
長い尻尾は上着を腰に巻き付けるファッションでカモフラージュ。  
「それより、撮りのがした場所とかはないのかい?」  
この中で唯一の大人の女性、フェイトの使い魔・アルフは  
小難しい話に顔を顰めながら、別の場所へと移動をするために最終点検を促す。  
自分たちの住んでいる場所からかなり離れた土地だ。  
また今度、というわにもいかないので、回り逃すことは許されない。  
「北口駅前、甲山、関西スーパー、池と8番町。 市民運動場にファミレス。  
 甲陽園、北高、マンションに踏み切り、桜並木、図書館・・・・うん、もう大丈夫だと思うよ、アルフ」  
フェイトが指折り数え、手持ちの地図に印を入れる。  
「ハーバーランドと商店街は明日にして、次は梅田やね。 ほんなら、駅行こか?  
 ダイヤ改正されてから夙川に特急止まるようになったし、助かるわ」  
ワイワイと談笑をしながら、あるいは頭を付き合わせて議論をしながら駅へと向かう。  
1日で全てを回るのは強行軍なので2日に分けたのだが、果たして彼女たちは  
いったいどこまでポイントを踏破できることやら。  
ちなみに、本日来ているのはこの6人。  
ヴォルケンリッターの4人は長期のお仕事で不参加。  
ユーノは無限書庫ごと吹き飛ばされ、クロノはすでにあの世行きになっていた。  
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
時刻は夕方の6時。  
そんなこんなで彼女たちは今、大阪は梅田の繁華街にやって来ていた。  
梅田駅前第3ビル。  
歓楽街である新地に近いこの場所は、夕暮れともなると会社帰りのサラリーマンたちで賑わう。  
地上から地下2階ぐらいまで溢れる人並み。  
なのはたちはその人混みを避けるかのように、同ビル33階へと足を運んでいて  
たった今、写真を取り終えたところなのだった。  
「神人はやっぱりOS劇場の横に出たんじゃない?」  
「そうたね、観覧車も横に見えてたし」  
アリサとすずかを先頭に、古びたエレベーターで1階へ。  
「・・・・閉鎖空間って、広域結界に似てない?」  
やや広めのエレベータの中。  
ポツリとフェイトが漏らした。  
「そうだね・・・・・似てると言えばそうなのかも」  
相づちを打つなのはに、  
「でも作者の中の『閉鎖空間』のイメージって、阪神淡路大震災とちゃう?」  
何もないエレベータの天井を見上げ、考え中。  
「わたしはよう知らんけど、震災当時は夜明け前で暗かったし、電磁波で空がボンヤリ光ったし  
 それに・・・・無音やったらしいで」  
「無音?」  
はやての言葉にアリサがオウム返し。  
「うん。 聞いた話なんやけど、揺れの直後は何もかもが止まってしもて、シーンとしてたらしいよ」  
夜明け前の灰色の空。  
薄ぼんやりとした光。  
静寂。  
何一つ動く物のいない世界で、信号機だけが己に科せられたの役目を律儀に果たしている。  
「・・・・言われてみればそうかも」  
納得顔のすずか。  
ある程度想像できたのだろうか。  
そうこうするうちに、一同を乗せた大きな箱型文明の利器は、一階へと到着する。  
 
細い通路はそれでもすいている方だったが、大きな通路に出たとたん人ゴミが押し寄せる。  
ちなみに、ここの地下にはゲーマーズ梅田店がある。  
「うわわっ、凄い人!」  
「むぎゅう・・・痛い」  
「みんな、はぐれたらあかんよ」  
驚くなのは、前の人の背中に鼻をぶつけるすずか、皆をまとめるはやて。  
一同は人の波に押し流されるようにして、次の目的地へと足を向けた。  
 
阪神百貨店前、スクランブル交差点。  
歩行者用の信号が青に変わり、大勢の人が横断歩道の白線へと溢れ出す。  
ちなみに今日はこのあと、ホテルに行って泊まるだけ。  
部屋を取っているのは、梅田スカイピルの横にある  
いかにも高級そうで、その分宿泊料も高そうなホテル。  
朝日放送の横にも、幽霊が出ることで有名なところはあったのだが  
残念ながら今は家具屋になってしまっているので、こっちにしたのである。  
「あっ!  ここよ、ここ!」  
横断歩道をJRの駅側に渡り終える手前。  
バス乗り場でくるりとアリサが振り返る。  
すると彼女らには、見覚えのある景色。  
例の小説原作ものの第12話で、主人公以外唯一の男団員がニヤケハンサム面で話していたシーンの背景だった。  
それに横を向くと、これもまた見覚えのあるもの。  
なのはたちは喜々としてデジカメやケータイのカメラで撮りまくる。  
そんな彼女らを暖かい目で見守っていた犬耳女性のアルフ。  
だが、その呆れ混じりの笑顔も長くは続かなかった。  
「!!」  
突然の強大な魔力反応。  
そして、あからさまな殺意。  
暮れゆく空を見上げれば、そこには数発の魔力弾。  
「フェイト!!」  
主の名を叫び、急いで防御用の魔法壁を形成する。  
何もない空間に現れる、橙色の魔力の盾。  
そのときには他の魔法少女たちも気付いていたのだが、それよりも一瞬早く  
何者かの放った魔力弾が飛来した。  
ヒュゴッ! ヒュンッ、ヒュゴ、ヒュゴゴゴゴゴゴウゥンッッ!!!  
光の弾が、街中に落ちる。  
大勢の人々の行き交う地面へと吸い込まれて、くたびれたアスファルトを抉り取り、粉々に砕いた。  
「うわあぁぁっっ!!」  
「ぎゃあ――――っ!!!」  
「な、なんだ!?」  
吹っ飛ぶ車。  
逃げまどう人々。  
悲鳴。  
舞い散るコンクリートの破片に、まるでボウリングのピンのように人が簡単に弾け飛ぶ。  
交差点は、たちまち阿鼻叫喚の地獄絵図に早変わり。  
直撃されたのか、炎上する車の中から誰かが出してくれ、助けてくれと泣き叫んで窓ガラスを叩く。  
やがて歩行者の信号が赤に変わり、車道が青になったが  
当然というかなんというか、車の波は動き出すこともなく。  
突然の降って湧いた不幸に、街は混乱をきたすしかなかった。  
 
「ぅ・・・・・・・」  
燃えさかるガソリンの臭いと黒煙。  
土埃。  
大混乱の地面を這うように吹きすぎるそれらから、袖口で鼻と口を覆う。  
「な、なにが・・・・?」  
地面に蹲りながら、恐る恐る顔を上げるアリサ。  
縮こまってガタガタ震えたままのすずか。  
だけど残りの4人の対応は早かった。  
爆煙があらかた収まる頃には、すでに臨戦態勢。  
服もバリアジャケットに換装済み。  
3人の魔法少女とその使い魔が、夕暮れ空の一点を睨み据える。  
そこには3つのシルエット。  
少しばかり離れた位置で見づらいが、いずれも人の形に見える。  
 
「狙われてるのは、わたしたちだね」  
厳しい表情のフェイト。  
《サイフォーム》  
手にする魔法のデバイスが、死神の鎌のように形を変えた。  
風に靡くマントに黒衣の少女が、ゆっくりと空に舞い上がる。  
襲撃してきた何者かに近づいてゆく。  
「アリサちゃんとすずかちゃんはここにいて!」  
なのはたちもそれに続き、オレンジ色から藍色へと移ろいゆく空へと舞った。  
 
 
「来たな」  
なのは達を襲った相手。  
3人のうちの一人が、誰ともなしに言った。  
白い膝丈のスカートにリボンやフリルのあしらわれた、ゆったりとした上着。  
頭上に輝く天使の輪。  
躍動する全身の筋肉。  
短く刈り込んだ頭髪。  
似合わないサングラスにキラリと白い歯が光る。  
彼の名は戸愚呂ちゃん。  
少女趣味的な格好をした超兄貴が、獲物の到着を今や遅しと待ちわびていた。  
 
「ふっ・・・。 どうやら、今のでくたばったヤツはいないらしいな」  
何故だか、嬉しそうだった。  
それもそのはず。  
実は彼はバトルマニアだった。  
今の攻撃は相手に気付かせるための、言わばただの挨拶がわり。  
あんなちんけなもので死なれては、興ざめもいいところだ。  
楽しみが減らなかったことに感謝しつつ、向かい来る獲物を吟味する。  
こちらは3人、向こうは4人。  
集団戦も良いが、できれば一対一。  
サシで闘いたい。  
正々堂々と、真っ向からぶつかり相手をぶちのめす。  
それが彼の戦闘スタイルなのだ。  
他の2人は違うようだが。  
「俺を愉しませてくれよ、小娘ども」  
目を覆うサングラス。  
ニヤリと口が笑みの形に歪み、白い歯が光った。  
 
 
―――――――――――――――  
 
 
ゴォォッ!!  
衝撃がかすめ、全面ガラス張りの壁がビリビリと耳障りな音を立てる。  
大阪梅田にある二つのビルの上を繋ぎ、あたかも巨大な門のような佇まいを見せる新梅田シティビル。  
通称、スカイビル。  
全長170mもあるアーチ型の高層ビルの全体が揺れ、中にいる人々は何事かと驚き、騒ぎ、外を見た。  
大阪の街を眺望できるひときわ高い建造物。  
その上空で、なのははレイジングハートを握りしめていた。  
 
『プロテクション』  
魔法のデバイスが張った光の盾に、飛び来る光弾が襲いかかる。  
ヒュゴッ ヒュッ ゴゥンッ!  
ぶつかり、弾き、あるいは避わす。  
魔法の盾に当たるたび、光と衝撃が飛び散った。  
しかし、全てを防ぎきることはできなかった。  
大量に放たれた光弾のうち二発がシールドを貫通し、右のふくらはぎと肩を貫通していた。  
最初はわからなかった。  
いや、脳が理解することを丁重にお断りしたのだ。  
撃ち抜かれた箇所を見る。  
白いバリアジャケットの破れた部分。  
皮が熔け、赤黒く焼けた肉がえぐれていた。  
奥に見える白い物は骨かもしれない。  
切ってあった脳の回路が繋がった。  
「―――――――――――――――ッッ!!!!!」  
最初に感じたのは『熱さ』だった。  
そのすぐ後、痛みと恐怖とパニックが一緒くたになり、よじれて絡まって転げ回った。  
その時になってようやく、喉の奥から声が込み上げてくる。  
溢れる涙と鼻水。  
歪む顔。  
「―――――ぅ・・・・、ぅあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」  
叫んだ。  
どうしていいかもわからずに、感情の赴くまま叫び続けた。  
苦痛がもたらす絶叫は、梅田の街を吹き抜けるビル風に溶け消える。  
 
 
なのはのさらに上空では、フェイトも別の敵と交戦していた。  
相手の名前は挫苦呂ちゃん。  
戸愚呂ちゃんのお兄さんらしい。  
武体という珍しい体質で、エッケノレザクスという濡れタオルを全身から生やす攻撃が得意。  
白い軍帽に白い軍服。  
眼帯が実におしゃれだ。  
「・・グ・・・フゥ・・」  
挫苦呂の濡れタオルが、フェイトの腹にめり込んだ。  
焦点がブレる。  
口の中に胃液が殺到した。  
その味に、最後に食べた物が光陽園駅で食べたシュークリームだったことを思い出す。  
続いて、顎の下から突き上げるような一撃。  
意識が一瞬途切れる。  
手から離れるバルディッシュ。  
急に浮力が失われ、フェイトは地面へと吸い込まれていった。  
 
 
 
ハッキリ言って、なのはは油断していた。  
相手は、自分の名前を「戸愚呂ちゃん」だと名乗った。  
目が点になった。  
自分で自分のことを「ちゃん」付けで呼び、しかも服はフリフリ。  
その下には躍動する筋肉。  
街中で見かけたならば絶対に視線を合わせたくない、そんな姿。  
だから油断してしまったのだ。  
正直、ここまで強いとは思わなかった。  
なのはは闇の書事件を経て、大きく成長した。  
デバイス・レイジングハートもパワーアップした。  
だからこんな相手に、絶対に負けないと思った。  
でもそれは間違いで。  
自分の認識力の甘さを思い知らされる羽目になる。  
 
なのはたちは最初、話し合いをしようとした。  
けれど彼らは聞く耳を持たず、いきなり襲いかかってきたのだ。  
言葉は無駄と判断し、はやてがこれ以上被害を出さないために広域結界を張ろうとしたのだが。  
いきなり、体中が爆発したのだ。  
「キャッ!?」  
短く上がる悲鳴。  
落下するはやて。  
いきなりの不意打ちに気絶してしまった彼女は、真下にある広大な日通の集配所へと吸い込まれてゆく。  
 
『アルフ、はやてをお願い!』  
念話でアルフに頼み、フェイトとなのははその場に留まる。  
そして、そんな彼女たちに喜々とした表情で躍りかかる襲撃者。  
戸愚呂はなのはに、挫苦呂はフェイトに。  
それぞれ襲いかかった。  
もちろんその間、残りの一人も黙って指をくわえて見ていた訳ではない。  
落ちるはやてを追うアルフに、3人目の相手・差婆徒ちゃんが魔の手を伸ばす。  
ちなみに彼の姿はというと、クリーム色の髪に羊のように大きく曲がった角。  
すらりと伸びた長身。  
口には全然似合わない、どこかの暴走族がしていそうなマスク。  
そして垂れ目。  
手に握られたデバイスの名はドゥリンダノレテ。  
魔法のスタンロッドだそうな。  
そして、爆弾生物を作り出すことができる。  
はやてをいきなり襲った爆発も、そいつの仕業だった。  
 
アルフに追いすがり、爆弾を浴びせる。  
爆発を引き起こすその魔法生物は、目では見ることができない。  
だから彼女は気付けないのだ。  
落ち続けるはやての周りに爆弾生物がいるのだということに。  
気が付かず、自分から爆弾の群れに必死に手を伸ばす。  
落下を続けるはやてまであと少し。  
もう少し。  
届いた!  
だけど、ここまでだった。  
届いたのは、その『手』だけだった。  
アルフの身体も頭も、本人が気付かないうちに爆破されて粉微塵に吹き飛んでいた。  
意識が崩れる間もなく、彼女は塵へと還った。  
残ったのは千切れた腕。  
でもその手は決して離すまいと、掴んだはやての袖をぎゅっと握りしめ  
宵闇に染まる日通の集配所講内へと、一緒に落ちていった。  
 
 
「はぐ・・・ぅっ!!  ひ・・・ぎ・・・!」  
ひとしきり叫び終えて、少しばかり落ち着いた。  
なのはは今、ヨドバシカメラの近くまで来ていた。  
スカイビルからはやや距離があるものの、あのふざけた格好の相手に見つからずにここまで来られたのは  
JR貨物路線の下を横切る、長い長い長い地下通路のおかげだった。  
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・くぅっ」  
打ち抜かれた傷に魔力を集中。  
回復させる。  
ユーノやシャマルのように得意ではないが、表面の傷口ぐらいならなんとか塞げる。  
後で管理局で完全に治してもらおう。  
なのははそう思った。  
だけど彼女は知らないのだ、管理局本局がもう既に壊滅してしまっているということを。  
 
とりあえずの応急処置。  
傷を塞ぎ終えたなのはは、出口を目指す。  
現在工事中のここは、もとの通路とは大きく道が変わってしまい  
以前は場外馬券場の袂に出てきたのだが、今ではよくわからない場所に出てくるようになってしまっている。  
傷だらけのなのはに、声を掛けてくれる親切な大人達もいたが、それらをすべてお断りして  
途中で折れたスロープをゆっくりと上がる。  
巻き込みたくはないからだ。  
 
けれども荒い呼吸をどうにか整え、登り切ったその先。  
ヤツは、そこにいた。  
腕組みをして、工事中の白い壁にもたれ掛かったフリフリの衣装。  
見間違えるはずもない。  
戸愚呂ちゃんと名乗った、あのふざけた男だ。  
「ねえねえ、何あれ?」  
「やだ〜〜〜w」  
「目を合わせない方がいいよな」  
通行人で犇めく地下通路。  
好奇の視線。  
だけど彼は気にしない。  
悠然となのはが出てくるのを待ちかまえていたのだ。  
どうやら、怪我が治るのを待ってくれていたらしい。  
「・・・・・・・お礼を言うべきなのかな」  
魔法のデバイスを構え治す。  
「ふっ、もう少し待っててやってもいいが?」  
サングラスの向こうに浮かぶは、余裕の笑み。  
カチン、ときた。  
その余裕を、後悔させてやる。  
心の中で呟き、再びなのはたちは大阪の夜空へと舞い上がった。  
 
 
「けけけけっ、弱ぇ! 弱ぇぜ、嬢ちゃんよっ!!」  
戸愚呂の兄・挫苦呂から放たれる幾本もの濡れタオル。  
その数は、雨アラレ。  
「おらおらどうしたっ、よけてばっかじゃ、オレは倒せないぜ?」  
濡れタオルの数が多いので、避けるのが精一杯。  
反撃の隙がない。  
ならば離れて攻撃を。  
一度取り落としてしまったバルディッシュ。  
だけども、二度は離さない。  
喉まで込み上げたゲロは、胃の中にそっと沈めて。  
フェイトは後ろへ飛ぶ。  
挫苦呂から離れる。  
「おやおや? ・・・・・って、逃げる気かよっ! 待てコラぁ!!」  
追ってくる挫苦呂。  
だけどスピードはそれほどでもない。  
あっという間に引き離す。  
(これなら、なのはと相手を代わった方がよかったかな)  
遠距離からの砲撃魔法ならば、なのはの方が得意。  
それに彼女の相手は近接戦闘タイプ。  
すこし、心配だった。  
 
「シュート!!」  
カードリッジを一回ロード。  
20発もの光球がなのはの周りに出現し、掛け声と共に飛んで行く。  
「ふっ、効かんね」  
あるものはかわし、またあるものは戸愚呂の手にするものに弾かれる。  
彼の手にある魔法のデバイス。  
それは野球のときに使われるバットに良く似た形状をしていた。  
しかし似ている、というたげで絶対的に違う点がある。  
無数の刺がびっしりと付いているのだ。  
そのデバイスの名は、エスカリボノレグ。  
備わる機能はシャマルのクルアールビントと同じ「回復」。  
とてもそうは見えないが、彼が「ぴぴる」で始まる呪文唱えると死者すら蘇らせてしまう。  
何故彼にこんなものを持たせているかというと、すぐに相手を殺し潰してしまうからである。  
全力全開の手加減なしで戦に臨みたい、それが戸愚呂の切なる願い。  
それに彼は元々高い魔力を持っているので、デバイスの補助を必要としないのだ。  
「今度はこっちの番だな、ハァァァァァッッ!!」  
両の腕を前へと突き出し、手のひらに魔力を集める。  
生まれる大きな魔力塊。  
戸愚呂はエスカリボノレグを握り締めると、野球のバッターの要領で出現した魔力の球を思いっきり打ちつけた。  
「戸愚呂ショットガン!!」  
カキンッ  
なかなか小気味の良い音がした。  
だがトゲトゲバットで打たれたそれは、塊のまま飛ばずいきなり炸裂した。  
小さな光の礫(つぶて)。  
なのはに魔力の散弾が浴びせられる。  
スカイビルの上で喰らい、肩と足に穴を開けられた技だ。  
『プロテクション・パワー』  
カードリッジを一発ロード。  
先程は油断したが、次はない。  
ブーストアップされた魔法の盾が、戸愚呂の散弾を全てはじき飛ばす。  
「ほう・・・・なかなかやるねぇ」  
相手の歯ごたえに笑みを見せる。  
「ならば、その強さに免じて60パーセントの力で闘ってやろう」  
ちなみに、今までは40パーセントだった。  
「・・・・・・?」  
何のことだかわからないなのはは、相手の出方を伺う。  
油断のならない相手だ。  
ひょっとすると、とんでもない大技が出るかもしれない。  
 
レイジングハートを握りなおなす。  
そして、彼女は見た。  
世にもおぞましい光景を。  
「―――――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」  
赤色の薄い燐光を放つオーラが立ちこめたかと思うと、戸愚呂の全身が膨れ上がる。  
魔力やそれらの類で大きくなっているのではない。  
筋肉で身体が隆起しているのである。  
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」  
地獄の底から響いてくるような唸り声。  
そしてまさに光景は声と同じく地獄そのもの。  
まず、フリルがいっぱい付いた上着が、胸元から音を立てて破けた。  
ビクビクと躍動しまくる大胸筋。  
滲み出る漢の汗。  
筋肉の臭いがここまで漂ってきそうだった。  
続いてスカート。  
横のホックが一瞬で弾け飛ぶ。  
ハラリと上空を吹き行く風に舞い、その下にあるビキニの黒パンツが露わになる。  
 
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!」  
さらに力を入れる。  
筋肉が踊り狂う。  
すると。  
ブチブチッ!  
布地がはち切れる音がした。  
現在、上下の服の破れた彼が身に纏っているのは黒いビキニパンツのみ。  
下着の両サイドのゴムが切れたのだ。  
風が吹く。  
最後の布地が宙を舞う。  
象さんが見えた。  
しかもその象さんは戦いのあまり興奮したのか、勃起していた。  
天を突く、巨大な男性器。  
なのははそれを見た。  
「・・・・・・・・・・・・・・///(赤)」  
頬に朱が刺し、固まってしまった。  
「ふぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・・・」  
戸愚呂のウォームアップが完了する。  
全裸だった。  
しかも勃起していた。  
なのはは、固まって動けない。  
父親のオチンチンは今まで見たことはあったが、あんなにも充血して大きいものではなかった。  
ブリュンッ ブリュンッ  
勃起が風に揺れる。  
「ぁ・・・・ぅ・・・・ぁぅ・・・ぁぅ・・・・」  
なのははどうしていいのかわからなかった。  
目を覆いたかったが、だけど見えないと戦えない。  
でも相手を見ると、どうしてもその部分へと目がいってしまう  
「待たせたな」  
全裸でエスカリボルグを握りしめる戸愚呂からは、湯気が上がっていた。  
右手で持ったそれを左の手のひらでパムパムと叩き、構えた。  
「続きといこうか」  
言うが早いか、一気に距離を詰める。  
近接戦を仕掛けるつもりだ。  
「うわわっ、こないでぇぇぇ〜〜〜〜〜っ!!」  
マッチョで全裸。  
股間に巨砲。  
正直、なのははこんな相手とは戦いたくないと思った。  
 
「この辺で、いいかな」  
眼下に流れるは、二本の川。  
丁度、中之島図書館の辺りだろうか。  
何年か前に外装の修繕を終えた、旧時代的な建築物。  
挫苦呂とは十分な距離。  
ここまでは、濡れタオルも届きはしない。  
後ろを振り返る。  
追ってはきているようだ。  
「・・・・・やっと止まりやがったか。 そこ動くなよ、今串刺しにしてやるぜっ」  
何かを懸命に喚き散らしているようだが、ここまでその声は届かなかったし、聞くつもりもなかった。  
瞳を閉じ、魔力を集める。  
浮かんだままのフェイト。  
足下に広がる、まばゆい光の魔法陣。  
「アルカス・クルタス・エイギアス・・・・」  
ルーンの低い呟き。  
三度、ロードを繰り返すカードリッジ。  
上から下へ、下から上へと鳴り響く魔力の雷。  
「フォトンランサー・ファランクスシフト」  
フォトンランサーの一点集中高速連射技。  
ギィゥン  
空間の軋む音。  
周囲に産まれるは、無数のエネルギーボール。  
雷光を纏いながら浮遊する玉は徐々に膨れ上がり、内包される破壊力はその大きさに比例する。  
追ってくる挫苦呂に視線をチラリ。  
だいぶ近くまで来ていた。  
十分射程距離内だ。  
なのはの時とは違いバインドは掛けてはいないが、もう逃げることはできない。  
「ゲッ!!  しまった、ワナか!?」  
とかなんとか言ってるが、もう遅い。  
魔力は十二分に高められている。  
「撃ち貫け、ファイア!!」  
慌てふためく目標を指し示し、力ある言葉で解き放つ。  
本日、大阪梅田−淀屋橋を行き来する人々は流星を見ただろう。  
光り輝くいくつものフォトンスフィアが、虎の穴梅田店の上空で固まる挫苦呂めがけて飛んでゆく。  
「ウゲェッ!!」  
妙な悲鳴。  
それが、彼の最後の言葉となった。  
ギュギュギュウウウゥン――――――――――・・・・・・・・・‥‥‥‥……………   ―――ゴガウゥンンッッ!!!  
最初に固まって浮いていた7発が命中する。  
続いて8発目から14発目。  
今日の彼はモテモテだった。  
次々と相手の方から擦り寄ってくるのだ。  
カッ――――ズドゴオオォォォンンンッッッ!!!  
残り24発のエネルギー弾全ても殺到し、結局、挫苦呂は大阪の空に爆ぜ消えた。  
 
「イヤぁ〜〜〜っ、こないでってばぁ〜〜〜っ」  
情けない悲鳴。  
迫り来る全裸の筋肉男から逃げ惑う。  
「ふっ、逃げるのかね?」  
当たり前である。  
相手が何故逃げるのか。  
本人はまるで自覚していないようで、全裸のまま執拗になのはを追い回す。  
「(・・・・・いや、これはコイツなりの戦い方なのか)」  
いや、違うと思うのだが。  
ともかく、妙な勘違いをしたマッチョは先手必勝とばかりに仕掛ける。  
「戸愚呂ショットガン!!」  
先程と同じ技。  
光の散弾が逃げるなのはの背に飛来する。  
『フラッシュムーブ』  
小さな、しかし貫通力のある礫が当たる直前、なのはの身体が掻き消える。  
短距離の瞬間移動。  
だが射程範囲外への離脱には十分だ。  
防御より回避。  
その方がカードリッジの消費もなくてすむ。  
「ちょこまかと!!  ならば・・・」  
戸愚呂のスピードが増す。  
なのはとの距離が詰まる。  
近接戦に持ち込むつもりだ。  
逃げる少女に覆い被さる大きな影。  
「―――はっ!?」  
気付いて振り返る。  
そこには全裸の戸愚呂。  
目の前には、象さん。  
「や〜〜〜〜ん!!」  
思わずレイジングハートで『象さん』を殴りつけてしまう。  
めきょっ  
なかなか愉快な音がした。  
「うぽぇっ!?」  
形容しがたい悲鳴。  
形容しがたい痛み、痛み、痛み。  
戸愚呂は悶絶しながら落下した。  
ヒュゥ――――――――――――――――・・・・・・・・・・・‥‥‥‥‥‥‥……………   ――ドゴォンッ!!  
阪急電鉄の高架。  
梅田と中津を繋ぐ、戦時中からある赤茶けた鉄橋に落下する。  
防御も何も無し。  
百数十メートル上空からの自由落下による衝撃。  
いくら真横に大きな病院があるとはいえ、これでは助かるまい。  
普通の人間ならば、の話ではあるが。  
 
爆煙が晴れた後には、何も残ってはいなかった。  
「はぅ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・やった、かな・・・?」  
荒い息を吐くフェイト。  
この技は結構堪える。  
カードリッジで魔力を補っているとはいえ、大業にかわりはないのだ。  
「はぁ、はぁ・・・・・・」  
額の汗を拭う。  
だけど休んでいる暇はない。  
敵はあと、二人いる。  
「・・・・・・・・っ?」  
どちらの加勢をしようかと逡巡しているうちに、ふと違和感を覚える。  
なんとなく・・・・・・自分の周りが・・・  
そう思った瞬間、考えも纏まらないうちにソレは来た。  
『ディフェンサー』  
先に気付いたのはバルディシュ。  
とっさに魔法の障壁を張ってくれたが、いささか力が足りなかった。  
ドンッ、ドドンッ、ドゴォンッ!!!  
直撃こそは防げたが、衝撃は免れない。  
フェイトの周囲が、いきなり爆発したのである。  
「う・・・ぐ・・っ、これは・・・」  
一瞬、何が起きたかわからない、といった表情で辺りを見回し  
フェイトはそいつを見つけた。  
頭に羊の角を生やした長身の男。  
手には特殊警棒のようなデバイス。  
差婆徒ちゃんである。  
「くっくっく、よく気づけたな」  
差婆徒が手をかざす。  
ズドムッ!  
「ぁぐっ!?」  
いきなりフェイトの左肩が爆発した。  
「驚いてるな。 まあ、無理もないか」  
マスクで覆われた顔を笑いに歪め、  
「・・・じゃあ、こうすればわかるかな?」  
フェイトの周囲に、無数の何かが現れる。  
丸いものや、円筒形のもの。  
様々な形の何かが、彼女の周囲に浮いていた。  
「爆弾だよ。 オレはな、爆弾生物を自在に作り出せるのさ」  
その言葉に呼応したかのように、周りの爆弾生物たちが『けけけけ』と笑った。  
 
「く・・・・・・・っ」  
囲まれていた。  
逃げ場はない。  
どの方向に飛んでも、爆弾にぶつかる。  
見えないときはそうでもなかったが、相手の姿が見えるようになると逆にそれが恐怖になる。  
自力でどうか・・・は難しいだろう。  
だけどなのはか、はやてが気付いてくれれば・・・・  
他力本願ではあるが、共に闘う仲間の顔が脳裏をよぎる。  
「じゃあそろそろ、お別れだ・・・・・っとその前に、助けを期待しても無駄だぜ?」  
フェイトの考えを見透かしたかのように、差婆徒ちゃんは言った。  
「白い服のは戸愚呂と闘ってる。 残りの二人は、もうここにはいない」  
「!?」  
驚き、爆弾男を見る。  
 
「犬耳の方は始末したし、ベレー帽の羽根付きのやつはすでにオレたちのアジトに転送済みだ」  
「な・・・・・そんな!!」  
彼の言葉に唖然。  
アルフが・・・・・・死んだ?  
はやても連れ去られた。  
頭がとっさに理解出来ない。  
理解したくない。  
「そっ、そんなの・・」  
嘘だっ!!  
そう叫ぼうとした。  
だけど言葉は最後まで続かない。  
差婆徒が人差し指でチョイと指示しただけで、黒衣の少女を囲む爆弾が一斉に牙を剥いた。  
「はっ!?」  
『ディフェンサー』  
バルディシュがとっさにシールド魔法を張ったが、それも焼け石に水。  
カッ!!!  
フェイトの周囲が光り、次の瞬間。  
ゴカガウゥンンンンンッッッッ!!!!  
眩しさの中で空気が爆ぜ割れた。  
「ぐぁ・・・っ!!   ・・・・ぅ・・・・・・」  
数十個もの爆弾の直撃。  
光と爆煙。  
傾ぐ身体。  
あちこち破れた黒いバリアジャケット。  
流れる赤い筋が幾つか。  
だけど手にはバルディシュが握られたまま。  
耐えた。  
こんどは、離さなかった。  
「うう・・・・・」  
空いてる左手で右肩を押さえ、額から血を流しながら片目を開ける。  
だが、今し方まで差婆徒がいたところには、誰もいなかった。  
「く・・・どこ・・!?」  
辺りを見回す。  
「ククッ、ここだよ」  
耳元で声がした。  
背後に気配。  
敵は真後ろだった。  
「な・・・ぁがぁっ!?」  
バヂバヂバヂヂヂィィッッッ!!  
破れて煤だらけのバリアジャケットの脇腹にめり込む、円筒形の細い金属。  
魔法のスタンロットデバイス・ドゥリンダノレテである。  
その金属の棒から放たれるいくつもの紫電。  
小さな雷竜は満身創痍のフェイトの身体を瞬く間に舐め付くし  
「安心しろ、拉致り殺したりはしないから。 ただちょっと、うちの博士の実験に付き合ってもらうだけさ」  
霞む視界。  
差婆徒の囁きが薄れ行く意識の中で響き渡り、思考が途切れた。  
気を失ったフェイト。  
それでも、手はバルディシュを握ったまま。  
決して離さない。  
「おやすみ、子猫ちゃん」  
気絶したフェイトのツインテールの片方を掴んで支え、マスクの中の顔がニヤリと笑った。  
 
 
―――――――――――――――――――――――――  
 
気が付くと、フェイトは触手の檻の中に囚われていた。  
(ん・・・・・・・ここは・・・)  
まだ、意識がハッキリしない。  
周りに大勢の人の気配があることだけはわかったが。  
「はひゃあああっ!!  あっ、あぅんっ、はぅん♪」  
皆、しきりに何かを・・・支離滅裂な、言の葉とも呼べないような何かを叫んでいた。  
「あ、あかんっ、はひ・・イ♪  あかんって、んぁ! わたし今・・っ、イッたばかりやのに・・ひん!」  
(あ・・・・この声、はやてだ。  よかった、無事だったんだね)  
無事ではなかった。  
「あっ、ああ〜〜〜〜っ♪  そんなに・・っ、掻き回さんといて・・・ひ♪ やっ! ア〜〜〜〜〜っ!!」  
股の間で蠢く触手。  
奥までズッポリ。  
太い肉の管は、素っ裸に剥かれたはやての秘洞にとミッチリ詰まり、奥の壁穴を押し開いて子宮の中でトグロを巻いていた。  
「やめ・・・っ、あかんて、あっ! あっ!  そんなんまた・・・・ひゃああぁぁっ!!!」  
ドプッ!!  
また、はやての子宮の中で射精が始まる。  
びゅっ!! ドピュッ ブビュびゅびゅびゅびゅぶびゅぶぷびゅぷぷびゅびゅっ!!!!  
「ふゃああぁあぁぁっっ!?!?!?  ア―――――ッッ!!!」  
拡張された子袋の中が、種付けのための粘液で満たされてゆく。  
ブュクッ!! びゅ―――っ! びゅう――――――――!!  
「熱っ・・っ! も、あかん・・・また、またイッてまうっ!  はぅぅ・・・ふぁあああああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っっっ!!!!」  
絶頂。  
これで、いったい何度目になるだろうか。  
小さな身体をガクガクと震わせ、はやては快楽の頂きに押し上げられた。  
ビュッ!!  ビュクッ! ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ・・・  
「はひ・・・も、お腹・・・いっぱい・・・・・無理や、これ以上はぜったい入らへん・・ひぅっ!!」  
ぽっこりと、まるで妊婦のように膨らんだはやての腹部。  
彼女もすでに妊娠していた。  
といっても、中にいる胎児の育ち具合は外からの見た目通りというわけではなく  
膨らんだ部分のほとんどは母体の安全面を考慮した親切な触手が、子宮拡張のために入り込んだものなのだ。  
受胎してから2時間たらず。  
幼生は、まだほんのビー玉ぐらいの大きさだった。  
ちなみに、ここの触手は受精してから24時間で大きく育ち、生まれ落ちる。  
爆発的な発育。  
ゆえに明日の今頃は、はやても出産を経験することになるだろう。  
そして、フェイトも・・・  
「ぅ・・・・あ!?  ぅああぁっ!?!?  な・・・・なに、これ・・・!?」   
ようやっと、眠り姫のお目覚めだ。  
意識をはっきりと取り戻したフェイトが見たもの。  
それは目の前で恥ずかしげもなく媚態を晒すはやてや、見知らぬ女性達。  
なにより、彼女が恍惚とした表情を浮かべながら受け入れてるのと同じモノが  
自分の股ぐらにもブッスリと刺さっている光景。  
お腹もポッテリ妊婦さん。  
でも、不思議と痛くはなかった。  
そして。  
「ひっ!? や! あ! あ! ああっ!?  あぐ・・・ゃ、やだ・・・はぁ、あぅぅぅ〜〜〜っ!!」  
今まで味わったことのない、未知の感覚がフェイトを襲った。  
気絶してる間に他の女性同様、毒は注入済み。  
もちろん魔力の強い人にはより強く、そうでない人にはそれなりにを心がけ  
こじ開けた粘膜部に小さな無数の牙を立て、体表の媚薬成分もいっぱい塗り込めておいたのだ。  
快楽の毒素はとっくの昔に全身へと回っている。  
気絶している間に、すでに仕込みは終わっているのだ。  
目の前の親友と同じように、自分の股座でビチビチと蠢く触手を唖然と見つめながら  
身体の奥からジワリ・・と染み出してくる何かに、フェイトは歯を食いしばって耐える。  
 
「くふ・・ぅっ!  ン・・・・・っ・・・・っっ!   ひふ・・・ぅっ!」  
実はというと、彼女もまた妊娠させられていた。  
ドゥリンダノレテで気絶させられ、意識のないまま触手たちに絡まれ孕まされたのである。  
正直、フェイトを身籠もらせるのには少々手間取った。  
なんと言っても彼女は人工生命体。  
肉体機能は人間とほとんど同じでも、遺伝子情報は若干異なる。  
ゆえに、触手の方もそれに合わせて自らの精子を変化させる必要があったのである。  
そのおかげか、今ではフェイトの卵子との相性はバッチリ。  
いっぱつ受精。  
妊娠率100パーセントなのである。  
当人にとっては、迷惑この上ない話ではあるのだが。  
 
「は、離してっ、んっ!  く・・・この・・・あっ!?  はぁ・・・いゃ、あぅぅんっ!」  
なんとか自分の股の間から引き抜こうと全身を揺するが、まったく効果はなし。  
それどころか捕らえた雌が悦んでいるのかと思い、サービス精神旺盛な触手はより一層、激しくはしゃぎ回る。  
「あひんっ!?   やめ・・・アッ! 動いちゃ・・・ふゃああああぁぁっ!!」  
グリグリと、お腹の内ら側からヘソへの刺激。  
半裸に剥かれた身体を激しく悶えさせる。  
今のフェイトの格好は、バリアジャケットの手足の部分を残したまま、残りは丸裸。  
育つ前の胸も、産毛すら生えていない秘部も晒した状態。  
いわゆるオマンコフォームというやつである。    
丸見えになった幼い割れ目に食い込み、触手はグッチョ、グッチョと定期的な律動を繰り返していた。  
「はぅ・・・!  抜いて・・・っ!! え・・?  な、なに・・アッ!?  ひゃふぅっ!?」  
穴を埋める触手の他にも、数本の触手が絡みついてきた。  
あちらこちらに怪我を負ったフェイト。  
今伸びてきた触手は、彼女の傷を癒すため。  
触手たちは先端部から舌を伸ばして、傷ついたフェイトの柔肌を舐め始めた。  
ペロ、ペロリ・・  
「や・・・!  くすぐった・・やめ・・っ!」  
凝固した血液へと伸びる、蛇のそれのように割れた先端部。  
暖かくも柔らかな舌が舐めくすぐり、固まっていた血は次第に溶けてゆく。  
やがてその下に傷口が見えた。  
赤く擦り剥いたり切れたり、少し抉れているところもあった。  
見るからに痛々しい。  
触手はそんな彼女の怪我を慈しむように、傷口にそっと舌を這わせる。  
ペロ、ピチャピチャ、ペロペロペロペロ・・・  
「ひゃぅっ!?  や・・・ん!  舐めないで・・あぅ・・・・・くぅん・・っ!!」  
優しく、優しく。  
いたわるように。  
フェイトの傷口を慰める。  
ペロペロペロ、チュ、ペロリ、チュ、チュピ・・・  
「や・・だめ・・ぁ、だめぇっ!」  
この少女の傷が癒えますように。  
治りますように。  
「ぁふ・・・あ〜っ!  ら・・め、舐めちゃ・・・ヤ・・・っ、はぁぁぁ〜〜〜っ!」  
優しい触手たちは、心を込めて一生懸命舐めたおした。  
 
「はふぅ・・・ンッ、あ! ああ〜っ!」  
甘く、切なげな声。  
フェイトの傷口を唾液で消毒し終えた触手は、次に彼女を絶頂へと導こうと本格的に動き出す。  
まずは性感帯の把握。  
母体が感じれば感じるほど、強い子を孕んでくれる。  
そんな気がする。  
だから胎内の管をくねらせ、彼女の最も感じる場所を探すのだ。  
ウネ・・ウネウネウネ、ウネリ・・・  
先端部や管状の胴体を駆使して探りを入れる。  
「ひぅんっ!?  ひゃああぁっ!!  あふ・・・ぁくぅ・・! ひっ!?  ひぃぃん♪」  
フェイトの身体が、内側から与えられる快感に硬直する。  
入り口、膣内、最奥、子宮。  
様々な場所で、色々な動き。  
決して人間では真似のできない、独特の攻め方。  
「ア―――――ッ!  ふわぁあ―――――――!!」  
よほど気に入ってくれたのだろう。  
目を見開き、涎を飛ばしながら悦んでくれた。  
「こんな・・・っ、こんなの・・らめ・・・・おマタが・・お腹がぁ、ふああぁんっ♪」  
ゾクゾクと背筋を震わせ、生まれて始めての性感に酔いしれる。  
女の悦びに酔いしれる。  
 
ニチニチ、ニチュニチュ、ヌルヌル・・ヌリュッ、ヌルリ、ヅプヅプヅプヅプ、スリスリスリ〜〜〜  
「ひゃめへっ、あ! く・・ふぁああんっ♪ あ♪ あ―――――っっ!!」  
ぱっくりと肉管をくわえ込んだ膣口をニチニチ、ニチュニチュ。  
新鮮で柔らかな膣内を、若い襞をヌルヌル・・ヌリュッ、ヌルリ。  
膣奥から子宮への入り口をヅプヅプヅプヅプ。  
大事な大事な、子供の宿る袋の中をスリスリスリと頬ずり。  
「へあ・・・・ぁッ♪  らめ・・・おかひくな・・ぁあああぁぁあぁ〜〜〜〜〜〜!!」  
呂律の回らなくなったピンク色の舌を突き出し、ビクッ、ビクンッと不規則な痙攣を繰り返す。  
絶頂を迎えるのも、時間の問題だった。  
「やぅ・・っ、なに・・・? ふぁ・・・?  なにか・・んあっ♪ 来るの〜っ」  
快楽の極みが、すぐそこまで迫っていた。  
それを感じ取ったのか、触手たちの動きがさらに激しさを増す。  
胎内で優しく暴れる触手の他にも、傷口を舐めていたものが  
アヘ声を上げながら悶える少女の感じてくれそうな箇所へと移動する。  
あるものは、淡い桜色の胸の頂きに。  
またあるものは、前の穴と後ろの穴の間の陰部に。  
クリトリスに。  
耳朶を甘噛み。  
おへそをコチョコチョ。  
色々な場所を責め立てる。  
「ひゃん♪ はんっ♪  あっ、あっ、あっ、あっ♪ ふぁああぁあぁ〜〜〜〜〜っ!!」  
股の付け根のおちょぼ口が、極太を美味そうにくわえ込んだままヒクヒクと震えだす。  
狭い肉の道が、きゅうううぅぅ〜〜〜っと締まった。  
「くる、っ♪ ア!  なにか、くりゅの・・・ふぇ・・あ? あっ! ふあぁあっ・・・  
 はあああああああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」  
産まれて初めて味わうアクメ。  
頭の中で何かが弾け、視界が真っ白になる。  
フワフワと意識が浮つき、意識が身体から切り離されたかのような感覚。  
フェイトはガクガクと腰を、全身を震わせ、果てた。  
 
「―――――――〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!  ・・・・・はぁっ・・・はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・」  
荒く熱っぽい呼吸。  
鋭く、激しかった波の頂点が過ぎ去り、あとに残るは甘く緩やかな余韻。  
その心地の良い感覚に身を任せていると、再び触手たちが動き出した。  
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・ひあっ!?  あ・・・また、あ! あっ、はぁぁぁああんっ♪」  
フェイトに絡みつく全ての触手が、示し合わせたように一斉に。  
活動を再開する。  
入り口を、膣を、奥を、子宮を。  
乳首を、ヘソを、脇の下を、肛門を。  
そしてクリトリスや、尿道にも。  
感じる全ての、ありとあらゆる場所を同時に再攻撃。  
ひとたまりもなった。  
「ぅあああっ!?!?  は・・・あ! ふぁぁあああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」  
一度目の余韻が覚めやらぬ中、すぐに二度目の絶頂を迎えた。  
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!  ぁ・・・れちゃ・・漏れちゃ・・・ふぁぁ・・っ!」  
チョロッ、チョロロッ ポチョチョチョチョチョ〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・  
そして失禁。  
堪えることなどできなかった。  
ピチャッ、パシャパシャパシャ・・・・  
黄金色の液体は放物線を描きながら前面へと飛び、触手たちの生える肉の床を濡れ散らかした。  
「ん・・・・!  ゃぁ・・・・・いやだぁ・・・ひんっ」  
気持ちよさと恥ずかしさに、顔は真っ赤っかだった。  
そして触手は、さらに少女に快楽を与え続ける。  
今しがたの行為をもう一度。  
入り口を、膣を、奥を、子宮を。  
乳首を、ヘソを、脇の下を、肛門を。  
そしてクリトリスや、尿道にも。  
繰り返し繰り返し責め立てる。  
「や・・・っ!  も・・アッ! くぅ〜・・・ン!  ・・・はぁあああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」  
すぐにまた、三度の絶頂が訪れた。  
今度はもう膀胱に何も溜まっていなかったのか、失禁することはなかったが  
かわりに極太の触手をくわえ込んだアソコから潮を噴いた。  
プシィィッ! プシュッ、ピュュッ  
「はあ・・・、はぁ・・・・、はぁ・・・・ふぁんっ♪  ぁ・・やら、また・・っらめぇ・・♪」  
立て続けにイカされたフェイト。  
だが触手たちは、まだまだ元気だった。  
各々が鎌首をもたげ、あるいは新しいが寄ってきて、またもやフェイトの敏感な部分を刺激しだす。  
「やへ・・やへてぇ・・・や、へぇあぁあぁあああああぁぁぁっっ!!!」  
茹でられたかのように真っ赤な顔。  
焦点の合わない瞳。  
頭の中は真っ白。  
これで4回目。  
けれど触手たちの動きは止まらない。  
「くるうぅ〜っ!!  あ―――――っ! ふぁあんっ!! ひぁああぁ〜〜〜〜〜っ!!!」  
5回目。  
6回目。  
7回目。  
「へあ・・・あっ♪  ひゃあああぁっ!!!  ア――――――――ッッ♪」  
11回目。  
12回目  
「ひ・・ぃん♪  ンン〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」  
26回目。  
「・はぁ・・・・あ♪  えぁ・・・ア―――ッ♪  ひはぁあ〜〜〜〜〜っ!!」  
−−回目。  
まさに、イキッぱなしだった。  
繰り返されるアクメに、もう本人も何を口走っているのかわからなくなっていた。  
 
陶然とした表情。  
性についての知識が皆無だった9歳の少女が浮かべる、セックスに浸りきったオンナの顔。  
「ア――――!  アア――――〜〜〜〜ッ!!」  
イカされ続けるフェイト。  
口から漏れるのは、もう雌のヨガり声だけ。  
もはや理性など欠片も残っていなくて、自分が何をしていたのか、何をすべきだったのか  
そして友人がピンチに陥っていることすらも、快楽に塗りつぶされた彼女には  
もうどうでもよくなってしまっていた。  
 
 
「・・・・ふむ、この娘も種漬けに成功したようじゃの」  
画面の向こうでヨガり鳴くフェイトの姿を微笑ましそうに眺め、白衣の老人は中空に浮いた別のホログラム映像に目を移す。  
その中では、未だなのはが戸愚呂と闘っていた。  
「なかなか手こずるのぅ。 頼んだぞ戸愚呂よ、儂の実験にその娘のように高い魔力を持つ者は、必要不可欠じゃからな」  
言って、少し渋い顔をする。  
「はぁぁんっ!  お、おねがい・・・あ! また、また産ませて下さい〜っ!  あっ!? あは〜〜〜〜っ!!」  
その後ろでは、触手椅子に雁字搦めになったエイミィが蕩けきった雌の声を上げていた。  
「はぁ・・・ああぁっ!  なんでもしますぅ〜、なんでもしますからっ、また、あ! ア〜〜〜〜〜〜ッ♪」  
一度、妊娠・出産を経験させられたエイミィ。  
陣痛と破水が始まり、子宮が開いて産道から子供を産み落とす。  
本来ならばもの凄く苦しく、恥も外聞もなく泣き叫んでしまうぐらいの痛みを伴うものなのだが  
触手から分泌される毒のおかげで、すでに痛覚は全て快楽に置き換えられてしまっていた。  
ゆえに痛ければ痛い程、彼女たちは狂おしい程のイケナイ悦びを覚えてしまうのだ。  
それがクセになってしまったのか、再び子を孕ませて貰おうと側にいる老人に  
エイミィは嬉し涙を流しながら必死に懇願する。  
「・・・・・・ふむ、仕方がないのぅ」  
昨日まではあんなに嫌がっとったくせに、まったく・・・と漏らしながらも  
基本的に優しいこの老人は、パチンと指を鳴らして触手椅子25号に  
彼女を再び妊娠させてあげるようにと、女の幸せを与えてあげるようにと命じた。  
「はひ・・・ひ♪  ぁ・・・ぁぁ・・・ありがとうございまふぁぁあああぁあぁぁあ〜〜〜〜〜〜っっ!!!」  
妊娠させて貰える。  
その言葉を耳にして、エイミィは嬉しそうな、本当に嬉しそうな笑みを浮かべたのだった。  
 
続く  
 

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