俺は今とある南国の島へ向かう為、飛行機の中にいる。
彼女にも振られ、会社でも最近多忙だった俺は
少しでも日本の喧騒を忘れ、時間を気にせず心を癒したい。
その為、貯まっていた有休と貯金を使い南国へ一人旅をすることを決意した。
初めての海外と一人旅で期待と不安の中、ぼーっとしていたが
なんだか、機内が騒がしい。
「お客様、選べるのは一つとなっております」
CAが困った顔で対応をしている。
「やだやだ、肉も魚も食べたいもん♪」
見たところ中学生くらいだろう女の子がだだをこねている。
「ナツ、わがまま言わないの…私のを分けてあげるから」
髪の長い女の娘がたしなめるように言う。
「ぶー…わかった…絶対分けてね、まどか」
子供は頬をぷくぅっと膨らましながらも観念したようだ。
その娘達の周りには親らしき人物は見当たらない。
暇を持て余した俺はその娘達を観察していたが、
どうやら女4人で旅行にいくようだ。
先程の二人に加え、ゴージャス系美人とボーイッシュ系という
なんともバラエティーに飛んだグループだ。
(ちっ…こちとら癒しの為の一人旅っていうのに
コイツラは親の金で学生旅行か?いい気なもんだぜ…)
この時の俺は、実際に俺の心を癒してくれるのは
南国の雰囲気でも時間でもなく、この娘達だということは思ってもみなかった。
長い飛行機の時間も終わり無事に空港に着く。
「ついたー!よーし遊ぶぞぉ、食べるぞぉ♪」
そういいながら、幼さを残す女の子は我先にと
飛行機を降りようとする。
「こらこら、ナツ!走らないの!」
ショートカットの女の子がそういいながら追いかける。
残りの二人はやれやれといった表情でその後をついていく。
俺もその後に続いて降りていくことにした。
飛行機から顔を出した途端、南国の日差しが俺を襲う。
確かに暑いが日本みたいな嫌な暑さでもない。
(よし…仕事の事は忘れてのんびりするぞ〜!)
そう思った矢先だった…
俺の足が何かにとられてずるっと階段を滑り落ちる。
「うぁっ…!」
ドカッ
「きゃっ…!」
階段は残り少なかった為、痛みはそんなにない。
いや、むしろ気持ちいい位だ。
(ん…?落ちてぶつかったのに気持ちいい?)
俺は閉じていた目を開けると、その状況に戸惑う。
左手はウェーブの髪のお姉様の豊満な胸に…
右手は長いストレートヘアの娘の、これまた負けず劣らずの胸を掴んでいた。
「うふふ…積極的なのは嫌いじゃないわよ♪
でも…いくらなんでも早くないかしら…」
お姉様は妖しい笑顔で微笑む。
もう一人の娘は無言でこっちを睨みつけている。
「い…いや…わざとじゃ…」
(や…やばいなこの状況…でも…このボリューム…凄い…)
「い…いつまで触ってるのよ!この痴漢!」
バシッ!!
女の子の平手がヒットし俺の頬に衝撃が走る。
「いてぇ!何すんだよ!謝れよ」
「なんで痴漢に謝らないといけないのよ
そっちこそ、謝りなさいよ」
女の子は、さらにキッっと睨みつけてくる。
「だから痴漢じゃないっての、不可抗力だ…
足滑らしただけだって!」
足を滑らしたのは俺であり、少しは悪いと思ったが
こうも一方的に痴漢呼ばわりされると素直に謝れない。
「こんな階段で足を滑らすなんて、あなた子供?
普通はありえないでしょ…バナナの皮とかあるわけでもあるまいし」
「あら…バナナの皮だわ…」
お姉様タイプの娘が階段部分を指差しながらつぶやく
「えっ…」
「あっ…ホントだ…でも何でこんな所に…」
俺はそう思いながら考えていると、二人の女の子が近付いてくる。
何やらもめているようだ。
「やっと捕まえたぞ…ほら早くきな」
「やだやだ…ナツは悪くないもん」
近付いてきたのはショートカットの二人組だった。
何故かナツという娘は首根っこを捕まえられている。
「いったい、どうしたのですか?」
「どうしたもこうしたもないよ、ナツが階段にバナナの皮を捨てたから、
拾いなって言ったんだけど、逃げるから追いかけてた…
そしたらこんな騒ぎになっちゃってるし…
ほら…ナツ…謝りな…」
そういうとナツという娘は、もじもじしながら俺の前にやってきた。
「ごめんなさい…おなか空いちゃってて…つい…
痛くなかった…?怒ってる…よね?」
俯きながら恥ずかしそうに謝る姿を見て怒る気にはなれなかった。
俺は少女の頭を撫でながら答えた。
「大丈夫、平気平気!全然怒ってないし…
でも駄目だぞ…ポイ捨てしちゃ」
「えへへ…わかった♪お兄ちゃん…ごめんね♪」
少女はハニカミながらペロッと舌を出す。
「いいよいいよ…むしろ謝って欲しい人は別にいるんだけどね」
俺はそういいながら、ストレート髪の娘に視線を移す。
「なっ何よ…謝らないわよ…触ったのは事実じゃない
ほらっ…みんないきましょ」
そういうとその四人組は何処かにいってしまった。
(なんだよ…可愛い顔しやがって…なんか腹立つな…
まあ…いいや…とっとと島にいって昼寝でもしよ)
俺は、空港を出るとバスと船を乗り継いで予約したコテージのある島に到着した。
この島にはコテージを予約した客と、その客相手の商売をしている人間しかいない為、
俗世間を忘れてのんびりするには絶好の場所だ。
俺は一先ずコテージの中で横になった。
日陰の中、爽やかな風が心地好い。
俺はいつの間にか眠りについていた。
…
……
「ふぁ…」
(結構、寝ちまったな…)
目覚めた俺はぼやけた目をこすりながら時間を確認した。
「ん?……やべっ!」
時間はもう夜の9時を回っている。
ここらの店は、全て夜の8〜9時に閉まってしまうと
ガイドさんに注意されたというのに俺のバカヤロー…
俺はすぐさまコテージに備え付けの冷蔵庫の中を確認したが
入っているのは水だけだった。
(初日から飯抜きかよ…)
そう思っていると、肉が焼ける匂いが漂ってくる。
そういえば、何だか外も騒がしい。
おそらく隣のコテージの客がバーベキューをやっているのだろう。
(よりによって…こんな時にバーベキューかよ
俺を狂わせるつもりか…!畜生!)
隣の客は悪くない、悪いのは無計画だった俺だ。
解っていても腹はグーグー鳴りやまない。
しばらく我慢していたがもう限界だ。
俺は恥をしのんで、食材を分けてもらうことに決めた。
コテージを出て、声と匂いがする方向に近付いていく
「すいませーん、食材買うの忘れちゃって…
少し分けて…あっ…」
目の前には空港で会った四人組がいた。
「あーっ、お兄ちゃんだー♪」
少女が俺を見つけると飛びついてきた。
「やあ…また会ったね、えーっと?」
「ナツって呼んで♪お兄ちゃん♪」
「なっちゃんでいいかな?」
「うん♪いいよ♪」
しばらくするとあの生意気な娘が口を開いた。
「痴漢さんが何しにきたのかしら…ほら…ナツ
離れないと悪戯されちゃうわよ」
「なっ…なんだと!」
「悪戯?お兄ちゃん、遊んでくれるの?してしてぇ」
思わず顔がにやけてしまうのを必死に我慢する。
「まどか、そんなこと言わないで今日のお詫びもありますし
一緒に食べていってもらいましょうよ
幸いナツの為にお肉は沢山用意したのだから」
「レイコがそういうなら…」
まどかちゃんはしぶしぶといった顔で承諾する。
こうして、この南国の島での俺と彼女達の夏が始まった。