アニメでティム・フォールナ・プリンシパトゥを成功させた後を暇つぶしで書いてみた  
 
 
「そっか、すももが助けてくれたのか」  
 校庭で目を覚ました俺は、ぬいぐるみになっていたことを知った。ユキちゃんになって寝ていただけの俺は、初めに聞いた時は信じられなかったけど、ただのぬいぐるみになってしまっていたことは本当のことだった。  
 すももが時間を戻したそうだが、それも俺は信じられなかった。つくづく、フィグラーレの力はとんでもないものだと思った。  
 もっとも、時間を戻すという神技はフィグラーレでも常識破りのようで、成功できたのはすももと結城いう二人の逸材が協力できたからだと如月先生は言っていた。  
「すももちゃん、今日一日はおうちに帰ってゆっくり休んだほうがいい。結城さんもね」  
 如月先生がスピニアの二人を見て、学校を休むように促した。二人は夜通しで魔法を成功させたらしい。確かに、すももと結城は疲れた顔をしていた。  
 すももはなぜか俺の様子をちらちらと見ていた。  
「ハル君は学校、どうするの?」  
「俺はどうもないから、休まないけど」  
 そう答えたら、すももは困った顔をしてもじもじしていた。もしかして、俺と一緒に休みたいのかな。  
 おくてな思考回路でぐるぐる考えていたら、八重野が助け舟を出してくれた。多分、しびれを切らしたんだろう。  
「石蕗、今日はすもものそばにいてあげて」  
「でも、すももは疲れてるし、邪魔じゃないかな……」  
「邪魔じゃないよっ」  
 すももは捨てられた子犬のようだった。俺は一ヶ月もの間、ぬいぐるみのまま動かなかった。それが今もすももを不安にさせているのは、考えてみれば当然だ。俺って気が回らないな……。  
「如月先生、俺も休んでいいかな」  
「いいよ。というか、君も休んだほうがいい。現実との時間のズレは間違いなく体に負担を掛けているからね」  
 休みをもらった俺は、今日はすももと一日を過ごすことになった。  
 
 
 俺はすももの家に来ていた。朝、学校から寮に一旦戻り、身支度を整えてからすももの家に来た。今日一日は、俺もすもももここで安静にしていなければならない。それが如月先生の命令だ。  
 家に上がった俺は、そのまますんなりとすももの部屋に通された。もう付き合ってるし当然かと思ったが、俺がユキちゃんだと知られた今、そんなことを気にする以前の問題だと、思い直した。  
 事実、すももの部屋は見慣れたもので、これと言った驚きは無かった。ただ、ユキちゃんの時とは違う視点だけは新鮮だった。座っていてもユキちゃんより高い位置に目線があるからな。  
 いつもは高い場所だったベッドが低く見える。そのベッドの上ですももはパジャマを着てごろごろと転がっていた。疲れてるのに、なにやってるんだ。  
「眠くないのか」  
「眠いけど、ハル君のこと考えたら眠れなくて……」  
「俺、別の部屋にいようか?」  
「そ、そうじゃなくて、うー……ハル君、ユキちゃんだったんでしょ?」  
「う、うん」  
「恥ずかしいところいっぱい見られちゃってたのかな、やっぱり……」  
 
 すももが真っ赤な顔で言うから、俺も思い出してしまったじゃないか。正体を言えなかった理由があったとはいえ、かわいいぬいぐるみとしてすもものプライベートに入り込んでいたんだよなぁ。  
 一緒に風呂に入ったり、ベッドで寝たり、胸でぎゅっと抱かれたり、キスしたり……。マジで犯罪クラスだ。このすももの部屋にいると、嫌でも鮮明に思い出せるところがつらい。  
「ごめん、ずっと隠してて」  
「い、いいよ。ハル君は悪くないし。それに、見られたのがハル君だから」  
 謝ったら、すももが起き上がってあたふたと俺を擁護してくれた。そんなすももを見て、俺はふっと唇を綻ばせてしまった。こんなにころころと表情を変えるすももは学校では絶対に見れない。ここがすももの家だから見れる。  
「俺、すももの恥ずかしいところなんて見てないよ」  
「ほんとに?」  
「うん。ユキちゃんが見たすももは、全部恥ずかしくなかった。よくしゃべって、よく笑って、なんにでも真剣で、やさしくて元気な女の子だった。だから、好きになったんだ」  
 すももはまた顔を赤くして、手に取った枕に顔をうずめてしまった。こんなことを言って俺も恥ずかしい。ちょっとすももから視線を外したら、すももは満面の笑みを浮かべて顔を上げた。  
「やっぱり、ユキちゃんだ。いつも今みたいに私を元気にしてくれたもん」  
「そ、そうかな」  
「うんっ。そうだよ」  
 元気よく返事をしたすももを見て、俺はユキちゃんになっているような錯覚を覚えた。でも、それも悪くないと思えるのはどうしてだろう。やっぱ、すももの素直な笑顔が見れたからかな。  
「もう寝ろよ。相当無理して疲れてるんだろ?」  
「無理してないよ」  
「すももが無理しないはずがないんだ。ユキちゃんだった俺は知ってる」  
 言い返せなかったすももはおとなしくベッドに横になった。  
「ハル君、いつもそばにいてくれて、ありがとう」  
 そう言って布団をかぶったすももは、すぐに寝息を立て始めた。かなり疲労していたようだ。  
「俺こそ、ありがとう」  
 俺は心の底からすももに感謝した。俺はすももから、大切なものをたくさんもらったと思っている。だから、すももを大切にしたいと思っている。  
 俺は、すももの寝顔をずっと眺めていた。すももが目を覚ますまで、見ていたいと思った。  
 
 
おわり  
 

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