『The mirror play PARAKEET』  
 
トントントン。  
ノックは三度。  
 
ここは千里万里子の泊まっている、せまっちょろいビジネスホテルの一室。  
彼女は、政府要人警護のために、ここ四国は高松へ出張していたのだった。  
今日はすでに仕事も終わり、帰り支度を始めるばかりである。  
そんなときに訪ねてくる人間とはいったいだれなのだろう。  
 
…まさか…あたし、なんかやらかしちゃったかな?  
仕事上の緊急の用事かもしれない。うわ、困ったな。めんどうくさい。  
 
「はーい…」  
万里子は、おそるおそるドアの覗き穴を覗き込み、その顔をみて仰天した。  
「…いんこ!?ってか、陽介くん…っ!!!」  
「よ♪元気?って…わわっ」  
万里子は慌ててドアをあけると、いんこを中に引きずり込んだ。  
「…ちょっと!!何考えてんのよ!!  
そのカッコのまんまでここにくるなんて、どうかしてんじゃないの!?  
もし他の人に見られたら…っ!!!!せめて変装するとかしなさいよ!」  
「うわー、訪ねるなりどなりつけるなよ。せっかく近くに寄ったから会いにきたのに」  
いんこはぐちぐちと人差し指をこねくりあわせた。  
 
七色いんこと千里刑事は、未だに刑事とドロボーを続けていた。  
もちろん、彼らの目的は復讐を遂げることだが、まだ、ちょいと、資金が足らない。  
ということで、現在の立場をお互い容認しつつ、相変わらずの生活を続けている、のであった。  
とはいえ、彼女の最近の仕事は、各国要人警護が増えてきており、あまり劇場での接触はなくなってきたのだが。  
 
「…近くって何、またドロボーしてきたの?ていうかここ、近くに劇場なんかないけど…」  
ジト目で問う万里子の質問には答えず、いんこは笑顔を浮かべた。  
「そんなことより、今日で仕事も終了なんだろ?ほら、酒買ってきたから飲もう飲もう」  
「お前は、ひ、人の話を聞いてんのかっ!!」  
怒ってテンション高くどなりつける彼女をよそに、いんこはテレビの下にある小さな冷蔵庫に、ビールやらワインやらなんたらを詰め込み始めた。  
「しかしあれだなー、警視庁の刑事さんが出張で泊まる部屋なのに、まぁしょぼいことといったらないな。狭いね」  
「うっさいわ!!どーせあんたは、毎度豪華なスイートにでも泊まってるんでしょ!  
国家はいま貧窮の危機にさしかかってんのよ、あんたみたいに無駄にゴージャスにしてらんないの」  
めずらしく難しそうな言葉を使う万里子をよそに、いんこはにやにやしながら冷蔵庫のドアをしめ、万里子のほうを向いた。  
 
「いやいやいや、刑事さん、お疲れ様。  
そら、そこの狭いベッドに横になって。マッサージくらいしてあげるから」  
いんこは上着を脱ぎ捨て、手袋をとってわきわきと動かした。  
「…よーすけくん、あんた、なにしにきたのよ、ここに!しかも『狭い』だけ余計だ!」  
いんこは、ひくつきながら問う万里子の肩をつかんだ。  
「まあまあ、はーい、リラックスして〜♪」  
「わっ…ちょっと!…!」  
 
万里子の言葉は完全に無視され、二人、その『狭い』ベッドへと倒れこんだ。  
 
強引にうつぶせにされて、首筋を唇でたどられる。  
「やんっ…っあっ!」  
「ほーら、首、凝ってる」  
「凝ってない…!嫌っ!この…こら、いんこっ!…ぁ…っ」  
台詞とはうらはらに、甘い声を出す万里子の反応に気をよくして、いんこはさらに唇を耳元へと這わせた。  
「あっ…ちょ…と…はぁん…」  
「じゃー、まずは首を揉みほぐしてみましょうか?」  
耳をついばみながら、いんこは手を万里子の襟元から中に潜り込ませた。  
「こらっ!そこは…首じゃない…」  
「あ、そう?じゃー、どこを揉んで欲しい?」  
「どこも揉まなくていいっ…あんっ!」  
さっそく乳房に到達したいんこの手が、思うままに愛撫を開始した。  
「あん…はぁん…っ…!よーすけくん…ちょっとっ…!」  
「そんなにここを揉むと気持ちいいのかい?  
じゃー、ゆっくりサービスしてあげなきゃ」  
首筋を舐めながら、彼の両手が簡単に彼女の服を脱がせていく。  
万里子の上半身を起こし、背後からあらためて両手を胸元へ伸ばした。  
 
「あんっ…やぁ…ん…あん…っ…は…」  
ふにふにと、その質感を楽しむようにいんこの手が動く。  
あまるほど大きな乳房は、指の隙間から柔らかくはみ出し、中心の乳首がツンと立ってきた。  
部屋は明るいので、彼女の淫らな様子が向かいの鏡台に映っているのがはっきりと見て取れる。  
万里子が、焦点のあわない瞳でぼんやりと鏡のほうを向いているのに気づき、いんこも一緒になって覗き込んだ。  
「…やーらしー、自分の姿を自分で見て感じてるの?」  
「っ!違っ…そんな…」  
必死で否定しようとしている万里子の表情を、いんこはひどく気に入った。  
「…ほら、刑事さんのやらしい顔が鏡に映ってる」  
「なんでそんな嬉しそうに言うのよ!」  
「いや、今は正面から見られないからさぁ、鏡のおかげでよく見えて、非常に良いね」  
顔だけではない。いいように形をかえる両房と、耐えるようにシーツを掴む両手。  
そして、膝をあわせてすり合わせるようにしている腰つきと。  
彼女の痴態が見放題、まったくの特等席であるわけだった。  
万里子もまた、そんな自分の姿を見て興奮を抑えきれずにいた。  
なによりも、鏡越しに自分を見ているいんこの視線が、肌を刺すほどで、感じてしまって仕方が無い。  
「あん…ぁん…ん…っ!」  
万里子の肩にあごをのせながら、いんこは彼女の頬をぺろぺろと舐めてみせる。  
鏡のなかで、二人の視線が合った。  
 
マスク越しの彼の目が、す、と細くなって…了解もとらずに彼女のベルトをかちゃかちゃとはずしてしまった。  
「…っは…」  
いんこのきれいな手が、万里子の腹部を這って、下へと降りていく。  
 
万里子は、この瞬間が好きだった。…好きというか、これから与えられるいつもの快感を思い出して、  
本能的な悦楽を感じてしまうのである。  
 
ごく、といんこの喉が動いたのが伝わった。  
 
いんこの指が、ゆっくり、ひどくゆっくりと茂みをさぐっていく。  
花びらをそっとかき分けて、のろのろと割れ目をたどる。  
彼も興奮しているのか、ぴたりと寄せられた頬から熱さを感じる。  
しかし…相変わらずのマスクにかつら、鏡を覗き込んでも彼の表情はいまいち、良く分からない。  
先ほどから意地悪そうな笑みだけが浮かんでいる。  
 
「……もう濡れてる」  
「バカっ……………、あ、そんな、じらさないで、…よ……」  
後半のつぶやくような万里子の台詞に、いんこの下半身が刺激される。  
「淫乱だなぁ、刑事さんは」  
「わざと『刑事さん』って、呼ばないでよっ…バカっ!…」  
「でも、だめ」  
相変わらずゆっくりと、濡れた感触を楽しむようにいんこは指をくぐらせていく。  
「あんた、二週間も出張しっぱなしで(しかも連絡なしだ)、オレ、さんざんじらされたから、今日は刑事さんがじらされる番な?」  
「なっ…っ!」  
しょうがないじゃない、任務遂行中にドロボーに電話かけるSPがどこの世界に居るのよ、と万里子はいいたいところではあったが…  
残念ながらその台詞は、いんこのキスで宙ぶらりんになってしまった。  
 
万里子の穿いているズボンを下着と一緒に器用に下げ、いんこは舌を彼女の口内へと差し込んだ。  
そして指先は、下の花芯をえぐりだし、彼女自身の蜜をそこにたっぷりとぬりつけていく。  
 
「んふぅ…ぅ…ん…んんん…あふっ…っ!!!!」  
 
いんこの舌は、なんの遠慮も無く万里子の舌にからみついた。  
熱をもったぬめらかな感触が、彼女の思考を融かしていくのに加え、  
花芯もゆっくりと、それでいて執拗に弄ばれて、愛液が堰を切ったようにあふれてくるのがわかった。  
「あふ…ひ…あ…」  
 
静かな室内は、万里子の喘ぐ声と、粘着質な音が響く。  
しかし、いんこの指は…彼女の中には進入しようとしない。  
一枚一枚の唇を指の間にはさみ、割れ目を指先でたどりながら、あふれる愛液を、くちゃくちゃ音を立てながら花芯にぬりたくる。  
……そこまでなのである。  
 
「ん…んふ…やぁ…嫌ぁ…………ね…いんこっ…ねぇ…ああんっ」  
「ねぇ、…何?」  
「そんな…ゆっくり…ヤダぁ…っ」  
「ゆっくりは嫌?…まったくもう…やらしいな、刑事さんは…」  
「…っ…っだって…ひ…」  
鏡には、顔を紅潮させて涙を滲ませる万里子の姿が映っている。  
早く快楽を与えて欲しいのか、知らずに万里子の両脚が、まるで腰を突き出すように開いている。  
そこにはいんこの指が蠢いていて…なんとも淫猥な様子が部屋のライトに照らし出されていた。  
 
「じゃ、まず、指。一本め。」  
つぷ、とかすかな音を立てて、いんこの中指が彼女の中へとめりこんだ。  
さっそく、彼女の襞は彼の指を締め付け始める。  
「はぐっ……」  
万里子の腰が、ビクンと跳ねた。  
 
しかし、ここでもいんこは緩慢な動きを見せるだけ。  
中指はこれまたゆっくりと進入していくが、入って行くだけである。  
 
「あんっ…あ…ああ…ぅ…」  
万里子の身体は、もっともっと指が奥へと入るように、腰が宙へ浮いてしまう。  
いんこは、熟れて蜜をしたたり落としている彼女のいやらしい花園が、鏡の前に惜しげもなく突き出される様子を見て、  
さらに興奮を掻き立てられた。  
 
「うわ…なんつー格好。自分で見てみろよ、ほら」  
「…っ…バカっ…っ!キライ…っ!!!」  
「上の口は素直じゃないなー。ま、そこが、かわいいんだけど」  
笑みを止められないいんこは、予告無く指を3本に増やした。  
 
「あぐっ!!!!」  
先ほどまで緩やかな刺激しか与えられてなかった身体に、3本の指が激しく突き上げる。  
ブチャブチャグチャグチャ、先ほどまでとは比べ物にならない大きな水音が、二人の耳へと入る。  
「んぁ…あ…ひ…ひ…あ…っ…っ!!!」  
あまりの激しい動きに、万里子は身体をのけぞらす。  
彼の長い三本の指が、彼女の蜜壷を大きくかき回していく。  
指の骨ばった感触が内壁の奥まで伝わり、万里子の膝ががくがくと震えた。  
締め続ける襞の熱と、蕩けそうな愛液がいんこをさらにかきたてる。  
 
「ひ…ひ…いんこ…あ…や…や…ぃ…い…いっちゃう…っ!」  
ずっとじらされて、待たされた身体は、その刺激をまともに受け取って一気に高みへ上り詰めようとする。  
「…今日は簡単にイかせてあげない」  
いんこは、突然入れていた指を抜き去った。  
「っ!?」  
すっかり絶頂に達するつもりだった身体が急に中途にされて、万里子はつい物欲しげな視線でいんこを見やった。  
 
「そんな目で見るヤツがあるかよ」  
いんこはにやにやしながら万里子を見返した。  
「…!」  
彼女の額は玉の汗が浮かび、前髪が張り付いている。  
とろんとした瞳と濡れた唇。鏡越しで見るのもいいがやっぱり間近で見るのも楽しい。  
「かわいい顔してんなー」  
「……う、う、うるさいっ…!このバカっ…」  
「やれやれ、今日は一体何回バカって言ってんだ?」  
呆れたようにいんこはつぶやくと、急にベッドから降りた。  
 
「…何?」  
「ん?いや、ちょっとね」  
いんこは、床に転がされていた自分のステッキを拾い上げた。  
 
「……何、…?」  
 
万里子の表情がさぁっと変わる。  
いんこは凶悪なまでに万里子ににじり寄った。  
「いま刑事さんが考えたこと、アタリ」  
「…いやっ!!」  
逃げようとした万里子は、もう半拍遅かったらしい。  
彼女の背後から、いんこは万里子の膝を掴んで、あらためて鏡の前で大きく開かせた。  
「……やぁぁぁっ!」  
「そーいう割にはそんなにヒクヒクさせて」  
ぐ、ちゃ、と、いんこは自分のステッキの柄を、彼女の中へ突っ込んだ。  
 
「んんんんんんあああああっ!」  
先ほどの指と違い、冷たい無機質な感触。  
「やだ、やだ…や、め、…」  
万里子の手が、差し込もうとするいんこの両腕を静止しようとする。  
「ほんと素直じゃねーな」  
いんこは、右手を後ろに回し何やらごそごそさせると、…銀色の輪っかを取り出した。  
「…いんこ!あんた、それあたしの手錠を…いつの間にひったくってたの…」  
「気づかないほうが悪い」  
そしてやっぱり、彼は彼女の両腕を簡単に拘束し、頭の上へと引き上げた。  
「きゃぁっ!」  
いんこはあらためて、その無機質な棒を彼女の中へとあてがう。  
丸い柄のステッキが、まず入り口部分をなぞっていく。とたんにまた蜜が溢れかえってきた。  
「んんんぁあ…あん…」  
柄が、ぷちゅっと花芯を押しつぶした。  
「あひぃっ!」  
「さーて、どこまで入るかな?」  
いんこは楽しげに、ステッキを掴む右手を操った。  
彼女の割れ目は、入り口こそ抵抗があったものの、いったん入ってしまえばぬるぬるとステッキを受け入れてしまう。  
「うぐ…ぁ…」  
鏡を覗けば、万里子のとんでもないところから、なにか長いものが延びている様子があられもなく展開されている。  
だんだん、冷たかったステッキは万里子の熱をおび、熱くなってくる。  
いんこはステッキの抽出をゆっくりと開始した。  
「んあ…あ…あ…」  
「そら、奥まで見えそうじゃない?」  
べたべたになっていく柄。出し入れすることで彼女の内壁まで鏡に映りこみそうになる。  
(やだ…あたし)  
両手を拘束された挙句、常識とは思えないプレイに、鏡のおまけまでついて。  
(あたしマゾだったのかしら)  
ここまでいいようにされながら、さらに感じてしまう自分がいやらしくてたまらない。  
それでも自分の痴態から目を離せないのも事実で。  
(このままおかしくなっちゃいたい…)  
 
いんこは彼女の後ろで、万里子のひどくいやらしい様子をたっぷりと鑑賞している。  
ぐ、とステッキの柄に角度をつけた。  
「あひぃっ!!」  
ちょうど彼女のスポットを探り当てたらしい。万里子の身体がびくんと跳ねた。  
嬌声をあげ、もはや閉じることができない彼女の唇に、強引にいんこは自分のそれを重ねた。  
いわゆるキス…というよりもずっと暴力的で官能的なもの。そして万里子もその激しさに応じる。  
上と下と、蜜の交じり合う粘着質な音がいっそう高くなる。  
「んんんんんん…っ!!っ!!」  
万里子の体が硬くなって、そして脱力した。だらしなくのびた両脚と息をつく肩、伏せた睫毛が最高にいやらしくて素敵だ。  
……と、いんこは思った。  
「イッた?」  
ささやくように彼は万里子の耳元で聞いた。んなの、聞かなくたってわかるじゃないのよ、と言ってやりたい万里子ではあるけれど、当然それは不可能であった。  
代わりに恨めしげに上目遣いな視線を送ってやる。  
どうみても、甘く拗ねているようにしか見えないけれど。  
 
いんこはそれをみて、また満足げな笑みを浮かべてこう言った。  
「オレはまだイッてない」  
あ、と万里子が声を上げるまもなく、四つんばいにされて、腰を高く持ち上げられた。  
しゅる、といんこが自身のベルトをはずす音がして、万里子の脊髄に甘い予感が走る。  
いんこは両手で彼女の腰をつかんで…一気にその身体を貫いた。  
 
「んあ!!あぐっ、あっあっあっ…っ」  
パンパンと肉の打ち合う音が部屋中に響き渡り、いんこは強烈なまでに後ろから突き上げつづける。  
万里子は手錠で拘束された両腕をついて身体を支えていたのだが、その激しさにだんだん支えきれなり、上半身だけうつ伏せ状態になる。  
それに加え、その白い両膝はこれまで無い以上に開かれ、ますます飢えた雌のように尻だけを突き出していることになってしまった。  
「…顔、突っ伏してないで上げてくれよ。鏡に映らないだろ」  
いんこはガクガクと彼女を万里子を揺さぶりながら、右手を伸ばして上体を起こそうとする。  
「んんんっ……っ!!ぅあ、あ、あっ…っ…!」  
そんなことできるか、このバカ、と言ったつもりだが、当然この状況では、意味をなさない喘ぎ声としか聞こえない。  
ぱた、と背中に雫の落ちる感触がして、万里子は朦朧となりながら鏡を見た。  
見ると、いんこもそろそろ限界に近いのだろう、眉間を寄せて額から汗を噴出している。  
その雫が自分の背中に落ちたわけだ。  
(そっかー…鏡があると、こいつの表情も、見えるわけだ)  
いつも自分が攻め立てられるときは、彼の表情など見るどころではないが、あらためて見ると彼もいやらしい雄の顔をしている。  
余裕などかなぐり捨てた本能剥き出しの顔。  
こうまでして求められるのは悪い気がしない。というより、彼を自分におぼれさせているのだという充足感が得られる。  
(…こいつがあたしの顔を見たがる理由が、わかった気がする…)  
 
しかし。  
彼の表情を見るのもいいが、鏡に映っているのはそれだけじゃない。  
両手を拘束され、思い切り突き出した尻を、さんざん後ろから突き上げられている自分が、  
…ルームライトに照らされてくっきりと白く浮かんでいる、わけで。  
「あんっ…あ…あ…よーすけ…いく…いっちゃうよぉ…っ」  
もうあれこれ考えることはできなくなる。どんどん思考が隅から真白くなる感触。  
ギシギシ、ギイギイと安ベッドが悲鳴をあげる。この狭いホテルの室温は、彼らの体温で外より数℃は高いだろう。  
ゆさゆさと揺れる万里子の両房。突き出された白い尻がうっすらと赤くそまり、  
絶頂を迎えようとする彼女の細い指がシーツを痛いほど掴んでいるのが目の端に入る。  
隣の部屋に喘ぎ声が聞こえるかも?そんなことかまうもんか。  
細い万里子の腰を掴んで、いんこは彼女の中をえぐるように動く。  
「ああああっ―――…!!!」  
万里子が高く声をあげる。きゅううと襞が閉まり、彼もまた遠慮会釈なく精液を最奥へと吐き出した。  
「モモコ…っ!」  
彼は、彼女の本当の名前を短く呼んだ。  
と、瞬間。  
「ああああっ!!!!!」  
すごい勢いで、熱をもった彼女の体内へと体液が放出される。膣はそのまま彼の欲望を飲み込んでしまうように蠢いて、  
彼女自身は完全に力を失ってベッドへと突っ伏した。  
 
 
不自然な体勢で愛し合ったせいか、万里子は腰が痛くて仕方ない。  
隣で身体を横たえている役者泥棒は、やっぱりマスクとカツラをつけたままで、彼女を抱きかかえながら、荒い息をしている。  
呼吸をするたび上下する喉元が妙にセクシーで、彼女はつい、また火がつきそうになってしまうのを堪えた。  
「あたし…シャワーを浴びてくる。手錠、とってよ」  
だいたい、今日は仕事が一段落ついたばかりで、帰りの飛行機に乗る前にのんびりしようと思っていたのだ。  
疲労はピークに達していたはずだ。  
のそり、と狭いベッドから這い出ようとして、また背後から腰を掴まれた。  
「…しばらくぶりに会ったのにつれないなぁ、刑事さんは」  
「あほか!あたしは疲れてるのよっ!これでも真面目に仕事してきたんですからね!」  
「じゃあ、優しく洗ってあげるから一緒にシャワー浴びよ…どわっ!!!」  
バキッ、と軽快な音を立てて、手錠をつけたままの両拳が、いんこの顔へ直撃した。  
「けいじさん…これ、いたひ、さすがにいたひ…」  
「あったりまえだ!このバカが!」  
万里子はそんないんこを尻目に見ながら、脱がされた自分の衣服をまさぐって手錠の鍵を取り出す。  
かちゃかちゃと金属音がして彼女の拘束が解けた。  
「あたし、ゆっくりとシャワーしてくるから。さっさと帰れ!」  
ばたん、と、狭いユニットバスのドアが勢いよく閉まり、かちりと中から施錠する音がした。  
「あーん、刑事さん、つれない…」  
ひとりベッドに残され、いんこは歳に似合わずいじけて見せた。  
…しかし、すぐに、にやりと笑みを浮かべる。  
 
「バッカだなー刑事さん、その程度の鍵、オレが開けられないと思っているわけ?」  
 
彼の視線の先にはユニットバスのドア。  
紳士な泥棒役者はやおら立ち上がって、そのマスクとカツラをほおりなげた。  
鼻歌まじりに鏡を覗き込んだ後、もちろんそのドアへと向かう。  
「オレも風呂に入ろ〜っと♪」  
 
 
舞台を鏡の前から風呂場へと移した役者たちの睦みあいは…  
まぁ、推して知るべし。  
 
 
 

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