元ネタ:高野和「七姫物語」  
タイトル:「甘党の彼」  
 
 
宮姫の役目も終わり、一人物見台に立った私は、ぼんやりと景色を眺めていた。  
さやさやと優しい風が心地よく髪を揺らし、空にはお日様がぽかぽか、なんだか眠ってしまいそう。  
「見つけた」  
不意にかかってきた言葉に、慌てて眠気を振り払う。  
いつの間にか、見慣れた灰色の人影が、私の横に立っていた。  
「ヒカゲさん」  
「ヒカゲ」  
ついついさん付けしてしまうのを、ヒカゲさんは諦めずに訂正してくる。  
「ヒカゲ、どうしたの?」  
言いながら、私はヒカゲさんの手元を見てしまう。  
この無口な少年は、ほとんどのことで大人顔負けの活躍をするのだけれど、実はすごく甘党だ。  
何かお菓子が手に入ると、しばしば私にお裾分けをしてくれる。  
「いや、今日は何も持ってきてない」  
「あ、べ、べつに、期待してたわけじゃないから」  
自分の意地汚い食欲を見透かされて、顔がかっと熱くなった。  
「えっと、じゃ、な、なんの用?」  
すると、ヒカゲさんは不意に私の両肩をぐっと掴んできた。  
「え?」  
首を傾げる間も無く、ヒカゲさんの顔が近づいてきて……。  
「んんっ!?」  
いきなり、唇を奪われた。  
 
突然の出来事に固まっていると、ぬるっとした温かいものが口の中に入ってくる。  
うあ、ヒカゲさんの、舌だ……。  
「ん、ん……んんっ……!」  
なにもできずに、口の中をなめまわされる。  
唇の裏側を、歯の一つ一つを、頬の内側を、ヒカゲさんは丹念に舌先でなぞってくる。  
舌を絡められ、唾液まで吸われた。  
「んんっ、ん……はぁ……はぁ……あ……」  
ようやく解放された時、なぜか私は脚がガクガクして立っているのもやっとだった。  
「ヒカゲ……どうして、こんなこと……」  
倒れそうになるのを支えてもらいながらそう問いかける。  
するとヒカゲさんは、いつもと変わらない表情で答えた。  
「甘いってきいたから」  
「はい?」  
「こうすると甘いって、将軍が女に言ってた。でも大して甘くなかった。もういい」  
「…………それだけ?」  
「それだけ」  
 

 
 
 
      Oノ  
      ノ\_・'ヽO.  
       └ _ノ ヽ  
           〉  
 
「常磐姫直伝姫殿下蹴りぃっ!」(泣)  
 

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