「冗談だよ」  
奴がそう言って微笑んだのに、気を取られている場合じゃなかった。  
姑息で外道な権佐衛門のヤローは、俺の一瞬の隙を突き、上半身の着衣を取り去ってしまったのだ。  
「こ、このヒキョーもんっ!」  
脱がされついでに、着ていた黒のタンクトップが、頭の上で両手に絡み付いている。いや、絡みつかされているのだ。  
「くっ、解けっ!!」  
手の戒めから逃れようともがくが、全くびくともしない。無駄に体力だけが失われていくようだ。  
「仰せの通りに。解いてあげるよ」  
「えっ・・?」  
奴の予想外の言葉に拍子抜けした俺だったが、続く奴の行動に蒼白になる。  
「や、やめろっ、解くのはそこじゃねえっ!」  
にこやかに言って奴が解き始めたのは、プロテクター代わりに胸を覆っていた、サラシだった。  
暴れるものの、それもほとんど意味を成さず、サラシの最後の端がハラリと床に落ちた時には、  
俺は、権佐衛門の下で再び押さえ込まれ、暴れまくったおかげで荒い息をついていた。  
「無駄に暴れても、体力を失うだけだよ。どうせ使うなら、楽しむ為に使った方が有意義だよ」  
憎たらしい事に、全く息さえあがっていない様子の権佐衛門が涼しげに言う。  
「お、お前なんかと楽しむ事なんか何にもねーよ!」  
「そうでもないさ。まあ、俺がゆっくり教えてあげるよ。文字通り、手取り足取りね・・」  
「だからそれは余計なお世話だってんだ!この野郎っ、やめろっ!うあっ」  
ゆっくりと降りてきた権佐衛門の舌が、ねっとりと胸の先を舐め回す。手でもう片方も揉まれてしまっている。  
気持ち悪さにぞっとするが、足も手も動かせず、されるがままの状態が悔しくてならない。  
 
くそっ・・竜二。おやじ、おふくろっ・・  
成す術も無いまま、誓いを交わした人達の事を思う。こんな事にならない為にも俺を男として育ててくれたのに・・。  
誓いのキスを交わした後の竜二の顔が思い出されて、一瞬涙が溢れそうになったが、無理矢理押し留める。  
絶対こんな奴に屈してやるもんか。そんな風に思っている間も、身体の自由はきかず、おぞましい攻めは続いていた。  
無駄とはわかっていつつも、なんとか逃れようと抗ってみたが、その度に奴の顔が嬉しそうに歪むだけなのが悔しくて堪らなかった。  
ただ、体力だけが奪われていく。くそ・・なんとか抜け出さなきゃ。何か方法は。  
「わかるかい?こんなに固くなってるよ」  
いつのまにか意思とは関係なく、隆起し、固くなっている胸の先をこりこりと指で弄びながら楽しそうに奴がいる。  
「なっ、嘘だっ・・。」  
散々いじられたからといって、こんな奴のする事に反応してしまっている自分の身体に、衝撃を受ける。なんでこんな奴にっ・・。  
「嘘なんかじゃないさ。ほら、わかるだろう?君の身体は気持ちいいって言ってるのさ」  
「気持ちよくなんかないっ!触るなっ」  
俺の言うことなどおかまいなしに、奴は、俺の腰に手を伸ばし、カチャリとベルトのバックルを外してしまう。  
ヤバイ。本気で。これから奴がやろうとしている事を察知して、背筋が凍る。  
冗談じゃない。そんなことになったら、どんな面下げて竜二に会えっていうんだ?  
「くそっ、このヒキョー野郎っ、やめろっこのレイプ魔!恥ずかしくないのかっ!こんなことして」  
「本当に欲しいものを手に入れる為なら、多少の恥など何ということはないよ」  
あくまで涼しげに答える権佐衛門。無常にも戦闘服の下も引き下ろされていく。  
「この野郎っ、それ以上やってみろ、本当に舌噛み切って死んでやるからなっ」  
半ば本気だった。こいつとそんな事になるくらいなら・・。  
奴の動きが止まった。諦めたのか?思わずほっと息が漏れる。  
「それは困るな」  
 
「うわっ・・うぐっ・・」  
急に身体をうつ伏せにひっくり返されたかと思うと、あっという間に、口に猿轡を噛まされる。どうやら奴のネクタイのようだ。  
更に、戦闘服だけでなく、下着さえも、膝までずり下ろされてしまった。こんな奴に見られるなんて。悔しさと恥ずかしさで  
気が狂いそうな俺を、奴は更に追い詰める。  
「うぐっ!ぐうっ・・ん〜〜〜っ!」  
誰にも触られたことのない所へ、奴の指が無遠慮に差し入れられたのだ。嫌悪感と恐怖に寒気が走る。  
「おや、まだ濡れてないようだね」  
当たり前だっ!そう叫んだつもりの声も、くぐもって意味を成さない。そんな中、奴はもっと奥へと指をめり込ませて来たのを感じて、  
痛さとおぞましさで、身体中が強張り、今度は涙を止められなかった。  
「ぐっ・・んんっ!」  
涙で床間近から見える部屋が歪む。奴は痛みを伴う内側を、執拗に擦り続けていた。また逃げることも叶わず、もう抵抗することも忘れて  
いた。  
どれくらい経ったのだろうか。長い長い時間が流れたように思えた。考えたくないが、先ほどより痛みは和らいでいた。それを肯定するような  
奴の声が耳の傍で囁かれる。  
「受け入れる準備が出来たようだね。ほら、こんなに悦んでいるよ」  
指の動きを止めぬままに囁かれる。嘘だ・・。そんなはずないっ。頭で否定するものの、静まり返った部屋の中、自分の乱れる吐息に混じって  
微かにくちゅくちゅと水音が耳に届いた。  
「そろそろ禁断の果実を味あわせてもらおうかな」  
指をゆっくりと引き抜くと、楽しそうに奴が言う言葉に戦慄する。ブーツが脱がされ、膝下まで下ろされていた衣服も、押さえ込まれて痺れて  
しまっていた脚で暴れて抵抗したが、結局取り払われてしまった。  
 
また無駄に体力を消耗したところに、仰向けにされ、脚を大きく割り開かれてしまう。いやだ・・。こんな奴にっ、竜二ー!  
「むぐぐっ!んんんっ!むむむ〜〜!」  
叫ぶ声も言葉には成らず、押し当てられた固いものが、さっきまでの指なんかとは比べ物にならない圧迫感と痛みを伴って、押し込まれる。  
嫌だ!こんな奴のっ・・竜二っ竜二っ  
涙が再びとめどもなく溢れたが、侵攻は止まらず、やがて更に強い痛みが俺の身体を貫いた。とてつもない圧迫感で息が継げない。  
「うぐぐっ・・」  
「これで君は俺の物だよ」  
笑みを含んだ声で囁くと、奴は間を置かずにゆっくりと動き出す。同時に痛みもぶりかえし、苦痛に自由にならない手を握り締める。  
また永遠とも思える長い時間が過ぎていった。いつしか気が狂いそうだった痛みは遠くへ去り、奇妙な感覚が取って代わりつつあった。  
新たな意思とは関係ない身体の異変に戸惑い、恐怖する。・・なん・・なんだよ、これ・・。  
奴が腰を動かす度に、背筋を疾り抜ける感覚。切ないようなじっとしていられないような感覚に、自然と腰が浮き上がっていくのを  
止められない自分がいた。  
そんな自分に戸惑っているうちに、奴の動きが激しくなり、何かに押し上げられるような感覚が襲ってきて、恐怖に身を竦める間もなく、  
瞑った瞼の裏で白が弾けて、俺は意識を手放した。  
 
 
「ん・・」  
気付くと、権佐衛門の野郎がまだ覆い被さっていた。ぼんやりとした意識の中、身体の奥からずるりと何かが抜けていく感触が遠くに感じる。  
腕の拘束が解かれ、抱き起こされる。ふと目をやった脚の間から、赤の混じった白濁の液が溢れてくるのが見えて、目を逸らした。  
その様子を見て、奴が言う  
「君と俺の愛の証だよ」  
奴の言葉にカッと血が上り、自由になった手で掴みかかろうとしたが、痺れたようで上手く力が入らなかった。あっさりと腕を掴まれてしまう。  
「もうこれで君は白神竜二の元へは戻れないよ。俺は鍵を持っている。一緒に来たほうが利点はあると思うよ」  
・・そうかもしれない。今竜二に会う自信は無かった。鍵はこいつの手中にある。今竜二を狙っているのもこいつらだ。  
俺がこいつらをなんとかすれば、竜二を守ることにもなるかもしれない。  
「どうやら死ぬ気は無さそうだね」  
猿轡も外された俺は、奴が用意したという服を身に着けると、奴の後に着いて、地下へと続く秘密の通路を通って、空港を後にした。  
 

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