「よし! 完成だ! やったね、ハンソン。」  
「ああ、やったな、ジャン!」  
ジャンとハンソンは、がっちりと握手を交わした。  
 
ノーチラス号の艦内で、ここ数日、ジャンとハンソンは何かの製作に夢中になっていた。  
分解したグラタンを材料に、それこそ寝食も忘れて働いた。  
ナディアやグランディスが何を造っているのか尋ねても、  
「秘密」  
と笑って、答えない。  
「完成したら、教えてあげるよ。絶対、約束する。」  
へそを曲げかけたナディアに、ジャンは真顔で言った。  
ナディアは、ジャンに一種異様な迫力を感じて、それ以上何も言えなかった。  
 
そうして、ついに。  
ジャンとハンソンの協同製作が完成したのだ。  
「さて、と。まず、誰で試す?」  
「え? やっぱり最初はナディアだよ・・・」  
ハンソンの問いかけに、ジャンは何を今更、と言うように答えた。しかし、ハンソンがたしなめる。  
「待てよ、ジャン。気持ちは分かるが、もし失敗だったらどうする?」  
「えっ?」  
ジャンが驚いた様子で訊きかえす。自分たちの作品が、失敗するなど、思ってもいないのだ。  
「ここはまず、誰かで試してからの方がいいと思うんだ。」  
「うーん、でも・・・」  
ジャンはまだ、最初にナディアで試すのを諦めらきれない様子だった。  
 
そこへ、ハンソンがたたみかける。  
「まず誰かで試して、だな、完璧な状態にしてから、ナディアに使った方が良いと思うんだ。」  
「そう、かなぁ・・・?」  
ジャンの優柔不断ぶりが、ここでも炸裂する。  
「そうだよ! 絶対にそうだって!!」  
「じゃあ、ハンソンは誰がいいと思うの?」  
ジャンの問いに、ハンソンは待ってましたとばかりに答えた。  
「僕は、エレクトラさんがいいと思う。」  
「えぇっ!? 大丈夫かなぁ?」  
「大丈夫だよ、きっと。エレクトラさんで上手くいけば、他のだれでも上手くいくさ。」  
「・・・分かったよ。エレクトラさんで試そう。」  
話がまとまり、ジャンがエレクトラを呼びに行った。  
 
エレクトラは「新兵器」を開発したというジャンに連れられ、元グラタン格納庫・現二人の作業場、へやって来た。  
 
「それで? どんな『新兵器』なの?」  
満面の笑みで迎えたハンソンに、エレクトラはいかがわしそうな視線を投げる。  
ジャンは部屋の中央を指差した。  
「ジャジャ〜ン! あれです!」  
「・・・何? 椅子?」  
もし現代人がそれを見たら、『マッサージ・チェア』だと思うだろう。  
肘掛、背もたれ、足置きのあるシートだった。  
「ま、ま、いいから座ってみてよ。」  
純真(そう)に勧めるジャンの言葉に、エレクトラは一抹の胡散臭さを感じながらも、腰掛けた。  
「ちゃんと、寄りかかってみて。」  
期待を込めた目で、ジャンが言う。  
仕方なくエレクトラは、シートに身をもたせかけた。  
次の瞬間。  
ガシャン! ガシャン! という音とともに、手首、足首、腹の部分に、金属製のベルトが現れるや、エレクトラを拘束してしまった。  
「!」  
一瞬の出来事に、驚くエレクトラ。反射的に逃れようとしたが、とても外れそうになかった。  
「これは、何の真似!? どういうつもりなの?」  
「よーし、ここまでは成功だな。」  
「当ったり前じゃないかぁ。」  
当惑するエレクトラを無視して、二人が喜び合う。  
「ここからが本番だぞ。」  
次に二人は、巨大なグランドピアノのような機械を運んできた。  
キャスターが着いており、二人でも楽に運べるようになっているらしい。  
 
上部に丸い穴が開いており、ハンソンが何やら操作すると、その装置が穴の真ん中から二つに割れた。  
中には、丁度シートとそれに座った人が納まる程度の空間があった。  
二人がシートを間に挟み、装置を再び閉じると、エレクトラが上部の穴から首だけ出す格好になった。  
「いい加減にしないと、只では済まなくなるわよ!」  
エレクトラの声が荒くなる。しかし、二人は完全無視を決め込んだ。  
「さぁて、いよいよ本番だぞ、ジャン」  
ハンセンが声をかけ、鍵盤に向かって座り、ジャンはその後方に立った。  
鍵盤は、エレクトラの顔の向きにあるため、向かい合う形となっている。  
ハンセンが、鍵盤を弾き始めた。しかし。  
装置からは、何の音色も流れない。代わりに、エレクトラから声が漏れた。  
「え!? な!? ちょ、ちょっと、何よ、これ!? きゃ!」  
装置の中で、いかなる動きがあるのか、外部からは伺い知ることは出来ない。  
だが、エレクトラの呼吸が段々と荒くなっていった。  
「どう、エレクトラさん? どんな気分?」  
興味津々といった態で、ジャンが尋ねる。  
「ハァッ、ハアッ、アッ、だめ、や、やめなさい・・・」  
エレクトラの頬が、紅潮してゆく。  
 
ハンセンによる無音の演奏に、益々熱がこもってゆく。  
もし音がでていれば、その曲は「The Reflex」だろうか・・・  
エレクトラの声に、抑えようのない悦びの響きが混ざり始めた。  
「アッ、アアッ、ハァン。何よ、これ。イヤ、イヤ、あぁっ、ちょっとぉ・・・」  
その様子を見守っていたジャンが、小さく叫んだ。  
「どうやら成功みたいだね、ハンソン!」  
「ああ、そうだな!」  
答えながらも、ハンソンは演奏を止めない。  
エレクトラの喘ぎが、大きくなってゆく。  
「あぁーっ。アッ、アァン。イッ、イイッ!」  
「どうだい、エレクトラさん、僕たちの発明は?」  
「あっ、アッ、あっ、アハァン・・・」  
ジャンの問いかけにも、答えるどころではない。しかし構わずジャンが続ける。  
「これぞ、どんな女の人も快楽の虜にしてしまう、恐るべき兵器なんだ!」  
ハンソンの演奏が、クライマックスへと向かっていた。  
それに併せるように、エレクトラの声が響く。  
「あぁーっ! アァーッ! イッ、イクッ、イクーッ!」  
最後にハンセンが、バーンと鍵盤を叩いた。  
「アアアアアアアアアアッ!!!!!」  
エレクトラは、絶頂を迎えて一際大きく叫んだ後、ガクリと首を垂れた。  
「・・・・・死んじゃったの?」  
「いや。気を失っただけだろ。でも、すっかり快楽の虜だよ、きっと。」  
ジャンとハンソンは、満足気に頷きあった。  
「じゃあ、次はいよいよナディアだね!」  
「あぁ! その後は姐さんに、イコリーナちゃんに・・・」  
二人は妄想を膨らまし、笑いあった。  
 
遠い未来、遥か宇宙の彼方で、一人の天才科学者が同様の発明をすることなど、神ならぬ二人には、知る由も無かった。  
 

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