『eyes on the moon』  
 
 −身体が、全身がだるい。疲労で動けない。食欲すら沸かない。朝から夕方までみっちり行われる他人の倍以上の魔法の訓練に、根をあげる事は決して無いものの、九澄大賀の身体は毎日のように悲鳴を上げていた。  
彼が聖凪以外で唯一知っている魔法特区の高校、熊本の尾輪哩高校。こっちに九澄が来てから三ヶ月程経つが、未だに慣れない。  
「…体が痛ぇ」  
夜の7時頃。与えられた寮のベッドに寝転ぶ九澄は、自分しか居ないそこで小さくそう呟いた。  
今日の訓練項目が全行程終了したのが約一時間前。シャワーだけを浴び、食事も摂らずに眠ろうとしていた。  
「…あ、そーいや」  
そこで九澄は、先程伊勢からメールが来ていた事を思い出す。  
「…いいや」  
返信はしない事にした。明日は休んでいいらしいから、今日はもう眠ろう。飯は明日の朝にでも食えばいい。  
 
現在の彼を支えているのは精神力。偽りの…苟且の魔法使いの烙印を棄て去り、実の魔法使いと成るため。  
そして大手を振ってアイツらに、津川や伊勢や観月、そして柊に会いに行くために、彼は毎日ただ一心に努力した。  
 
 
『コンコン』  
今にも九澄が寝入りそうになっていた所で、彼の部屋の窓を誰かが打診した。  
…滝だろうか?あの男はたまに、夜間に訓練をさせてくる時がある。…だが今日は勘弁して欲しい。それが九澄の本音だ。  
『コンコン』  
二度目の打診。九澄は電気を付けておいた事を強く後悔した。消灯しておけば、或いはやらずに済んだものを。  
九澄が恐る恐る窓を見ると、そこにいたのは滝ではなかった。  
 
三ヶ月振りに見た顔だった。やや伸びているようだが、赤みを帯びた内巻きのショートカットの女の子が窓から顔を覗かせている。  
 
観月尚美がそこにいた。  
「…観月!?」  
九澄はガバッと起き上がり、窓を開ける。  
観月は、先ず困ったように目を反らし、照れたように微笑んだ。  
「…久しぶりね?九澄」  
「おま、なんでここに!?」  
「…来ちゃった」  
「「来ちゃった」って…、ここ熊本だぞ!?」  
聖凪と尾輪哩は相当に離れている。だが観月の言い方は、まるで近所の友人宅にでも遊びに来たかのようなものだった。  
「アンタがメール全然返してくれないから、文句言いに来たのよ」  
九澄は口をあんぐり開けた。観月の心はやはり良くわからない。  
「…入れてくれる?寒いんだけど」  
「あ、あぁ」  
九澄は窓を全開にし、観月を自室に招き入れた。  
「ふーん。結構良い部屋ね。快適でしょ?」  
「…朝から晩まで地獄だよ。ずっと訓練訓練でさ」  
「へぇ、アンタみたくゴールドプレート持ってても練習はちゃんとするんだ?」  
相変わらず刺のある物言いだ。観月らしい。それを懐かしく感じた九澄は、思わず微笑んだ。  
「ちょ、ちょっと!何笑ってんのよ!」  
「いや、観月らしいと思ってさ?変わってねぇなーって。でも、ちょっと髪伸びたか?」  
観月は頬を赤らめた。やはりコイツは変わらないなーと、九澄は少し安心した。  
「あ、アンタが行っちゃってから三ヶ月経ってんのよ?髪くらい伸びるわよ!」  
「…何で怒るんだよ」  
「う!うるさいわね!怒ってないわよ!」  
 
夏も終わったといえる今日この頃。外はもう真っ暗だ。  
九澄はある事に気付いた。  
「で、帰りはどうすんの?親御さん来てくれんのか?」  
観月はベッドに腰掛け、時計を見た。  
「うぅん、来ないわよ」  
「電車で来たのか。終電にゃ間に合うよーにしろよ?つーかまだ大丈夫なのか?」  
「泊めて」  
「だよな。乗り遅れたら駅に泊ま…、  
今なんつった?」  
「だから今日ここに泊めて」  
九澄は固まった。観月はしれっと言ったものの、また顔を赤らめて俯いてしまった。  
「…ここに泊めてって言ってるの!何度も言わせないでよ!」  
「泊まるってお前…、そりゃ、あの…色々と」  
「もう今日は帰れないの!女のコ一人で暗い道を歩かせる気!?これだから男は…」  
 
九澄はやはり鈍かった。女の子が一人でわざわざ数時間かけてここまで来て、揚句「泊まらせて」とまで言ったのに、観月の気持ちには気付かなかった。  
「一晩文句と厭味でも言われ続けるんじゃないか?」とばかり考えていた。  
「いいけど…、まだ文句が言い足りないのか?」  
「…っ!このっ!ニブ男!」  
「わかったわかったから!怒るなよ…  
せっかく久しぶりに会ったんだからさ」  
観月の表情が瞬間緩む。  
「え…。あ、会えたって、あたしに?」  
「お前以外にいないだろ」  
「…そ!そうね!せっかく会いに来てあげたんだからぁ、も、もっと感謝してよ!?」  
口調が明らかに乱れる観月。それが九澄に対しての恋心からだとは、当の本人はやはり気付かない。  
「…?あぁ、嬉しいよ。滝サンが「明日明後日の土日は休んでいい」って言ってたし、まぁゆっくりしてけよ」  
九澄のはっきりとした肯定に、観月の顔がぱぁっと明るくなった。  
「う…、うん!」  
 
−−−  
 
 「ところで俺さ、腹減ったんだけど」  
二人でベッドに座り、テレビを見ている時に九澄がそう言った。  
「お腹空いたの?」  
「うん、何か持ってない?」  
観月が腕時計を見る。時間は午後8時頃だった。  
「ゴメン。持ってない。…ってゆうかココ寮でしょ?食堂とか無いの?  
今とかちょうど夕食時じゃない?」  
「そりゃあるけど…、お前連れて行く訳にゃいかないし、かといってここに一人ぼっちにしたくないしなぁ」  
九澄の近くに座っていた事もあって、やや頬を赤らめていた観月が、そこで更に赤くなった。  
「し、 心配してくれてるの?」  
「そりゃそうだ。…外になんか食いに行くか?一緒に」  
「え!!」  
再び観月がテンパりだす。  
「あ!あたしと…、九澄で…、二人っきりで…い、一緒に!?」  
「…?イヤならやめとくか」  
「はい!いっ行く!行きたい!」  
また言葉を乱しながら、観月が慌てて賛成した。  
「…?じゃあ行くか」  
 
そうして観月の賛同を得た九澄は、彼女に「少し待ってろ」と言い残し、部屋を出た。  
そして自分の靴を持って戻ってくる。  
決して厳しくは無いが寮には門限があり、それ以降の外出及び外泊等の許可は前以て申請が必要であった。だが窓から出ればバレる事はない。  
九澄は観月にそう説明した。  
「まぁ、一階部屋限定だな。よし行くぞ」  
「鍵は大丈夫なの?」  
「誰も入んないよ。多分。気にすんな」  
「ならいいけど…」  
 
外に出て、二人は歩き出す。夜空には星が散っていた。秋も半ばに差し掛かり、だいぶ肌寒い。  
観月が寒い素振りを見せると、九澄が自分の薄手のジャケットを彼女に被せた。  
「着てろ」  
「え?でも…」  
「いいから。俺は平気だから」  
「…ありがと」  
外気は確かに冷たいが、観月は、この明らかなデートの状況に顔と胸が熱かった。少し苦しくもあった。暗くなければ、九澄の顔を直視するのを躊躇う程に。  
 
「そーいや少し先に、美味いお好み焼き屋があったぞ?行くか?」  
「うん!行きたい!」  
観月は満面の笑みでそう答える。  
「じゃあ、行くか!」  
 
その道中、観月は幾度も九澄と手を繋ごうとした。  
だが、九澄の指先に自らのそれを微かに触れさせた時に、心のどこかに生ずる躊躇いがそれをさせなかった。  
その今にも爆ぜそうな観月の想いなぞ、やはり九澄は知る由も無く−。  
 
−−−  
 
 「で、どうだった?美味かった?」  
食事からの帰りの道中。九澄は観月に先程の店の感想を尋ねた。  
「…え?あたし!?何が?」  
が、当初からずっと悶々としていた観月は、それを聞いていなかった。  
「さっきの店。俺は結構好きだけどさ?」  
「あ、うん!…また行きたいな」  
「そりゃよかった」  
 
 
 
それは、とても微かな声だった。  
「また…、九澄と二人で行きたい…」  
 
観月は、横に並ぶ九澄の指先に、自分のそれをゆっくりと絡めた。  
彼女の想いは疾うに爆ぜていた。だが、九澄の反応を極度に畏れ、行動には移せないでいたのだ。  
 
直後、九澄は何も言わなかったが、観月のそれを拒まず握り返した。  
 
その九澄の振る舞いは、観月に一欠けらの勇気と、ほんの少しの我が儘を齎した。  
 
 
「…あたし、やだよ…」  
「…?」  
「…あたし、向こうに帰りたくないよ…!」  
「…観月?」  
「…もう、ダメなの。…もう九澄と離れるのはイヤ。ずっと会えないなんてイヤ!」  
「観月…」  
 
 
「…あたしね?ずっと九澄が好きだったの。洞窟であんたに助けてもらった時から、ずっと。」  
「…」  
「ガマンなんて出来なかった。もう無理だった…。  
…あたしずっと!…九澄に会いたかった…!」  
 
 
好き。そうはっきりと九澄に伝えた所で、観月に底知れぬ不安と恐怖が込み上げた。  
ただ勝手に一方的に会いに来て、一方的に気持ち伝えて、抱き着いて。泣いて。  
その全てが過ちだったのかと思う程の不安。  
そしてかつて自分の気持ちなぞ知らずに、九澄が横に居てくれた時の煌めきが一気に失われてゆくかに思える恐怖。  
 
その二つしか生まれ得ない観月の心を、九澄は救う事ができた。救う事のできる答えを持っていた。  
九澄は、観月を正面に見据えて、強く抱きしめた。  
「っ!!?」  
九澄は、そのまま口を開いた。  
「俺な、観月に嫌われてるんだとずっと思ってた」  
観月は涙を流しながら、ぶんぶんと首を振った。  
「…ほら、初めて会った時とか、洞窟の途中とか最悪だったじゃん?いろいろさ」  
九澄はそこで苦笑いを浮かべた。  
「怒られて、嫌われてばっかりでさ…」  
「…そんなことっ…!そんなことないっ…!」  
観月の大きな瞳から流れていた涙を、指で九澄は拭った。  
そして彼女を体から離し、肩に手を置いた。  
 
 
「俺で…いいのか?」  
観月は頷く。幾度も頷く。瞳がまた潤み、涙が流れた。  
 
 
そして、観月はつま先を立たせ、九澄はやや体を屈めて、二人は優しくキスをした。互いの唾液を味わい、気持ちを通じ合わせた。  
 
もう寮のすぐ近くであったが、二人を見る者など誰もいない、二人だけの空間。キスで共有する、二人だけの時間。  
 
それを知るのは、九澄と観月と、月と星だけ。  
 
 
−−−  
 
 天井を仰ぐ観月に、九澄が覆いかぶさった。九澄の部屋の拙いベッドは、ギィと頼りない音を立てる。薄暗い部屋で二人が目を合わせると、観月は一度だけ小さく頷いた。  
二人は再びキスをする。今度は唇同士の触れ合いではなく、舌と舌が絡みあう。その都度唾液が弾け、くちゅくちゅといやらしい音を立てた。  
「ん…ぶ…ぅ、む…」  
観月に恐怖はもう無かった。愛しい人との優しい接吻は、彼女に多大な安心をくれた。  
キスをしながら、既に上下の下着しか纏っていない観月の乳房に掌を乗せる。  
「…ん!」  
観月がピクリと反応する。大きめな彼女の乳房は、ブラの上からでも九澄の掌圧に応じて自在に形を変えた。  
「ぷはっ!んっ!くっうッ!」  
「観月、おっぱい大きいな。柔らかい」  
「…やっ!…バカ!言わないっ!…で…」  
両の掌で両の乳房を弄ぶ。九澄はその感触と、息を荒げながら喘ぐ観月に夢中になった。そして、その自分の行為を観月が容認している事が、堪らず嬉しくなる。  
九澄が観月の背に手を回し、ブラのホックを外して取り去った。乳首が露わになり、乳房の全貌が覗けた。  
ブラを外した反動で、乳房は大きくぷるんと揺れた。  
「ちょ、あんまり…見ないでよぉ」  
部屋の明かりは消えているが、強い月光に照らされ、観月の肢体は九澄にはっきりと見えた。  
「…今日、観月がすげえ可愛い」  
「…この、バカっ!」  
観月が手で乳首をサッと隠してしまった。  
 
「…観月?」  
「…なによ」  
 
「俺も、お前が大好きだよ」  
 
「…バカ。」  
 
観月の腕を優しく退かし、九澄は愛撫を再開する。  
直に触れる観月の乳房は、ブラ越しとは比べものにならない程に柔らかい。観月が受ける感覚も、また然りだった。  
「んぁっ、はぁっ…うぅ、ん!く…ずみ…」  
舌で乳首を囲むように舐めだす。乳房の登頂にちょこんと乗った観月のそれは、小さく綺麗な桃色をしていた。  
それをチロチロと舌で数度刺激し、唐突に口に含んで吸い上げる。  
「はぁっ!あぁっ、あっ!やっ!…ん!」  
両のそれを交互に口に含む。攻めの嗜好を変えつつ、九澄は観月の反応を楽しんだ。  
 
九澄は片手を乳房から放し、へその下からパンツの中に滑り込ませる。まず淡い陰毛に触れ、それに隠された観月の恥部に触れた。  
「ん!」  
自身の最も大切な箇所に、初めて触れる他人の指。表層面をゆっくり撫でられるだけでも、後にそこから生まれるであろう感覚が、容易に観月には予測出来た。  
「…あっ!…そこ、は…、あ…だめぇ…」  
じきに、その内部からは透明な液が染み出し、そこを撫でる九澄の指に絡み付く。  
次第にそれはクチュクチュと音をも発し、互いの耳まで響いてきた。  
「あぁっ…あっ!あっ!んっ!」  
九澄の指の動きに合わせて、観月が喘ぎ声を上げる。  
 
指の動きを繰り返す度に、染み出す粘液は量を増し、観月のパンツに染みを拡げた。  
粘り気を帯びた水音が、だいぶ明確に聞こえるようになった所で、九澄は観月のパンツをするすると脱がし、彼女を一糸纏わぬ姿にした。  
観月は脚をもじもじさせて股を閉じようとする。胸を直に見られた時よりも、はるかに多大な羞恥を感じていた。  
「…見せてよ。観月」  
九澄がそう筐ると、観月は息を整えながら反論した。  
「…あ、あんたもっ…、脱ぎなさいよっ!  
あたしだけ裸は…イヤ」  
「…わかった」  
九澄も、既に長袖のシャツと下着の二枚しか身につけていなかったが、観月の言う通りにまずシャツを脱ぎ、トランクスも脱いだ。  
 
「…わぁ」  
観月は、生まれて初めて勃起した陰茎を見た。天に向かい反り勃つそれは、ずっと昔に見た父のそれより遥かに大きかった。そして、性交渉の方法こそ知っているものの、それが本当に自らの膣に入り納まるのかが分からなかった。  
 
「これでいいだろ?」  
九澄は、改めて観月の脚を持ち、ゆっくりと開く。観月は思わず腕で顔を隠してしまった。  
「…や…ぁ」  
両脚の中心に、観月の最も大切な部分が露わになっている。溢れた多量の愛液と共に。  
九澄がそのまま顔を近づけ、舌で裂け目を刺激した後、尻の穴から陰毛までを、舌で細やかに舐めあげる。  
「んっ!んっ、あっ!  
「…ダっメっ、よぅ…!そんなっトコ舐め…、…んぅっっ!」  
続き、陰毛を除け陰核を露出させ、舌で押し潰すように攻める。  
「んぁあっ!あっ!ふ…、んん!くっうっ!」  
 
(…一緒に洞窟入った時に、ココを顔に押し付けられたっけな。そーいえば)  
九澄がしょーもない事を思い出している間、観月は未だかつて感じた事も無い程の快楽を得ていた。  
涎を垂らし、脚は九澄が押さえるまでもない程だらしなく広げ、段々と大きくなってゆく声を上げ続けた。  
「くずみぃ!ダメっ!あ、あたしっ!もぅ…なんかっ!ダメぇ!」  
九澄は顔の位置をずらし、陰核を舐め続けつつ中指を膣に挿入した。中で指を折り曲げ、膣内の四方八方まで刺激する。  
同時に、指を素早く何度も出し入れしていると、観月の膣は次第に収縮し、指に絡み付いてきた。  
「はあっ!!あっ!んんんぅぅあぁーっ!」  
水気を帯びた音が部屋中に響き渡り、飛び散った愛液はシーツを汚してゆく。そしてそのまま体を攀らせ、観月はイッた。  
 
 
 
「はっ、はぁっ、はぁ」  
「気持ちよかった?」  
息も絶え絶えな観月は、虚ろな瞳で縦に頷く。頭の中に靄が掛かったようで、強がる余裕など無かった。  
「…すげぇ、可愛かったよ」  
 
「…バカ…」  
 
九澄は、先程からいきり立ったままの陰茎を、観月の入口に宛がった。  
「…んぅ」  
「入れていいか?…俺もそろそろ我慢出来ない」  
観月は、また無言で頷いた。  
 
「最初、痛いかもしんないぞ?大丈夫?」  
「…うん。…あたしは大丈夫だよ?  
 
…九澄なら…いいよ。」  
 
「…入れるぞ」  
 
膣周りの愛液を亀頭に塗し、九澄が腰をゆっくりと進め、まず亀頭が観月の陰唇に沈んだ。  
「んぁ…」  
「…くっ!」  
ゆっくりと、更に挿入してゆく。  
 
「…いっ!た…、ぃ」  
六分程沈めだ所で、一度腰を止めた。観月が顔を歪めたからだ。  
「大丈夫か?」  
「…へ、平気よ?だから…  
早く…きて」  
「…」  
九澄は腰を留めたまま、観月にキスをし、胸を揉んだ。  
「む…、んぅ…」  
観月の顔から、段々と険しさが消えてゆく。九澄の頭に腕を回し、観月からも唇を求めた。  
 
 
直後、九澄は観月を貫いた。  
「んぁっ!…あぁっ!、ぁああー!!」  
「っぐ!…入った…!」  
観月は涙を流し、シーツを握りしめて悶える。観月の乳房を掴みながら、九澄は彼女が落ち着くのを待った。  
「いっ!…痛いよぉ…」  
「…抜くか?一回抜くぞ?」  
「…だっ、ダメよ!…抜かない…で…  
 
…あたしは大丈夫だから…、ね…?」  
そういった彼女は、笑みを浮かべる。明らかな作り笑いだ。  
「…」  
だが、観月の意識が集中される彼女の膣の締め付けは、九澄の理性をだんだん奪ってゆく。奥まで挿しているだけで、やがて来るであろう絶頂の果ての射精を九澄は感じ取った。  
 
やがて九澄は腰を動かし始める。亀頭が見える程まで抜き、再び奥へと潜らせる。それをゆっくりと、ゆっくりと繰り返す。  
「…っくぅっ!んぁ!」  
「…くあっ、…観月っ!」  
互いに、敏感な部分を通じて互いの脈を感じ取る程に。観月の膣は九澄自身を締め付ける。  
それは、観月には痛みしか齎さないが、九澄には多大な快楽を授けた。  
 
「あついよ…、くずみが…、びくびくうごいてる…!はぁ」  
「観月…、すぐ、…すぐに終わるからっ!」  
九澄は、観月の汗で湿った前髪を手でかき上げ、顔を近づけ互いの唾液を交換する。先程のキスの際に、観月が少し落ち着いたのを思い出したからだ。  
 
そして唇を重ねたまま、九澄は腰を素早く振り出した。彼の溜まりに溜まった性欲は、観月を気遣う理性を押しのけて、射精へと更なる刺激を求めた。  
「観月っ、み…づきぃ!」  
「はぁっ!あんっ!んん!」  
 
結果として、あまり時間は掛からなかった。 九澄にはもう少し射精までを楽しみたかった本心があったが、観月の痛がる姿を目にしては、そうも言っていられない。  
「もう…出す…!いく!…いくぞ!?」  
「きて…!くずみぃっ!あたしの…中にっ!」  
 
 
「…くぅっ!」  
「…あっあぁ、…あぅ…ん…」  
ドクドクと陰茎は脈打ち、観月の中に多量の精を放出する。  
自らの膣内に注がれる精液と、射精する度に上下に跳ね上がる九澄の陰茎を、観月は敏感に感じ取った。  
「(中に出てる…!九澄がびくびくしてる…!)」  
「あっ…く、くぅ…!」  
 
 
 
九澄が、射精を終えたそれを引き抜いた。栓を抜いたかのように、観月の愛液と彼の精液の混じり物が、ゆっくりと流れ出でた。  
「はぁ…はぁ、…ふぅ」  
 
 
 
「…九澄…」  
息も絶え絶えに九澄を呼んだ観月は、自分の口を指し示す。  
それを察した九澄は、彼女を抱き起こし、再び唇を重ねた。  
 
 
「…好き…。大好きよ…、九澄…」  
 
今度は、言うのが怖くなかった。  
 
 
「俺もだ。観月」  
 
この答えが、返ってくると信じてたから。  
 
−−−  
 
 「じゃあ観月、元気でな」  
「…「元気でな」はやめてよ…。もう会えないみたいじゃない…」  
「泣くなって…今度は俺から会いに行くからさ?」  
「…絶対よ!?来なかったら怒るからね!」  
「わかったよ…。  
…だから泣くこたねーだろ?」  
「な!泣いてないわよ!アンタに呆れてるだけよ!」  
 
翌日の土曜。観月からの強い要望で、二人は一日デートする事になった。買い物や食事をしたりブラブラと歩いたりするだけのものだが、二人は終日楽しく過ごす事ができた。  
しかし、九澄が観月を最寄りの駅まで送った所で、観月の表情がはっきりと暗く沈んだ。  
 
「ほれ。電車がもうすぐ出るぞ?」  
「…うん」  
発車の数分前、観月はやや躊躇いながらも電車に乗り込んだ。  
 
「観月」  
「…なによ」  
「…今度お前に会った時、言いたい事があるんだ」  
 
「何それ?今言いなさいよ!」  
「今はダメだ。…お前の反応が怖い」  
「…しょうがないわね、アンタが今度がいいって言うなら。  
…待っててあげるから、なるべく早く言いに来なさいよ!」  
「ああ。悪いな」  
 
 
「…待ってるから。」  
「…ああ」  
 
そこで発車のアナウンスが流れた。そしてドアが閉まり、観月と九澄を隔てた。  
観月は一度だけ手を振り、振り向いて奥の方へと進んだ。聖凪での時の同様に、別れの涙は見せたくはなかった。  
 
電車は動いてゆく。九澄も駅外へと歩を進めた。  
 
「…泣くなって、言ったのにな。」  
 
 
終章『my story』  
 
「ちょっと尚美!」  
「ん?なあに?」  
「その指輪なによ?彼氏ー?」  
「…ち、違うわよ!なんであたしが男と…」  
「…まさか小石川?シュミ悪いわねぇー」  
「あ!あいつじゃないわよ!」  
「ふ〜ん。…あいつ「じゃ」ないのね」  
「…あ」  
「…ケータイ見せてよ!どーせ写メもあるんでしょ?」  
「イ ヤ よ!」  
薬指の指輪を友人に見つかり、観月は友人になじられた。(半ば強引にだが)九澄と二人で買った、お揃いの指輪だ。  
この時ばかりは観月も、九澄がここにいない事を感謝した。  
九澄がこちらに帰ってくれば、いずれバレてしまう事ではあるが、今は秘密にしていたかった。  
 
 
 
「で、尚美。今度の土曜日 服買いに行かない?」  
「…次の土日はダメ」  
「…デート?」  
 
「・・・そうよ!」  
 
 
観月尚美は変わらない。  
素直ではなく、意地っ張りで、ほんの少し我が儘なまま。  
 
 
…あたしのホントの気持ちは、好きな人だけに伝わればいい。それだけで十分だった。  
 
 
 
 
 
これは、観月の物語。  
 
これが、観月と九澄の物語。  
 

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