「今日の仕事は此処までだ。みんな、お疲れ様」  
永井の一言で執行部の業務が終わる。組織のトップに立つ男の一声は、以前よりも聡明だった。  
 
一年の終わり。  
永井は正式に魔法執行部の次期支部長に任命された。  
買われたのはやはり実力。圧倒的な力を有する実力者がトップに立つのは、違反生徒からすればこれ以上の抑止力は無い。  
人柄も真面目で誠実な男……唯一の心残りは統率力だった。  
実力はある。性格も実直。唯、表現する事が出来なかった。  
彼は魔力を帽子に宿し、髑髏の刺繍は自我を持ち独裁を始める。それで彼は威風堂々と渡り歩いた。  
時折、彼の口から漏れる本性・本音は、髑髏の立振舞いによって掻き消される。  
そして……事件は起きた。  
 
伊勢聡史。彼との衝突……永井は無二の親友を失った。  
それでも髑髏を脱ぐことは出来なかった。生活には特に支障をきたす事は無い。  
最早定着しつつある人格をわざわざ戻す事も無い。好都合の要因もある。  
支部長というポストの重責に彼は苦しんでいた。  
 
 
永井の異変に真っ先に気づいた女性がいた。名は沼田ハルカ。  
執行部の事務担当の女子。彼女が執行部に入ったきっかけは、道徳を守り、健全な学校生活を望んでいた為だ。  
彼女は暴力を憎み、違反を嫌った。魔法の実力・運動能力は他の部員には劣る所はあるが、執行部一の働き者だった。  
少ない部員数で切り盛りしていた入学式以降の新体制では、彼女の頑張り無くしては語れないほどに。  
 
ハルカは永井と会話する事が度々あった。支部長と事務責任者という関係でしか交わされなかった会話。  
その時見せる永井の本音。ハルカは彼の事が気になった。  
世話焼きな性格が災いしたのかもしれない。それとも……別の何か。  
脳裏から離れない、永井の影を落とす表情。其れさえもがハルカにとっては改善すべき問題になってしまった。  
 
 
そんな執行部に転機が訪れた。九澄大賀。彼の出現で、執行部は活気付く事になる。  
一年生ながら一学期にしてGPを持つ男。  
副部長の宇和井のスカウトもあり、彼を執行部に招き入れる事ができた。  
何故か魔法を一切使わない独特なスタイルを貫く彼を、宇和井は良く弄る場面が見られた。  
そして彼の一番の功績は……永井と聡史の一時の和解。校舎内で一・二の実力者同士の対決に彼は割って入った。  
身を挺して聡史の攻撃を受けながらも、二人の凍っていた壁を壊す事に成功した。  
聡史は去ったが、行き違いの理解は修復できた。  
そして……永井の髑髏の真相も。  
二学期に入り、九澄は柊先生の娘、愛花を連れて執行部の分室を活動の拠点にする事となる。  
彼はあくまで一年責任担当者としての仕事がある為だ。再び多忙な毎日が執行部を襲った。  
特に二学期は、夏休みの自主練習で鍛えた魔法を披露する生徒が増える。加えて文化祭等の行事も多い。  
 
 
宇和井は考えた。  
伊勢聡史を復帰させるのはどうか。もう永井との和解も完全ではないが、以前よりは大分改善した。  
あと少しの歩み寄りさえあれば。彼女は人手の足りない今、彼の力が必要だと思った。  
お節介とわかっていても。  
 
 
十月中旬。宇和井の提案。  
其処には単なる執行部の再生という意味だけではなく、四人の行き違う感情のベクトルが収束する為の命題でもあった。  
 
 
 
 
 
Day 2 10/12 Friday  
 
 
今日も授業は軽く流して、何時もの場所へ。  
最近は仲間ともつるまないな。試験前だし、落ちたらマズイしな。まあ俺には問題無い。  
今日はちょうどいい気候だ。体育館裏にそびえる大きな木にもたれかかって、空を眺める。  
雲が流れるのが恐ろしくゆっくりだったが、黄昏を掻き消す声が俺を現実へと呼び戻す。  
「待ちなさい!!」  
俺は声のする方に眼をやると、一人の生徒が必死で此方に向かって走って来る。  
その後ろにいるのは、宇和井だった。  
「伊勢! そいつを捕まえて!」  
―――捕まえろ?まあいい、五月蝿いのは嫌だ。  
俺は魔法を発動する。鎖が生徒に絡みつき、あっという間に拘束する。  
後を追っていた宇和井が息を切らしながら漸く此方に着く。  
「何やってんだお前」  
「はあっ……だってそいつ、足速くてさ……はあっ……」  
「魔法はどうした。ポケットに入ってるのは玩具か?」  
「だって私の魔法、屋外じゃあ……広すぎて効力が半減するから……」  
宇和井は深呼吸して息を整えている。まあ魔法が使えなきゃ、普通の女子だから仕方ないか。  
「ありがとう、伊勢」  
「別にお前に礼を言われるほどの事はして無い。騒ぎが嫌いなだけだ。解ったらとっとと連行しろ」  
そう言うと同時に、後ろから八条が此方に駆けつけてきた。  
「あっ! ちょうど良かった。こいつの連行よろしくね」  
「またこき使いやがって。どうせ部室に用事あるからいいんだけどな」  
そう言って八条は生徒を連れて去っていった。  
 
「相変わらずの扱き使いっぷりだな、副部長さんよ」  
「アンタが執行部に居てくれたら、私の仕事も少なくて済むのになぁ〜」  
皮肉タップリで宇和井に言ってやるが、宇和井はニヤニヤしながら此方を振り向き、厭味な台詞で切り返す。  
俺は木の幹に身体を預ける。  
「執行部にいたころは、アンタが一番率先してこうやって取締りしてたわよね」  
「昔の事だ。もう俺は執行部の人間じゃない」  
「……そうだったわね。じゃあアナタも魔法の無許可使用として連行しようかしら」  
「喧嘩売ってんのかお前」  
「たまには執行部に顔出してもいいんじゃない? 支部長、喜ぶわよきっと♪」  
「アイツの話はするな」  
「なんで? もう仲直りしたじゃない」  
「いいから行け! 此処にもう用は無いだろうが」  
「はいはい……アンタが助けてくれた事、支部長には内緒にしといてあげる」  
「当たり前だ。喋ったらぶっ飛ばすぞ」  
宇和井の会話に言葉を合わせるが、こいつの発言は何時も本音かどうかが解らない。  
宇和井はハイハイっと手で合図しながら去った。  
 
 
あいつが余計なこと言ってくれたおかげで、思い出したくもない事が脳裏に浮かんだ。  
毎日走り回っていた頃と、こうやって高みの見物している今を照らし合わせては、懐古に向かってしまう。  
毎日違反行為を起こす奴等を取り締まるのは重労働だったが、それなりの達成感もあった。  
運動部での部活動が終った時のように、永井と良く今日の事を話しながら帰ってた……  
今じゃあ、ありえねえけどな。  
やりがいのあった仕事を辞めて、魔法が一般生徒と同じ規則下でしか使えないのは窮屈な学校生活だった。  
それに今は共に同じシルバープレートだが、このままだと永井が俺より先にゴールドになってしまう。  
永井だけじゃない、宇和井や他の執行部員もそうだ。  
毎日執行部員がチクチクポイント集めしてる。  
一方で、俺にとってのポイント取得は試験での高評価か、何時あるか分からない学校貢献での臨時ボーナスしか望めない。  
 
宇和井の言葉は本音なのだろうか。  
九澄が分室に行ったのは知り合いから聞いた。実質今の部室は五人、執行組織としては少ない。  
九澄が入る前の執行部は忙しそうに毎日走り回っているのを何度も遠めで眼にしていた。  
いや。あそこに俺の居場所なんて無い。永井がいるし、宇和井の相手は疲れる。  
今のままでいいのか……なんて言われたら言い返せない自分に無性に腹が立つ。  
 
気を紛らわす為に空を見上げたら、雲が流れるのが早くなった気がする。俺は早めに教室に戻ることにした。  
 
 
放課後。  
退屈な授業が終わり、俺はさっさと教室を出て下駄箱に向かう。  
「伊勢!」  
呼び止めたのは宇和井だった。  
「ちゃんとお礼、言ってなかったでしょ?」  
「そんなの要らないってさっき言っただろ」  
「でも取り逃がしちゃったのは……私の所為だったから……」  
「“一般生徒”に手伝ってもらうなんてな。執行部副部長の名が泣いてるぞ」  
「……そうね。私としたことが迂闊だったわ」  
宇和井の反応はあまり良くなかった。何時もは言い返して来る所だ。  
―――本当にへこんでるのか?こういう空気は嫌いだ。今のこいつを見るのも。  
「もう手は貸さないからな」  
俺はその場を去ろうとする。  
「ちょっと待って! 話があるの。長くなるから……今日あった所! いいでしょ?」  
 
俺と宇和井は体育館裏へ。部活動の外練習の場所に使われているか心配だったが、誰も居ない。  
「いいところよね。ここ」  
「で、何だよ話って」  
「勝負しましょ。私と」  
急かすように言った。急ぎの用は無かったが、宇和井の言葉を俺は待っていた。だがその言葉は意外なものだった。  
「……いきなり何言ってるんだ? 執行部が生徒と決闘かよ。いいのかそんなことして」  
「そうね、何か賭けましょうか。伊勢、勝ったら何がいい?」  
サクサクと話が進む。気に食わないが、余裕な態度が鼻についたから宇和井に合わせる。  
「勝ったら考える……どうせ負けないけどな。お前はどうするんだ?」  
「……執行部に戻って」  
「今更何言ってんだ、戻るわけ無いだろ」  
「負けないんでしょ? だったらいいじゃない」  
「挑発してんのか!? 女だからって手加減しねえぞ」  
「いらないわよそんなの。早く始めましょ」  
どっから来るんだ、その余裕は。俺の実力を知らないわけじゃないだろ。大体、話が急すぎる。  
――――まあいい。売られた喧嘩に負けるつもりは毛頭無い。  
 
俺は大き目のリングで繋がれているウォレットチェーンを巨大化させる。  
対して宇和井は髪ゴムを外し、魔法を発動させる。ゴムが一気に変化していき、大きな手毬のような物体が掌に現れる。  
そして、宇和井はその黒い手毬で網目の巨大な壁を作った。  
「いいわよ、何処から来ても」  
「そんな穴開きガードじゃ防げねえだろうが!」  
宇和井が何時も使用する捕獲用の魔法とは違う。初めて見る魔法だったが、そんなものに躊躇している場合ではない。  
俺は宇和井目掛けて鎖を打ち込んだ。蜘蛛の壁を貫いて宇和井へ……とは、やはりいかなかった。  
 
宇和井の眼の目で鎖が止まる。網目を鎖が通った瞬間に黒の網目は四方に飛び散り、俺の鎖を構成するリングの穴に蜘蛛の糸が絡まっていた。  
その先は地面、校舎、木。あらゆる所に繋がれている。黒糸と、それらとを繋ぎ止めるファクターは……。  
「……なるほどな。磁場に反応してるのか」  
「流石の洞察眼ね。でも少し違うわよ」  
宇和井は掌を此方に見せる。其処にはもう一つの手毬が在った。  
「さあどう防ぐのかしら?」  
宇和井は此方に手毬を投げる。手毬は飛び散り、蛇のように四方八方に飛び掛る。  
 
ちょっと待て。  
如何して二つも同時に魔法が発動してるんだ?いや、それよりも防御しないとマズい。だが今プレートは鎖にある。  
―――大丈夫。急いで魔法を解除してプレートを戻し、予備の鎖を再発動させれば……俺なら間に合う。  
俺はポケットにある予備の鎖を取り出し、魔法を解除する。  
 
 
「はい。おしまい」  
宇和井にプレートを奪われる。二つ目の手毬の仕業だ。  
飛び散った二つ目の手毬は、俺の目前で一つ目の手毬同様に網目状の壁へと変形し、プレートを絡め取った。  
宇和井は魔法を解除し、プレートごと蜘蛛の黒糸は奴の掌に収まる。  
宇和井の掌に残ったのは、俺のプレートと二つの髪留めゴムだった。  
「初めからプレート狙いだったのか」  
「そうよ。術者の魔法解除時が一番の隙。執行部の鉄則よ」  
宇和井は髪留めゴムで髪を結いながら言う。  
「どうやってお前は二つも同時に魔法を使ったんだ?」  
「あれは元々一つの球よ。一つ目と二つ目、大きさが違ってたでしょ」  
最初に見た手毬を思い出す……一つ目の手毬はバスケットボールほどの大きさで、二つ目の手毬はソフトボールほどの大きさだった。  
「一つ目が七割の糸で鎖を、二つ目が残り三割の糸で威嚇と壁……か」  
「相変わらずセンスはいいわね。新技なのに直ぐに分析されちゃった」  
宇和井は俺のプレートを日光にかざす。  
「この魔法を使ったのは伊勢が初めて。戦法も初めて。試し打ちになったけど、悪くなかったわ」  
宇和井はそう言ってこの場を去ろうとする。  
「おい待てよ!」  
「プレートなら、部室で管理するわ。返して欲しかったら部室に来て」  
俺は宇和井に詰め寄り、腕を掴む。  
「……放して」  
「プレート、返せよ」  
「約束よ。それに魔法の無許可使用で連行してもいいのよ。それとも、その手で無理矢理私から奪う?」  
宇和井が正論だった。俺は掴んだ手を放す。  
「要らねえからさっさと帰れ」  
「ホントに要らないの? これ無いと学校に入れないのに」  
「いいから帰れって言ってんだろうが!!」  
俺はキレた。  
負けた悔しさと、宇和井の発言が一々気に入らなかった。  
「……もう。今日中に取りに来なかったら学校に出入り出来ないわよ。どんなに遅くなってもいいから、部室に来て」  
宇和井はその場を去る。  
 
不貞腐れる訳でもなく、怒りに任せてでもなく、俺はいつもの大木の幹に寄り掛かる。  
部室行きは死ぬほど嫌だが、我慢するしかない。永井に会わなければいい。  
どうせ宇和井がプレートを持って俺を待ち伏せしてるはずだ。もし永井に渡してたら……最悪だ。  
 
「フフっ、来ると思ってたわ。よかったわね〜……今日は私一人の当番よ」  
部室に向かうと、幸いにも宇和井一人だけだった。俺の心配を先読みしてたようで、何処までもむかつく奴だ。  
俺の読み通り、放課後のシフトは従来のままの少人数だったみたいだ。  
放課後のトラブルは大体部活の顧問が解決するからというのもある。  
それに賭けではあったが、宇和井一人だったのは助かった。  
「はい。伊勢のプレート」  
宇和井はあっさりと俺のプレートを差し出す。  
「再入部との取引じゃなかったのか?」  
「そんなこと言ってないわよ。プレートは単なる遺失物として処理しておいたから、始末書も書かなくていいわ」  
すんなりと手元にプレートが帰って来る。肩透かしの展開が、俺は少し気に入らない。  
「豪くすんなりと返してくれるんだな」  
「だって、私も始末書書かないといけなくなるんだから」  
宇和井は頬を膨らましている。  
「お前から喧嘩売ってきたんだろうが。なに俺の所為にしてんだ」  
「あ〜……そこまで! 言い合ってたらキリ無いから終わり!」  
宇和井は何時もの調子で空気を変える。何時もコイツといると、調子が狂う。  
 
「ところで、どう? 久しぶりの部室は」  
俺は辺りを見渡す。多少棚や机の配置は変わっているところはあったが、昔とほとんど変わらない風景が広がっている。  
「少しでも戻りたくなったら言いなさいよ。まあ今日見てみた感じだと、結構鈍ってる感じだったけど」  
「勝ったからって偉そうに言ってるが、別に負けた訳じゃないからな」  
「あら、プレート奪われたのに?」  
「魔法が無くても戦えるだろ」  
「負けず嫌いねぇ、素直に負けを認めればカッコイイのに……ん、携帯が鳴ってる。もしもし………は〜い。今から行く」  
執行部の仕事のようだ。俺には此処にも用は無い。  
「一人の時に限ってこうも仕事……ついてないわ」  
「俺は帰るぞ。もう用は無いからな」  
「伊勢。また来たくなったら、来てもいいのよ?」  
嬉しそうな宇和井の顔にイラつく。  
「もう来ねえよ。じゃあな」  
俺は宇和井に背を向け、部室を後にした。  
 
下駄箱に向かう。運動部の掛け声や、吹奏楽の演奏が校舎に響く。  
俺の手には、永井と競いながら手に入れた銀の証があった。だが今はそれだけしかない。  
このままだと、永井や宇和井に後れを取る。あいつ等は三年も執行部だろうから、抜けた俺が奴等に対抗するのは厳しい。  
宇和井は、そんな俺の焦りさえも見透かしていたのだろうか。  
「伊勢!!」  
俺の昔の連れがいきなり声をかけてきた。雰囲気で慌しさが見て取れる。  
「うるせえよ。他の奴等はどうした」  
「山根のグループに……やられたんだ」  
「山根? 少し前プレートの窃盗して捕まったパーマ頭か」  
「ああ。それで奴のグループと決闘になったんだが、あいつら魔法試験場で魔力練って待ち伏せしてやがったんだ」  
魔法試験場。あそこは進入禁止区域の筈だ。  
「今もそいつらは其処にいるのか」  
「ああ。今執行部とヤリ合ってる。奴等、魔力を高めてるからかなりヤバイぞ」  
「執行部……お前は先公に連絡しろ、俺が其処に行く」  
「おいおい! 一人じゃあ無理だろ……」  
「アぁ!? 俺を誰だと思ってんだ。あいつ等最近調子乗ってたから丁度いい機会だ。それに」  
「……それに?」  
「いいから早く行け!」  
 
 
俺は魔法試験場へ。  
執行部。間違いなく宇和井だ。アイツがやられる事は無いだろうが心配してしまう自分の感情が鬱陶しい。  
試験場のある特別区域の校舎に入る。段々と辺りは静かになり、照明も点いていない薄暗闇の中を走る。  
自分の足音だけが校舎に響き、俺は息を切らしながらも走り回る。  
宇和井の顔が浮かぶ。今日は何度もアイツと絡んだ。  
俺は……昔の仲間がやられたから向かってる。宇和井はオマケだ。大体、宇和井は執行部だ。  
心配するだけ無駄。今日戦ったのを思い出せば解る。だが、アイツ一人だから心配してしまう。  
騒ぎのある場所を探すが、静まり返っていて場所が特定できない。探査魔法でも持ってたら使うんだが、生憎インストールはしていない。  
この施設はやたらと部屋が多い。……魔力を練ってたなら、地下か。  
 
「いやあああああああああ!!!!」  
声が聞こえる。俺は階段を降りて地下に向かう。  
降りて正面の扉を開けると、空間が蜘蛛の巣で張り巡らされていた。三人の連れが床に倒れていた。  
「おい、あれ……伊勢じゃねえか!」  
空間の中央に陣取っている連中。確かに山根とつるんでた奴等だ、相手は四人。  
だが宇和井がいない。俺は空中を観ると……空間を支配する蜘蛛の巣の中央に、宇和井は居た。  
全身を黒の蜘蛛の糸で絡み獲られている。  
「お前ら、宇和井に何した」  
俺は宇和井の下に居る連中に詰め寄る。  
「コイツが勝手に暴走したんだよ、四対一じゃあ無理だろうってさ。魔力練ったら、自分の魔法に取り込まれて自爆しやがった」  
「ちょっとからかっただけなのにな」  
全く悪びれた様子は無い。宇和井を見上げると、手や膝の所々に傷や痣があった。  
俺は俯いて項垂れる宇和井を見つめていた。  
「ちょっとちょっかい出しただけなのに剥きになってくるからさぁ」  
「捕まるの嫌だしな」  
「つうかさっきからこの角度、パンツ見放題じゃん」  
「おいおい、とりあえずこの状況を考えろよお前ら」  
 
それは今の俺には充分な燃料だった。  
「……そうか。じゃあとりあえずお前ら全員ぶっ飛ばす」  
「もしかして伊勢の女か? そりゃ悪いことしたな〜」  
「カッコイイなあ。女の前じゃあ強気になれるもんな」  
連中は俺を嗤う。  
「全力で来いよ。じゃないとお前ら死ぬぞ」  
「死ぬのはお前だよ伊勢」  
屑共が喋り終わる前に俺は魔法を発動させる。  
 
装備していた鎖と予備の鎖を繋げた後に、ありったけの魔力を練ってその一繋ぎの鎖を巨大化させる。  
ただし、その鎖は三個の予備を繋げた恐ろしく長いものだ。蜘蛛の巣を縫って、巨大な龍のような鎖が現れる。  
「なんだ……これ……!!」  
「魔力を練っただけでこんなのが作れるのか。すげえドーピングだな」  
連中が驚き狼狽する姿が手に取るように解り、俺は銀龍を連中目掛けて打ち込む。  
連中は蜘蛛の巣の隙間を縫って走り回り、走りながら魔法を使って龍に攻撃してくるが、痛くも痒くも無い。  
「さっきの威勢はどうしたんだ? さっさとケリつけるぞ」  
俺は鎖を四分割して、連中を中央へ上手く追い込む。宇和井の魔法がヒントだった。  
 
物質変換魔法。  
魔法の媒体となった複数の同物質を融合させたり分解したりする、三年生で習うスキルだ。  
宇和井は恐らく独学で見につけた。俺は一年の時、永井と図書館に入り浸ってた頃に文献で読んだだけだ。  
付加魔法だから余計に魔力は使うし、何より操るのが困難だ。  
滑塚さんのように何年も使って身体に感覚を刻むならまだしも、俺も宇和井もド素人だ。  
そして宇和井は魔力増大もあって、制御できず暴走した。  
俺が昼休みの時点で気づいて、忠告してれば良かったんだ。  
四人を同時に追尾するのに加えて、コントロールが滅茶苦茶難しい。  
蜘蛛の巣にぶつかって、宇和井が振り落とされないよう気を配る。  
上手くいかずに途中で暴れだす四龍。  
「クソが!! 黙ってろ!!!」  
俺は抑える為に左手を右手の手首に添えて、力尽くで手元で抑える。  
鎖に血が滲む。痛みで頭が可笑しくなりそうだ。  
それでも鎖を離さない。蜘蛛の巣に捕えられた宇和井を見る。  
アイツは絶対俺が護る。護って……一言、言ってやらないと気が済まないからな。  
 
神経を研ぎ澄ませて四匹の龍を支配下に置くと、四龍は障害物を縫って連中を追いかけ、上手く中央に固める事に成功する。  
四方を囲む銀龍に怯える連中。奴等の前に俺は歩み寄る。  
「もうお前ら魔法打てないだろ。走りながら神経集中して魔力練るなんて出来ねえし、俺の鎖にガンガン魔法打ってたし、尚且つバテるまで走らしたからな」  
勿論、誰が何回、どんな魔法を、何発打ったかは全て記憶し計算してある。  
魔力が増大しても、容量が増えるわけじゃないからな。  
「さて…俺のさっきの台詞、覚えてるか」  
 
俺と四匹の銀龍が連中に迫る。行うのは勿論、一つだ。  
宇和井は気絶している。  
それが救いだった。  
今のアイツにだけは――――こんな俺の姿は見せたくないからな。  
 
 
後ろで女の声がした。先公が来たようだ、偉く早い。  
空間に入ってきた誰もが驚いていた。  
そりゃそうだ。巨大な蜘蛛の巣の中を、龍が這ってるんだから。  
俺は先公に取り押さえられる。連中は、再起不能とまではいかないが皆床に突っ伏して倒れていた。  
俺は魔法の打ち過ぎで抵抗できなかった。右手は血だらけだった。  
掌は鎖に削られた傷。手の甲は連中を殴った時に出来た傷。  
そして宇和井の安否すら確認できなかった。俺が宇和井を降ろしてやりたかった。  
完全に頭に血が上っていて、宇和井を無視して殴り続けていた。  
未然に防げた暴走、宇和井の傷……それだけが悔しかった。  
俺が執行部に居ても、連中を暴行したのは処分されるだろう。  
だが、宇和井をあんな目に会わす事は無かった。  
俺が傍にいてやれば……俺がアイツを護ってれば、こんな事には――――。  
 
 
 
――――伊勢聡史。貴方の処分は一週間の謹慎処分とします。  
 
校長室。  
俺は校長に処分を下される。事情はそれなりに説明した。  
だが自分の行った行為を弁護はしなかった。連中は無断での禁止区域侵入と使用、及び執行部への暴行等で退学処分だった。  
「お前も奴等と同様の退学処分でも可笑しくなかったぞ」  
柊が言った。俺は一礼し、校長室を後にした。  
 
 
 
Day 5 10/20 Saturday  
 
 
あれから一週間経った。俺以外誰もいない。  
一人暮らしだったが、処分の所為で実家での生活を余儀無くされた。  
以前は俺の家で連れが集まって遊んだりしてたが、元々あいつ等とつるみ出したのは執行部を抜けてから。  
今は前みたいにつるむ事は無くなった。きっかけは……九澄と対峙してからだ。  
「伊勢くん。貴方は以前は執行部に所属し、学校の治安を護ってきた立場の人間です。今回の処分は今迄の自分を見直す良い機会……そう捉えてください」  
校長の言葉。言われなくても解ってる。俺の所為で宇和井だけじゃない。執行部に迷惑がかかってる。  
あくまで“休部”だ。席は残っているが、生徒は“元”執行部の伊勢として認識されている。  
その俺が問題を大きくした。実際に処分まで喰らってる。  
執行部のイメージ・評価は下がることくらい、言われなくても解ってる。  
 
宇和井が気になった。  
アイツは病院に運ばれた、と柊が言っていた。『大した怪我じゃないから心配するな』と後に付け加えて。  
だが気になって仕方ない。アイツの事が気になって仕方ない。  
笑ってたアイツの顔。神経に障るアイツの態度。何処か寂しげなアイツの声。  
何故か焼きついて離れない。ウザいだけだったアイツが……気になって眠れない。  
 
 
玄関でノックをする音。  
「……誰だ」  
時間は気づくと朝の十時だ。俺は寝転がっていたベッドから降り、玄関に向かう。  
扉を開けると、宇和井が立っていた。  
「元気してる?」  
普段の調子で話す宇和井。フリースにショートパンツに黒のニーハイ……格好が制服じゃない。  
突然の宇和井の訪問で、俺は少し動揺していた。  
「お前、そのカッコは?」  
「どう? 可愛いでしょ♪」  
「そうじゃねえよ。学校はどうしたんだよ」  
「何言ってんの?今日は土曜日よ」  
曜日感覚が薄れていた所為で、呆けた発言をしてしまう。  
そうか……昨日で処分期間は終わりだった。イエローカードの期間は一応切れたことになる。  
俺は宇和井の怪我が気になって身体を見渡すが、膝はソックスに隠れて確認できない。  
「なによ、わたしの身体ジロジロ見て……いやらしい奴」  
「お前の怪我が気になったからな」  
素直に心情を言った。余りこういう台詞は言いたくは無いが、あの事件後だからな。  
「へー、心配してくれてんだ」  
「原因はてめえの魔法を上手く扱えずに暴走だからな」  
「ちょっと、いきなり厭味? 一人で頑張ったな、とか……そういうの無いの?」  
やっぱり何時もの宇和井だ。今の俺にはそれが一番安心する。  
少なくともそんなこと、コイツには死んでも言わないが。  
 
「で、何の用だ」  
「この前のお礼と、何してるかな〜と思って」  
「また礼か。そんなのいらねえよ」  
「じゃあその右手の傷はなにかな〜」  
やっぱり調子が狂う。常にズレる互いの言葉。素直になれないのはお互い様か。  
俺は包帯を巻いている右手をポケットに突っ込む。  
「ありがとう」  
宇和井は真剣な表情になる。  
顔でわかる。コイツがこの表情を見せたら、本音しか話さない。  
「だからいいって言ったろうが」  
「部屋、入っていいかな」  
宇和井の言葉に少し躊躇する。雰囲気も重なり、嫌な緊張感が生れる。だが断る理由も無い。  
「好きにしろ」  
「やった! お邪魔しま〜す」  
宇和井は靴を脱いで家に上がるなり、トコトコ歩いて辺りを見回した。  
台所やトイレ、冷蔵庫の中まで確認し出す。  
「へー、綺麗にしてるんだ」  
「お前何してんだ」  
「他人の家に初めて来たら、やっぱり気になるじゃない」  
宇和井が辺りを見終わり漸く俺についてくる。  
俺の部屋に入ると、宇和井はベッドに腰かける。  
「ここ座って」  
宇和井が手招きする。大きな溜息を吐きながら、俺は宇和井の横に座る。  
 
「へぇ〜。男の部屋って、もっと汚れてるものだと思ってた」  
「お前の男の部屋と一緒にすんなよ」  
「男なんていないわよ、残念だけど」  
「お前の彼氏になった男は苦労しそうだからな」  
「それどういう意味よ! 大体わたしと付き合えるなんて、どんなに幸せなことか伊勢には分かんないでしょうけど」  
「自分で何言ってやがる。キモいな」  
「じゃあアンタはいないの? 彼女」  
「いねえよ。つうか要らねえ」  
「カッコつけちゃって。どうせ“めんどくさいから”でしょ?」  
「誰も言ってねえだろそんなこと」  
事件の事は何処かに飛んで行ってしまった。俺は宇和井と暫くくだらない雑談をしていた。  
何処か新鮮で、何処かくすぐったい会話。  
何処かに本音を織り交ぜ、相手を牽制しては自分の本音を再び織り交ぜる。  
その会話の何処かに。相手に気づいてもらいたい“気持ち”がある。  
発信する側は見つからないように。受け取る側は気づいたと相手に思われないように。  
心理戦じゃないが、俺たちの会話はそんな感じだった。  
どちらが先に伝えるか。何気ない台詞から、何気ない仕草から、時折見つめる瞳から。  
だが、つい俺は宇和井の罠にかかる。  
 
俺は宇和井を見る。宇和井は直ぐ傍で座ってる。右目は正面に飾るポスターを眺めている。  
手を伸ばせば届く距離。女と意識すれば宇和井の匂いがする。俺の空間に女が入ったんだから、尚更に。  
俺は宇和井の肩に触れた時。  
 
「ねえ。デートしない?」  
宇和井がポスターを眺めながら言った。俺は手を離す。  
「おい、俺の処分知らないのか」  
「知ってるわよ」  
「じゃあ何でだよ」  
「行きたいから行くの! さあ早く着替えて。そんな部屋着の男と一緒に歩きたくないんだから」  
宇和井は立ち上がり、勝手にクローゼットを開けて適当に服を取り、俺にポイポイ投げつける。  
「クソっ! やめろ馬鹿!」  
「早く着替えて! 外で待ってるから」  
宇和井は適当に服を投げると、さっさと靴を履いて外に出る。一気に静けさを取り戻す空間。  
俺は不満ながらも顔を洗い、髪を整え、服を着る。  
「早くしてよ〜!」  
宇和井が外から催促する。いきなり来たくせにわがままな奴だ。完全にアイツに振り回されてる。  
まあ……今日くらいは赦してやるか。事件の後だしな。  
 
 
 
外は晴れ渡っていた。時間は十一時頃。  
俺達は隣街へ向かった。ローカル線は土曜の午前中だったが、年寄りと子供ばかりだった。  
「なんかワクワクするよね、電車で遠くに行くって」  
宇和井は嬉しそうに座席から外を眺める。最初は近所の見慣れた町並みが、一気に田畑と山に変化する。  
遠くに連なる山々は、秋の紅葉で赤と黄に綺麗に色づく。  
毎日、魔法が飛び交う学校から離れると、こうも違った世界が広がるんだろうか。  
まあ学校の方が異常なのが、今の俺には見に沁みて解る。  
「……ちょっと、聞いてるの!?」  
「……なんだ?」  
「やっぱり聞いてない……紅葉がキレイね、って言ったの」  
俺はハイハイといった態度で返す。宇和井はふくれっ面を作りながらも窓の外を眺めている。  
窓から流れる風がとても気持ちよかった。  
 
段々と田畑から住宅が増えていき、コンクリートの溢れる街へ。  
「長かったわね。じゃあ何処行く?」  
「別に。適当にぶらぶらすればいいだろ」  
「あらそう。じゃ、わたしに付き合ってもらうわよ!」  
電車を降りると、宇和井は鼻歌混じりで改札へ向かう。  
久々に来た大きな街。まあ此処なら誰にも合わずに済むだろう。  
駅を出ると、やたらでかいビルが其処彼処に建っている。  
「なにしてんの? 置いてくわよ〜」  
宇和井は俺の先を歩いていく。俺は溜息を吐きながら渋々ついて行く。  
 
宇和井の用事は洋服だった。色んなショップを巡っては、試着して俺に感想を求める。  
そして俺は適当に流すと宇和井がほっぺたを抓って来る。  
……そんなやり取りを、どのショップでもやった。  
「何着ても変わんねえだろうが」  
その後、宇和井に再び抓られた。強く強く抓られた。  
どうやらこの台詞は、女に使ってはいけない魔法らしい。宇和井との買い物で唯一の収穫だった。  
三時頃に遅めの昼食の後も、雑貨屋で色々玩具漁りしたり、宇和井が俺の部屋に合う家具を勝手に選んだりしていた。  
「ねえ、これ凄いわね。伊勢の部屋にピッタリじゃない!」  
宇和井は楽しそうにはしゃぐ。  
最初は、この前の事件で魔法が暴走して怪我したから、俺は宇和井の仕草を観察していた。  
色眼鏡で勘繰ると無理矢理笑ってるように見えるが、客観視すればそんな素振りは全く無かった。  
アイツを見てると……なんだろう。そんなことはどうでもよく感じる。  
無邪気に笑って、時折腕を引っ張ってくる宇和井を俺はじっと眺めていた。  
 
気がつくと外には暗闇が迫っていた。時間は午後七時。  
「おい、帰らなくていいのかよ」  
宇和井は怪我人だから、身体に無理を掛けたくない。  
「心配ど〜も。親には病院に行ったことになってるから、問題ないわよ。まあ友達の家に遊びに行ったって後でメール入れとくから」  
辺りを高速で暗闇が迫る。この時期は夜は冷える。日中暑かったために薄着で出てきたのが迂闊だった。  
「寒くねえか?」  
「ん、大丈夫よ。妬けに優しいじゃない、気持ち悪いわよ」  
「じゃあ、とりあえずこの腕をどけろ」  
宇和井は俺の腕に自分の腕を絡めていた。  
「なんか彼氏彼女みたいでいいじゃない♪」  
俺は宇和井の腕を解き、さっき買ったジャケットを渡す。  
「これ着てろ」  
「何よ、結局わたしは小物だけで、伊勢はちゃっかり服買ってるんだから……ブカブカ〜、やっぱ男物は造りが大きいわね」  
「とりあえず帰るまではそれ着てろよ」  
宇和井が俺の買ったジャケットを羽織る。何気に気に入っているようで―――それでも宇和井は俺に腕を絡める。  
「だからさっき言っただろうが」  
「今日だけ……ね?」  
そんな顔で言われたら、無理矢理腕を解けない。俺は何度目か分からないくらいの舌打ちをする。  
勿論、宇和井には聞こえる大きさで。  
 
最後に二人でプリクラを取ることになった。  
「最後に一枚だけいいでしょ?」  
「俺こういうの嫌いなんだよ」  
「一枚だけ取ったら終わりだから……ね?」  
俺は断固として拒否していたが、宇和井の説得にあっさり屈してしまう。  
嫌々機械の前に立ち、俺は画面を睨んでいた。  
「そんな怖い写真ほしくないからちゃんと笑ってよ!」  
「画面に向かって笑えるかよ」  
「もう……じゃあこうしちゃえ」  
フラッシュが俺達を襲い、機械が写真を現像を始める。  
先ほど取った画像が画面に現れると、何故か宇和井の唇は俺の頬にあった。  
「ふふっ♪伊勢の驚いた顔、面白いわね」  
宇和井は楽しそうにプリクラに装飾を施していた。  
こんなにも早く家に帰りたいと思ったのは久しぶりだ。  
中途半端な感触が未だ頬に残っていた。  
 
 
電車が来た道を逆走する。外のネオンが段々と少なくなり、やがて暗闇が支配する。  
宇和井ははしゃぎ疲れたのか、少し大人しくなった。  
窓の鏡に映る俺と宇和井。唯それだけを見つめながら、俺は目的地への到着を待っていた。  
 
漸く地元に到着する。時間は午後八時。  
「家までどうするんだ?」  
「う〜ん。どうしよっかな」  
宇和井は携帯を取り出し、家に電話をかける。  
「…………もしもしお母さん? 今、友達の家。………うん、……そうなるかも………わかった。じゃあね」  
電話を切ると、何事もなかった様に歩き出す。  
「おい。何処行くんだ」  
「聞いてなかったの? “友達の家”」  
「友達の家……俺ん家か」  
宇和井はウンウンと頷き、俺の家に向かう。  
駅からの距離はそれほど無いが、薄暗い空色で夜道が気になる。  
 
「!! いっ……たた……」  
宇和井が膝を押さえている。  
「お前まだ完治してねえじゃねえか」  
「歩き疲れちゃっただけよ……」  
「そんな歩き辛い靴履いてるからだろ」  
「デートなんだからオシャレしてもいいじゃない!」  
俺は宇和井の前で前屈みになり、手招きする。  
「ほら、乗れよ」  
「ちょっと……そんなのいいわよ」  
「どうせ誰もいないんだから気にすんな、早くしろ」  
「もう……」  
 
宇和井がゆっくり俺の背中に身を委ねた。俺は慎重に立ち上がり、買い物袋を手首に掛ける。  
「さっさと行くぞ。お前の言う“友達の家”に」  
 
 

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