「ちょっと!ちゃんと言ってくれないと解らないわ!」  
 
 
 
何で私はこんな男の事が……気になるのかしら。  
 
単純に雰囲気?  
顔は…悪くない。寧ろ整ってる。  
髪も黒で、色白の所為でその色は映える。  
問題は……性格。  
無口で、なに言ってるか聞こえないし、なに考えてるかも……。  
 
 
その男は文字通り「影」だった。  
見えてはいるけど、実態は掴めない。  
どんなに求めても私とは重ならない。  
 
そんな処に私は惹かれたのかも知れない。  
 
 
きっかけは夏休み。  
自主練習中に、C組の人達が何やら盛り上がっていた。  
男子が二人ほど彼方に飛んで行くのが確認できた。  
それとスケートボードが走り廻っているのを、私と三科さんで見ていた。  
ヘアバンドの男子が大声で眼鏡をかけた女子に何かを言っていた。  
 
C組はのんびりしてていいわね。  
そんな会話を三科さんと交わした。  
 
気になったのはその後ろ。  
何やら文字の入ったTシャツを着ている男子がいた。  
なんて書いてるんだろう。  
その文字が見えるまでこっそりと覗いていると………。  
 
 
「影沼」  
 
 
…………どういう意味かしら?  
三科さんは知らないらしい。  
何かの故事かしら。  
達筆な筆遣いは、著名人の作品の模写かもしれない。  
その二文字だけ憶えて、私は其の場を後にした。  
 
 
帰り際に、下駄箱で既視感に襲われる。  
周りを見ると……さっきの二文字。  
ちょっと待って。  
――――――――――“影沼”って……苗字!?  
苗字をTシャツにプリントするなんて。  
芸能人でそんな人、居たかしら。  
まさか……自分の苗字なんて入れたTシャツを着るなんて……。  
 
 
何やら辺りが賑やかになる。  
先程のC組の男子達だわ。  
いいことがあったのかしら、皆とても楽しそうにしていた。  
 
――――――「あっ!!!」  
 
私より先に三科さんが声を出した。  
私らしくない大声を出してしまう処だった。  
先程のTシャツを着た男子が最後尾にいた。  
再び隠れて其の男の指先を追う。  
………あそこは、まさか。  
彼らが去った後、私は確認する。  
……やはり彼が影沼だった。  
 
「どうだった?」  
「違いました」  
 
三科さんが返すが、私は嘘をついた。  
何処か私に似た雰囲気。  
単に押し殺してはいるが、気配の刹那に漂う闇の匂い。  
単純に彼が何者かが……知りたくなった。  
 
 
――――人はそれを一目惚れと言うらしい。  
私から言わせて貰うと、全くもってそんなことは無いわ。  
オーラとか、雰囲気とか。  
多分それは精確に表現できないから使ってる言葉。  
……心がときめくのは……本当にこんなモノなのかしら。  
呆気なくて、疑うしかなかった。  
 
 
時は過ぎて、二学期に入る。  
あれから時折彼を探す目配りをするが、彼はいなかった。  
でも今日から授業が始まるから問題無い。  
始業式が終わって早速、私は一先ずC組の教室前に向かう。  
廊下では男子が床に這いつくばっていた。  
女子達が迷惑そうに避けながら歩いている。  
まったく男って言う人種は。  
 
C組を覗いてみる。  
……覗いてもそれらしき人はいない。  
もう帰ってしまったのだろうか。  
「桜庭か?なにしてるんだ?」  
呼ばれると、三国さんと乾さんだった。  
「いいえ、なんでもないわ」  
「何でも無さそうだから声をかけたんだけどなあ、誰か探してるのか?」  
相変わらずこの人は鋭い。  
「だから何も用なんて……」  
言葉に詰まっていた私の前を、彼は通った。  
「あっ!!」  
「ちょっと、どうしたのいきなり」  
三国さん達を何とか言い包めないと……。  
「ちょっと貴方!なにジロジロと観てるんですか?言いたい事があるなら言って頂けますか」  
彼はビクッと立ち止まり、此方を見た。  
「ん?影沼と知り合いなのか?」  
「いえ、この方が此方を何度も観ていたので、つい」  
 
言い掛かりはこんな処かしら。  
私は無理矢理その男を“黒髪の女王様”で引っ張っていった。  
全身を纏ったら魔法を使ってるのがバレるから鞭だけ。  
部分魔法は夏休みに憶えた新技。  
まさかこんな事に使うなんて……思わなかったわ。  
 
 
「はあっ……はあっ………」  
体育館の倉庫まで走り、彼を中へ。  
“黒髪の女王様”を使っても腕力は上がらないから、とても疲れる。  
肩で息をして、必死で空気を取り込む。  
「………あの…」  
彼はぼそりと言葉を漏らす。  
「貴方、影沼って言うの?」  
彼は頷く。  
「私は桜庭紫紀。普段は貴方なんかとは会話なんてするような事はないんですけども」  
先ずは挨拶、これはマナーとして。  
そして二言目に互いの立場を明確にする一言。  
「……なら、どうして」  
私は当然のように言った。  
「私は、貴方の事が気になるから呼び出したのよ。在り難く想いなさい」  
 
 
彼は眼をパチパチさせて此方を見ていた。  
何かヘンな事を言ったかしら。  
想ってる事を言っただけなんだけれど。  
「何か言ったらどうなの?」  
「……影沼次郎」  
「………え?」  
「…………僕の名前。紹介、まだだったよね」  
「普通は最初に名乗るものよ。全く礼儀というものが無い男なのね」  
彼はぽりぽりと頭をかく。  
 
 
今までに無い、掴めない男。  
駆け引きの無い、一方が突っ張り一方が流す会話。  
私は常に肩透かしを受けていた。  
最初はそれで苛々したものだけど。  
 
それでも、初めてのことだったからだろうか。  
常に立場が上で無いと気がすまない私には少し新鮮だった。  
 
「……桜庭さんは髪を洗うのが大変そうだね」  
「あら?身だしなみに時間をかけるのは、女としては当然の事よ。  
 毎日のケアは怠らないから。無造作に伸ばしただけの貴方の髪と一緒にして欲しくないわね」  
自慢の髪を指摘されたので、私は自信を持って言った。  
元々女性の髪と、男性のソレとは肌理細やかさから違う。  
男には……解らないわよね。  
だけど、彼はそんな女の事情など知らないようだった。  
「………触ってみてもいいかな」  
「ダメに決まってるでしょ!!貴方が私の髪に触れるなんて何十年も早いわ!」  
当然の如く私は声を張り上げて怒る。  
髪が物に触れるだけで神経質になるくらいなのに。  
男に触られるなんて……不可能だわ。  
 
「……桜庭さんの髪、どれくらい手入れしてるか気になるから…」  
彼が褒めてくれてる。  
そんな御世辞じゃ、無理ですけど……。  
「自分で言い出したのですから……仕方ないですわね。ほんの毛先だけよ」  
そう言って私は後ろを向く。  
初対面なのに、変な展開になったわね。  
「………さっきの魔法…」  
「もう解除してあるから気になさらずに……変な事したら使うわよ」  
 
 
暫時の沈黙の後、彼はそっと髪に触れた。  
……思ったほど不快な感じはなかった。  
彼は優しく、櫛で整えるように撫でた。  
如何してかしら。  
胸が……熱い。  
心臓の呼吸が耳に響く。  
 
……………。  
段々と彼の手が上へと上がってくる。  
最初の踝から……腰…背中…………そして。  
 
頭の天辺に……彼の掌が触れる。  
「ひゃあっ!!」  
私は情けない声をあげてしまう。  
「ちょっと!毛先だけだってさっき……」  
振り返ると、彼は右手に何かを持っていた。  
「それって…もしかして櫛?」  
彼は頷く。  
よく観ると、梅の刺繍が美しい木製の櫛だった。  
髪に感じた感触が当たってたなんて……。  
それにしても、その櫛は彼のような男が持っているのが不釣合いなくらいの一品だった。  
「……これ、桜庭さんにあげるよ」  
彼はその櫛を差し出す。  
「もしかして、さっきのはそれを使ってたの?」  
またしても頷く。  
だけど、無理矢理連れてきた私にこんな高価な品…如何して。  
「貴方が使ってた物でしょ?そんなもの受け取れないわ」  
「……僕のは……こっち」  
彼は左ポケットを探り、小さな黒の箱を取り出す。  
中身は、漆器のような黒に桜の木が彫られた櫛が入っていた。  
「……気にしないで……大したものじゃないし…未使用だから…」  
 
何でこんな物を二つも持っているのだろう。  
でも其処は敢えて突っ込まなかった。  
そして、出来るなら………。  
「そっちの黒の方がいいです」  
「……僕が使ってたものだけど…」  
「構いませんわ。寧ろ宜しいんですか?貴方の使っていたものを」  
「……桜庭さんなら構わないよ」  
「どういう意味ですか?」  
「……そのままだけど…」  
噛み合わない会話。  
彼が先導している感じを受ける。  
私は彼の意図が全く解らないまま、声を張り上げる。  
 
「ちょっと!ちゃんと言ってくれないと解らないわ!」  
 
 
 
このような感じで……初めての会話は終わった。  
単に挨拶するつもりが、結構な長話に櫛まで戴いてしまった。  
でも、はっきりと生まれた想いがあった。  
 
 
もう一度、二人きりで逢いたい。  
 
不覚にもそう想ってしまう自分が不思議で、胸が痛みで張裂けそうだった。  
 
 
 
 
それからは、C組を通る時はこっそりと教室の中を覗く事が多くなった。  
時折、何故か観月さんが執拗にドアの小窓から覗いていた。  
「何をしているの?」  
「ひゃあ!!!?……桜庭さん!?どうしてこんな所に…」  
飛び上がるほどの反応と、真っ赤な頬が印象的だった。  
「何かあったんですか?顔が真っ赤ですけど」  
私の指摘を聞いた途端、観月さんは両手を頬に当てる。  
「!!?わたし、また顔が……カヒ〜!!」  
観月さんは、顔を抑えながら物凄い速さで走り去っていった。  
……髪を切ってから変わったわね、彼女。  
 
 
昼休みなのに彼は探してもいなかった。  
電話番号、聞いておけばよかったわね。  
そうすれば此方から赴く手間は省けたんだけど。  
大体わざわざ私がこうやって遠路はるばるC組に来る事自体………。  
「桜庭さん?」  
彼はまた後ろに立っていた。  
「……貴方、背後を取るのが特技なようね」  
彼はぽりぽりと頭をかく。  
「はっ早く来なさい!こんな処、見られたくないんだから」  
私は彼をこの前の場所へ。  
彼は表情変えずに私について来る。  
魔法を使ったら疲れるから、此方としては好都合なんだけど。  
 
 
倉庫に着く。  
ふと気づくと、彼の手を握っていた。  
男の癖に細くて白い指が私の指に絡む。  
「ちょっと!何勝手に私の手に触ってるの!?」  
「………桜庭さんから手を取って引っ張ったんじゃ…」  
「知らないわ。変な言い掛かりは止して貰いたいわ」  
「………………」  
彼は何時ものように黙ってしまう。  
私は業を煮やして、彼に話し出す。  
「これ。この前の櫛の御返し」  
私が出したのは簪。  
彼はじっとそれを眺める。  
「………こんな高価な物、貰えないよ」  
「貴方にじゃないわ、貴方の御母さんに。特別に創ってもらった品ですから、貴方が気にする事ではないわ」  
 
 
如何してこんな事務的な口調で話してしまうんだろう。  
また他人行儀の空気が漂ってしまう。  
もっと……そうじゃなくて………。  
 
 
「わかった。渡しておくよ」  
彼は私の掌に優しく触れながら、簪を受け取る。  
――――胸が私を締め付ける。  
変な表現になるのかしら。  
でもそんな言葉しか見つからない。  
掌の中央を彼の爪が、ほんの一瞬掻き去る。  
それが痒くて……切なくて……堪らなくなる。  
如何してこんな感情を彼に持つのだろう。  
 
 
違う。  
それじゃ駄目。  
一時的な感情に流されるほど“桜庭紫紀”は軟な名前じゃないわ。  
 
 
「話はそれだけ。もう貴方には会わないから。サヨウナラ」  
私は其の場を去ろうとする。  
出来るだけ強い言葉で締めて、其の場を去りたかった。  
そうじゃないと、断ち切れそうに無かったから。  
 
 
私は倉庫のドアの前で立ち尽くす。  
………おかしい。  
身体が動かない。  
原因は、彼の魔法だった。  
 
拘束は大嫌い。  
誰かに縛られるのは大嫌い。  
 
 
「何してるの!?貴方の魔法の所為でしょ?早く魔法を解いて」  
彼は返事をしない。  
そうこうしている間にも苦痛が積み重なり、可虐衝動が私を呼び覚まそうとする。  
「……早くしないと………ツカウわよ」  
段々と瞳の黒色は濃く染まり拡がる。  
そして、魔法が解けたのと同時に私は魔法を発動する。  
私のスイッチは容易に切り替わった。  
 
「“黒髪の女王様”!!!」  
全身に漆黒の鎧を纏い、私は彼を捕獲する。  
彼はマットの上で鞭に絡み取られ鎮座する。  
まるで蜘蛛の繭に絡まる餌。  
ただ殴ったり蹴ったりは詰まらない。  
そうね……彼に『恥』という傷を与えようかしら。  
一生モノの大きな風穴を開けようかしら。  
 
胸に溜まってきた不定愁訴の塊を晴らす。  
今の私にはそれしか無い。  
彼はこの状況でも鉄面皮を脱ごうとはしない。  
ならばその仮面を壊すだけ。  
 
私は一端魔法を解き、マットに倒れている彼の髪に触れる。  
彼は鞭で殴られると思ってたのだろうか、少しだけたじろいだ。  
男の髪にしては綺麗。  
黒く長い前髪をそっと掻き分ける。  
此方を見返す細い眼の中は、少し怯えたような瞳がこっそりと覗く。  
「ふふっ……その整った顔…汚したいわ」  
すうっと頬を擦る。  
微細に身震いする彼を歪めたくなる。  
私の秘める加虐心が膨れ上がっていった。  
彼の顔に近づく。  
怯えた瞳は其の色をより濃くする。  
私はフフっと笑い……接吻。  
閉ざしていた彼の唇を舌で抉じ開け、熱を確かめる。  
彼は抵抗しなかった。  
私の舌が這うのを唯傍観し、攻められていた。  
歯向かって来ないと燃えないんだけど……為すがままの男を責めるのも悪くない。  
 
私は一度離れ、熱を帯びた彼の唇を確認する。  
「舌……出しなさい」  
耳元で囁く。  
彼は言いなり通りに、口を開けて舌を出した。  
其の舌に喰らいつく。  
強く噛んだら血が出るから甘噛み。  
彼の舌が私の口の中でヒクヒクしている。  
含んだ舌を私の舌で弄る。  
互いの舌が表面の凹凸で擦れ、其の感触がジンワリと脳に快感を与える。  
「ふぁはあッ……いいわぁ………この感触…」  
もっと痺れが欲しくて何度も擦り付ける。  
噛んでは擦り……接吻。  
何度も繰り返す。  
だらしなく繋ぎ目から垂れる唾液がどんどん溢れる。  
 
空いている手は彼の首筋に。  
摩っていた手にゆっくりと力が籠る。  
喉仏辺りに親指が掛かり、ネイルが徐々に喰い込む。  
首を絞めれば呼吸が難しくなり、酸素を求め呼吸が荒くなる。  
鯉のように口をパクパクする姿を……私に観せて。  
 
 
 
……おかしい。  
彼はそのような兆候は無い。  
全く微動だにせず、私を見返す。  
「……苦しくないの?」  
彼は頷く。  
でもこれ以上絞めたら危ないし…。  
「……もうキスはしないの?」  
「して欲しいならそう言わないと……!!」  
彼の唇が突然私の唇に触れる。  
私が行った強引なモノとは違う……優しくて温かな接吻。  
何度も唇を絡める。  
表面の紋を確かめるように、探るように。  
ひんやりとした頬や瞳からは想像もつかない様な、彼のぬくもり。  
「……んうぅ………んあぅ……」  
心の棘がゆっくりと和らいでいく感覚。  
 
 
もっと味わいたかったが、彼はゆっくりと離れる。  
「……続きは?」  
彼は子供のように首を傾げる。  
私は……ぼ〜っとしていた。  
もう一度、してほしかった。  
こんなの……初めてだから。  
 
 
 
だがプライドが赦さない。  
男にリードされる事なんて在り得ない。  
 
 
 
「ふん、余り私を嘗めないで貰いたいわ」  
彼を平伏し、服を剥ぐ。  
白く細身で無駄の無い体躯。  
先程の彼のくちづけを真似て、乳首に舌を這わす。  
そして輪の外周を舌先を尖らせ這う。  
彼は少し反応し、突起物は確実に腫れてくる。  
もう片方は爪で引っ掻く。  
弄っても弄っても跳ね返る彼の乳首が愉しい。  
腫れ上がっていくのを口の中で……舌で感じる。  
私は弄っていた右手を下半身へ。  
股間に触れると、堅くなった竿が容易に確認できた。  
 
 
「此方はもう膨れ上がってるわよ?痩せ我慢してたのね……。  
 無理しなくていいのよ……如何して欲しいの?素直に言ったら……してあげる」  
 
耳元で囁く。  
息を耳介に響かせるように吐く。  
……漸く彼は反応する。  
明確な反応は下半身。  
太腿は攣った様にピンと張り、膨らみは痛々しく盛り上がる。  
そして快活筋に力が入っている……歯を喰い縛っている証拠だ。  
普段は高圧的だが、こういう攻めも悪くない。  
次第に型に嵌ってイク自分に逝きそうになる。  
制服の上からも輪郭はくっきりと浮かぶ。  
焦らすように……催促するように。  
でも彼の言葉が出るまでは実行しない。  
勝つのは私。  
 
 
「………してほしい」  
注意深く聴いていないと逃してしまいそうな小声。  
「聞こえないわ」  
吐き捨てるように言う。  
此処は敢えて強く。  
若干の催促も含む。  
じれったさが私にあったから。  
口では余裕……でも心では一刻も早く絶頂を求めている。  
彼には看えないだろうが、私は笑みを浮かべていた。  
背部を奔るゾクゾクっとした高揚感が暴走しないよう、注意する。  
 
 
「…………握って」  
「何処を」  
「………熱い……張裂けそうなんだ」  
「知ってるわ」  
「………御願い……我慢できない」  
「……何処を」  
 
 
そして……彼は折れ、私に懇願した。  
其れを私は承諾する。  
 
敢えて省いたのは……私だけの秘密だから。  
彼の羞恥心は、私だけのモノだから。  
そして、裏切りの呪文だから。  
 
 
ゆっくりとチャックを下ろすと、反り返った竿が顔を出す。  
下着を裂くように張り出すソレは、優男にしては立派な物だった。  
最後の布地を下ろすと竿はピクピクと上下する。  
風を浴びて靡く花のように。  
……だが花のような美しさは微塵も無い。  
私からしたら、男の醜さを昇華したようなオブジェでしかない。  
此れを鎮める為に必死になる男を……私は見下している。  
道端に落ちる塵屑と同等として。  
彼もその矮小な塵の一粒だった。  
何処かに在った……彼だけは違うという想い。  
彼の懇願は、気高い私への背信行為だった。  
―――だから赦さない。貴方だけは絶対赦さない。  
 
 
竿に爪の先で刺激を与える。  
竿の裏筋を沿って、何度も上下に往復する。  
傘の部分には吐息と舌先。  
「フフっ……欲しがってるわね」  
身体は正直だ。  
竿は痙攣したように震え、血管が禍々しく浮き出る。  
此方としても、堅い方がヤり易い。  
傘の先を重点に攻める。  
……そういえば彼の傘はとても綺麗な桃色だ。  
まさか使ったことが無い……そうなのだろうか。  
そんなこと、今の私には関係無い事。  
ガチガチに堅くなった彼の竿を握る。  
滑らせるために、唾液を竿に吐き掛ける。  
上下させて擦るが……まだ足りないわね。  
口でするのはまだ早い。  
私は彼と再び接吻をする。  
彼の唇を弄ると、彼も私も唾液が溢れてくる。  
其れを纏めて口に含み、竿に垂らす。  
そう……この臭い。  
私のキメ細かな指に絡むのは、こんなにも下劣な蜜。  
その蜜を私が……私の指が竿に塗りたくる。  
こんな行為で興奮する男は、やはり醜い。  
 
 
 
だから今、物凄く愉しいの。  
頭を必死で垂れて、下半身を震わせながら射精する男の余りにも間抜けな光景を、上から哄笑しながら眺めるのは。  
 
 
 
指は竿の裏筋から袋へ。  
熱い。  
今、中では必死になって精液を製造してるのよね。  
証拠に、袋は膨れてパンパンになっている。  
醜い表皮のしわもくっきりと確認できる。  
その波打った皮膚を、五本の指で下から摩り上げる。  
「………!!……うぅ」  
彼が初めてリアクションを取る。  
眼を瞑り、呼吸は荒い。  
吐く息の量が増えているみたいね、鼓動が早くなっている。  
「まだ触っただけよ?……頑張らないと使い切っちゃうわよ、ココの中身」  
そう言って、精液を溜める袋を指で犯す。  
舌で傘を弄ると、傘から雨露が下へ零れ落ちる。  
アイスが溶けて逝く様に……。  
でも肉は融けない。  
寧ろ、酷く腫れ上がる。  
毒を吐き尽くすまで私は虐め続ける。  
「…で…る…くうっ……」  
彼の言葉は空虚だが、放たれた欲物は暴動だった。  
竿が痙攣しながら、リズム好く精液が先から吐き出される。  
醜い土台から飛び出す噴水。  
逝く末は彼の太腿や腹部。  
私は竿を手で包み、上下して射精を煽る。  
下半身は強張り、脚をピンと伸ばす。  
 
そうよ……此れが看たかったの。  
男が魅せる最も間抜けで下劣な行為。  
今、彼は興奮の絶頂にいる。  
私は追い討ちをかける。  
もっと沢山の毒を吐き出させるため。  
「……キモチイイ?たくさんでたわね。まだココ、いっぱいあるわよね……次は足で逝こうかしら」  
怯えたような彼の表情と瞳。  
恐怖かしら……更なる興奮の感化に恐れて?  
それとも……。  
何処かに悲哀が混じる瞳。  
そんなものに私のプライドは揺るがない。  
下半身に眼を戻すと、壊れたスプリンクラーが果てていた。  
散々に撒いた精液が虚しい。  
私は再びその肉の塔を修復するため、舌で内太腿の零れた雫の上を滑る。  
身体が反応し、萎縮して内股になるのが……また間抜けだわ。  
 
……一通り舐め回すと、再び竿へ。  
こんな醜い肉棒を舐めて触っただけでも感謝して欲しいものだわ。  
 
 
数十秒で修復は終わる。  
私は立ち上がり、靴を脱いで足の裏で竿の裏筋を表にし、抱え込む。  
そして足の親指と人差し指の間を開き、竿の裏筋を挟む。  
大きすぎでフィットはしないが、足の指とソックスの生地で擦れれば問題ない。  
ソックスは汚れてしまうが、生地の感触や素足が汚れるよりかはマシ。  
挟んだ状態からゆっくり圧をかける。  
傍から見れば、踏み付けてるように見えるだろうけど。  
「こんなのでココ膨らませるなんてね……どう?足で扱かれてる気分は……」  
足の指と浮き出る血管が擦れる。  
彼の吐息が再び荒くなる。  
竿の先から透明な液が溢れる。  
ローション代わりになって足の指が好く滑る。  
一度イッた所為か、二度目も噴水の再発は容易かった。  
 
精液が足に……脚に飛び散る。  
ソックスに散り、繊維を縫って肌に感じる粘着質の精液。  
真っ赤に腫らして再び壊れる肉棒。  
彼の下半身全体を今、最高の幸福が血管を駆け巡り、筋肉を介して弛緩する。  
表情は最早放心した病人のよう。  
普段の整った眼が今は宙を彷徨い、それでも私を見つめる。  
 
 
 
 
そんな彼を看て、私も脳が痺れ…首筋に麻酔が打たれ……蕩ける。  
「……はぁっ………ああ……イイわ……スゴク……」  
暫く私は脳から発している快感に酔いしれる。  
……同時に、私の下半身反応し始める。  
じわじわと伝播し、其の核は下腹部に収束する。  
初めての感覚に襲われ、私は咄嗟に其処を抑えてしまう。  
指で摩ると……快感が脳に跳ね返る。  
 
 
「……ふあぁ………んんっ……なに…これぇ……」  
私はぺたりと座り込み、ソコを何度も触る。  
下着越しに触れる度に……引っ掻く度に喘ぎ声が漏れ、身動きがとれなくなる。  
顔を歪め、抵抗するけど抑えられない。  
其の突起物が熱くなって来る、膨れて来る。  
「はぁっ……んあっ……」  
彼の前で私は何をしてるんだろう。  
身体の自由が乱れ、蹲る。  
前方に眼を向けると、彼は傍にいた。  
不思議そうに此方を覗いてくる。  
「なっ……んでもな…いわ………早く離れ……て…」  
私の必死の台詞に動じない彼は、私を抱く。  
 
 
立場が一気に逆転する。  
彼が私に寄り添い、囁く。  
何をしてるの……私は………。  
もっと貴方に………貴方をこわすと……。  
 
 
「……我慢してる」  
「どういう…意味……よ…」  
「………桜庭さんは今、必死で耐えてる。僕を攻める事で必死なのに……ね」  
 
 
さっきまでの彼とは明らかに違った。  
「………怖がってるね」  
……図星だった。  
如何して解るの?  
読心術の心得でもあるのだろうか。  
何度も言い当てる彼が恐ろしくなる。  
「そんなことっ……無いわ」  
私は精一杯の強がりをする。  
それも、彼には御見通しなのだろうか。  
私は言い返せない。  
次第に血の気が引いていくのが解る。  
沸騰しかけていた血液は一気に冷め、変わりに脳から全身に送られる“恐怖”。  
 
 
 
「貴方……何者…なの……?」  
彼は一息吸って答える。  
「……桜庭さんの“恐怖”は影に写っている」  
「影……?」  
「……対象者の影に、対象者自身の“影”を写す魔法」  
…………???  
「感情を影の色で識別する魔法“影塗り”……貴女は灰色だった」  
どうやら彼は私を色で判断していたようだ。  
「灰色……どんな感情なの?」  
「……一つでは存在できない色」  
「存在できないって……」  
「……黒と白が混ざらないと生れない。黒は恐怖、全ての感情を塗りつぶす。  
 白は自尊、全ての感情を脆くする。……二色とも絵の具と同じだから、今の貴女は不安定な二面性を持ってるはず」  
 
 
 
淡々と語る彼には、以前のような毒気の無い内気な青年の面影は無かった。  
寧ろ……未熟だが知識には長けた少年のような……。  
「もしかして……他の人達にも使ってるの?」  
彼は首を縦に振る。  
表情に少し翳りが見えた。  
「……最初は興味本位だった。だけど他人の会話の中で、笑いながら影が赤に染まっていったり、  
 女子を見ながら桃に染める男子達を見たり………気がつくと、自分の心を読まれないよう、外に出さないようにって……」  
「それで……人間不信になったの?」  
彼は急に黙る。  
いけない事を聞いてしまったかしら……。  
 
 
「……さっき、桜庭さんに影縛りを使ったのは……」  
少しした後、彼は口を開く。  
「嫌なんだ。貴女だけは、汚れないでいてほしかった」  
本当の彼の言葉。  
表情や口調で私はそうだと確信する。  
悪戯をして、怒られて謝る時の子供のような……。  
大人びたクールな彼が、若干若返った印象を受けた。  
「それに……嬉しかった。桜庭さんは近寄り難い人だったけど、  
 話してみたら楽しいし、一緒にいると心が安らぐ人だって感じたんだ」  
「私といると安らぐなんて……変わった人ね」  
「……僕の初恋のヒトだから……かな」  
 
 
 
………いま。なんていったの。  
 
「初恋の人の為なら……痛くなんて無い。でも、貴方を傷つけるのは……痛い」  
彼は服を着ながら照れくさそうに俯いて言った。  
 
“初恋”  
 
彼は確かに言った。  
私が好き……てこと?  
そう捉えていいの?  
―――――こういうとき……なんて答えればいいの?  
 
 
 
「……ごめん。赦してなんていっても無理なんだろうけど……」  
私は即答した。  
「ええ。赦さないわ」  
彼への答えは後回しにする。  
取り敢えず今は………。  
「貴方の所為で熱くなってた身体が冷めてしまったじゃない。続き、やるわよ」  
彼は当然の如くビックリした表情を見せる。  
私自身も、勢いで言ってしまったが……後には引けない。  
そして初めての感情が生れる。  
彼になら……触られても良いって。  
 
「今度は貴方から触って」  
そう言うと、彼はゆっくりと私の制服に手をかける。  
ネクタイを緩め……制服を下から捲る。  
不器用にブラを取り、胸に手を這わせる。  
彼の指が登頂を摘む。  
優しく丁寧に。  
次第に堅くなるのを私は自覚できた。  
快感が襲い、不快は無い。  
男に触られるのが初めてだから、怖くて恥ずかしい。  
「………桜庭さん…どきどきしてる」  
胸の鼓動は彼の掌に伝わってる。  
意識したら益々早く、強くなる。  
「………舐めるよ…」  
「!!ダメ……!んああぁっ……」  
彼の舌が敏感な先に触れ、絡まる。  
赤ちゃんが母乳を求めるように、彼の唇が愛撫しながら吸う。  
「……はぅ……はぁん……」  
必死で我慢しても漏れてしまう。  
苦しくて……彼を掴む手に力が籠る。  
 
「……………初めてなんだね」  
 
「ち…違うわ!!わたくしは………」  
彼の思いがけない言葉に動揺してしまう。  
必死になればどんどん疑わしい。  
解ってても今の状況じゃ、取り乱して――!?  
「キャアぁっ!?」  
彼は私を抱きかかえたまま、マットに倒れこむ。  
―――私が上で、彼が下になる。  
彼は私を引き寄せ、自分から倒れていた。  
身体が彼に重なり胸が彼の胸板を押し返す。  
「ちょっと、いきなり何を…」  
問いかけには応じず、彼は手を私の太腿に手を伸ばす。  
すうっと太腿を摩る彼の手は、やはり優しい。  
「……細くて綺麗」  
彼の手はお尻へと進む。  
下着の裾に指が掛かる。  
其の指は……段々、熱の活泉に迫る。  
「……ココが……疼いてる」  
指が核に触れ……弄られる。  
「やめっ……んアアっ……ん…はぅ……」  
彼の耳元で喘いでしまう。  
呼吸が早くなり、息を何度も彼に吐きかける。  
腰が何度も上下し、意識が遠くなっていく。  
「……大きくなってる」  
摘んだり…押したり…弄ってみたり。  
玩具で遊ぶ様に無邪気に彼の指が、私の最も敏感な処で蠢く。  
「ひゃぁめぇ……なにぃ……これっ……クル……」  
ふわふわと柔らかな毛布に包まれたような……酩酊感。  
呼吸が出来なくて肩で息をする。  
それを邪魔するように、彼が口を塞ぐ。  
「はぁっぅ……っふぁあ……」  
もう呂律すら廻らない。  
 
そして。  
彼が強く弄ったのが―――最期だった  
「ふぁア!!!!……っ!!!……、、、!!っ……!…………」  
四度、身体が痙攣する。  
核で破裂した快感は全身に派生し、熱と電気を帯びて流れていく。  
血管が押し広げられ、大きく波打ってそれを送り出す。  
収まるまで私は意識を見失う。  
飛び立つ寸前で、彼の声に助けられる。  
「……最後は………桜庭さんだよ」  
 
下着を脱がされる。  
スカートの下は……何も無い。  
彼の竿が入り口の扉を叩く。  
「……さあ。好きにしていいよ」  
私は渾身の力を振り絞り、身体を起こす。  
彼に馬乗りになった姿勢だが、腰だけ浮かして挿入を免れている。  
でも―――手足の踏ん張りも……もう無理みたい。  
私は決意し、堕ち逝く身体に身を任せる。  
腰は徐々に堕ち……反り返った彼の竿がゆっくりと侵入してくる。  
「!!!!ひゃあっ……あぁっ…ふぁアっ……」  
傘の部分が中の壁をゆっくり押し広げながら進む。  
敏感になった表面の肉壁は、擦れる度に私を高揚させる。  
………ゆっくりと竿が納まっていく。  
根元まで加えこんだ時の快感は、今までに味わった事の無いほどのモノだった。  
 
 
私の身体が自動で上下に跳ねる。  
反復する度に髪が舞い、卑猥な音が接続部位から漏れる。  
漏れるのは音だけじゃない。  
互いの体液が混ざり、擦れ、零れ落ちる。  
根元まで咥え込んでは……ズプリと抜ける。  
膣壁の波を掻い潜り、彼の竿が突き上げる。  
「んんっ!……くうぅっ……あアン!……」  
再び私は彼に倒れ掛かる。  
彼は何故か冷静だった。  
よく見れば……腰を動かしているのは私だけ。  
でも其の時……私の中には彼がいた。  
上下の口を塞ぎながら私は彼に委ねていた。  
彼の瞳に私の黒く肥大化した瞳が反射する。  
鋭く、それでいて温かな彼の眼。  
「………出すよ…桜庭っ……さん……」  
応える間も無く、私の中で精液が飛び散る。  
「!!!!いやあァア………あぅっ……ふわあぁ…」  
反射的に肉壁が竿を強く咥え込み、敏感な互いの表皮が強く擦れる。  
噴水が終るまで……私は繋がった橋をずっと抱きしめていた。  
 
 
 
―――事が終わり、私は制服を着る。  
しかし残念な事にソックスが酷く汚れている。  
「……ごめん。汚してしまって」  
「本当、如何してくれるの?午後から授業は在るのに」  
数分でお互い服を着終わる。  
時計を見ると、もうすぐ午後の授業が始まる。  
彼が此方をじっと見ている。  
「………桜庭さん……さっきの事だけど…」  
彼は先程の告白の答えを待っているようだ。  
 
私は溜息を吐きながら彼に寄り添い――――――。  
 
 
「…………桜庭……さん?」  
「貴方だけにするのよ……時には言葉より大切なモノもあるの。憶えておきなさい」  
 
 
 
そう言って、彼の唇に重なる。  
傷を舐める様に丁寧に……。  
“私”にとっては初めてのキス。  
 
そっと離れると、彼は答える。  
「……瞳が揺れてる…泣いてるの?」  
 
 
 
零れそうになる雫を振り切り、私は其の場を去った。  
 
 
 
教室に戻る。  
何とか時間には間に合ったみたい。  
胸を必死で押さえる。  
苦しいのは……必死で走っただけじゃない。  
「桜庭!アンタ裸足じゃない……ソックスは?」  
三科さんに気づかれる。  
「……ああ、先程水溜りに落ちてしまいまして…」  
「そう……あれ?最近雨なんて降ったっけ??」  
「違うわ!……これは………つまり…」  
「何やってるんだ?早く席につきなさい」  
助けてくれたのは柊先生だった。  
私はほっとしながら席についた。  
 
――――其れからの事は良く憶えていない。  
ただぼ〜っと時間が過ぎるのを待っていた。  
今日の授業が終わり、直ぐに下校し、そのまま家路に着く。  
家に帰って、制服のままベッドに身体を預ける。  
髪が無造作に四方に舞う。  
ポケットに入っている櫛を取り出す。  
彼はきっと……これを渡したくてずっと持ってたのかしら。  
まだ……あの時の感触は残っている。  
自我を忘れて舌を這わせて触れたモノより……ずっとずっと鮮明に。  
もう一度逢いたい。  
もう一度キスがしたい。  
彼の瞳が、言葉が……私の中で何度も繰り返し再生される。  
再生されるたび、思い出を記憶したテープが胸に撒きついて締め付ける。  
 
 
 
瞳の黒色が溶け出しそうなのは、彼への愛情だけじゃない。  
口を瞑って深呼吸するのは、寂しさだけじゃない。  
 
眠りに就くまでずっと……彼を想っていた。  
こんな気持ち、生まれて初めてだったから。  
 
 
次の日、私は再び倉庫へ。  
其処に……彼は居なかった。  
跳び箱に座り、昨日を想う。  
此処だと賑やかな校舎の歓談がほんの微かに聴こえ、何処か黄昏を含む雰囲気を醸し出す。  
窓の隙間から風が侵入し、私の髪を靡く。  
あたたかくて少し強い風。  
長い髪は黒のカーテンのようにそよぐ。  
 
 
 
 
其の髪にそっと手が触れる。  
そしてゆっくりと頭頂部へ。  
その手は優しく撫でる……壊れないようにそっと。  
私は後ろを振り向かずに言った。  
「五分の遅刻よ。罰として……」  
私は彼に見えるよう、プレートをちらつかせる。  
「………痛いのは……いやだけど」  
大丈夫。  
そんなことじゃないわ。  
「昨日使った魔法を使って」  
そう、彼の識別魔法。  
彼は直ぐに魔法を詠唱し、影を確認する。  
 
「………………紫紀」  
 
いきなり下の名前を彼に呼ばれ、私は驚き照れる。  
「ちょっと…何?貴方が呼び捨てなんて」  
「………紫色。其れも綺麗なスミレのような」  
……少しでもときめいた自分が恥ずかしい。  
「……紫は赤と青の中間色。赤は時に情熱と生命、青は時に高尚や貴族を表す」  
「それって……いいの?」  
「……桜庭さんしか持たない色だから、誇りに思っていいよ」  
そう言われると嬉しいけど……。  
「答えになってないわ。背反した色同士なら、余り良い様に聞こえないんだけど」  
「……色だけじゃ人の心は解らないって言ったのは……桜庭さんだよ」  
「あっあれは……勢いで言っただけで…」  
今日は顔が赤くなる事が多い。  
 
「……もう此の魔法はアンインストールするよ」  
彼はプレートを眺めながら言った。  
「如何して?」  
「この魔法を使ってから、人に関わるのが億劫になった。  
 魔法を使わなくたって……お互いの交わす会話や表情が大切なんだって解ったから……」  
 
 
 
彼は……変わった。  
前よりも喋るようになった。  
表情は未だ堅いけど、話題を振ると答えてくれる。  
時折見せる、少年のような態度。  
 
自覚は無いんだけど、私も変わったみたいね。  
彼といる時は、感情の起伏が強くなる。  
勿論……彼への思いも。  
 
私は密かに魔法を発動させ、彼を引き寄せる。  
彼は私に跨る体勢になる。  
髪のカーテンが二人を覆う。  
 
 
 
 
  ………桜庭さんは  やっぱり変わってないみたいだね  
 
 
      私を誰だと思ってるの?  それじゃあ……この前の続き、始めるわよ  
 
 
 
 
 
 
 

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