「大賀ー、見て見てー♪」
「なんだよルーシー……ってお前また!?」
相変わらず薬品部部室に潜んでいる九澄の前に、やけにアダルトな色気を匂わせたルーシーが現れた。
その妖精のごとく小さな体で、奇妙な色彩の液体のたまった霧吹きを抱えている。
「それ……何だったか、確かレで始まる何かの薬? またお前無断で作ってきたな!?」
「えへへ……この間のは『レディーゴー』って魔法薬だよ。そしてこれはその強化版……えいっ」
九澄の目の前で霧吹きのトリガーを引くルーシー。
「ばっ!? や、やめっ!?」
避けるのも防ぐのもままならず、九澄はその液体を全身に浴びる。
すると、液体が全身に染み渡る感触と共に、体内を虫がうごめくような気味の悪い感触が全身を走り抜ける。
(へっ……?)
その不思議な感覚が消えると……。
そこには九澄の面影を残した少女が一人。
「わぁーっ! 成功したよ大賀、女の子みたいー!」
「またあのエセ女体化かよ! 冗談じゃねえ今日は速攻で水……」
前回のプール騒動の件に懲りていた女体化九澄は、すぐに水を被って元に戻ろうとするが……
「……え?」
ピク、と蛇口に伸びていた手が止まる。
その原因は、見かけ倒しで胸筋であったはずの胸が、体の動きに合わせてぷるんと揺れたように見えたからだ。
「……」
ゴク、と生唾を飲むと、九澄はおそるおそる自分のシャツの中に手を入れ、片方の乳に触れてみる。
ミルク色に近い真新しい色の乳房は、手が触れる強さに合わせてふにゃっと形を変え……
「な、なんじゃこりゃあああああああああっ!?」
今の自分が隠れている身であることも忘れて絶叫する。
大慌てする九澄をルーシーは嬉々とした様子で笑って眺めていた。
「アハハ、驚いたでしょ? 今のはね、男でも完全に女の体になっちゃう『レディーファイト』っていう魔法薬。ちなみに言い忘れてたけどこれは水掛けても戻らないよ?」
「そ、そんな……嘘だろ!?」
蛇口を捻って出た水を体に浴びてみるが、Tシャツが濡れただけでその比較的豊満と言える胸は健在だった。
そして、服に染み渡る水が下半身に到達した感触で、九澄は更に恐ろしい事態に気付いた。
「……し、下が…………!」
『レディーゴー』の時は極小化であり、まだ感覚があったはずの男の股間。
その場所を伝った水が、有り得ない感触を九澄の触覚に伝えてきたのだ。
今度は比較的焦った調子で、九澄はズボンの中に手を突っ込んで確かめる。
そこに確かにある裂け目の存在は……
「こ、これってまさか、俺の体に俗に言う……おまん……」
そこまで考えて九澄の頭は急沸騰。魂がちょっとの間外の散歩に出て行った。
ルーシーの言ったことは嘘じゃなかった。
俺……マジで、マジで女の子になっちゃってんのオ!?
「おいルーシー! お前これ治し方知ってるんだろうなあ!?」
血相を変えて詰め寄る九澄だが、ルーシーは笑っているだけだ。
「大丈夫だよー、これ、24時間経ったら自動的に元に戻るんだって」
元に戻る。
九澄はホッと息をついた。このまま体が治らなかったら男だった『九澄大賀』は死んでしまうところだった。
……ん?
24……時間?
…………24時間!?
「それじゃ俺、今から丸一日どう足掻いても女で居なきゃなんねーのかよ!」
「んー、まあそういうことになるよね。自然に治るからってことで元に戻す薬品は作られてないみたいだし……」
「だっはーマジかよーっ!」
こうして、精神は九澄大賀のまま、ひょんなことで女になって過ごすハメになった九澄は……