―――― ずっと友達でいようね  
――――― それは……私の中の大切な言葉……  
――――― それは………  
 
ピリリリリリリリリリリ!  
「ん・・・朝か・・・よし!今日は待ち合わせがあるから急ぐか!」  
――― 空は白く、一面を染める  
――――― はらりはらりと雪が舞い落ち、目の前を真っ白に……  
「いってくるよ」  
少し肌寒いなかを少し多めに着こんでも三国は待ち合わせ場所へ急ぐ。  
マフラーを靡かせ、バスに乗り込んだ。  
「こういうのって初めて……かな?少し遠出で待ち合わせなんて」  
外より暖かい車内で三国は腕時計の時間を見る。  
少し早かったかなと思いながらもどこか弾む思いで呟く。  
バスの揺れに夢見心地で昔を思い出していた。  
「そういえばあの日もこんな感じの天気だったっけ…」  
 
 
「久美〜!おはよう!」  
愛花がいつものように挨拶をしてくる。何気ないいつもの光景。  
だからこんな事になるなんて気づかなかった。  
「愛花。今日は九澄とどうすんの?」  
すこし意地の悪い笑みを出しながらそんなことをいってみる。  
愛花は予想通り顔を赤くして怒り出す。こんな光景を見れるようになったのはほんの最近のこと。  
最近、愛花の様子が変だと思って鎌をかけてみたら九澄のことだった。  
私も驚いた。まさか愛花が男に興味を持つなんて。しかも相手は愛花を好いている九澄。  
両思いということを教えてやろうと思ったけどこんなおもしろいネタをほっとくわけなんてなかった。  
「あ〜九澄か…どうだろうね〜?まぁ告ってみれば?」  
「な・なな何言ってるの久美!そそそそんないきなり告白なんて…」  
まぁ十中八九オーケーをもらえるだろうけど……相変わらず鈍いなこの子は。  
そういうことで私は両思いの二人の行く末を生暖かい目で見守ってやろうと思ってた。  
そう………『思ってた』  
 
とりあえず愛花に図書の本を差し出して九澄に手伝ってもらうよう頼ませる事にした。  
それが始まりだった。  
九澄も執行部の仕事で少し遅れるけどといって承諾してくれ、一応計画通り。  
「ごめんね。九澄君…手伝わせちゃって」  
「別にいいよ。それよか急いだ方がいいかもしんないぞ。地震とか来るかもないし」  
九澄はそんなことをいった。愛花も不思議がって聞き返したが九澄は『ルー』といいかけてごまかした。  
変なやつ。そんなことが脳裏をよぎったが、私もこいつは認めてる。  
 
時々愛花を困らせる事はあるけど本意からではない事。  
冗談は言っても嘘はつかない事。  
他人のために捨て身で行動する馬鹿なことをする事。  
本気で愛花を好きでいてくれてる事。  
 
考えただけでも何個も出てくる。こんな男はそうそういない。  
私も愛花の事いえないなぁ……だって。  
グラッ!  
少し床が揺れたと思ったら一気に揺れだす。愛花はバランスを崩して本棚にぶつかった。  
ふと上を見ると辞書サイズの分厚い本が落ちそうだった。  
「危ない!愛花!」  
その場を愛花を引っ張って離したが、揺れている為私もバランスを崩した。  
「しまっ……」  
そう思って眼をつぶった。私の上に本が落ちて……こなかった。  
「え……?」  
顔を上げると九澄が覆いかぶさって私の目の前にいた。  
九澄は顔を歪ませていたが退く気はなさそうだ。  
私は唖然としてその場にしゃがみこんだままで見入ってしまっていた。  
見入って?私は……?  
揺れがおさまり私はその場で眼が覚める。  
「九澄!お前大丈夫か!?なんで……」  
九澄は作り笑いで「お前が汚したら危ないだろ」「たいした事ないから気にすんな」っていった。  
臭い奴だな……でも体が熱かった。理由なんて分からない…わけない。  
私も愛花の事いえない……私も同じくらい…  
――――― 鈍かったんだ  
 
 
「次の停車……」  
私はバスの中で眼が覚めて待ち合わせの場所の近くで降りる。  
空はまだ白く雪も降っていた。時々風が吹き雪が舞い上がる。この光景を見ながら待ち合わせの場所に着いた。  
腕時計を見るがやはりまだ早い。ベンチに座ってその場で待つことにした。  
「ねぇ君今ヒマ?」  
ナンパが何回か話しかけるが先客がいるんだというとあっさり帰る。  
アイツだったら……と思ったりしながらまた眠くなってきた。  
「愛花は優しすぎるって……」  
そう呟いてまた夢見につく。  
 
私も……九澄のことが……  
それはあってはならなかった事。だって九澄は愛花が好きで、愛花は九澄が好きだから。  
本当は言ってはいけなかった。でも隠すことだけはイヤだった。  
「愛花……ごめん。私も九澄のこと…」  
そういった。愛花は驚いた顔で、でも微笑んで「じゃあライバルだね」と言った。  
本当に愛花は優しい。それなのに私は……  
 
「三国?どうした?」  
目の前に九澄の顔。私は顔を伏せなんでもないという。九澄はその場を立ち去ったが私はしばらく顔を上げられなかった。  
今日一日そんなことが何回もおき、私はそのたびごまかす。  
「なんだってあいつもあんなに…」  
 
空は白く、雪が舞い散る日。  
それが運命の日だった。私はいやな夢で目覚める。  
私が九澄に告白して愛花が泣いている夢。  
目覚めの悪さに私は学校を休もうと思ったがそうはいかない。  
朝。九澄があいさつをしてくる。  
今日の私はいつもと違って前みたいに普通に挨拶できた。九澄は少し顔が動いたがいつもの顔になって席に着く。  
愛花はそんな様子をずっと見ていた。  
 
放課後になって……  
九澄に私は愛花と話をしていた。  
「久美。久美も九澄君の事好きなんだよね」  
私は迷ったが首を傾ける。愛花は続けてとんでもない事を言った。  
「じゃあ…私あきらめるね」  
!? なにを……?  
「馬鹿いうなって愛花!アイツが本当に好きなのは…」  
愛花は初めてそこで顔を上げる。泣いていた。  
愛花は何も言わず走り出していった。私は追いかけようと思ったが今は……  
私は走り出す。行き先は一つしかない。  
「九澄!」  
私は魔法執行部の部室で九澄を強引に連れ出しあい判の走り出した方向へ走る。  
「どうしたんだよ!?なんかあったのか!?」  
…ッ!私は全て投げ捨てる覚悟でいった。  
 
「九澄は…愛花のことが好きなんだよな…?」  
……短い沈黙。私は続ける。  
「愛花もあんたの事好きなんだよ…だから……いってやれ」  
九澄は驚いた顔でこっちを見てくる。当たり前だが今は時間がない。  
でもなんで?と聞いてくる九澄に対して私は叫んだ。  
「私もあんたが好きなんだよ!だけど…あんたは愛花が好きで!愛花もあんたが好きだ!」  
一度スイッチが入った後はすべて言うまでとまらない。  
私はもう考える余裕もなく九澄の心情も察しないで続けた。  
「なのに!愛花は私に……あきらめるって!だから!あんたはいまから愛花のところに行かないといけないんだよ!」  
全てを話した。顔は伏せていたが声から分かるだろう。  
頬をつたい、零れ落ちる涙を、私は泣いていた。  
「三国……俺は…」  
そういいかけた九澄の口を無理やりとめて愛花走ったほうに放り投げる。  
九澄は一度こっちを見て走り出す。愛花のほうへ。  
「これでよかったんだよな……」  
 
私はその場で泣く事もできずに屋上に行った。  
雪が降り空は暗くなっていた。その場で声にならない声で泣いた。  
これでよかったはずなのに…なのに……どうして泣いてしまうんだ?  
その場で雪を眺めながら私は座り込む。  
「愛花…上手くいったかな?」  
「ごめんね。久美」  
! いつの間にか私の横には九澄と愛花が座っていた。  
「あんたたち……上手くいったのか?」  
そのことについて九澄が私に話しかける。  
「ごめんな。三国。お前の言うように上手くはいかなかった」  
え?こいつは何を言ってるんだ?上手くいかなかったって?  
愛花はさっきと違って微笑んでいる。私は何が何か分からない。  
「俺…いつの間にか三国のことが好きになってた」  
「え……?」  
だからさっきは愛花に全てを話したと九澄は言う。今度は愛花が  
「だからね。私あきらめたんだ。知ってたから」  
なのに久美ったら九澄君をよぶんだもんと愛花は言う。  
「私も九澄君も久美とは仲良くしたいし、ずっといたいんだよ?」  
「俺も柊もお互いいい友達だって思ってる」  
どうして・・・?これじゃ私が馬鹿みたいじゃないか。  
二人は私の目の前に立って順に言う。  
愛花は私の大切な言葉を、九澄は私が欲しかった言葉を。  
「ずっと友達でいようね」  
「俺と付き合ってください」  
――――― 屋上に降り積もった雪が風で舞い上がる。  
私の涙はそれと一緒に流れていった ―――――  
 
「おい三国。そんなとこで寝てたら風邪ひくぞ?」  
「久美。映画始まっちゃうよ?」  
眼が覚めたら目の前に私の大切な二人がいた。  
そう。今日は三人で待ち合わせをしていた。愛花も九澄もそれから仲のいい友達に、私は恋人に。  
「ほらいこう」と愛花と九澄が並んで目の前に立つ。  
私は後ろから二人の腕にとびついた。  
「え?え?」「お・おい!」  
三人で映画館に入る。その前に愛花に耳打ちをして……  
「く・久美!?」  
いいからいいからといって意地悪く笑う。映画が始まった。  
席は九澄の両端に私と愛花が座る形。しばらくして。  
「! お・おい!?」  
「嬉しいくせに…ね。愛花」  
「うぅ〜〜…」  
私と愛花は九澄の腕をつかんで体を傾ける。  
愛花も九澄も多分真っ赤だな。九澄は決して振り払おうとしないでそのまま体をあずける。  
「ま……多分私も真っ赤なんだけどね」  
このまま映画そっちのけで私と九澄と愛花の時間は続く ――――  
―――― 多分私たちの関係はこのまま良好に続くだろう。  
――― 舞う雪はいつか溶けてなくなる。  
―――― 私たちは………ね。  
 

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