第一回聖凪高校一学年 C組×F組親睦会
― PrologueT Invitation ―
8月5日。登校日。その日の放課後。
三国久美はある事に悩んでいた。
親友の柊愛花のことだ。
『愛花と九澄をくっつけたい』
これが彼女の悩みの種である。
しかし悩みの種はそれだけではないんだが…。
――――そこに一人の男が。
「よう三国。珍しいな、そんな顔して」
「伊勢か…何か用か?」
「オマエの考えてる事はわかってるんだぜ」
「!?どういうことだ?」
「柊のことだろ」
「!!なんで…」
「やっぱりな。オマエが自分のことで悩むなんて無い、と思って言ってみたら当たったみたいだな」
「相変わらずヤな奴だな」
「まあそう言いなさんなって。いい考えがあるんだ」
「なんだ?」
「みんなで合コンをやるんだ。そこで二人をくっつけるって寸法よ」
「合コンって…知り合いだらけでやったら合コンじゃ…」
「だから!C組とF組の連中でやろうってことよ」
「C組とF組?」
「そう。クラスマッチでは敵だったけどな」
「……待って!F組……じゃああの子のクラス…」
「あの子?」
「観月尚美っていう子よ」
「観月?ああ。あいつか。知ってるけど…なんで?」
「何度か会ったことあるんだけど…私の感だと…あの子は九澄が好きみたい」
「ほうほう、それでそれで?」
「彼女が二人の障害にならないかって思ってたのよ」
「そうだな、やっかいだな。じゃあ観月も誰かとくっつければいいんじゃね?」
「誰かって…誰よ」
「……わかんねぇって。タイプ知らないし…まあルックスのいい奴でよくね?」
「たとえば誰?」
「C組なら…まあ津川かな。何気に女子からの人気高いし。F組なら…大門かな」
「大門でいいんじゃないか?同じクラスだし、クラスマッチでも二人でキング倒してきたんだし」
「とりあえず二人とも呼んどくか…何時にする?」
「まあ夏休みなんだし今度の土日の泊り込みで行こうぜ!」
「…場所はどうする?」
「いいところに質問来たな。三国、桜庭って知ってるよな?」
「ああ。知ってるけど」
「あいつン家、かなりの金持ちで別荘とか持ってるらしいんだ。そこでっていうのはどうだ?」
「なんでオマエがそんなこと…」
「いいんだよそんなこと。あいつにはオマエから頼んでくれ。優しくな」
「優しく…?」
「そ、優しく。さて…これで男は俺、九澄、大門、津川。女は三国、柊、観月、桜庭か」
「ちょっと待て。一人忘れてる」
「……??ああ!乾な。…でも男が足りないな…誰にしようか……。まあ俺が適当に選んどくか。じゃあとりあえず桜庭だな。場所の件もあるし。無理なら俺の家な…頼んだぜ」
そんなわけで長い長い作戦会議の後、久美は桜庭の処へ…。
三人目―桜庭
「なあ桜庭…ちょっといいか?」
その日の放課後。三国はF組の教室前で桜庭を捕まえた。
「あら…三国さん。どうかしました?」
「いや…なんだ、その…(やさしく、やさしく…)」
「??オドオドして、貴女らしくありませんよ」
「桜庭…実はC組とF組とで親睦会を開こうかなぁって思ってるんだ」
「親睦会…?」
「クラスマッチではライバルだったけど…。
お互いを認め合い競い合っていこうって目的……っていっても人数は十人くらいなんだけどな」
「それに…わたくしも?」
「そう。できれば場所も貸してくれないか?無理を承知で…ゴメン…」
「そんなの無理―――……!!イイですわ。わたくしの別荘がありますから、其処で行いましょう」
「いいのか!?よかった…」
「折角ですから、泊まり掛けでいいですわ。此処から距離もありますし。何時行うんですか?」
「今度の土日なんだけど…」
「問題ないです」
「よかった。集合場所はどこに?」
「聖凪高校でいいわよ。わたくしの遣いが送迎に向かわせます」
「なんかすごいな……ありがとう。助かったよ」
三国は桜庭の手をギュッと握った。
「もっもう行っていいかしら?急いでるので………(///)」
「ああゴメン。メンバーが揃ったら連絡する」
――――どうやら大丈夫みたいです。
さて…伊勢のほうは………。
四人目―九澄大賀 五人目―津川駿 六人目―????
「九澄、津川。ちょっといいか」
「なんだ?」
「合コンが決まった!今度の土日だ」
「………」
二人は反応しない。
「おいおい!!せっかく俺が用意したオイシイ席だぞ!?」
「相手はどこの学校よ」
「他校じゃない。F組とだ」
「F組!?あそこヤバそうな奴らばっかだったじゃんか」
「津川、俺を信用しろ。C組の女も当然いる」
「C組ってまさか…」
――――――九澄の形相が次第に変化していく…。
「―――C組の女は三国と乾と……柊だ」
「伊勢!!やっぱりかァ!!!てめえナニやってん…」
「ひそひそ…(柊はお前が監視すればいいんだから……。
柊はもう行くみたいだぜ?F組の桜庭の別荘で泊まり掛けの予定だから…アトはわかるよな?)」
「後って…まさか…」
「(お前が来ないと誰かにパックリ…されるカモだぜ)」
「だああぁあアアっ!!!!やめろぉぉお!!」
「じゃあ九澄は決定な。ついでで悪いけど観月尚美ってコも呼んどいてくれ。
(ホントは九澄と観月のツーショットは避けたいが…あそこの部長苦手だし)」
「俺がかよ!幹事のお前がやれって」
「忙しいんだよ俺も。部室にいるだろうから…頼むぜ。津川はどうだ?」
「俺も大丈夫だぜ」
「よし…じゃああと一人誰にするかな…放課後だからもう人残って――――………あ」
七人目―柊愛花 八人目―乾深千夜
三国は下駄箱にいた二人を呼び止めた。
「いきなりなんだけど…今度の土日空いてる?」
「空いてるよ!どうしたの?どこか買い物でも行くの?」
「………もしかしてお泊り会?」
「みっちょんなんでわかったの?まあいいわ。C組とF組の親睦会なんだ。そこで……愛花。大門を誘ってきてくれない?」
「ええ!?私が?」
「大門には愛花に借りがあるんだろ?」
「そうだけど…」
「みっちょんとここで待ってるから」
「わかった。行ってくるね」
愛花はF組へと脚を運んだ。
―――――愛花が去ってから、三国は深千夜に事情を話した。
「…ねえ久美。いいの?」
「なにが?」
「大門くんと愛花でしょ?関係がややこしくならない?」
「……言われてみれば…」
九人目―大門高彦
愛花は教室で本を読んでいる大門を見つける。
「大門くん!…何してるの?」
「柊か…魔法解読書だよ。暗号解読の勉強さ。なんだい?」
「今度の土日にね、C組とF組で親睦会をやろうってことになって…」
「それで僕のところに?」
「そうなんだけど…無理かなぁ…」
「あまり大人数で集まる所は好きじゃないね…でも、君には借りがあったな」
「うん。でも…」
「借りがある人間に対して断るわけにはいかないだろ?F組を代表して行かせて貰うよ」
「よかった!あと………えっと、久美のメールによると集合場所は今週末の土曜日に聖凪高校だって。それじゃあ土曜日にね!」
そう言って愛花は去っていった。
「…タクは行かないのか…?まあ、あいつがいたら面倒事が起きそうだからな。賢明だな」
十人目―観月尚美
――――九澄は観月のいる薬品部の前にいた。
「なんでこういう役回りは俺になるのかね…まあいいや。観月は――」
「またお前か。何の用だ?」
そこに現れたのは薬品部部長。
「うおぃ!なんだ部長さんか…」
「なんだとはなんだ…また観月か?」
「まあ…そうなんだけどさ」
「まったく…あいつも厄介な男に振り回されてんな。ちょっと待ってろ」
そう言って部長は部室の中へ…しばらくして…。
「よう観月。部活動中悪いな」
「なによもういきなり!……まあ…暇だったからいいんだけど……私に何の用?」
「今度の土日空いてるか?」
「えっ………それって…もしかして――」
「C組とF組で親睦会があるんだと。桜庭の別荘でやるらしい」
「……そう…。アンタは?」
表情には出さないがかなりがっくりな観月。
「俺は行かないとマズいんだ。お前は?」
「アっアンタの頼みなら……行ってあげてもいいけど…(///)」
「決まりだな。集合場所はここだとさ。じゃあな」
九澄は去った。
「……これって…チャンスよね?………………………………グフフフ……」
なにやら波乱の予感……?
――――さてさて…約束の土曜日。午後6時。
会のメンバーが集まった。
それそれの意思模様・感情が交錯し、絡まっていく……。
― PrologueU 宴のハジマリ ―
午後7時。
桜庭の別荘に到着した一行。
みなそのデカさと豪華さに驚いた。
桜庭が現れ、一行を中に招く。
中に入っても感嘆の声は漏れっぱなしだった。
そんな中…幹事の二人は…。
「伊勢!十人目って…なんでわざわざあいつなんだ?」
「三国、なにいってんだ。アイツああ見えてよく喋るんだって」
「ふーん。ならいいんだけどさ」
伊勢の指名した十人目は……影沼だった。
「(C組とF組の親睦会…即ちクラスの代表同士の会。
僕が呼ばれるなんて光栄だ。話したことの無いF組の人とは積極的にいかないとな………)」
一行は広間に到着する。
縦に伸びた白く大きなテーブル。
その上で妖しく燃える燭台の炎。
備え付けられている十脚の赤い椅子。
もはや晩餐会だ。
それぞれ席に着く。
一番奥から伊勢、向かいに三国。
その隣に影沼、向かいに深千夜。
中央に九澄、向かいに愛花。
その隣に大門、向かいに観月。
一番手前に津川、向かいに桜庭。
席順はこうなった。
――――ここで伊勢が…。
「さて。俺が改めて女性人の衣装を評価しようかな…」
(――――――いや…住民の皆さんににもっと想像力を掻き立ててもらいたくて……伊勢視点ですがほんとすいません。)
愛花は淡いピンクのワンピース。清楚で可愛くてセクシー。
三国はちょっとお姉系で活発な、タンクトップにデニムのミニ。タンクのプリントはバンド『GYAKU SATSU』。
強調された胸、スラリと伸びた脚がけしからんほどセクシー。
深千夜は上下、ニーハイソ全て黒のモノトーン。指には髑髏のリング。胸元でロザリオが妖しく光る。小悪魔セクシー。
観月は白のノースリーブのフリルシャツにタイトデニム。ぴっちりとしたお尻のラインが強調されていてかなりセクシー。
桜庭は漆黒のドレス。アンタにしか着れないだろと言わんばかりの強烈な衣装。胸元が開いていてエロエロでセクシー。
「う〜ん、みな気合の入った衣装でよろしいよろしい」
「どこ見てんだ!!!」
―――伊勢はあっけなく久美にボコボコのボロ雑巾にされた。
「それじゃあ…互いの友好を祈って…カンパ〜イ!!」
乾杯の音頭とともに、親睦会は始まった。
初めて顔を合わしたわけではないので、特にわだかまりもなく会は進んだ。
津川が話を振り、九澄、伊勢が盛り上げ、大門が時折冷静な突っ込み…。
いい雰囲気で食事を終える事ができた。
そして暫しの歓談の刻…。
「…実はだ。家からこんなのを持ってきたんだ」
伊勢がかばんから一升瓶を取り出す。
「『十口』っていうんだ。十人の侍が決戦前に交わした酒だとか、十口飲んだら幸せになれるとか、
このラベルを裏返して見たら偉大なる漫画家の名前が…とか言われてるらしいんだ。ちょうど十人居るわけだし、呑もうぜ」
「まあ…わたくしはワインしか飲みませんから日本酒は初めてです」
「いやいや、普通飲まないって…アンタは普通じゃないからいいか………
それより!!あんたの出す酒なんて飲めるわけないでしょ!!?怪しくてしょうがないっつうの」
「まだ栓抜いてないだろ?仕掛けなんてないし、アルコール度数も低いから大丈夫だって」
「折角だからいいじゃん。楽しくなりそうだし」
「津川…もうちょっと警戒しなさいよ」
という事で早速グラスに注ぐ。
「アンタが先に飲んでよ!」
「わかってるって………うん、甘くて上手い。みんなも飲んでみろ」
ゴクゴク………。
「ホントだ!甘くておいしいよ!お酒じゃないみたい」
「カクテルみたいで飲みやすいわね…柊さんはお酒飲んだことはないの?」
「お父さんが『お前は絶対ダメだ!!』って厳しくて…よく一人で飲んでるのは見てたんだけどね。観月さんは?」
「私は親が飲んでたビールを少し飲んだけど…苦くて…缶のカクテルはまあまあだったかな」
「う〜ん、やっぱ俺はもっとパンチの効いたのがいいな。女ってビールの飲まないよなぁ…あの苦さがいいのに」
「なんであんな苦いもの好んで飲むんだか…まったく男ってのは…」
そんなこんなで二十分後…。
「…なんかたのしくなってきちゃったっ…えへへへ……」
「ちょ…ちょっと柊さん……出来あがちゃってる…」
「まあそのうち落ち着くだろ…桜庭。手洗いってどこだ?」
「!!!――――道に迷ってはいけないので、わたくしも一緒に」
「わかった。それじゃあ行こう」
広間から出て行く久美と桜庭…。
「待った!俺も行きたかったんだ」
そう言って伊勢もついていった。
――――――――桜庭の眼光が変貌したのは…気のせいか…。
しばらくして…。
「あいつら遅いな…」
九澄のもっともな感想。
三人は戻ってこない。
「…家の中を探索してるんじゃないの?」
観月が今日初めて九澄に話しかける。
「まあ…そうだろうけど…」
「どうかしたの?」
「いや…なんか嫌な予感が…」
その時。津川が突然立ち上がる。
「さあて!軽く酔いが廻ったとこで一っ走りするかな」
「走る??」
「ああ、傍に海岸があるらしいから、潮風浴びて酔い覚ましだ」
「そっか。暗いから気をつけろよ」
「その前にだ、九澄。柊をベッドに寝かせてやったほうがいいんじゃないか?」
九澄は柊を見る。
何時の間にか気持ちよさそうに眠っている……。
「きっと疲れと酔いで寝ちまったんだな。
さっき執事さんに休憩室の部屋教えてもらったんだ。ここを出て右に真っ直ぐ行って一番奥だとさ」
津川は続ける。
「男が一人で…て言うのはマズいからなぁ…」
「仕方ないわね…私が一緒に行くわ」
提案したのは観月だ。
「まあ妥当な考えかな」
大門もその案に賛成する。
「決まりだな。道は俺が案内するぜ」
こうして九澄、観月、津川の三人で愛花を休憩室に運ぶ事に。
部屋に到着し、ベッドに愛花を寝かせつける。
そして…九澄が部屋を出ようとしたとき。
突然、津川は九澄の耳元で囁く。
「(伊勢から聞いたぜ。これはお守りだ)」
そう言って九澄のポケットにある物ををそっと忍ばせた。
九澄はそれに気づき、服越しから確認する……丸い形だ。
「……お前…これって………まさか…」
「(邪魔者は消えるぜ。しっかりやれよ!)」
そう囁き津川はボードを持ち、その場を去った。
九澄は漸くこの会の真意に気づいたようだ。
「くそっ…まさかこの会…あいつらゼッテーぶっ飛ばす!!」
「???どうしたのよいきなり!アンタさっきからヘンよ!?」
「あっいや!なんでもない」
「そう………ならいいんだけど…」
そう言って部屋を出る観月。
九澄は眠っている愛花を見ていた。
「(やっぱ柊の寝顔可愛いなぁ…だがあいつらの策にハまるなんてことは――――)
――――その時。
「う〜ん……のどが渇いたぁ………」
「柊!?どうした?」
「のど……渇いたぁ………」
「わかった。水を取ってくる」
九澄は外に出る。傍に観月がいた。
「観月、ちょっと柊が水を欲しがってるんだ。取りに行くから、先に戻っててくれ」
そう言って九澄はその場から走り去った。
「ちょっと!!…もう。男ってなんでいつも勝手なんだか――――――九澄……」
観月は去っていく九澄の後姿をじっと見ていた…。
学校以外で会うなんて初めてだったから…メイクも服も朝からずっと選んでいた。
「(こんなの初めて…男のためにメイクしたり服選んだりするなんて…。
ちがうちがう!こういう場だから着飾るのは当然であって………別にアイツのためじゃ…ないんだから……)」
……ここにいても仕方がない。
観月は大人しく広間に戻る事に…。
九澄は執事に水の入った高そうな水差しを受け取り柊の下へ。
「はあ…やたら広いなぁ…俺ん家の何倍の大きさだよこれ…」
迷いながらも漸く辿り着く。
「柊。水もって来たぞ」
愛花に水を渡す九澄。
「ゴクゴク……ぷはぁ!…助かったァ…ありがとう九澄くん…」
「どうだ…酔いは醒めたか?」
「――――………えへへぇ…」
まさか……これは…。
「まだ頭がクラクラするよぅ九澄くん……」
まるで…魔法試験の第一次試験のときのような…。
普段では聴けない愛花の甘え口調。
酔ってるからとはいえ…核兵器のような破壊力。
愛花のほんのりと朱い顔が目の前に…とろんとした上目でこちらを見つめる顔が目の前に。
「――――――………柊…」