第一回聖凪高校一学年 C組×F組親睦会 二日目  
 
 
 ― EpilogueT good morning, we rechain from the day before ―  
 
 
ようやく月が沈み、陽が顔を出す。  
それぞれのストーリーが一区切り、再び収束する。  
ゆっくりと確実に絡まっていく十の意志。  
 
 
 
「あっおはよう!久美、桜庭さん」  
 
午前7時。  
夏の朝日がキッチンに差し込む。  
愛花は何時ものように朝ごはんの支度をしていた。  
乾は愛花の側でお手伝い。  
「おはよう御座います。柊さん、乾さん」  
この家の主である桜庭と久美が共に現れる。  
「くぅ〜〜〜っ………もうちょっと寝てたかったんだけどな〜」  
「昨日決まったじゃない、朝ごはんは私たちで作るって。執事達は休みでいませんから」  
「ん〜、まあそうだけどさ」  
「柊さん、もうこんなに……皆さんが起きてからでもよろしかったのに」  
「いつも朝ごはん作ってるから大丈夫だよ」  
「そうですか……ヘンな事聴いてしまいましたね」  
「そんなことないよ。なんか桜庭さん……昨日と雰囲気が違う?」  
「!!!そっ、そんなことはありませんわ。柊さんはお客様なんですから」  
「そうだよな〜なんか桜庭変わったよな〜〜(ニヤニヤ)」  
「(………見てなさい………必ずや私が主導権を……)」  
「………愛花。できたよ」  
「ありがとうミッチョン!」  
 
「ふああ〜〜〜ねみい〜〜]  
津川と大門が現れる。  
「ん?未だ四人しか起きてねえの?」  
「じゃあ二人で残りの奴らを呼んで来て」  
「おい三国!なに座ってくつろいでんだ!お前も来いよ」  
「私は皿だしたり味見したりテーブルクロス敷いたり……」  
「わ〜ったよ!!」  
「僕に指図するなんて、三国は相変わらす強情だな」  
「………何か言ったか?」  
「いや。君のパートナーはさぞ苦労するだろうな…と思ってね」  
「………あら。なんで私を見るの?」  
「なんでもないよ、桜庭。じゃ、行こうか」  
「……大門。少しは嫌がれって」  
 
 
ということで津川と大門で残りのメンバーを起こしに。  
「ここは効率良く、二手に分かれて行こう」  
「たかが起こしに行くのに効率って……まあお前らしいけど」  
「じゃあ僕は観月と影沼、津川は九澄と伊勢を頼む。それぞれ部屋が近いもの同士だ」  
「そうだな。九澄には色々と聞きたいことがあるし」  
「……じゃあ、頼んだよ」  
 
まずは津川サイド。  
津川は伊勢の部屋に向かう。  
「つーかあいつ幹事だろ!?なにのんびり寝てんだか……」  
ノックもせずに突入。  
「オラァ!朝だぞ〜………って、起きてんのかよ」  
「おう、津川か」  
「……何やってんだ?」  
「いや。昨日の記憶が……トイレに行ってから無いんだ」  
「何だそりゃ?自前酒の飲みすぎなんじゃないのか?」  
「そうなんかな……なんか物凄い脱力感と幸福感があるんだが」  
「夢でも見たんじゃね?」  
「夢……確かにそうカモ。思い出せないが凄くイイ夢だった気がする」  
「とりあえず九澄を起こしに行くぞ」  
津川は伊勢を連れて九澄の部屋へ。  
 
「九澄〜朝だぞ〜」  
津川と伊勢は九澄の部屋へ突入。  
「zzzzzzzzz……」  
「ククク……良く寝ていらっしゃるようですよ津川殿」  
「昨夜は大層御盛んでしたんでしょうねぇ……伊勢殿」  
二人はゆっくりと近づき……九澄を羽交い絞めに。  
「!!!!!」  
「おやおや旦那、眼が醒めましたか」  
「だあ〜〜!!何だお前ら!!」  
「さあて……話してもらいましょうかねえ。九澄殿?」  
「お前らに話すことなんて……」  
「まあまあ。朝メシ食った後にタップリ聞いてやりますか」  
「……………」  
 
九澄は黙って二人についていく。  
言葉が少ないのは昨日の所為。  
揺らいでいた。  
自分の感情と彼女へのシンパシー。  
 
 
 
そして大門サイド。  
「……何だ起きてたのか」  
影沼は二階のトイレで顔を洗っていた。  
「おはよう大門くん。朝食でしょ?すぐに降りるから、先に行ってて」  
「………ああ。」  
大門は二つ返事でその場を去る。  
「(……此方の意図を読み取るなんてな。なかなかやるな)」  
 
大門が去った後、影沼は携帯を開く。  
「起きたら乾さんからメールが来てて……。  
 『おはよう。先に起きて愛花と朝御飯作ってるから……早く降りてきて』って……」  
 
さりげないメールに照れる影沼であった。  
 
 
次は観月。  
「(女子の部屋にいきなり入るのはマズイな。後で因縁付けられるのは嫌だし)」  
ドア越しで大門は観月に声をかける。  
「観月。起きてるか?」  
「………………」  
返事が無い。  
「……入るぞ」  
大門は断りを入れて部屋に入る。  
観月はベッドでうつ伏せになって眠っている。  
「観月、起きろ。朝御飯だ」  
「…………う〜〜ん……」  
大門は肩を揺する。  
「………ふぇ?……!!!大門!?」  
「そんなに驚くなよ」  
「驚くわよ!!男に寝起きなんてっ……」  
「……わかった」  
大門は観月にすぐさま背を向け、部屋を出ようとする。  
「………待って」  
「……??」  
「………その……」  
「昨日の事か?後で聞くから。早く支度してくれ」  
「……わかったわよ!」  
「先に言ってるからな。寝癖、とってから来いよ」  
大門はそう言って一階に向かう。  
「……大門は何時も余計な一言を……」  
観月は急いで支度をする――――――。  
 
 
午前7時半。  
ようやく全員が揃う。  
夕食と同じ広間。同じ席順。  
「こんな朝飯まともに食べるの久しぶりだわ、誰が作ったんだ?」  
「柊さんと乾さんよ」  
「普通の朝御飯のメニューだけど、人数が多いからいっぱい作っちゃった」  
「そゆこと。男子は感謝して食べる事!」  
「……久美。作ったのは私と愛花」  
「………そうだっけ?」  
「………………」  
「もう久美!ミッチョン、すごい手伝ってくれたんだから!」  
「わかってるって……そんな眼で見ないでよ、悪かったよ」  
「さあ。折角の料理が冷めてしまいますわ。早く戴きましょう」  
 
「「「「いただきま〜す!」」」」  
 
何気ない挨拶も、みんなですると不思議と心弾む。  
 
「ねえ九澄、こんなおいしい朝飯を毎日食べれたら幸せじゃないか?」  
「なんだよいきなり」  
「ちょっと久美っ!!なに言ってんの!?」  
「ああ……幸せかもな」  
「なにそれ。アンタらしくないわね……」  
「……九澄くん。口に合わなかった?」  
「いやっ!!おいしいよ柊、おかわり!!」  
「あっうん、ちょっと待っててね……」  
「……怪しいな」  
「うん。怪しい」  
「九澄〜、昨日は……」  
「津川!後で言うから今は黙って食え!」  
 
「(ビクっ!!)………」  
「観月さん?どうしたんですか?」  
「なっなんでもないわよ……」  
「……顔が赤いですけど」  
「さっき顔を洗ったからよきっと!」  
 
 
そんなこんなで朝食は終わり……。  
「なあ、折角だから海に行かねえ?」  
津川が提案する。  
昨日、散歩に行った時に思いついた案だ。  
「海って、其処の海岸のこと?……いいですわね」  
「えっでも私達、水着持って来てないよ」  
「私のでよければ使ってください。毎年シーズンごとに買ってますから数は問題ないです」  
「さすが桜庭だな……なんか全部用意してもらってすまないな」  
「……主ですから当然ですわ」  
「じゃあ早速あわせてみようよ!」  
「え〜っと……俺達は?」  
「……近所に売ってあるから飼って来てください」  
「まあ…そうだよな」  
 
という事で男性陣は水着を買いに、女性陣は試着へと向かった。  
集合場所は海岸。  
さて………どうなるんでしょうか……。  
 
 
時刻は10時。  
男性陣は入手した海パンを穿き、臨戦態勢であった。  
「さて……いよいよ女性陣の登場ですよ、津川殿」  
「そうですな伊勢殿。まあ九澄殿は……あの姫にしか興味は無いようですが……」  
「お前らなに言ってんだ!!別に俺は……」  
「君達楽しそうだね」  
「大門……お前は俺達とこの心の高鳴りを共有できない男なのか!?」  
「止めてくれ、そんな醜いモノを押し付けないでくれ」  
「相変わらずのナルシストだなぁ。折角ブーメランパンツ勧めてやったのに」  
「……(魔法が使えたら、狭視野の射手座を乱射してたな……)」  
「お!キタキタァ!!」  
 
 
ようやく女性陣が現れる。  
「みんな遅れてごめんね!お昼作ってたから遅くなって」  
「!!!ちょっ……三国!」  
「どうした?」  
「どうしたって……お前その水着………」  
 
※女性陣の水着は原作で着用していたものを各自補完してお楽しみください……。  
 
「桜庭のだからな。派手なのしかなかったんだ」  
「ぶはっ!!!三国凄すぎ……」  
少なくとも三人が同時に言った。  
「ていうか他に人ほとんどいないじゃん」  
「ココは避暑地にある小さな海岸ですから……家族連れの人達ぐらいですね」  
桜庭は手際よくパラソルを差す。  
「桜庭もかなりヤバイな……横からだと見えるんじゃないか?」  
「さすが伊勢殿……恐ろしいほどの洞察力をお持ちで」  
「……お前ら楽しそうだな」  
 
「久美、運ぶの手伝って」  
「!!!乾、それは…」  
「おいおい……乾、スクール水着とは……またマニアックな…」  
「ミッチョンに合ったサイズの水着が無くて……」  
「私の幼少の頃のモノはこれしか持ち合わせが無かったものですから……すいません、乾さん」  
「……………」  
「(桜庭さん……あまり身長の事は……)」  
「……すいません乾さん」  
「久美に散々言われてるから……」  
「似合ってるって!なあ津川?」  
「ああ。可愛いよ!」  
「さて……九澄大先生。柊姫君、いかがですか?」  
「だぁー!!うるせえ!!」  
 
「……九澄」  
「!!………観月」  
「似合ってる…かな?」  
「………ああ、似合ってる」  
「……あっありがと………じっ…ジロジロ観たら殴るわよ!」  
「観ないと評価できないじゃんか」  
「そうだけど……そうじゃなくて…」  
「………観月…」  
 
「ちょっと伊勢」  
「なんだ?」  
「なんか当初の趣旨から大分外れた展開になってないか?」  
「まあいいじゃん!楽しまないとそんだ……グハぁ!!!」  
「ジロジロ見るな!!」  
「観るだろ…そんな水着着てたら……胸がこぼれそ…ギャアー!!!」  
「アンタはココに埋めるから」  
 
それから彼らはビーチバレーに砂の城を作ったりで二日目を満喫した。  
校外で会うことのなかった彼らが、魔法を持たずに純粋に笑い楽しんだ時間。  
そして………落陽。  
沈む夕日に誘われるように、九澄はひとり海に浮かぶ真っ赤な球体を眺めていた。  
 
 
 ― EpilogueU 二十分 ―  
 
 
「九澄」  
九澄の側に観月が声をかける。  
「ん?どうした?」  
「もうみんな館に戻るって……この後花火大会が対岸であるらしくて、  
 浴衣に着替えて観ようってなって……そのぉ………」  
 
「行こう。みんなが待ってる」  
「えっ……うん」  
九澄は観月の背中を押す。  
他のメンバーは少し先を騒ぎながら歩いている。  
片道二十分の二人旅。  
………愛花がふと振り返り、九澄と観月を見る。  
不安の色に夕日の朱がゆっくりと溶け込んだ。  
 
観月は手を繋ぎたくて手を伸ばす。  
でも他の人の前ではそんな事出来ない。  
二人は付き合ってるわけじゃない。  
ほんの少しの勇気。  
ほんの少しの距離。  
観月のほんの……ささやかな願い。  
 
 
「昨日はごめん」  
「今更なに言ってんのよ…私の台詞、聞いてなかったの?」  
「ははっ。また観月に怒られるな」  
「私は………嬉しかったんだから………」  
「…………」  
「……九澄は?」  
「えっ?」  
「九澄は……?」  
「俺も……嬉しかった。好きって言われて喜ばないわけ無いだろ」  
「なにそれ!好きって言ってくれるヒトは誰でも良かったってコト!?」  
「違うって……」  
「……まただね。わたしたち」  
「……ああ」  
 
「わかってるわよ。………好きなヒト」  
「!!なんで……」  
「私を誰だと思ってるの!?アンタ観てたらわかるから!」  
「マジか……じゃあ昨日の事は…」  
「言わないわよ!……いい!?昨日の事はアンタとわたしだけの思い出ってこと!!……わかった!?」  
「おう……わかった」  
「わ、解れば……いいの……」  
 
二人は石の階段を登る。  
遊び疲れた二人には少し堪えた。  
九澄は後ろを観る。  
観月が辛そうにとぼとぼ歩いていた。  
「大丈夫か?おんぶしてやろうか」  
「誰がアンタなんかに!……こんな石段…平気…よ……」  
「無理すんなって」  
九澄はそう言って先を指差す。  
そこには石段を登りきった一行がいた。  
「だあ〜!!くっそー、負けたぁ〜!」  
「津川さん、よろしく御願いしますね」  
じゃんけんに負けた津川が、勝った桜庭を抱きかかえスケボーに乗る。  
館に向かう並木道を一行は歩く。  
「なんか津川が物凄く羨ましいんだが……殺意が沸くんだが……」  
「伊勢は荷物持ち。男なんだから、さっさと持って!」  
「頑張ってね、伊勢くん」  
「僕は手伝わないからな」  
「……よろしく」  
 
「くそっ…俺ってこういう役回りなのね……」  
 
 
九澄と観月はその様子を観ていた。  
「な?もう少しなんだし、少しは男を頼れって」  
「………わかったわよ…」  
「九澄〜!!何やってんだ〜!?早く来いって!」  
久美が九澄に声をかける。  
「!!………やっぱりいい」  
「何でだよ!」  
「うるさい!………バカ」  
観月は走りだし、九澄を置いて一行について行く。  
「九澄く〜ん!」  
愛花が九澄を呼ぶ。  
 
 
 
九澄の想いは既に決まっていたが、観月とのやり取りで揺らいでいた。  
自分を好きといってくれた観月。  
自分が好きなのは愛花。  
だから、昨夜の出来事が悔やまれた。  
観月は言わないと明言した。  
観月は俺の好きなヒトを知ってると言った。  
それでも。  
それでも九澄の答は一つだった。  
今日、想いは伝える。  
 
 
 
「……柊」  
「どうしたの?九澄くん」  
「後でさ……言いたい事があるんだ」  
「言いたい……事?」  
「ああ。大事な話だ」  
「うん。わかった」  
「じゃあ、行こうか」  
 
九澄と愛花は並んで並木道を歩いた。  
虫の鳴き声。  
葉を揺らす風。  
葉が擦れ、音色を奏でる。  
二人は自然と手を取り合っていた。  
九澄は愛花の顔を見る。  
愛花は笑って答える。  
 
 
――――もうすぐ空に大きな花が咲く。  
 
 
 
 ― EpilogueV ふたり ―  
 
 
全員の着替えが終わり、再び海岸へ。  
夕日の朱が段々と深い蒼に侵食されていく。  
海の向こうに見える花火を求め、八人は心躍らせながら向かった。  
そう………八人。  
 
「ヒヒヒ……九澄のやつ、まさか自分から愛花と二人きりになるなんてな」  
「三国、確かに九澄の件はOKなんだが……」  
「大丈夫だって。私は桜庭と。観月は大門と。ミッチョンは……」  
「……おい。俺は?」  
「伊勢は津川と一緒に焼きそばでも食べてれば?」  
「うお〜い!なんじゃそら!」  
「………あっ!!あそこに綺麗なお姉さんがいる」  
「なに!!よし行くぞ津川!!!」  
「伊勢!おいこらひっぱんな〜!!」  
伊勢は津川を連れて三国の指差した方へ。  
 
 
「………よし」  
「三国さん。早く行かないと始まってしまいますわよ」  
「そうだな。じゃあ行こうか!」  
三国は桜庭の手を取って走る。  
「ちょっと三国さ……そんなに…強く握らないで……」  
「ははっ!桜庭はほんとに身体が弱いな」  
ふらりと風が吹く。  
「桜庭ってイイ匂いがするよな。どんな香水使ってるんだ?」  
「私はそんな強いものは使ってません」  
「そうか……じゃあ桜庭の匂いか」  
「そんな言い方っ……恥ずかしいから止めてください……それに、三国さんだって…」  
「そうか?そういうのって自分じゃ解らないからな」  
「………綺麗です」  
「桜庭も……な」  
 
 
「…………乾さん」  
「影沼くん?」  
「……一緒に…いこう」  
「………うん」  
 
 
「…………」  
観月は辺りをきょろきょろ。  
「(アイツ……『先に行ってろ』って言ってたけど…何処行ったのよ…)」  
「観月、何突っ立ってるんだ」  
「だっ大門!?」  
「毎度毎度大げさなリアクションだな」  
「な、何か用?」  
「今日の観月、普段と違うからね。昨日もだけど……今日はもっと」  
「………本当、大門って魔法使いみたいね」  
「実際、学校で魔法使ってるからね」  
「…………あはは!!」  
「………??」  
「大門ってそんな事言う人だったんだ!なんか意外」  
「皮肉で言ったんだけど」  
「それでも面白かったから……大門も変わったよね、クラスマッチから」  
「……気のせいだよ」  
「無理しないでいいって。なんか丸くなったって感じがする。  
 あなたがこの会に参加するなんて思わなかったわよ」  
「いいんだ。柊との約束があったからね」  
「柊さん?どうして大門が柊さんと………へぇ〜。そうなんだ」  
「僕が彼女に酷い事を言って、今回はその埋め合わせだよ」  
「ほんとにそれだけ?」  
「……ほら。花火が上がるから早く行こう」  
「ちょっと!答えになってないから!それに私は……」  
 
 
「すげえな……一望できるじゃん」  
九澄と愛花は桜庭邸の庭園にいた。  
昨夜、影沼と乾がいた場所だ。  
「綺麗だね、九澄くん」  
愛花の浴衣姿。  
九澄の鼓動は高鳴る。  
結った愛花の髪の下。  
白く細い首筋、うなじ。  
綺麗で……九澄は見惚れてしまう。  
 
「どうしたの?」  
「えっ?いやっ……こうやってお互い浴衣なんて初めてだから」  
「そうだね。わたし、似合ってるかな?」  
「似合ってるよ!すごく……」  
「ありがと。九澄くんも似合ってるよ。色がちょっとオジサンっぽいけど」  
「桜庭のおじさんのやつだからな……」  
「……九澄くん」  
愛花の声色が変化した。  
「今日の九澄くん……なんかへん」  
「………へん?」  
「いつもは楽しくて、笑ってて……でも今日は元気ないよ」  
愛花は九澄の変化に気づいていた。  
「そうかな……昨日色々あったから疲れたのかな」  
「ううん。疲れたときの九澄くんじゃなかった。悩んでた……辛そうだった」  
「………なんで解るんだ?」  
「九澄くんのいろんな顔……見てきたから」  
 
「笑ってる顔。疲れてる顔。真剣な顔。嬉しそうな顔……いろんな顔を見てきたよ。  
 九澄くん、リアクションが大きいから……どうしても悩んでる時の顔は印象に残るの」  
「……恥ずかしいな。そんなふうに見られてたんだ」  
「意識してみてたんじゃないよ。でも、九澄くんがね……笑ったり喜んでる顔を見たら、わたしも嬉しくなるの」  
「俺もそうだ。柊の喜ぶ顔を見たら、すごくうれしい」  
九澄は自然と愛花の肩を抱く。  
以前だったら触れるだけで意識が飛びそうだった九澄。  
今でも、顔が赤くなってる。  
呼吸が乱れ、手に汗が滲む。  
愛花は九澄の方を向き、じっと九澄を見つめる。  
「だから……九澄くんが辛そうな顔をしてたら、わたしも辛くなるの」  
愛花の表情に影が差す。  
「……わたし………このままでいたい」  
「……このまま?」  
「覚えてる?わたしが昨日、最後に言った台詞」  
九澄は思い出そうとするが、どの台詞かわからなかった。  
「その言葉と矛盾してるかもしれないんだけど……わたしは今のままで幸せなの」  
「………柊」  
 
 
九澄は思い出した。  
最後に聞こえた言葉。  
「このままって……」  
「いつもの九澄くんでいてくれたら……それだけでいいの」  
「俺はいつもの俺だよ」  
「これ以上望んだら……もっと欲しくなるから。九澄くんにもっといろんなこと要求するかもしれないから」  
「それでもいい。俺は柊と……」  
「………九澄くん」  
「俺は柊じゃなきゃダメなんだ。柊が……好きだから」  
「!!……、……、、…、、…」  
「大好きだから……柊が俺に言ってくれた台詞。ホントは俺が先に言いたかったんだけどな」  
「…………うん」  
「要求してくれよ。俺は柊に答える。だから……」  
「そんなの……ダメだよ…わがままばっかりで……わたし……」  
 
九澄は愛花を抱く。  
「……九澄……くん…」  
「ほら。言ってくれ。柊の御願いならなんでも聞くから」  
「……じゃあ………ちゅう…して…」  
九澄は愛花にキスをする。  
出来るだけ永く。  
そっと。優しく。  
愛花の唇はとても甘く、柔らかい。  
九澄の唇は愛花の唇を包みこむ。  
 
――――空に響く炸裂音で互いの繋がりが解ける。  
「……花火だ」  
「……綺麗だね」  
降り注ぐ虹色の花の雨。  
その雨が水平線に沈んで溶ける。  
 
 
 
 ― EpilogueW 砂の城 ―  
 
 
「…………」  
「九澄と柊、いないな」  
「……………」  
「なんで黙ってるんだ?」  
「……九澄の好きなヒトって………まさか…」  
「まだ二人がいないだけで決め付けるのはどうかと思うけどね……」  
「!!えっ…ちょっと聞いてたの!?」  
「……いや。観月にフォローをしてあげただけだよ」  
「…………九澄……」  
「……………」  
 
「観月さ〜ん!大門く〜ん!!」  
二人は声の方を振り返る。  
「柊さん!………それと……九澄…」  
九澄と愛花は二人に近づく。  
「まったく。何処行ってたんだ?」  
「ああ。遅れてすまん……他のみんなは?」  
「個人行動の好きな奴等だな。まあ集合場所は決めて在るんだけどね」  
「それってどこ?」  
「今日作ったアレさ」  
大門が指差した先。  
砂で出来た大きな城がそびえている。  
「じゃあ先にあそこで待ってようか」  
四人はオブジェに向かって歩き出す。  
 
 
観月が九澄の浴衣の裾を掴む。  
「さっきまで……何処行ってたの?」  
「何処って……着替えとか少し遅れたし、ゆっくり散歩しながら来たんだ」  
「……柊さんも一緒だったの?」  
「ああ。外に出るとき一緒になってな」  
「………ウソ…ついてないわよね」  
「…………ああ」  
「そう………ってなんでアンタにそんなこと!アンタみたいな女ったらしが真面目な柊さんとなんて……」  
「観月さん?呼んだ?」  
「いや!!なんでもないの!……わたしの…妄想……よね…」  
「………観月……さん?」  
「はやく!いきましょ柊さん!」  
「きゃあ!!ちょっと観月さん!?」  
観月は愛花の腕を取り走っていく。  
 
「観月、九澄のこと気にかけてたみたいだったけど」  
大門が九澄に話す。  
「まあ僕には関係ないんだけどね。こんな話」  
「相変わらずだなお前は」  
「観月はすぐに表情や態度に出る。観てればわかるよ、九澄」  
「……なんだよ」  
「九澄もそういう眼を持てってことだよ」  
「悪かったな、ニブくて」  
「二人とも〜!」  
「ああ。いこうぜ大門」  
九澄は二人の方へ。  
 
 
「……僕はどっちの味方なんだか」  
大門は三人の背を見ながら呟く。  
 
「僕なのかもな……一番曖昧なのは」  
 
 
「……曖昧ねえ」  
「三国!?いきなり背後に立ってるなんて、嫌な趣味してるな」  
「へへへ……アンタには頑張ってもらわないと困るからね」  
「何を頑張るんだ?……まあ大体読めてきたけどね。元々この会自体疑問があったからね……幹事さん」  
「さあ?何のことだか…」  
「柊と僕の借りをネタに使ったのか?」  
「飛躍しすぎ!……相変わらず嫌な性格してるわね」  
「………まあいいよ。他のみんなは」  
「ほら、あそこに」  
三国の後ろに残りのメンバーが集まっていた。  
「ちくしょ〜!避暑地だから女がいねえ!ファミリーばっかじゃねえか!」  
「貴方みたいな下品な男性はどの女性も御断りでしょうけどね」  
「伊勢!お前のせいで全身汗だらけだっつうの!つうかスイカ重いな……俺は桜庭の荷物持ちじゃないんだけどな…」  
「…………夏のスイカは……なつかしい」  
「………36点」  
砂の城に十人が集まる。  
 
みんなで建てた城のそばで花火を眺める。  
それぞれの眼には、果たして如何映ったのだろうか。  
その花火の色彩がどう輝いたのだろうか。  
どの色に……染まったのだろうか。  
 
 
―――月曜日。  
観月は一枚の写真を見つめていた。  
デジカメで撮った九澄との2ショット写真。  
写真に写る自分の表情に変えて。  
傍に写る九澄を胸に焼きつけて。  
気づくと九澄が目の前に。  
 
「九澄。約束……覚えてるわよね」  
「ああ、覚えてる。それじゃあ初めようか」  
 
 
貴方への愛しさが私を変える。  
 
あなたへの想いが私を動かす。  
 
アナタがいないと私は……ワタシは……………。  
 
九澄……。  
 
アイシテル………九澄……。  
 
 
 

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