― EpisodeU 影沼×乾   
 
                           “Darkness” and Shadow  ―  
 
 
 
 
 
先程まで僕の横で観月さんが何やら喋っていたが、僕は聴いてはいなかった。  
それから二人が何時の間にか去ったのも今気づいた。  
 
僕は正面に座る乾さんを見た。  
グラスを両手に持ち、その透明な液体を眺めている。  
何時もの様な寡黙な表情だが、頬はほんのりと赤い。  
 
―――僕は以前から乾さんの事が気になっていた。  
乾さんの私服を見るのは初めてだった僕は、普段とは雰囲気の違う乾さんに心を奪われていた。  
……好きとは…違うのだろうか。  
こんな気持ちになるのは初めてだから……上手く表現できないんだ。  
だから…乾さんの中の僕は……如何映っているのかが気になる。  
僕はグラスに注がれている酒を飲みながら考えてみる。  
 
とりあえず……ツッコんだほうがいいのか?  
さっきからずっと黙って酒を飲んでる。  
恐らく六杯目だ。  
軽い酒とはいえ…未成年がそんなに飲んだらマズイ…って冷静にツッコンだほうがいいのか………?  
いや…そうじゃない。  
折角二人きりになったんだ。積極的にアプローチすることが僕の命題。  
まだ僕は乾さんがどんなヒトでどんな男が好きかなんて全然知らない。  
彼女も俺の事は知らない……はずだ。  
さり気無く彼女から少しでも多くの情報を聞き出す…寧ろ一言でも多く彼女と会話をする事。  
不快感を与えないように…。  
自然体でいくんだ。  
大丈夫。僕になら…できる。  
 
――――大分飲んだみたいだから…少なからずも酔いが廻ってるはず。やはりまずはそっちの心配か……。  
 
影沼は漸く切り出す。  
「乾さ…」  
「影沼くん。」  
被せられた。出鼻をくじかれる。  
「なっなんだい?乾さん」  
動揺は顔や声には出さない。  
さり気無く名前を語尾に付ける。  
「二人きりになっちゃったね。」  
   
――――二人きり…イイ響きだ。  
もう此処には僕たち二人しかいない。  
 
「そうだね…乾さん。お酒は強いの?ずっと飲んでるから…」  
「お酒は初めてなんだけど……これ、すごくおいしいから…」  
「僕も初めてだけど、おいしいね。甘党だからかな…でも飲みすぎはだめだよ」  
「うん…おいしいから…つい……」  
乾さんはそういいながらグラスをテーブルに置く。  
……普段の喋り方より少しゆっくりで抑揚がない。  
やはり酔いが廻っている証拠だろう。  
今が………好機。  
「乾さん……隣、いいかな」  
………乾さんは小さく頷く。  
僕は彼女の隣の席に座った。  
 
 
 
    ―――――其れから僕らは様々な話題で会話をした。  
    自分でも不思議だった。  
    こんなにも自分から話を振る事なんて今までなかったからだ。  
    お互いの波長が合うからだろうか…。  
    どれだけの時間こうしてたんだろう。  
    あとどれだけの時間こうしていられるんだろう………。  
 
 
「――――――――影沼くん…?」  
乾さんが僕の方を見つめている。  
瞬きせず…じっと小動物のように。  
トロンとした垂れ目が僕を捉える。  
黙ってしまった僕を心配しているのかな……?  
僕は彼女の瞳を見返す。  
―――其処に何かが映る。  
乾さんの深い黒の瞳に映っているのは――――“僕”だ。  
 
 
 
      “僕”が嗤う。  
 
            『君には無理だよ』  
 
 
 
――――――何かに触れる。  
僕は“僕”に手を伸ばしたはずだったが………。  
僕は乾さんの頬に触れていた。  
……熱い。火傷してしまうくらいに。  
さっきのは幻聴…か??………僕も相当酔っているのか。  
だが…掌に感じる熱は…頬の感触は…偽物じゃない。  
「…影沼くん………」  
乾さんの言葉で掌に熱が宿る。  
僕はそっと乾さんに顔を近づける。  
彼女がビクッと後退りしたが…ゆっくりと瞳を閉じる。  
僕は感情が暴走しないよう、もう一方の手で乾さんの手を握る。  
細くて…小さくて…白くて温かい。  
愛おしくなって更に強く握る。  
自分と彼女とを紡ぐために。  
 
僕は乾さんの唇に触れる。  
初めてだから少しぎこちない。  
でも…感触は解る。  
……女性の唇はこんなにも小さくて柔らかいとは…。  
息を止めていたのでほんの十秒の出来事だった。  
 
僕は唇を離し、頬に触れている手で乾さんの頭を撫でた。  
ペットを可愛がるように……よしよしと撫でる。  
そうすると乾さんも子猫のように僕に寄り添う。  
乾さんをそっと此方側へ抱き寄せ、僕の膝の上に座らせる。  
……彼女が僕の胸に寄り掛かる。  
きっと僕の心臓の鼓動は聴こえてる……。  
もう一度僕は乾さんに口付けをした。  
………今度は舌を入れてみる事に。  
洋画の見様見真似しかできないが………。  
「………ふぅあ…んぅっっ………ンぅう…」  
乾さんの口から声が漏れる。  
……喜んでるのか苦しいのか解らず、一端離れようとする。  
「……ふぁめぇ………おねがい…つじゅけて………」  
乾さんの唇が僕の唇に擦れながら誘惑する。  
其の言葉に導かれ、僕は再び舌を入れる。  
口の中は酒の為か、彼女の唾液の為か酷く甘かった。  
乾さんの口の中を這いながら……漸くの邂逅。  
ザラリとした触感。  
触れると奥に引っ込んでしまう…可愛い。  
捕まえるためにあとを追い―――そして捉える。  
「!!!んアっ……ふうぅ……アンぁっ……」  
嗚咽とともに互いの口端から垂れる唾液。  
僕の物か乾さんの物か……恐らく混合液だろう。  
その混合液は舌の上で絡まり――――。  
 
――――そっと離れる。  
互いの口から糸が引いている。  
僕が指で取ってあげる。  
乾さんの唇がプクっと動く。  
………恥じらう彼女が愛おしい。  
乾さんを抱き上げ、後ろのフロアにある大きなソファーに寝かせる。  
此のフロアは小さい燭台が一つ備えてあるだけで明かりはほとんどない。  
広間の明かりは途中で闇に呑まれ消え失せている……。  
 
 
さて…此処からだ。  
鼓動の高鳴りを必死で抑えながら服を脱がす。  
乾さんは抵抗しない。  
ブラジャーも取る…………………ホックが……上手くっ………。  
焦ってはダメだ……漸く取れた。  
乾さんの胸が露になる。  
白くて形の整った小ぶりな乳房。  
その二つの小山の谷でロザリオが妖しく輝く。  
其の小山を指で擦る。  
「…んンっ……あっ………んぅ…」  
焦らすように優しく。  
僕はもう片方の山の頭頂部に口付けをする。  
ビクッと反応する。  
反応が楽しくて何度も何度も――――。  
「イやぁっ………アンっ!……んあぅ……」  
ほんのり甘い。  
口に含みチュウっと吸ってみる。  
プックリと勃起する乳首を味わう。  
「…ふうン!……はアゥ!んああァアっ!!」  
漏れる声が甘美な色に染まっていく。  
目の前の少女から洩れる懇願が成熟へと加速する。  
「だめぇ……影沼く…ン!!イヤアァああ!!!」  
乾さんの肢体が激しく脈打つ。  
予想外に早い…乾さんは感じ易いみたいだ。  
僕はスカートの中を探る………。  
シルク地の上からソレに触れる。  
クチュうっギュッっ……。  
「そっソコっ!……ふぅあぅ!!」  
………やはり。  
スカートを捲る…酷く汚れている。  
 
 
 
――――――――折角だからもっと汚そうか。  
 
 
 
僕はスカートの中に頭を潜らす…。  
驚いた――――濃厚な愛液の香りにだ。  
局部にぴったりと貼り付いた下着の上から縦スジをなぞる。  
秘部の輪郭がくっきりと下着に浮かぶ。  
指に乾さんの……考えただけでも可笑しくなりそうだが…。  
事実、僕の指に絡んでいる。  
其処から次第に溢れ出す。  
其れを求め…吸い上げる。  
「はひっ!!!ひゃめっッ、、ふあぃ………」  
秘部から垂れる愛液を掻き集める。  
太腿に流れるモノも例外じゃない。  
舌を這わせる。  
すべすべした柔肌の上を泳ぐ。  
……何かに触れる。  
ソックスかな……?  
手で探る。ソックスの縫い目のようだ。  
彼女の……乾さんの匂いがする。  
乾さんの純粋な体臭。  
手で細い脹脛を擦る。  
 
…………やばいな……急がないと…我慢できそうにない。  
 
 
僕は再び暗闇へ。深い闇の中へ…。  
―――――花に接吻を、栗に愛撫を。  
 
 
「ふゅあぁ!!!っひっ、、ぁあ!あぅ……、…」  
下着越しで膣に指を埋める。  
プチュ…ジュプッ……ジュププッ…。  
闇から響く卑猥な音。  
乾さんの喘ぎ声に呼応しているようだ。  
下着を脱がし、直に感部に触れる。  
「ンああアァ!!くぅう……かげぬ…まく…ンっ…モウ…ダメェエ……」  
……そろそろかな。  
指に力を籠める……。  
 
―――――掻き回す。  
―――――――――クリトリスを吸う。咬む。  
「ふゃわっダメっ…!!!!くうぅっ!!ンアアィぁああ!!」  
……大量の飛沫を浴びる。  
温かくて濃厚な香りのする愛液。  
唇の周りに付いた液を舐めながら僕は言った。  
「乾さん……苦しいよ」  
そうなんだ。  
乾さんがイキそうになってからずっと彼女は脚を閉じようとしていた。  
「……はあはぁ…ごめん………キモチ…よかったから…」  
初めてにしては…僕はよくやったほう……だよな?  
スカートから頭を出す………。  
数十分前とは明らかに表情の違う乾さんが其処にいた。  
だらしなく涎を垂らし眼は虚ろだ。  
それでも…ロザリオの輝きは褪せてはいない。  
 
衰弱した乾さんを見て…僕はもう……限界だった。  
―――――――僕の心にリンクするように……次第に辺りの明かりが消えていく。  
 
ズボンを下ろし乾さんの肢体を手繰り寄せる。  
張裂けそうな亀頭を肥大化した栗に擦り付ける。  
………やばい。それだけで果ててしまいそうだ。  
乾さんもイッた直後なので感度が向上しているようだ。  
「くぅうっ………いい……ふあぁうあ………」  
僕の亀頭を栗に擦り付け喘ぐ乾さん。  
想像や推測じゃあこんな快感は得られない。  
十分に愛液を塗りたくった亀頭を……本来在るべき場所へ。  
………ゆっくり……ゲートをくぐる。  
其れだけで気を抜いたら放出してしまいそうなくらい気持ちいい。  
「んァぁあ!!そこおっ……いいのぉ、、……、…」  
どうやら乾さんは入り口が性感帯の様だ。  
指で犯した時も此処が一番良い反応だったな…。  
カリまでの部分を出し入れする。  
それでも締りがきつい。  
「あっ…アンっ…ふあっ…ああぅ…」  
膣壁・ゲート部分で激しく擦れ…快感を共有する。  
何時もは表情を崩さない僕と乾さん……。  
だが。恥部で触れ合えばこんなにも露になる。  
―――――僕は腰を素人なりに振りながら乾さんに倒れこみ…抱きつく。  
 
乾さんが愛しくて強く抱く。  
彼女も僕の腰に手を回し必死でしがみ付く。  
「か…げ…ぬまくんっ……ふふぇあ…ダメえぇ…」  
……くっ……くそ…出そうだ…。  
頭の中で今の状況とは関係のない事象を並べ無作為に繋げようとする。  
少しでも乾さんの声を…匂いを…表情を浮かべたら爆発する…。  
………。  
………………。  
………よし……いいぞ………なんとかなるかな…………………………………。  
 
 
「かげぬ…、、…く……!!!ンあぁ!!…ワタ…シ……もう…ダメだよ…オカシク…、……なっちゃうよ…」  
 
 
―――――こっちが可笑しくなるって……そんな事言ったら。  
僕は意を決して奥まで竿を差し込む……。  
――――ブプッ…じュポ……ぬププ…。  
膣壁の圧が尋常じゃなく愛液の漏れる音が動くたびに響く。  
――――脳に奔る洗脳の電光。  
僕までもが肢体に力が入らず、肘をソファーに宛がって必死で我慢する。  
「はひぁ!!奥で…!擦れてるぅ……アンっ……ンあァアっ!!」  
――――魂まで放出したような感覚だった。  
「んああぁ…、……ひゃめぇっ!!!!やぁあァああア!!」  
 
 
――――――――――蝋燭が溶けきり、暗闇が空間を覆う。  
 
 
急激に僕を襲う睡魔。  
重たすぎる瞼を押し返しつつ乾さんを見る。  
………彼女は眠りに就いている。  
 
――――そして……僕も。  
シャッターが閉じ、漆黒が視界を埋める。  
愛しき女性を抱いて。  
幸福のベールに包まれて。  
 
 
―――眼が醒める。  
乾さんから出る甘い香り、柔らかな肌がある。  
暗闇に眼を慣らすには数十秒必要。  
………大分眼が慣れてきた。  
時計に眼をやる。  
脆弱に光る蛍光の針。  
………もう直ぐ日付が変わる。  
「…ンん…んっ……」  
乾さんが起きたようだ。  
「いぬ…」  
「影沼…くん……汚れちゃったね」  
何時もの彼女だ。  
少しか細いが透き通る声。  
不思議な魔力を持っている。  
其の少女の魔法に…僕は魅了されている。  
―――――勿論、本人に『少女』なんて口が裂けても言えない。  
 
僕達は服を着て広間を後にする。  
……先程までの賑やかな親睦会が嘘の様に辺りは静まっている。  
みんなは何処に言ったんだろう。  
……まさか、先程までの行為を視られてはいないだろうか。  
眠っていたんだ。二時間程。  
有り得る…よな。  
考えれば考えるほど気が滅入る。  
乾さんの方に眼をやる。  
彼女は僕にトコトコとついて来ている。  
…俯いている。  
僕と同じコトを考えているのだろうか………それとも…。  
 
僕は確かめたくなった。  
歩みを止め、乾さんの方を向く。  
彼女はピタッと立ち止まり、僕の方を向く。  
視線は……交差しなかった。  
「乾さん……さっきは…ごめん…」  
「…………………」  
沈黙。  
さっきまでの空気が凍りつく。  
謝るしかない。  
「あんなに乾さんに注意してたのに……自分の方が酔ってたなんて…情けないよ」  
「私も酔ってたから…呑みすぎたし。……影沼くん」  
乾さんが顔を上げて僕の瞳を見返す。  
彼女の瞳に……“僕”が映る。  
「さっきのは……ただ酔ってたからしたの?それとも…そういうことしたくて……したの…?」  
「そっそんなこと!………」  
強い口調で言い返すが………次の言葉が…出てこない。  
 
 
     「僕は………キミのことが好きだ。やっと解ったんだ」  
 
 
そう言いたいが…彼女に指摘されたことが本当にそうなんじゃないか?と考えてしまう。  
多分―――――さっきの情事に後ろめたさを感じたからだと思う。  
口籠っていたら乾さんは先に歩き出した。  
………僕は黙ってついて行くしか無かった。情けなかった。  
 
 
沈黙を引きずったまま僕達はシャワールームに入った。  
実はココに辿り着くまで色々と迷っていたが……其の間も沈黙は続いていた。  
学校に備え付けられていたようにシャワールームは男女別にあった。  
乾さんが其の中へ消えていく後ろ姿を僕は観ていた。  
……早くシャワーが浴びたくなった。  
少しでも早く……僕の中に巣食うこの感情を…。  
僕の体躯を纏う悪しきモノを洗い流したかった。  
 
 
彼女も……。  
乾さんも…そう思いながら浴びるのだろうか。  
僕と触れ合った肢体。  
其の感触が…匂いが消えるまで。  
其の刻の記憶が溶けて逝くまで……。  
 
…………。酷い被害妄想だな。  
僕もシャワールームに入った。  
 
 
十分後。  
僕はシャワールームから出る。  
時間はあまりかけなかった。  
彼女より先に出て……其処までの計算での事ではない…。  
でも…そう思うと僕は乾さんが出てくるのを待つのが怖くて……でも期待をしていた。  
最後のチャンスだと思ったからだ。  
彼女が出てくるまでに弁明を必死で頭に浮かべる。  
 
単語を装飾し言葉に…言葉を繋げて文章に…。  
多くの文章を束にし、紡いで…今の自分ソノモノを一つの簡潔な擬人論文を生み出す。  
 
そして其れを頭の中で何度も復唱する。  
でも……そんな物は役に立たないんだ。  
其れでも……そうするしかなかった。  
気休めで充分だった。  
 
 
乾さんが出てきた。  
驚いた……何時もとは全く異なった彼女が其処にいた。  
シャワー上がりの彼女の肌が火照っている。  
そして普段結っている髪を下ろし、濡れた髪をタオルで乾かしている。  
未だ高校一年生だとは思えないほどの魅力的な姿。  
僕と同じ高さの目線であれば……大人の女性に見得ただろうか。  
 
僕は乾さんを外に誘った。  
一応シャワー上がりで髪と身体を乾かそうという事を彼女に言った。  
だが本音は…外の空気を吸いたかった。  
そしてこの館は…何処かヒトを狂わす魔法が施されている様に感じたから。  
 
 
大きな庭園に出る。  
館から漏れる照明が僕らを淡く照らした。  
様々な花が綺麗に装飾された場所だ。  
高台の縁の傍だから、崖下が一望できる。  
避暑地だから都会のようなネオンは無い。  
……由緒有る伝統家屋、長い年月を経て育った自然のミドリ。  
津川の言っていた浜辺も此処からなら良く見える。  
其の景色を見ただけで身震いするほどだった。  
そして……何処か寂しい。  
 
 
僕達はベンチに座る。  
「……キモチイイね…」  
乾さんが言った。  
清涼な風が僕と乾さんの間を駆け抜ける。  
……乾さんの髪がなびく。  
シャンプーの香りがする。  
「そうだね…今日は涼しいな。昼間はあんなに暑かったのに」  
「うん……少し寒い……」  
乾さんは薄着だった。  
身を縮ませる姿が印象的だった。  
僕は黙って乾さんに上着をかけてあげる。  
「……ありがとう」  
自然と距離が近くなる。  
さっきのように沈黙が続かぬよう、僕は勇気を振り絞る。  
「さっきの事なんだけど……」  
「…………」  
「何度も…こんな事言ってしつこいかも知れないけど…如何しても乾さんには謝りたいんだ」  
「………影沼くん」  
僕は乾さんを見る。  
彼女も僕を見返す。  
「……わたし…うれしかった。……影沼くんっていつも喋らなくて…どんなヒトか解らなかった。  
 でも…わたしといっぱいお話してくれたでしょ?……楽しくて、うれしかった」  
 
………僕が馬鹿だった。  
僕もそう感じていたんだ。  
好きとか嫌いとかじゃなくて……。  
ほんのハジマリだったんだ。  
僕達の関係。  
言葉を交わし…同じ時間・空間を共有する。  
互いの内面を知り、其れによってもっと相手に惹かれる。  
其れこそが総てだったんだ。  
―――――どうやら自己批判だけが先行していたようだ。  
そして……乾さんの其の言葉を待っていたんだ。  
 
「僕も…乾さんとあんな風に面と向かって会話をしたのは初めてだったけど……すごく楽しかった。  
 でも……今日は何処か雰囲気が何時もと違った」  
「えっ……、、、そうかな……」  
「なんか……大人しかった。普段も落ち着いた印象だったけど…」  
「………、、、たぶん……影沼くんのせい」  
「………??」  
「たのしかったのは……うれしかったのは………きみのせい」  
声色が急に変わった。  
「影沼くんのせいで……上手く…しゃべれなかった」  
乾さんが顔を赤くして話す。  
凄く可愛かった。  
其の姿を見れば、恋愛経験の無い僕にでも解る。  
彼女は………。  
 
「二人きりになったとき……すごくドキドキしてた………」  
―――――段々と其れは確信に変わる。  
「お酒で誤魔化してたら……色々喋って…」  
―――――段々と彼女の口調が変わる。  
「……それから……、、、、……」  
「あの時の乾さん、可愛かった」  
「っっ〜〜〜!!!!!!………」  
 
乾さんが照れて動揺する姿…。  
初めて乾さんの言葉に彼女の感情が色づいたように思う。  
急にこみ上げてくる彼女への愛しさ。  
耐え兼ねず僕は乾さんを抱く。  
「!!……かげぬま……くん…」  
 
上着を羽織っていても彼女の体温は解った。  
………冷たかった。  
顔は赤く染まっているのに…身体はひんやり冷たい。  
僕はもっと強く乾さんを抱いた。  
少しでも…僕の体温を乾さんに分け与えたかった。  
 
「………んンっ…、、…いたいよ……」  
「!!ゴメンっ……」  
乾さんの言葉に反応して咄嗟に離れる。  
――――………本当に痛そうだったから。  
 
でも其れは違った。  
乾さんは直ぐさま僕に抱きつく。  
………???  
当然のように僕は愕く。  
「さっき……痛いって……」  
 
 
「………そばにいたい」  
 
 
「………………えっ……」  
「……あなたの……そばに……居させて………」  
 
 
   彼女の瞳にはもう……“僕”はいない。  
 
   黒円から溢れる涙を優しく拭う。  
 
 
 
「大丈夫。僕は此処にいるから……ずっと………ずっと―――」  
 
 
 
 
頭上を見上げる。  
 
其処に在るのは無限の煌めく星斗。  
 
激しく燃え、僕らを照らす三つの一等星。  
 
そして――――堕ちてくる虚空。  
 
 
 
僕らは寄り添って見ていたんだ――――。  
 
瞬き飛び交う星団の舞踊。  
 
………其の神々しく耀く様を。  
 
互いに重ねた手の温もりを添えて………。  
 
 
 
 
 

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