其はクラスマッチが終わって直ぐの事だった。  
   場所は一年F組。  
   何時もと違ったのは、僕の立場が急変した事。  
   僕は戦犯となった。  
   僕を睨み蔑む何十という数の眼。  
   其れは言葉よりも暴力よりも苦痛であった。  
 
   解っている。解ってはいる。  
   唯一自分の自尊心が其れを赦さない。  
   相手への憎悪で偽造したいくらいだ……いや今迄がそうだったのかも知れない……僕は……ボクハ……  
 
   僕の中に大きな穴が開いていた。無数に。  
   九澄大賀という男に敗北した翌日からだ。  
   気分は芳しくない。寧ろ酷い。  
   総ては自分のせいだと言い聞かせている。恐らく其の副作用が出ているんだ。  
   頭が酷く痛む。他人から発せられる雑音は最早僕には入らない。  
   今過ぐにでも叫びたかった。唯それだけだ。  
 
 
今日の授業が終わった。足早に帰路につくことにする。  
………どうやら其れは無理みたいだ。  
僕は二年生の連中四人に囲まれる。  
「ちょっといいか」  
恐らくグループのリーダー格だろう。  
僕は体育館裏に連れていかれる。  
薄暗い、苔臭い体育館裏に着く。  
僕の予想は恐喝だと思っていたが、どうやら其れよりも酷いものだった。  
 
「お前、俺等のチームに入らないか?」  
僕の耳に入ってきた台詞は意外な物だった。  
「…どういうことだい?」  
「どうもこうもない。チームに入れって言ってるんだ。それだけだ」  
チーム…族のことか。  
「生憎僕は二輪は嫌いだ」  
「ナニ言ってんだ?…そっちじゃない。執行部に敵対するチームの事だ。  
今は此処に居る奴等含めて七人いる。全員ブロンズだが上位クラスのプレート所持者だ。  
俺はポイントはもう既にシルバーなんだが、執行部のおかげで昇格手続きができない。  
俺と同じ処遇の奴は他にも二人居る。つまり執行部はゴールド一人シルバー三人ブロンズ二人、  
其れに対してこっちは実質シルバー三人ブロンズ四人。戦力はかなり拮抗してるって訳」  
「…何故僕なんだ?」  
「一年の実力者が幾らか必要なんだよ。聡史を勧誘するのは無理だしな。  
ゴールドの九澄について色々知りたいし。奴の実力は未知数だしな。  
お前は実際クラスマッチで対戦したらしいしな」  
 
「………何故そんな事をするんだ?」  
「乗っ取りだよ。執行部の。奴等の権限そっくりそのまま戴く。支配下に置くって言った方がいいな」  
「……何か怨みでもあるのか?普通じゃないね」  
「奴等が嫌いなだけだ。余計な詮索はするな。つうか質問してんのは俺だ。どうすんだ?」  
弱った脳にいきなりそんな事言われても困る。  
僕はそう言いたかった。  
「チームに入ったら幾つか魔法を教えてやる。  
幸いお前の魔法は遠距離型が多いみたいだな。お前の苦手な近距離攻撃魔法と防御魔法だ。  
これだけで大抵のブロンズは倒せる、お前みたいな一年でもな」  
「………」  
「奴等だって俺等と同じ二年生だ。数もこっちの方が上。  
なら……って、噂をしたら御出でなさったか執行部様よぉ」  
僕は視線を体育館の屋上に送る。  
其処にいたのは二人の執行部員だった。  
「そこまでだ。密会中悪いが連行させてもらう」  
執行部員の一人がそう言った。  
長髪に髑髏帽を被った男だ。  
「永井と宇和井か…一端引くぞ。おいお前。  
又来るからそれまでに決めとけよ。返答次第じゃあ…解ってるな?」  
「逃げるぞ!」  
花火のように四方に散っていく。  
「どうします?追います?」  
「……いいや。罠かも知れない。様子が見れただけで十分だ…」  
「じゃあ彼は私に任せて」  
「ああ。先に部室に帰る」  
長髪に髑髏帽を被った男はその場を去った。  
残された女性が僕の前に降り立つ。  
 
「よいしょと。大丈夫?見た感じ何もされてないみたいだけど」  
「僕は…大丈夫です。貴方執行部員なんですか?」  
「そう。私は宇和井玲。執行部の副部長、つまりbQね」  
彼女が執行部bQ…そうには見えないが…見た目で判断するのは善くないな。  
それよりも早く帰りたい。今は誰とも話なんてしたくはない。  
「じゃあ僕はこれで…」  
「何言ってるの?貴方には聞きたいことが色々あるんだから。大人しくついてきて」  
宇和井さんは僕の腕を掴み引っ張って部室まで連行した。  
やたらと身体を密着させてきたが、僕を逃がさないためか…?  
もう僕は彼女に逆らう気力すらないのか…堕ちるとこまで堕ちたもんだ。  
 
 
   執行部室に着く。  
   僕は宇和井さんに先程のやり取りを一字一句総て答えた。  
   記憶力は未だあるようだ。無いのは考える力か。  
   そう思うとまた脳が軋む。気分が悪い。  
 
「それで、大門くんはどうするつもりなのかな?」  
彼女の声で自分の精神世界から我に返る。  
「きみがひっかかっているのは…魔法のことかな?」  
僕は何も答えない。  
「ビデオで見たわよ、クラスマッチ。  
相手のキングを二度も倒すなんて、なかなかやるわね。  
九澄には負けちゃったけど、実力は本物ね……それでも彼に負けたのがくやしい?」  
核心を突いてくる。  
「彼が僕のターゲットだった。だが、甘く見ていたようだね。自業自得さ」  
「明らかに味方を無視し、自分がキングである自覚もないかのようなワンマンプレー。  
私が君のクラスだったらぶっとばしてたわよ」  
………やめろ。  
「あの場にガードが一人でもいたら状況は変わってたわ。  
得点も勝ってたから守りぬけば、あるいはアタッカーがあと一人倒せば終わってた」  
………ヤメロ。イマスグ。  
「そこまでして九澄を倒したかったの?」  
 
僕の中で理性が弾ける。  
突然立ち上がり駆け足で部室を後にした。  
後ろから宇和井さんの声が聞こえたが無視した。  
あの場には一秒たりとも居たくなかった。  
 
 
外は雨だった。  
僕は雨に打たれている。  
冷たい。  
夏の雨は何故か冷たい。  
眼に雨の雫がすうっと入り、頬を伝って落ちる。  
頬を伝った液体は僕の涙だった。  
 
僕は哭いていた。  
嗚咽を口から溢し哭いた。  
表情を歪め、雨を降らす空に向かい。  
自分の弱さに。  
憐れさに。  
 
………どれだけ経ったろうか。  
………どれだけの時間僕は此処に立っていたろうか。  
………どれだけの涙を流したろうか。  
漸く我に返る。精神世界から。  
僕は振り向いた。  
其処には宇和井さんが立っていた。  
彼女も雨に打たれびしょ濡れだった。  
僕に歩み寄る。  
 
「君みたいなコでもあんなに泣くんだ」  
そう言って僕に抱きついた。  
温もりなど無かった。  
僕の感覚が麻痺してるのか?と思ったが違った。  
宇和井さんは震えていた…冷たい。  
ついさっき此処に着いたならこんなには為らない。  
それにこの制服の濡れ具合。  
「まさか…ずっと僕の後ろに立っていたのかい?」  
宇和井さんは答えない。  
彼女の長い前髪で表情は確認できない。  
頬を伝う雫は…涙に見えた。  
微かに宇和井さんの口から呻き声が漏れる。  
僕はその場を動かなかった。  
彼女をこのまま抱いていたい、なんていう性欲ではなかった。  
手を離したら消えて居なくなると思ったからだ。  
僕達は雨に打たれ続けた。  
 
僕達は保健室に行った。  
ストーブで濡れた制服を乾かす。  
大きめのタオルで髪を拭く。  
代えの服がないか探したが…見つからない。  
体育は今日は無いから体操服も無い。  
宇和井さんも同様だった。  
「まいったわ。全身べたべた」  
宇和井さんはベッド部屋のカーテンを閉めながらそう言った。  
 
「…さっきのは…もう大丈夫ですか?」  
余計な事を口にした。  
其の“余計な事”しか今の僕にはできない。  
「……わたしもきみとおなじだったんだ」  
宇和井さんが語りだした。  
「わたしにもどうしても倒したいやつがいてね。  
クラスマッチで対戦したときは驚いたわ。一発でやられた。すごい悔しかった。  
それから必死で勉強してプレートランクを上げて、執行部に入れたの。今、副部長をやれてるのは彼のおかげ」  
「………」  
僕と同じ…か。  
「大事なのは失敗からなにを学ぶか。きみならわかってるんじゃない?」  
僕はカーテンを握っていた。  
そして開く。  
彼女はバスローブを纏ってベッドに座っていた。  
彼女に詰め寄る。  
「僕と同じ?気休めは止めてくれ。僕の何が解る」  
「わからないわ。なにも」  
素っ気無い返答に僕はキレた。  
彼女をベッドに押し倒す。  
傍から見れば単なる強姦現場だ。  
「ふざけるな。じゃあ何でさっき泣いてたんだ?同情だなんて言うなよ」  
「……きみの後ろ姿が寂しそうだったから…  
…きみの哭く声がすごく苦しそうだったから…いまのきみの顔がとても怖くてつらそうだったから…」  
「だから解った様な事を…」  
其処で僕の言の葉は途切れた。  
僕の眼に入ってきた。  
彼女の左目。  
痣があった。  
紫丹に染まった痛々しい彼女の傷。  
 
「……何だよ…これ……」  
宇和井さんは答えない。  
「誰にやられたんだ!答えてくれ!」  
僕への同情。  
執行部への入部。  
強さへの固執。  
僕は確信した。  
「………あいつらか」  
 
「……もう…自分をせめるのは………やめて……そんなかおしないで…」  
宇和井さんは悲哀に満ちた表情で泣いていた。  
対峙したときはそのトラウマを必死で抑えていたんだろう。  
「つらかったら……わたしがいるから…きみは…ひとりじゃないんだよぅ…」  
僕と自分を重ねているのだろう。  
自分の心に、身体に刻まれた記憶がフラッシュバックしているんだろう。  
奴等に対する怒りや憎しみよりも宇和井さんの事を最優先した。  
彼女を救いたかった。  
僕の中で理性が弾けて消える。  
 
宇和井さんの下着を取り、僕は赤ん坊の様に彼女の乳首をしゃぶった。  
「んうっ……ううぅんっ……あぅう…」  
僕は夢中になって舐める。吸う。噛む。  
「んああぁっ……だめぇえ……いいぃ……」  
口の中に甘い匂いが拡がる。  
厭らしく勃起し充血する乳首。  
宇和井さんの喘ぎ声が強さを増す。  
「ふあぁあぅ……!だめぇえ!……んあぁあィぁ!!!」  
宇和井さんの躯が痙攣し、ゆっくりと弛緩する。  
僕は嬉しくて何度も彼女をイカせたくなった。  
 
舌を這わせる。  
乳首から腋の下へ。  
匂いがする。濃い彼女だけの匂い。  
其処に導かれる。  
「はぁぅ……んううぅ……だめぇエ……」  
次は耳。  
首筋をすうっと辿る。  
彼女の中を流れる血液の脈、その速さ、その熱ささえも舌で感じ取れる…  
目的地に着き、僕は耳朶を口に含む。  
「ふあアあァア!!そこはぁっ…イやアァ……」  
どうやら彼女の性感帯のようだ。  
隈なく吸い続ける。  
左手はもう片方の空いている耳を弄る。  
宇和井さんは天井に向かい熟れた喘ぎ声を放ち続ける。  
口を耳朶から離す。  
波打った耳介の上を舌が這う。  
独特のこりっとした触感。  
そして僕の舌が宇和井さんの耳穴を塞ぐ。  
逆の耳も指で蓋をする。  
此れで彼女に聴こえるのは僕の舌の這う音だけだ。  
鼓膜の傍でぴチャぴチャと卑猥な音が叫ぶ。  
「やめてえぇっ!!!んあぁ……いやぁあ!ふゥあぁ!!!」  
彼女の五感を支配している…  
征服感で僕は更に興奮する。  
 
再び乳首へ。  
桜色に染まる庭園にもにもたっぷりと自分の唾液を含ませる。  
「んんうぅ……ぅんんっ…!」  
急勾配の谷間を縫い臍下へ。  
濡れた肌の上を滑る。  
だが丁寧に。焦らす。焦らす。  
下の下着は取らずに上から舌を這わせる。  
白の下着が既に汚れている。  
其の染みの源泉に口を当てて吸い込む。  
「!!!!や、いやあァア!いいぃぁ……ふわあぁ…」  
染みは拡がる。  
鼻腔に収束される宇和井さんの愛液の濃厚な香り。  
媚薬のように嗅げば嗅ぐほど僕は感奮する。  
僕はその秘薬を求め陰核を吸い続けた。  
「ンんアあゥぁアァ!!!イクぅぅうっ………!!!」  
再びの痙攣細動。  
まだだ。まだ足りない。  
僕は何度も何度も吸い上げた。  
 
 
「ダメェえっっいやああぁァ!!」  
……此れで五回目だ。宇和井さんをトばしたのは。  
赤々と隆起したクリトリスを齧ってみる。  
反射的に宇和井さんの躯が跳ねる。  
「!!!あぅうあkshでぇrd……」  
最早何を言っているのか聴き取れない。  
僕はズボンを下ろした。  
咥えるのは……無理だよな。  
彼女の顔だけは汚す事はできない。  
僕は宇和井さんの膣口に亀頭を当てがる。  
十分に宇和井さんの愛液を亀頭に塗り込む。  
下準備として宇和井さんのクリトリスを僕の亀頭の割れ目で挟んだ。  
膨張した淫栗は尿道を犯すほどであった。  
「くうっ…ううぅぅ」  
余りの快感に我ながら情けない呻き声を揚げた。  
彼女はもう殆ど声を出さない。  
きっと意識が無くなって来ているんだろう。  
そんな彼女を呼び醒ます様に僕は宇和井さんの中に分身を導く。  
……温かい。  
全神経が頭頂部に集約される。  
壁に擦れる度に僕は声を口から漏らす。  
「……ふぁあ……ああぃ……」  
宇和井さんが微かに反応する。  
大丈夫。今助けてあげるから。  
僕は絶え間なく腰を振っていた。  
 
 
   僕は今体育館裏に立っている。  
   奴等を待っていた。  
   あの人を傷つけた奴等を。  
 
 
「よう。答えを聞こうか」  
現れる。今度は七人。全員御出ましか。  
「生憎だけど断るよ。君達と馴れ合うなんて有り得ないからね」  
久しぶりに自分の言葉を発した気がする。  
「………そうか。じゃあサヨナラだな」  
奴等が一斉にプレートを出す。  
僕は魔法を発動していた。  
「踊る七鞠(ダンシングセブンボール)!」  
標準一人一鞠で発射した。  
………やはり防御魔法を貼っていたか。  
僕の打った鞠はシールドに弾かれる。  
「そんなもんかぁ!?一年生エース」  
僕はプレートをポケットに入れた。  
そしてリーダー格に殴りかかった。  
勝てないのは解っていた。  
唯。ただ僕は殴りたかった。  
魔法じゃなく自分の手で殴りたかった。  
魔法で縛られ身動きが取れなくても僕は奴にしがみ付いた。  
一発殴るまで離さない。絶対に。絶対に離さ………。  
其処で意識が飛んだ。  
 
 
眼が醒める。  
僕に触れているのは…誰だ。  
……宇和井さんだった。  
周りを見回す。  
奴等が全員倒れている…どうなってる。  
「ふう…なんとか抑えれましたね」  
長髪の帽子の男がそう言う。  
「執行部総動員で助かったぜ。つうか大門大丈夫か!?」  
これは……九澄か?  
「なんでこんな無茶したのよ……ばかなんだから……」  
宇和井さんだ。  
僕を抱きかかえているから直ぐに解る。  
「ははっ情けない処を見られたな、九澄」  
「かっこつけんな。まあお前のおかげで捕まえられたんだけどな」  
「九澄は先生よんできて。大門は私とハルカが医務室に」  
僕は医務室に運ばれた。  
 
「わたしたち執行部が動いてなかったらどうなってたとおもってんのよ!」  
誰かが喋ってる。  
「わたしのエモノなのに…」  
其の声…  
「ふつうひとりでいくかなぁ」  
悪かったね。  
「……………」  
………何か喋ってくれよ。  
「……ううぅう……うわわぁん……」  
泣き過ぎだって。  
「無事でよかったぁっ……ふあぁん……ひっ……ひくっ…」  
其処で意識は再び途切れた。  
 
 
   僕は今屋上に居る。  
   空には赤々と眩い太陽。  
   僕は太陽に向かい一矢を放つ。  
   僕の放った矢は光の中に吸い込まれ消え去る。  
 
   大きく変化した。  
   自分の中で。  
   又此れから忙しくなるな…。  
   空は今日も高く蒼く澄んでいた。  
   僕は漸く此の世界の住人に戻れたようだ。  
 
 

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