観月尚美は悩んでいた。  
今日、ある人物「それ」を渡そうかと悩んでいた。  
 
「なんでわざわざ作っちゃうかな。私は」  
 
考えてる事が無意識に口にでてしまった。  
周りを伺った。  
登校途中の校門前でそれなりに人は多かったが、誰も聞いてはいないようだ。  
「はあ…」  
と溜息をつき、校門をくぐり、校舎に入る観月。  
教室までの道程で何人かの友人と挨拶を交わしたが、観月はほぼ上の空だ。  
誰とすれ違ったかも覚えていない。  
頭の中は、「九澄大賀にどのように自然な流れでチョコを渡すか」  
でいっぱいだったのだ  
 
「『こないだのお礼だから!』  
でいいわよね…  
これなら自然だし…  
でも直接渡すのはなあ…  
机ん中にそっと入れとけばいいかな?  
でも私のチョコだってわからないかも…」  
 
後から後から悩みが出てくる。  
 
「ああっ もう!」  
 
それだけ声に出し、観月はこの問題は放課後考えよう。と、取り敢えず授業日程をおわす事にした  
 
そう考えただけで、心がすっと軽くなったのを実感した。  
 
 
男を好きになんかなってない。「あの日」から、一度たりとも。  
 
むしろ私は男とは距離を置いた。  
周りはそれぞれに交際やらその先の情事やらを経験している。友人から話も聞く。  
否定こそしないが、自分には完全に無関係の話。  
 
そのはずだったのに。  
九澄大賀と出会うまでは。  
 
バカで、一直線で。  
 
 
 
…そしてとても純粋な奴。  
男になんてどう思われてもどうだってよかった。  
しかし、友人の女子に男の事でからかわれても、今頭に浮かんで来るのは九澄の事だけ。  
 
あいつが頭に浮かぶと、ゆっくりと胸を締め付けられる感じさえする  
 
何だろう。この感情は…  
プライドと意地が混ざったかのような心が、  
自分が九澄を「好き」だという結論を否定し続けた  
 
心の片隅では、とっくに理解しているのだけども。  
 
 
「つき… 観月っ!」  
「はっはい!」  
いきなり我に帰る観月。  
授業は終盤。時計は4時を回っていた。  
「お前が上の空なのも珍しいな。  
もうすぐ終業だ。ラストはしっかりな」  
「はい…」  
 
周りの目を気にしたのち、  
「全然集中できてないじゃない…」と、  
心の中に呟いた。  
 
観月の頭の考えがまとまらないまま、時間は無慈悲に過ぎていった。  
とりあえず九澄を探そう。このまま帰られてしまえば、今日の私の考えが水泡に帰してしまう。  
 
少しだけ、探しても見つからなければいいかなって気持ちもあったが、バッグを抱えて帰ろうとしている九澄を発見してしまった。  
 
 
ドクン。と自分の鼓動が大きく、速くなるのが分かってしまう。  
数瞬の間にまた色々な考えが頭をよぎったが、観月はそれらを打ち消し、自分にとって最大限の勇気を振り絞った。  
 
「くっ、九澄!」  
 
 
 
 
「ん?おう観月か?  
どうした?怖えー顔して」  
自分の鼓動は先程より更に速い。  
でも…今言わなくちゃ、きっと後悔する。  
 
「ち、ちょっと…  
放課後、付き合ってよ…少しだけ。」  
赤面しているのが、鏡を見なくても判る。他の生徒がいるこの場所で渡すことは、さすがに無理だった。  
「ん?いいよ。なんか用事か?」  
 
意外に意見はあっさりしていた。  
九澄は学校行事の事とでも思っているのだろうか?  
 
それでもいい。二人きりになればもう少しだけ勇気を出せる。  
そんな気がした。  
 
二人でならんで暫く歩いた。もう太陽は沈みかけている。  
周りの目には恋人同士に見えるのだろうか?  
少なくとも観月はその時、そうであって欲しかった。  
「んで?どうしたんだ?洞窟での礼は確か聞いたよな」  
 
「ち、違うわよ!  
ちょっと渡したい物がその… あって…」  
語尾に行くにつれて声が小さくなる。  
収まりかけていた鼓動も再び速くなる。  
「?へえ。まさかチョコとかじゃねえよな。観月がまさかな」  
 
無邪気な冗談混じりのその言葉は、観月の言葉を詰まらせるのに充分すぎた  
「……」  
「ん?どした?」  
 
「わっ、悪かったわねっ!」  
 
 
 
 
九澄は言葉につまった。  
想像もしなかった。  
観月か自分にチョコレートをくれた。  
そして、さっきの自分の不用意な言葉を深く後悔した。  
「え…、その…、  
俺…に?」  
「あんた以外にいないじゃない!」  
観月はかつてない程赤面し、うっすら涙すら浮かべていた。  
 
それの対象が自分だと思うと、九澄はほんの少しの満足感と、罪悪感に包まれた。  
そして理解した。  
この子は俺を好きでいてくれてる。  
ここで自分にできること。それは、、  
それはめいいっぱいの笑顔で受け取ることだけ。そう思った。  
 
「ありがとうな。本当に、嬉しいよ。」  
 
そう観月に言うと、観月は優しく可愛い笑顔を九澄に向けた。  
「よかった…」  
今までの期待と不安の入り交じった顔は、いつもの凛とした顔になっていた。  
そんな観月の唇に、九澄は優しくキスをした  
「う…」  
観月は、ビクッと震えたが、拒むことはなかった  
「ん…」  
 
 
しばしの沈黙。  
 
観月は暫く目をあけなかった。  
あけられなかった。  
九澄の顔を真っ直ぐ見ることができなかった。  
 
「一緒に、帰ろ?」  
沈黙を破ったのは九澄。  
観月は目を開いたが、視線は合わせられなかった。  
「…うん」  
どちらからでもなく、二人は手を繋いで歩く。  
言葉はなかった  
 
 
二人で夜道を歩く。観月が不意に口を開く。  
「私なんかで、いいの?」  
「ん?いいよ」  
 
「なんか軽いわね。私が今日一日どんな気持ちだったか…」  
 
口に出した所で、今日の自分を思い出しまた黙る。  
 
「あ、そうそう。」  
九澄が口を開く。  
「観月の気持ちを聞いてないなあ  
俺の事、どう思ってる?」  
「ちょっ、ちょっと  
今!?恥ずかしいよ…」  
「い〜ま!」  
九澄のわずかな意地悪だ。  
 
「………」  
 
「あ、あなたが好き。大好きだよ。九澄」  
 
観月は声を振り絞り、そう言うと、  
九澄の唇に唇を重ねた。  
 
「えへへ。なれないなあ…」  
「俺も大好きだ」  
観月を抱きしめる九澄。  
観月は少しだけ驚いたが、自らの手を九澄の背中に回す。  
「うん、ありがと…」  
 
 
 
この不器用な二人。  
九澄と観月。  
二人が今後どうなるかは、この二人すら知らない。  
 
だが気持ちが同じな限り、ずっと一緒にいれるだろう。  
 
 
 
おわり。  
 
 

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