卒業式が終わって。三年間の高校生活の締めくくり、この学校だけの最後の行事、各々の「魔法で願いを叶える」試みを翌日に控えていた。  
 どうにか、わたしはプレートをゴールドに昇格することはできた。けれどそれは規定ポイントギリギリのことで、私の願いを叶えるにはおそらく力が足りない。  
 亡くなったお母さんにこの目でひとめ会いたい。それが私の願いだったのだけれど、たぶん、私の願いは叶わない。  
 たとえほんの、ほんの一瞬であっても、母の姿が現れてくれるのならそれでいい。  
 だけどもしも、もしも。ほんの一瞬すら、母をみること叶わなかったとしたら、と思うとやりきれなくなる。  
 
 死んだ人間に会うなんて、ありえない夢だ。叶うはずのない願いだ。それはたとえ、魔法を以てしてさえ。  
 そう諦めることができたなら、どんなに楽な気持ちになれるだろう。  
 父も言っていたのに。その望みには、ゴールドプレート以上の力が必要だろうって。  
 所詮プレートの色はゴールドであっても、私の力はほとんどシルバーとゴールドの中間と言ってもいい。ゴールド以上、というには心許ない。  
 あれだけ望んだ母との邂逅は、この三年間の「成果」として目の前にある。  
 だから不安で、うつむいていた。  
 明日伸ばすこの手は、その果実に届いてくれるのだろうか。  
 
 
 うつむいていた私に、九澄くんが声をかけてくれた。三年間いつも私を気づかってくれていたように思う。いまさらながらに感謝の念。  
 明日の話題を避けて、三年間のおもいで話をふる。  
 彼について思い起こせば、いつもどたばたしてばっかりの印象。そう言ったら、九澄くんは苦笑い。  
 編入当初からゴールドプレートを所持していた天才。彼ならば、私のように思い悩むことはないのだろう。  
 妬ましいとは思わない。彼と私では魔法についての考え方が違う。彼は魔法に価値を見いだしていない。  
 どんなに魔法の才能に溢れているとしても、それは結局この学校限定にすぎないと彼はあっさり言った。力におごらず、どんなトラブルにも極力魔法を使わなかった。  
 だから、どたばた。  
 彼の力ならばすんなり解決できたであろう状況を、苦労しながらどたばた乗り越えてきた姿を何度も見ている。  
 それゆえに、彼を妬ましく思うなんてことはない。だけどその強さが、少し、羨ましかった。  
 
「そういえば私、九澄くんの願い、知らないね」  
 避けていた話題だったけれど、結局、気になって尋ねた。  
 そんな彼のような人間は、いったいどんなことを願うのだろうかと。  
 
「あー……それはその、なんだ」  
 九澄くんは口ごもる。  
「答えたくないんだったら、もう聞かないけど」  
 彼のほうは私の望みを知っているけど、別にそれを不公平だと盾に問いつめる気はない。  
「い、いやいやいや! 別にやましいこととか願うつもりはねーぞ!」  
「いや、別にそんなふうに思わないけど」  
 あっさりと質問を棄てた私の態度をどうとったのかおおげさな声。  
「願いっていうか、うん」  
 気を取り直すように咳払い。  
「一年の頃から、ずっとこうしたい、ってのはあったんだ」  
「それは、なあに?」  
 緊張の面持ちで九澄くんは言った。  
 
「柊に、俺のプレート使ってほしい」  
 
「―――は?」  
 いま、なんて……?  
「もし、柊が明日、もしも自分の魔力が足りなかったら、その時は俺の分も使ってほしいんだ」  
「……」  
「って今日、言いたかった」  
 言葉の意味は、正直理解しがたかった。いや、理解できなかったのは言葉の意味ではなく彼の真意か。  
「どうして?」  
「俺、ほんとは魔法の才能ないんだよ。入試の段階でもうはじかれてさ」  
 また、理解しがたい言葉。  
「俺が明日どんな願いを魔法に託しても、たぶん何も発動しねーと思う。でも才能なくても、ポイント溜めるだけならなんとかできたから」  
「そんな、そんなの」  
「もしも願いが叶ったら、柊はメチャメチャ嬉しいだろ?」  
「それは、そうだけど」  
「そしたら俺も同じだけ嬉しくなるんだよ」  
「なんで、なんで?」  
 
「ずっと柊のこと好きだったから」  
 
「―――」  
「下心があってずっとうそをつき続けてたって言われちまえば、そりゃなんも否定できねーけど。  
 でもさっき、柊が言ってたろ、俺は三年間全部どたばただったって。  
 ―――うん、三年間、どたばた、頑張ってきた。これは、うそじゃない」  
 
 いつしか彼の表情に緊張の色はなく。  
 そう、誇るように笑った彼の表情を、私はきっと忘れないだろう。  
 
 
 そうして私の願いは叶った。足りない私の魔力を、九澄くんのプレートで補って。  
 母の姿を直接見るだけではなく、写真やビデオで想像するしかなかった母の温もりに触れることすらできて。  
 うれしくて、せつなくて、私は涙した。  
 
「願い、叶ったよ」  
 彼は嬉しそうに笑ってくれた。  
 喜んでくれたことがうれしくて、幸せで。  
「ねえ、九澄くん」  
 お礼の言葉を言おうとして。でもそれだけではなんだか違う気がして。  
 
 九澄くんが好きだよ、と私は言った。  
 九澄くんがいいよ、と私は続けた。  
 

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