「おお、アルテミスの侍女に、あれほど可愛らしい娘がおったとはな」
それは、ゼウスがオリュンポスの頂から、アルカディアの野を見下ろしていたときのことだった。
この地で、愛娘アルテミスは、今日も大勢のニンフたちを引きつれ、快活に狩猟にいそしんでいる。
はじめては温かい父親としてのまなざしで、そんなの様子を微笑ましく見守っていたのだった。
だがそんなとき、ニンフたちのなかに一人、とびきりの美少女が目に留まった。
その途端に、ゼウスのまなざしは、欲情に満ちたオヤジの視線へと一変したのだった。
美少女の名前はカリストといった。
端整で愛くるしい顔立ちと、日々野山を駆ける、いきいきとして瑞々しい肢体に、ゼウスは一目で惚れ込んでしまったのだった。
身なりには飾り気も何もないが、だからこそ素朴な可愛らしさが増す。ふるまいや仕草にも見てとれる清純無垢な雰囲気が、なおさら大神の情欲を煽った。
「それにアルテミスの侍女ともなれば、間違いなく処女のはず。これは抱かずにおく手はなかろう」
ゼウスは意を決した。それは、少女の不幸がきざした瞬間だった。
「だが問題は、いかにして近づくかだな」
なにしろ、アルテミスの侍女たちは女神に純潔を守ることを固く誓っている。
男と見ればたちどころに身をひるがえして逃げ出すぐらいの娘たちなのだ。
なかでも女神にとりわけ忠実なカリストであれば、身持ちの固さときたらこのうえない。
まともに言い寄って落とすなどということは、はじめから問題にならないだろう。
近づいてさえしまえば力ずくでも何ともなるが、その近づくこと自体が難関なのだ。
ゼウスはここで、得意の変身術をどのように使うか思いをめぐらした。
他の女たちにしたように、鳥や獣に化けて近づくような方法では、それこそ獲物として狩られかねないだろう。
それではどうするか…。だが、目を引く女とあれば姑息な手段も弄するゼウスは、たちどころに名案を思いついたのだった。
「これだ!」
あとは、機が訪れるのを待つことだ。
ある暑い日の昼下がり、カリストは今日も弓矢を手に、アルカディアの野を駆けめぐっていた。
そして獲物を深追いして森の奥へと分け入り、いつしかアルテミスとも、仲間のニンフたちともはぐれていた。
ついに獲物を見失ってしまうと、そのとたんに彼女は激しい身体の疲れを覚えた。
そこで彼女は涼しい木陰の草地に身を横たえ、一休みすることにした。
ずっとカリストの動きをうかがっていたゼウスが、この時を見逃すはずがなかった。
今なら彼女は一人きり。深い森で、誰も近づいてくるような様子もない。
「待っていたぞ、これこそ絶好の機会というものだ」
まして、程なくしてまどろみに落ちた少女の可憐な寝顔を目にすると、もういても立ってもいられなくなった。
「それに、今ならヘラにもバレはしまい…たとえバレたところで、この娘を抱くためなら、夫婦喧嘩の一度や二度は安くつくというものだ。よし、いくぞ」
意を決したゼウスは、いよいよ秘策を実行に移した。
「アルテミス…お前の姿を借りるとしよう」
それは、顔かたちも服装も、声色も、そっくりアルテミスに変えることだった。
なにしろ、カリストはアルテミス女神にすっかり心酔している。
女神の言うことなら、何から何まで忠実な様子だ。
しかも、ともすると、その手の願望さえあるかもしれない。
彼女に近づくには、これ以上の手段はあるまい。
そんなわけで、ゼウスはすっかりアルテミスの姿になりすまして、うたた寝をしているカリストのもとに降り立ったのだった。
カリストは、人の気配を感じて目を覚まし、身を起こした。
まさか男では…と思い一瞬身構えたが(実は、その「まさか」なのだが)、それが敬愛するアルテミスだと知って、彼女はすっかり安心した。
「カリスト、こんなところで狩りをさぼってお寝んねかしら」
声色もアルテミスそのままに、ゼウスは声をかけた。
「いえ、獲物を追いすぎて疲れてしまって、つい…すみません…」
はにかみながら答える少女の様子が、何とも清純でいい。
「いいのよ、気にしないの」
ゼウスの化けたアルテミスは腰を下ろし、優しく語りかけた。
カリストにしてみれば、憧れの女神さまとこんなふうに二人きりになれて、実は嬉しくてたまらないのだった。
「女神さま、私にはゼウスさまよりもご立派に見えます…ええ、ゼウスさまがこの言葉をお聞きになってもかまいません」
ゼウスは内心苦笑いした。
(おいおい、何を言ってくれるんだこの小娘は…。まあいい。どうやら完全にわしをアルテミスだと信じ込んでくれているということだな)
そんなふうに納得すると、さらに優しい言葉を継いだ。
「ありがとう。なんたって、あなたは私のお供のなかでも、いちばんの美少女よね」
カリストの真っ白な頬がほんのり赤く染まった。
いくら目をかけてくれている女神さまでも、こんなふうに表立って褒めてくれたことは初めてなのだ。
「だから、こんなふうにしてあげる」
はにかむカリストをゼウスは抱き寄せ、口づけを与えた。
カリストは当のアルテミスやニンフ仲間と、挨拶代わりに口づけを交わすこともある。
だが今のは、そんないつもの慎ましやかな口づけとは異なる、ずっと熱情的なものだった。
彼女が驚かずにはいられなかったのも当然だ。
だがゼウスは覆いかぶさるようにして、彼女を柔らかな草地の上に横たわらせた。
「前からいちど、こうやって可愛がってあげたかったのよ」
そしてゼウスはアルテミスの姿のまま、少女の肢体を愛撫しはじめた。
「あ…」
カリストはとまどいつつも、逆らわなかった。敬愛する女神には、ひたすら従順なのが彼女なのか。あるいはこれは心の奥底では、彼女自身がひそかに願っていたことであるかもしれない。
少女は目を閉じ、黙って愛撫を受け入れた。
この女神が偽者だとは、疑うよしもない。
(ふはははは。どうやらこの娘も、完全にわしのものになったようだな)
ゼウスは内心ほくそ笑んでいた。
こうなっては、その気ならいつでも正体を現し、襲いかかることもできる。
だが、乙女の穢れなき肢体を存分に味わうには、今の姿のままのほうが都合がよい。
こちらをアルテミスだと信じ込んでいるかぎり、どんなに身体を弄んでもおとなしく受け入れてくれるのだ。
(処女を貰う前に、じっくり楽しませてもらうとしよう)
ゼウスは巧みな手つきで、カリストの狩衣を留めていたブローチを外し、帯をゆるめると、前をはだけた。
美少女の華奢で真っ白な上半身があらわになり、ふくらみきらない乳房がむき出しになった。
ゼウスは舐めるようなまなざしで、カリストの裸の上半身を見つめた。もちろんその視線は、胸元に集まる。
「うふふっ。ちっちゃくて可愛らしい胸ね」
アルテミスとは一緒に水浴びしたりしているとはいえ、こんなふうに間近から乳房を見つめられ、品評されるのは、少女にはちょっとばかり恥ずかしかった。
カリストは思わず両手で胸を隠そうとした。だが、ゼウスはそれを優しく制しつつ、アルテミスそのままの繊細な指先を、少女のはかなげな微乳の上に這わせはじめた。
無造作に撫でられるだけでも、そんなことに全く慣れていない少女には大変な刺激だ。
可愛らしい乳首をちょっといじくってやるだけで、全身がわななくのだった。
ゼウスにはそんな彼女の様子がますますいとおしくなり、さらに乳房を弄んだ。
撫で、揉み、指先で弾き。それだけでなく、唇で吸ったり、舌で乳首を転がしたり。
その巧みな手管の前に、快美な感覚が胸から全身に広がっていくのをカリストは禁じえない。
無垢の少女が、いまだ体験したことのない世界だった。
相手がアルテミスだと信じているかぎり、それがいけない歓びなのだとは、彼女は思いもしないのだった。
カリストはうっとりとした表情を浮かべた。花のような唇から、可憐な喘ぎ声も漏れた。
ゼウスはあらためて、乙女の柔肌をあらわな上半身のすみずみまで愛撫し、そのなめらかでみずみずしい感触を楽しんだ。
頬から肩へ、改めて胸へ、腹へ、腰へ。そしてまだ下半身を覆っている衣に手をかけた。
そして秘部をさらけ出させると、とうとう美少女は裸といっていい姿になった。
むき出しになった美少女の下腹部を、ゼウスは息を呑んで凝視した。
無毛だから、そのたたずまいが存分に観察できる。
中央に縦筋が走っているだけの、素朴そのものの秘所だった。
純潔を主張するかのように、左右の秘唇は貝のようにぴったりと綴じ合わさっている。
「美少女はこんなところまで可愛らしいのね」
いくら敬愛する女神からとはいえ、こんなふうに間近から女の子の大事な部分を凝視されるのは、清純なカリストには恥ずかしくてたまらないことだった。
「そんなに見ないでください…」
股間を隠そうとする少女の手を払いのけ、言う。
「駄目よ。あなたがちゃんと私の言いつけどおりにしているか、確かめておけないといけないの」
はじめ、少女には何が言いたいのかわからなかった。
「あなた、とっても可愛い顔してるから、よからぬ男なんていくらでも寄ってきそうで心配なの」
実は、その「よからぬ男」というのは、そう言っている当人の正体だったりするのだが。
「あなた、もちろん処女なのよね?」
「あ、あたりまえです!」
あからさまに尋ねられ、カリストはどぎまぎしながら答えた。
「だったら、こういうときにその証拠を見せてもらわなきゃね」
ここまで言われれば、純真な少女にも何のことかはわかる。
バージンかどうか、性器を直接調べて確かめようというのだ。
侍女の純潔に厳しいアルテミスとはいえ、今まで、そんなふうにされたことなんてない。
「そ、そんなの恥ずかしいです…」
さすがにカリストは顔を真っ赤にし、両手で陰部を隠した。
いくら女神さまの命令でも、女の子としていちばん隠しておきたい部分を調べられるなんて…。
「もしかして、調べられると困るのかしら? そんな清純そうな顔してて、実はもう男に身を任せたなんてことじゃないわよね?」
「そんなこと、あるわけないです!」
恥じらう乙女の顔も可憐でたまらない。それもまたゼウスの楽しみの一つだ。
「でも、証拠を見せられないというなら、あなたは私の侍女じゃないわよ」
この最後通告ともいうべき言葉を前に、カリストはとうとう観念した。
女神さまのもとを追われるなんてありえない。
ここなら女神さま以外、誰も見てないんだ。
一緒に水浴びする時だって、恥ずかしがったりなんかしてない。
そう無理にも自分を納得させた。
「は、はい…」
カリストはおずおずと、恥部を覆っていた両手をどけた。
ぴたりと閉じ合わせていた両脚を、心もち開いた。
「どうなってるのかしら、あなたの大事なところ」
続く