昼でも夜でもない刻が来る。陽を隠し、闇に包まれる刻が。
待ち焦がれた刻が……来る。
ゆったりとした動きの白銀の馬車に、東から駆けて来た黄金の馬車が追いつく。
馬車が重なった瞬間 逞しい腕に掴まれ、その胸の中に引き寄せられた。
腕はアルテミスの細い腰に廻され、体がマントのように包まれる。
日なたで熱を帯びた肌の匂いを胸いっぱいに吸い込むと、アルテミスは両手を伸ばし、
愛しげに男のうなじに巻きつけた。
いつもこの香りに包まれると、心が解き放たれる。
互いの身体がこれ以上ないほどしっくり収まり、まるで自分のためだけに作られた存在
なのを思い知るのだ。
緩んだ手が、額、まぶた、頬、唇の輪郭と、ゆっくりと羽毛のように軽く降りてくる。
その後を唇が追いかけ、ようやく望む場所に辿りつき、じらすように軽いキスを落とす。
我慢出来なくなったアルテミスは、薔薇の花びらのような唇を開いて誘った。
男の唇を舌先でそっとなぞり、ノックするように閉じられた歯に当てる。
にやりと笑った男は、アルテミスの下唇を軽く歯で噛み、もっと大きく開かせた。
開かれた口内に舌が侵入する。
先端をからませ、歯列をなぞり、上あごの内部を擦りあげ、舌を吸い上げる。
懸命に返そうとする拙い反応を嘲笑うかのように、男はアルテミスの口腔を犯し続けた。
男の腿がアルテミスの膝を大きく割り開き、抱き寄せた腰に熱く屹立した塊を押しつけて
いる。
息が上がり、体中が震えて座っていられない。
二人は黄金の座席に倒れこんだ。
互いの馬車が完全に重なっているので、今は誰の目も届かない。
時は止まっている。
ようやく止んだ口づけから身をよじり、荒くなった息を継ぐ。
男から追い詰められたアルテミスの呼吸は、森の奥へと獲物を追って駆けている時より
上がっている。
互いの瞳は欲望にけぶって潤んでいた。
指をもどかしげに男の輪郭に這わせ、アルテミスは胸の内を告げたくて泣きたくなった。
体の奥底から名前を呼びたい。
この世で一番愛しい男の名を。
「……ア」
アポロンはアルテミスの唇に指を当て、そっと遮った。
ここでは、互いの名前を呼び合う事はしない。誰かに聞かれたらただでは済まない。
ほとんど禁忌のないように見えるオリュンポスの神々にも、厳粛な掟はあるのだ。
司っている役目を自ら捨てるような行いは、あってはならない。
魂が狂うほど互いを求めていても、どんなに愛し合っていても、処女を司る神が男に身を
任せ、歓喜の声を上げているのを知られてはいけない。
ここでこんな事をしていると知っているのは、時を止める事を頼んだ祖父のクロノスだけ。
アポロンはアルテミスの装束を緩め、その胸元を寛げた。
甘酸っぱい処女特有の匂いを嗅ぎながら、小麦色に焼けた部分と、焼けていない白い
境目を舌でなぞる。
少し小ぶりな胸を優しく揉むと、先端の蕾が赤らんで、吸って欲しそうに固くなった。
その先端を無視し、雪のように真っ白な肌の奥に浮きあがった静脈の河を指先で辿る。
アルテミスが甘い吐息を洩らした。
下からそっと乳房を持ち上げ、親指でゆっくりと薔薇色と乳白色の境目を漉く。
背中が反りあがり胸が突き出されるのを、アポロンはわざと体を引いて避けた。
驚いて目を開け、アルテミスが物問いたげに見つめる。
「……どうして欲しい?」
掠れた声でアポロンが尋ねた。
アルテミスの頬が赤く染まる。
「……ぁ……」
二人が睦みあう機会はめったにない。間が空くせいか、その反応は未だに初心なままだ。
アポロンはずっと、自らの欲望は他の女で済ませても、アルテミスに言い寄る男はことご
とく退けて来た。
誰にも公に出来ない恋人の身体が、他の男の目に晒されるなど耐えられない。
硬く勃っている乳首に息を吹きかけてから、胸の下側を舐めあげ、色が濃くなった薔薇色
の周りを円く舌先で辿る。
アルテミスの身体が魚のように跳ねた。その睫毛は涙で潤んでいる。
「…………お願い……」
アポロンの襟足から髪の毛を探り、身もだえしながらアルテミスはねだった。
「僕は、お前の嫌がる事をするつもりはない……どうして欲しい?」
「…………お……お願い。……貴方の唇で、歯で……体全てで私に触れて。……私の奥
まで貴方で塞いで……っ!」
躊躇いながら囁いた目尻から、涙が一滴 零れた。
その雫を唇で吸い上げてから、アポロンはアルテミスの唇を激しく奪った。
息もできないくらい口腔を犯しながら、指先で蕾の先を摘む。
激しく跳ね上がる身体を押さえ付け、飢えた狼のように胸元にむしゃぶりつく。
待ちかねた刺激に、アルテミスは小さくうめいた。
もっと啼くよう、強く吸い上げたり、優しく噛んだりしながら双乳を責めさいなむ。
アルテミスの乳房を十分に味わってから、荒い息を吐いたアポロンは唐突に身体を離した。
相手の目を見ながら、ゆっくりと衣を脱ぎ捨てる。
呼応するようにアルテミスも、恥ずかしそうに自分の衣を脱ぎ始めた。
男神の肉体は均整が取れて引き締まり、中心のしるしが雄々しく猛っている。
女神の身体は同じ歳にもかかわらず、男神と比べるとまだ少し青い果実のようで、かすか
に未成熟な香りが全体から漂う。
互いの体を目で称賛しながら、見える全てに触れ合う。
時々ぴくりと跳ね上がるまだ幼い反応に、早く己の欲望を、柔らかい肉の最奥まで埋めた
い衝動が沸き起こった。
しかし残念ながら、この身体は色事にさほど慣れていない。
ゆっくりゆっくり解きほぐす必要がある。
アルテミスの耳朶にそっとキスをしてから、アポロンが囁いた。
「さあ……お前の全てを、開いて見せてくれ」
その言葉に頬を染めて頷き、アルテミスは座席に横たわって、ゆっくりと足を広げた。
アポロンが良く見えるよう、自らの秘裂を指で割り開く。
晒された奥から指先へ、蜜の糸が左右に伸びた。
ぬらぬらと粘液を光らせ、誰も侵入していない小さな入り口と、上で半分顔を出した赤く
腫れたクリトリスが、空気を感じて戦慄く。
その周りを縁取る唇は、ピンクに薄く紫が混じった蘭の花に似ていた。
膝の裏から上に向かって指先で撫でながら、腿の内側を唇でなぞる。
アルテミスの腰がうねった。まるで、誘いをかけるように。
髪より少し濃い色の叢をかき分け、アポロンの唇が望みの箇所に着く。
「あ、ああっ!……は……ぁっ!」
突起にキスしただけで激しい反応が返って来るのに満足し、包皮をめくり果実を味わう。
浮き上がる腰を押さえ、もっとすすり泣きが高まるよう、舌で弄び、吸い、軽く齧る。
狭い入口からわき上がるネクタルを啜り、舌先を軽く泉に潜り込ませて嬲ると、いっそう
高い悲鳴が上がった。
……ここに、思いきり己が身を突き立てられたら。
アポロンは悔しさのあまり身震いした。
今 すすり泣くアルテミスの身体をさらに焦らし、犯した罪の報いを受けさせねば気が
すまない。
元々はひとつだったものが二人になってしまったのだ。
二人をひとつに戻す行いは、アポロンにとっては至極当たり前だった。
なのにアルテミスは、幼い頃 早々に、父に処女を司る事を願ったのだ。
父から奪われる事を恐れたのか、兄から奪われる事を恐れたのか……今となっては本人
にも判らないだろう。
だが幾ら体が恐れを抱いても、いつまでも心まで抑えつけられはしない。
太陽と月が交わる日に初めて口づけを交わしてから、アポロンはじっくり時間をかけて
アルテミスの身体を開いた。
薫陶を受けた今では、アルテミスは世界一 蠱惑的で淫らな処女になっていた。
それが証拠に、もう待ちきれないのか、態勢を変え、アポロンの男根に顔を寄せている。
「まだだ」
遮ろうとしても、懸命に口づけようとする。
「お願い……私だけじゃ嫌……貴方が欲しいの」
熱に浮かされたように先端にキスをした。
その感触に陶然としながら、アポロンは必死に冷静さを保とうと努力する。
「駄目だ……お前は罰を受けるんだ」
その言葉に体を起こしたアルテミスが、涙を流しながら許しを乞う。
「もう十分に罰は受けているわ。貴方が他の女を追いかけても何も出来ない。私が他の男
に心を寄せそうになった時には邪魔をされる。……何よりも、貴方の腕の中で愛を囁く事
も、好きな時に抱かれる事も出来ない……幼い時の過ちを、私はいつまで償えばいいの?」
涙を白銀のように煌めかせ、両手で顔を覆って嘆く恋人に、放った矢の鋭さを悟ったアポ
ロンは悔やんだ。
肩を抱いて額に口づけ、指で涙を拭う。
「……すまない。……愛している」
そのまま何度も、宥めるように顔中にキスをした。
「私も……愛してる。……私たち、ひとつで産まれれば良かったのに……」
「いや……ひとつで生まれたら、こんな喜びは知らないままだ」
アポロンはさっと首筋に唇を這わせ、右手で叢の奥を探り、左手で胸の頂を擦りあげる。
奥火のように残っていた喜びを掻きたてられ、アルテミスがまた喘ぎ始めた。
そのまま四つん這いに俯かせ、双丘をそっと両手で広げると、裏門が待ちかねたように
ひくついている。
肉の槍をアルテミスの蜜に擦りつけて濡らし、アポロンは一気に菊座を貫いた。
衝撃に戦慄いた肉の壁が、自身を柔らかく包み込み締め付ける。
早く奥に白濁を迸らせたいと求める想いと、いつまでも終わらせたくない望みとがせめぎ
合い、アポロンが呻く。
すでにアルテミスは、我を忘れて腰を揺らめかせている。
アポロンの理性を奪うのは、自分の下で啼いている この半身だけだろう。
時よ、このままで。
黄金と白銀の狭間で、ひとつになったふたつは祈った。
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