『熱葬』  
 
 帝都の郊外に大勢の兵士が集まっている。これが今、帝国軍兵士のうち健在な者  
の全てである。  
 帝都を襲った日照りは軍をも消耗させた。一向に雨は降らず、灼熱はとどまる所  
を知らない。帝国の歴史は間もなく終わるだろうと多くが思った。少なくとも、滅  
びなかったとしても、繁栄を取り戻すまで長い生き地獄が続くであろうと思われた  
。だが、学者の発表が希望をもたらした。この日照りの原因は、或る神にある、と  
その学者は唱えた。その神は、ただいるだけで日照りを起こすのだと学者は言う。  
歴戦の将軍は言った。  
 「その神を討てば良いのだ。原因はわかった。これで日照りは終わる。」  
 
 「我が軍は先帝の頃より多くの戦いに参加し、全て圧勝で終わらせてきた。」  
 将軍は出発を前にして訓示した。  
 「相手となったのはありとあらゆる存在だった。それら全てに圧勝してきたのだ。  
今、帝都を襲っている日照りの原因は神だ。つまり、その神を討てば日照りは終わ  
るのだ。戦う相手さえ決まれば、我が軍は無敵常勝であるから、もうこの日照りは  
解決されたも同然だ。例え神が相手であろうと、我が軍は必ず圧勝で終わらせれる  
と私は信じている。」  
 名君と知られる見目麗しい皇帝が代わって進み出た。  
 「諸君、例え神が相手であろうと恐れるな。我が帝都に仇をなす以上神は神でも  
許されざる邪神だ。太古の昔に偉業を為した神だそうだが、我が帝都に反逆  
した以上は討たれて当然なのだ。そして、諸君らが気を抜かずいつも通り任務を果  
たせば、神であろうと我が軍は圧勝する。」  
 
 日照りの原因である神の居場所を探すのは簡単である。より日照りが酷い所へ  
酷い所へと進めば捉える事が出来るのだ。軍は全ての必要と想定された装備を持って  
進撃した。  
 
 この世に作られた灼熱地獄を軍は進んだ。節約したはずの水がつき始め、一人、  
また一人と落伍した。神を討たなければ命は無い事がわかっていて落伍していった  
。倒れた者は何も軍に残さなかった。倒れた者は手持ちの全ての水を消費しきって  
いたからだ。天才的な将軍は苦しさを初めて感じた。その苦しさは、より強い勝利  
の決意を培った。  
 
 落伍者の数は軍全体の戦力に響く程多くなった。だが、今まで軍は、この世のあ  
らゆる存在に圧勝して来た。  
 (戦力は確かに減った。だが、総力を尽くせば神であろうと勝てる。)  
 将軍は改めて思い、皇帝は一言も交わす事無く同意した。  
 
 兵士の数は当初の半分を下回った。その苦境は将軍の闘魂を冷たく盛らせた。将  
軍は一層軍の指揮に奮闘した。  
 (何が何でも、軍がどうなってでも勝つ。)  
 将軍も皇帝も、一兵卒に至るまで心は一つだった。  
 
 ついに、軍は小部隊を経て、主従二人だけとなった。馬も牛も何も残ってはいな  
かった。文字通り二人だけの帝国軍だった。皇帝は帝都を思った。  
 (帝都は今、何人残っているだろう。)  
 後ろを振り返ると、将軍が精神力だけで進んでいた。二人は同時に思った。  
 (例え勝てなくとも、一矢報いる。一太刀浴びせる。帝国の意地を神に見せる。)  
 
 将軍が倒れた。もう歩いているのが不思議なほどだった。将軍は歩く屍だったの  
だ。皇帝は尚も突き進んだ。気がついた。最初は圧勝の確信だった。それがいつの  
まにか、帝国の崩壊を当然の事としていかに神に意地を張るかに変わっていた。完  
全に自分達は負けていた。それなのにまだ皇帝は進んだ。今にも火を噴くような熱  
さが神の居場所に近づいた証拠だった。皇帝はわけもわからない目的に突き動かさ  
れて歩いた。そして、乾ききった灼熱の大地に倒れた。  
 
 「ごめんなさい。」  
 女の声で、夢の様な世界で目が覚めた。  
 「私が、あなた達の探していた神です。」  
 巨大な光の塊が威丸の前にいた。もし実際に目の前にいれば、自分など煙にもな  
らず消えそうな光だった。  
 「お前が、日照りの神か。」  
 「そうです。私は、この制御できない力の為に、世界に害を出さないよう闇の世  
界に閉じこもっているのです。しかし、私は、孤独に耐え切れずに外に出てしまい  
ました。この日照りは全て私の身勝手による物です。」  
 「そうか。」  
 威丸は、女神の謝罪と告白を、何故か別世界の物語を聞く気分で聞いていた。  
 「俺、もう助からないんだろう。わかるんだ。力入らないし、全身痛いし熱いし  
な。」  
 「そうです。私にはもうどうする事もできません。ごめんなさい。」  
 女神はまた謝っていた。  
 
 威丸はまた、他人事の様に聞いていた。  
 「なあ、そんなに申し訳なく思っているんだったら、ちょっと頼まれてくれない  
か。あの、出来ればこれからは、もうちょっと我慢してなるべく日照りを起こさな  
いようにして欲しいんだ。帝国が滅んで自分ももう死ぬ皇帝が未来の心配するのも  
変な話だけど。」  
 「約束します。」  
 「それともう一つ、実は、俺はまだ女の体知らないんだ。どうにかして、教えて  
くれないか。」  
 女神は困った末に返事をした。  
 「あなたを殺す事になります。それでもいいなら。」  
 「いいよ、あんたが大急ぎで闇の世界に返ってももう俺は助からないんだ。」  
 光が小さくなり、ごく普通の女の姿になった。  
 「ありがとう。お前を殺そうとした愚かな皇帝にこうもしてくれて。」  
 
 「これが女の乳房か。最後に見たのはどれ位前だろう。」  
 「もっと、しっかりと触っていいんですよ。吸い付いてもいいんです。恥ずかし  
がらないで。」  
 「じゃあさせてもらうよ。」  
 威丸は両手で女神の化身の乳房の感触を確かめ、片方に吸い付いた。  
 「こんな風になっていたんだ。」  
 「そうです。存分に触ってください。」  
 「あったけえ…。」  
 豊かな乳房を、威丸はもみしだいた。もむごとに、心が満たされていく気分だっ  
た。小さくないはずの威丸の手に余る乳房に威丸の手は忙しかった。  
 「あのさ、何と言うか…。」  
 「では、下の方もしましょうか。安心して下さい。許されざる罪は起きませんか  
ら。」  
 乳房で戯れていた威丸の男性器は天にむかって屹立していた。それはどこか、宇  
宙葬に向かう宇宙船を思わせた。  
 「大丈夫です。痛くはありませんから。さあ、いきますよ。」  
 女神の化身が、ゆっくりと腰を下ろした。  
 「ああ、熱い…でも、気持ちいいや。ずっとこうしていたい。死ぬまで。そう言  
えば『邯鄲の夢』って故事があったよな。この夢だか幻だかわからない楽園はいつ  
まで続くんだ。」  
 「あなたが死ぬまでです。『邯鄲の夢』の様に、長く楽しんで下さい。」  
 
 日照りは終わった。最も日照りの被害が酷かった地域は、恐るべき熱線が砂漠よ  
りも吹き荒れていて死の世界となっていた。帝国の最後に残った将軍の死体からそ  
の災厄の中心地に向かって少し進んだ所に、かすかなくぼみがあった。ちょうど、  
大人の男が勢いよく倒れた痕跡のようなくぼみだった。皇帝の死体は炭や灰すら残っ  
ていなかった。  
 
 帝国は事実上滅んだ。人がいなくなった世界にまた人が住み始め、新たな帝国が  
誕生した。人の歴史はまだまだ続く。  
 (完)  
 

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