三重県伊勢市。  
志摩半島の中ほどに位置する伊勢の神宮は、垂仁天皇の時代に  
由緒があるとも、あるいは雄略天皇の時代とも伝えられている。  
――ザッ……。  
百メートルを超える木製の橋を踏みしめ、一人の少年が対岸の鳥居を眺めていた。  
その先では内宮と呼ばれる皇大神宮が、静かな神気を漂わせている。  
少年は高校生くらいだろうか。  
博物館や美術館に飾られる英雄のような威容と端正な顔立ちで、  
形のいい唇を三日月の形につり上げて笑っていた。  
 
――ザッ、ザッ、ザッ……。  
少年の靴が橋を、そしてその先の地面を踏みしめる。  
カメラを持った中年男や親子連れが彼とすれ違うが、  
誰もこの美貌の少年に目を留めようとしない。  
まるで、そこに誰もいないかのようだった。  
――ザッ、ザッ、ザッ……。  
トイレの傍を、厩の隣を、祈祷を受ける神楽殿の前を通り抜け、  
一番東にある萱葺きの建物に向かって彼は歩いていく。  
その建物は四重の垣根に囲まれ、ひときわ強い神気を発していたが  
普通の人間ではそれがわからないだろう。だが彼にはわかる。  
やがて垣根の前で止まり、見上げた少年がぽつりと言った。  
「――さて……ここか……」  
そして誰も注視しない中、歩を進めて神域に足を踏み入れようとした。  
 
――しかし。  
「……お待ちなさい」  
突然横から声をかけられ、彼は振り向いた。  
そこには一人の女が立って、少年をじっと見つめている。  
黒のさっぱりしたスーツを身にまとった若い女だった。  
長くてツヤのある黒髪を腰まで垂らし、背筋をぴんと伸ばした姿は  
この場所にややそぐわなかったが、決してその美が損なわれている訳ではない。  
「……へえ」  
彼は感嘆の声をあげて女を見つめ返した。  
面白そうな視線を注ぎ、にこにこ笑い続けている。  
 
「てっきり中にいらっしゃるものかと思ってたけど、違うんですね」  
「宇治橋の内側は神域ではなく神苑ですが、ここは私の土地。  
 なにも正宮に籠ってばかりいるわけではありません」  
「――なるほどなるほど」  
「本来は参道も神の道として、人間はその端を歩かねばならないのです。  
 もっとも、それも最近は忘れ去られかけていますが」  
女は静かに少年に説明した。  
 
眼力のある眼差し、桃色に熟れた唇、染み一つない白い肌。  
息を呑むほどの美女だが、周囲の人間は誰も気に留めない。  
彼は女にそっと頭を下げた。  
「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。アマテラス様」  
「欧州の魔王が自らやってくるとは……驚きました」  
「いえ、ここにいる僕は本体ではなくただの欠片。何の力もありません」  
「奇遇ですね。この私もまた、ただの影ですから」  
彼女もうっすら笑みを浮かべ、少年に返す。  
「もし、この国にあなたの本体がやってくれば、大騒ぎでしょうね」  
「それはもう、海を越えて大天使が何人も飛んできますとも。  
 しかし、相変わらず地獄で身動きの取れない状態なのが残念です」  
空は青く、明るい太陽が優しく大地を照らしている。  
その中で二人の男女は語り合っていた。  
 
正宮の北には荒祭宮という建物がある。  
これは天照大神を祭る別宮で、たまにこうして彼女が  
客を迎えるとき、茶の一杯も出すのに使われていた。  
「――どうぞ」  
正座したまま、彼女は少年に湯気の出るカップを出した。  
「コーヒーですか……僕が異国の者だからといって、  
 わざわざ気を遣って下さらずともいいのですが」  
「いいえ、単に安売りの豆が余っているだけです」  
「……意外と庶民的ですね。しかもご自分で入れて下さるなんて」  
女はカステラを包丁で切り分けている。  
普段からこういった雑事に慣れているようだった。  
 
「この国では、上に立つ者は進んで範を示さねばなりません。  
 ただ、それだけのことです」  
「キモノを着ずに、そんな格好をしてらっしゃるのも同じ理由ですか?」  
彼は女が着ている黒のスーツを指した。  
「民がどのような暮らしをしているか、見るのは楽しいものですよ。  
 今でもこっそり人の振りをして出歩くことがあります」  
「なるほど。それは楽しそうだ」  
警戒心のまるでない笑顔で少年が言う。  
 
紙と木。彼の故郷ではなかなか見られない材料の家屋を彼は見つめた。  
おそらくこの島国では、それが理に適っているのだろう。  
つい百五十年前に世界に向け国を開いたばかりの、東洋にある黄金の国。  
少年はその国の最高神、太陽の女神と一対一で向かい合っていた。  
「……それで、あなたはどのような用でこちらに?」  
女が柔らかい口調で大事な内容を尋ねる。  
ヨーロッパの魔王の化身が自分のところにやってきたのだ。  
真意はどうあれ、理由を確認しておかなくてはいけない。  
「なに、ただの観光です」  
「その表現は、本来なら私や子供たちが使うべきなのでしょうね」  
国の光を観る。それは易経に記された君主の行いだ。  
だがこの悪魔は、単に言葉遊びをしたい訳ではないだろう。  
女は説明を求めるように、改めて彼に視線を向けた。  
 
「……冷戦が終結したというニュースはご存知ですか?」  
「先ほども言いましたが、私は我が民のことをよく見ています。  
 海の向こうの話も、少しなら知っていますよ」  
「それは助かります。ご存知の通り、第二次大戦後、実に五十年近く続いた  
 東西冷戦がようやく、しかも平和な結末で終わりました。  
 ――おかげで一部の人間と天使たちは焦っています。  
 彼らが待望するハルマゲドンと最後の審判が遠ざかったのですからね」  
黙示録に記された、善と悪との最終決戦とキリストの再臨。  
イエスの死から二千年が経ち、その思想を本気で信じる者も少なくなったが  
未だに一部の者たちはその理想を実現させようとしている。  
 
女は少しだけ意外そうな表情で、彼に言った。  
「その口ぶりでは、まるであなたが和を望んでいるように聞こえますけど」  
少年はカステラを上品に口に運んで続ける。  
「あなたがどう思ってらっしゃるかは知りませんが――  
 僕らは別に人類の破滅など望んではいません。  
 彼らに知恵の実を食べさせてやったのはこの僕なんですからね。  
 そして人は楽園を追われ、知恵を武器にこの地上に栄えている」  
創世記において人類の始祖を唆した蛇。  
魔王である彼はその蛇の正体とも言われている。  
「……それは、あなた方の神話でしょう?  
 この国には聖書に書かれた原罪も、最後の審判もありません」  
「その通りです。しかし神を創り出すのは人の想い。  
 この国の人々があなた方を捨て僕の主を受け入れれば、僕らの存在、  
 僕らの物語が正しくなります。……南米や一部のアジアのようにね」  
軽やかにそう述べる彼は清らかで、辺りが凍りつくような笑顔を浮かべていた。  
征服と教化。その単語を思い浮かべ、女が顔を強張らせる。  
 
コンキスタドール。まさかそんな言葉を現代で聞こうとは。  
「……今のこの世で、そんなことができるとでも?」  
「五百年前や千年前ならできたでしょうね。まぁカトリックも  
 モンゴルやオスマンには随分と苦戦したのですが。  
 イスラム圏とは今でも色々とややこしいのですよ。ガブリエルとかね」  
ユダヤ教やキリスト教と同様、イスラム教はアブラハムの宗教の系譜に  
連なるとされる。キリスト教の大天使ガブリエルは、また同時にイスラムでは  
ムハンマドに聖典をもたらした最高位の天使ジブリールでもあるのだった。  
「――たしかに、ややこしそうですね。そちらの世界は」  
女は静かに言った。  
 
「しかし、あなたの神の敵であるあなたは、一体誰の味方なのですか。  
 キリストを信じる人々か、それともそれに敵対する人たちか」  
「さて……どうでしょうね。僕としても我が主の教えが広まってくれた方が、  
 僕を知る人間が増えてありがたいと言えばありがたいですが」  
空を雲がゆっくりと流れていく中、彼は悠然とたたずんでいる。  
「……あなたは、人間が憎いのではないのですか?  
 悪魔というものは、人に害を成すと聞いていますけれど」  
「僕は僕なりに、人間を導こうとしています。このまま緩やかな発展を続け  
 天使たちの軛を脱し、いつかは主を超えた存在になれるようにと。  
 それが僕にとっての自由意志、すなわち主への反逆です」  
「しかし天使の方々はそうではないと?  
 むしろ天使こそ、人を守っているものではないのですか」  
「彼らにも色々いましてね。中にはとんでもないはねっかえりもいますよ。  
 もちろん僕ら堕天使の中にも、変なのはいますが」  
「そうですか。一体どちらが正しいのか、わからないものですね」  
女は小さな声をあげて笑った。  
 
何気ない視線で虚空を見つめた女に、少年が語りかける。  
「善悪の判断は人間のすることですし、それも時によってどうとでも変わります。  
 多くの天使たちは自分たちが正しいと信じて疑わないようですが、  
 僕は何しろ主に逆らうために生み出された存在ですからね。  
 主も人間も、自分でさえも信じてはいませんよ」  
「……で、あなたがここに来た理由を聞いていませんけれど」  
 
彼は優雅な仕草でコーヒーカップを口に傾けた。  
「――ええ、そこなんです。冷戦は終わりましたが、それは必ずしも  
 世界の平和を意味しない。今でも小さな戦火はくすぶっていますし、  
 ひょっとしたら近いうちにまた金融恐慌や世界大戦が起こるかもしれない。  
 個人的には、火種としてイスラエルと極東が怪しいと僕は思っています」  
「それで日本……ですか」  
「でもまあ、これは建前です」  
悪戯っぽい表情を整った顔に浮かべ、彼が言った。  
 
「本音を言えば、日の出ずる国に興味を持ったんですよ。  
 何しろ、ここはとても変わった所ですから。  
 独特の文化も、巨大な経済力も、そしてあなた方、天津神も……」  
「――欠片とはいえ、魔王にそんなに誉められると後が怖いですね」  
「という訳で、滞在許可を頂けるとありがたいのですが」  
その言葉に、彼女は黙って少年の顔を見やった。  
そして数瞬後、軽くうなずいて答えを返す。  
「わかりました。私に止められることでもありませんし、  
 心ゆくまでこの葦原中国を見て回るといいでしょう」  
元より彼女は、異国の神や天使、悪魔の争いに興味はない。  
五十年前にこの国の民は海を越え、彼らの神を奉ずる者たちと戦った。  
その苦い敗戦の記憶は彼女の脳裏にも焼きついている。  
戦争もハルマゲドンとやらも、この国を巻き込まぬようやってほしい。  
それが正直なところだった。  
 
「――ありがたいお言葉、心から感謝します」  
「ただし言っておきますが、私の民を傷つけては承知しませんよ」  
「ええ、少なくとも命を奪うようなことはしませんとも」  
少年はうやうやしく頭を下げると女に背を向け、再び宇治橋へと歩き出した。  
さて、無事に滞在許可はもらったし、どこに行こうか。  
来るときは船でコーベに入ってここまで電車だったから、  
このまま東に行ってトーキョーに行ってもいい。  
もしくはこの北西にあるという西の都に寄っていこうか。  
ドイツの医師シーボルトが記した古き良きニッポンとやらが拝めるかもしれない。  
 
「――お待ちなさい」  
その背に再び声がかけられ、少年は立ち止まる。  
「……まだ、何か?」  
「ええ。初めて我が国を訪れた有名な方を一人で放っておくなど  
 皇祖神の名折れ。せっかくですから、しばらく私が案内してあげましょう」  
「……ほう?」  
 
彼は値踏みするような視線を一瞬だけ女に向け、すぐに首を振った。  
「しかしギリシアのゼウス、北欧のオーディンに匹敵する  
 日本の主神に道案内などしていただいては心苦しい。  
 どうせこの僕はただの欠片、一人で気楽にぶらつくとしますよ」  
「それを言えば私もただのヒルメの影に過ぎません。  
 お互い、立場は対等ではありませんか?」  
「ふむ――なるほど」  
顎に手をやり、少年は少し考えてうなずいた。  
「わかりました。ご厚意に甘えるとしましょう」  
「そうですか、では私がご一緒しましょう……ふふふ」  
女は春風のように爽やかに微笑むと、そっと彼の手をとった。  
見た目には姉弟ほどの歳の差があったが、  
実際の年齢差はまさしく、神のみぞ知ることである。  
暖かな日差しの中、二人は一幅の絵のように並んで歩いていた。  
 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇   
 
――ジャアアア……。  
湯気で覆われたシャワールームに水音が響く。  
頭から湯を浴びて気持ちよさそうに目を細める少年の裸体は、  
たとえ男であっても唾を飲み込んでしまうほど煽情的だった。  
「――しかし……」  
透き通る声が誰にともなく囁かれる。  
「監視……なんでしょうかね……? 確かに多少は脅かしましたけど……」  
確かに自分は魔王の化身だが、あくまで小さな一欠片でしかない。  
影とはいえ、この国の最高神が自ら見張る必要はないはずだが――。  
(それだけ用心深いのか……。  
 まさか、本当に客をもてなしたいわけでもないでしょうし……)  
女神の意図はわからないが、今は相手の望むままにさせておこう。  
いざとなれば逃げる自信はあるし、仮に彼が消されても本体には何の影響もない。  
それに、彼がこの国に興味を持っているのは事実。  
彼女と行動を共にすることは、少年にとっても決してマイナスではないのだ。  
 
――バタン。  
少年が体を拭いて出てきたが、衣類は一切身につけていない。  
ただ白いバスタオルを一枚、体に巻きつけているだけで、  
なめらかな肌と均整のとれた男の裸体が瑞々しさを晒していた。  
そんな彼を、ベッドの上に座った女が誘う。  
「――さあ、こちらに……」  
薄い灰色のバスローブに身を包んだ女は、熱っぽい眼差しを少年に向けた。  
「……おやおや」  
彼は苦笑し、ゆっくりとベッドに歩み寄ると軽く身をかがめ、  
そのまま自然な仕草で彼女の唇を奪った。  
 
舌は入れず、まずはふっくら柔らかい口唇の肉を味わう。  
「ん、はむ……ちゅ……」  
「――意外に、可愛らしいですね」  
その言葉に女は顔を少し赤らめ、自分から顔をあげて彼を求めてきた。  
今度は口同士を深く繋げ、舌を伸ばして絡めあう。  
「ちゅぱ……ちゅるっ、んむぅ……!」  
情熱的なディープキスに、彼女の目が桜色の彩りを帯びてくるのが見える。  
お高く留まっている印象だったが、こうして熱心に少年と愛し合う仕草は  
年端もいかぬ少女のような愛らしさを感じさせた。  
 
少年は顔を離してクスクス笑い、そっと女を抱きしめる。  
「ふふふ……これが、この国のもてなしですか?」  
「だって貴方も欲しがっているのでは……」  
「いえいえ、それは邪推というものです」  
真っ赤になった女の耳元でそう囁き、彼の口が女の首筋に伸びる。  
――ぺろっ。  
「……あっ…… !?」  
軽く舌でうなじを舐めると、女は背筋を震わせて少年にひっついた。  
「敏感ですね。実にいい反応を見せて下さる」  
「あ、やだ……いじめないで……」  
涙目になった女に嗜虐心がそそられるのを彼は感じていた。  
 
彼女のバスローブをゆっくりとはだけ、麗しい肌を露にする。  
熱を帯びた首筋も、揺れる豊かな乳房も、切なげにこちらを見つめる黒い瞳も  
女の全てが少年を求めているのは明らかだった。  
「やはりお綺麗だ。素晴らしい……さすがはアマテラス様」  
「――世辞が上手ですこと……。  
 大陸には、私などよりも美しい女神が何人もいるのでしょう?」  
「フレイヤやアシェラは確かに美しい女でしたが……  
 なに、あなたも彼女らに決して負けてはいませんとも」  
「……ひょっとして、そういった方たちとも交わりを?」  
「その辺はご想像にお任せしますよ」  
 
中世の欧州では、オーディンやフレイヤなど北欧神話の神々はキリスト教により  
悪魔とみなされ、各地域で熱心な教化が行われた。この試みは成功しなかったが、  
その過程で美の女神とこの魔王の間に何かあったのかもしれない。  
またアシェラは旧約聖書にも出てくる女神で、息子たる明けの明星シャヘルが  
父の至高神エルを超克するために娶ろうとしたという。  
日出ずる国の最高神と言えども、彼の発言の背景全てを理解するのは容易ではなく  
女は少々誤魔化されたような気分になった。  
(――サタン、ルシファー……シャヘル、アザゼル、イブリース……。  
 あなたはどこから来て、この国で何をするのかしら……)  
無論、魔王の欠片の少年は答えず、優しく口で女を愛撫するだけだ。  
 
彼の唇が女の乳房を食み始めた。  
柔らかい肉の感触を味わい、赤子のように乳首を吸う。  
「んっ……は、あぁっ……」  
「どうですか? 異国の悪魔に乳を吸われるというのは」  
「はあっ……あ、ああっ……んんっ……!」  
余裕の表情の少年に彼女は言い返すこともできず、責められ喘がされている。  
意外と言うべきか、さすがと言うべきか――彼は上手かった。  
女の感じる箇所を的確に責め、言葉で彼女を辱めるのも忘れず  
優しく、だが執拗に女神を愛撫してくる。  
――カリッ。  
「――ああっ !?」  
彼の白い歯に乳首を挟まれ、女が悲鳴をあげた。  
 
「おっと……失礼しました」  
にこにこ笑いながら少年は謝り、詫びのつもりか女の顔をペロペロと舐める。  
唇や頬に唾を塗りたくられ、思わず目を閉じた女神だが  
少年にがっちり抱きしめられてしまって逃げることができない。  
「んんっ……やめ、やめてぇっ……!」  
制止の声も聞かず、彼の舌が再び女の口内に侵入してきた。  
「――じゅる……んんっ、ずずうぅっ……!」  
口の中をかき回され、混ざり合った唾液を吸い上げられる。  
激しい彼の動きに女は翻弄されるばかりだった。  
 
やっと彼が顔を離し、唇の端を笑みの形につり上げた。  
右腕で女をしっかり抱きしめたまま、左手を彼女の下半身に伸ばす。  
――くちょり。  
「ふふふ……嫌がっているのに、もうこんなではありませんか……」  
「や……だめ、です……!」  
「――もっと快楽に身を任せてもいいのですよ?」  
彼の細い指が女神の入口を撫でる。  
そこからは細い雫が流れ、シーツにかすかな染みを作っていた。  
「ああ……はああぁ……!」  
ゾクゾクした震えに声をあげながら、女が少年にしがみつく。  
火照った女の温もりを感じつつ、彼は濡れる膣に指を這わせた。  
「欲しいの……ですね?」  
「…………」  
うるんだ瞳でじっと彼を見つめ、黙ったまま女はうなずいた。  
 
「では、まず指からということで……」  
――ぷちゅっ。  
「ああああぁっ…… !?」  
少年のひとさし指が熟れた肉をかきわけ、女の中に入った。  
そのまま濡れた蜜壷をグチョグチョとかき回してくる。  
「はぁぁ……だ……だめぇ……!」  
「ああ、こんなに熱くなって……ちょっと焦らしすぎましたかね?」  
肉と汁の灼熱のスープに指を浸し、彼は愛しげに女神を見やる。  
「実は僕は、こう見えて女性をいじめるのが大好きでして……。  
 申し訳ありません、そろそろ入れて差し上げますから」  
その宣告に、喘いでいた女神の顔が明るくなった。  
 
ベッドの上に女を寝かせ、少年が囁きかける。  
「さてアマテラス様、どうやって犯されるのがお好みですか」  
「う……」  
「正面から? バックから? それとも騎乗位なんてのもいいですね」  
「――う……うぅ……!」  
それを自分に言わせようというのか。  
恥辱と欲望に苛まれ、やはりこの少年は悪魔だと思い知らされる女だった。  
「……ら、で……」  
顔を真っ赤にした女のつぶやきは、彼には届かなかった。  
「はい? ――すみませんもう一度」  
「う、後ろから……で……!」  
荒い息を吐いてそう言い放つ女と、楽しそうに目を細めた少年。  
 
彼は女をうつ伏せにひっくり返すと、柔らかな女神の体を支えて  
犬のように四つんばいにさせた。  
丸見えとなった女陰はひくついて汁を溢れさせ、男のモノを求めている。  
「――美しい……」  
少年は感嘆して言うと、硬くそそり立った肉棒の先をそこにあてがった。  
――クチュ……。  
「あぁっ……!」  
敏感な肉同士の触れ合う感触に、女が声を漏らす。  
その整った顔からは主神の矜持も女神の清心も失せてしまい、  
今は物欲しげに男を欲して開いた口からよだれを垂らすだけだ。  
「ん……先っぽだけでも、至高の快感ですね……」  
「そ、そんな意地悪、しないでぇっ…… !!」  
亀頭で膣の入口を嬲る少年に、焦らされた女が叫ぶ。  
「ああいけない――失礼。根が邪なもので、ついこうしてしまうのですよ」  
「ああぁ――いやぁ……」  
「ふふふ……ではいよいよ、中を味わわせていただきますか」  
そう言うと、もったいぶるようにゆっくり、彼は女を貫いていった。  
 
――ジュプッ……ズズズッ……ズブゥッ!  
「――はああぁぁあ……っ !!」  
散々責め抜かれた女の中は、いやらしい蜜に溢れて  
苦も無く少年の陰茎を飲み込んでいった。  
肉がこすれ、汁がジュプジュプと激しい音をたてる。  
「――ん……これは…… !?」  
挿入した魔王の化身の表情が初めて変化した。  
軽い驚きに目を見開き、意外そうな顔で女の白い背を見下ろす。  
――気持ちいい。  
少年は、その思いが自分の理性を侵食するのをはっきり自覚した。  
(この僕が……ここまで興奮させられるとは……)  
 
リリスをはじめ、数千年にわたって世界の数多の女を抱き続けた彼が  
今、この小さな島国の女神を相手に感じてしまっている。  
正直信じられなかったが、女の中でいきり立った自分の肉棒は  
彼の意思を無視して動き、欲望のままに彼女の膣をかき回していた。  
(――くく……面白い……!)  
やはりこの国に来て良かった。  
少年は女の肉づきのいい尻を押さえ、腰を振り続ける。  
彼が動くたびに女は声をあげ、少年のモノを襞でしごいて包み込む。  
「ひいいぃっ、はああぁっ……あぁんっ !!」  
「くっ……くくく――はははっ !!」  
 
たまらない。  
自分から責めているつもりのはずが、気を抜けば意識を持っていかれそうだ。  
彼は久しぶりに心の底から笑い、声を出して女を犯し続けた。  
「はあぁぁあっ――ひぃ、はひぃぃっ……!」  
「最高です……あなたは最高だっ !! はははははぁっ !!」  
女の締めつけは確かにきついが、この快楽の源はそれではない。  
彼を包み込んでねっとりと絡んでくる膣の襞と、  
グチュグチュ音をたてて結合部に溢れてくる熱い愛液。  
それらから感じられるのは、相手を責めるのではなく  
逆に責めてくる相手を優しく受け入れようとする女神の慈愛の心だった。  
(なるほど――はは……そういうことか……フハハハッ !!)  
彼女を苛みながら苛まれ、少年の心はどんどん沸騰してくる。  
 
二人はベッドの上で獣のように腰を振って喘いでいた。  
――パンッ! パァンッ !! パンッ !!  
「はぁぁんっ !! うう……うひぃぃ……ああぁっ !!」  
「ハハハッ !! ハハハハハハッ !!」  
もはやどちらも目の焦点は虚ろで、理性もほとんど残っていない。  
激しく体を絡め合い、相手を求めて快楽を貪っている。  
とうとう少年の体がブルブル震え、射精が間もないことを知らせてきた。  
(ぼ、僕が……僕が負ける……っ !?)  
残った力で彼は女の腰を思い切り引き寄せ、根元まで陰茎を突きこんだ。  
たくましい肉棒の先端に何かが当たった気がしたが、  
もうそんなことはどうでもよかった。  
 
――ビュルルッ !! ドクッ、ドクドクドクゥッ…… !!  
奥底で爆発した性器が後から後から子種を撒き散らし、女神の子宮を汚す。  
「――はあぁぁあぁあぁぁっ…… !!!」  
彼女もそこが限界のようだった。  
しなやかな体を精一杯仰け反らせ、大声をあげてシーツに倒れこむ。  
ピクピク痙攣した下半身はまだ彼のモノをくわえ込み、  
入り混じった二人の体液を結合部から溢れさせていた。  
どちらも精魂を使い果たし、繋がったままでベッドに横たわる。  
静かな部屋に残されたのは熱い吐息と汁の音。  
(――ああ、抜かなきゃ……)  
少年は虚ろな意識でそう思ったが、彼の体は主の意思に反して動こうとしない。  
稀有な体験に彼はそっと笑い、満ち足りたように横になっていた。  
 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇   
 
明るい爽やかな日差しの中、電車が山中を突っ切ってゆく。  
『次は八木、八木でございます……』  
窓の外に見える緑の風景を眺めながら、少年は椅子にもたれていた。  
近代的な都市、歴史を感じさせる建造物、そして豊かな自然。  
様々な表情を織り成すこの極東の島国はやはり奥が深そうだ。  
世界の秩序が変わりつつあるこの時代に、この国はどうするつもりなのか。  
それが見たくて彼は今ここにいる。  
 
「……どうぞ」  
「?」  
不意に隣の席から呼びかけられ、彼は振り向いた。  
そこにはビニール袋をこちらに向けた、長い黒髪のスーツ姿の女が座っている。  
少年は袋を受け取り、中に入っているものを確認した。  
「――ほぅ。たしかオニギリと言いましたか」  
「海苔は食べられます? 中身は鮭、梅干、昆布と牛肉です」  
「美味しそうですね、喜んで頂きますよ。  
 ついでにミネラルウォーターでもあればありがたいのですけど」  
礼を言う少年に、女は緑茶入りのペットボトルを手渡した。  
「どうもありがとうございます」  
彼女の方は駅で買った弁当を膝に載せ、割り箸を取り出している。  
車内の販売員が横を通り過ぎる中、二人は昼食をとり始めた。  
「……それで、まずは京都でいいのですか」  
「そうですね。特に何も決めてはいませんが、トーキョーに行く前に  
 キョートに寄っていこうかと思っています」  
「ついでに奈良はどうでしょう? 通り道ですし、見るものも多いですよ」  
「ほぅ? いいですね。ではそうするとしましょう」  
「じゃあ西大寺で降りますから、そのつもりで」  
うなずいた少年の顔を見て、女が小さな声をあげた。  
「あ……ご飯つぶ、ついてます」  
そう言って顔を寄せ、彼の頬をついばむ。  
少し顔を赤らめてまた座り直した女に、彼は笑って言った。  
「――本当にあなたは可愛いですね。惚れてしまいそうだ」  
「……うふふ。残念ですけど、それは困ります」  
「ああ、本当に残念だ。この世には神も仏もないものか……」  
握り飯を頬張る魔王と、幕の内弁当をつつく女神。  
美を極めた二人の男女は、全く周りに注視されることなく  
楽しそうに話しながら昼食を続けていた。  
 

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