まだ、躯が熱い。
爆ぜてまだ間もない熱の余韻にを惜しむ様に彼の胸に顔を埋めて甘えると
背中と後頭部に添えられた手がゆるりと動きだした。
「……はぁ……っん…。」
くしゃくしゃと髪を掻き分ける指の感触と背中を這う掌に思わず吐息が彼の胸に零れる
一瞬、体を波打たせた反応が可愛くて同じ場所に軽く唇を落とせば
すぐに彼の唇の感触が額を滑った。
「そういえば、籤引きだったらしいですね。」
――行為の後、眠りにつくまでの一時の会話ももはや日課になった。
「何が。」
首筋を唇で撫でた後、夫が聞き返す。…当事者でしょうに。
「貴方方がどの領域を支配するか決めた時の話ですよ。」
「そうだったか?」
「あら、互いに天上の支配権を譲り合ったのでしょう?それでも埒があかず、
結局籤引きで決められたと聞き及んでいますわ。
…神々の間で結構な美談として広まっておりますのよ?ふふ…。」
夫に限って言えばその様子は容易に想像がつく。
父と伯父は…そんな頃があったのだと思うと……失礼ながら微笑ましくて
くすくすと笑いが零れたが――ふと気付く。
…いつもは嬉しそうな相槌をうってくれる彼の反応が、無い。
……………………。
「…ハデス様?」
不安になって夫の顔を覗き込む―――と
(;゜Д゜)…………
――な顔で冥王は固まっていた。
「は…ハデス様??」思わず上擦った声に彼は我に返り、一言。
「譲り合ってない。」
………………へ?
「だから、譲り合ってなんかなかった。というか…
ゼウスとポセイドンが冥府の押し付け合で喧嘩始めてた。…壮絶だったなあれは……。」
と言ってふるふる首を振りながら冥王は遠い目をしてますが……って
ぅえ???
「見かねて私が冥府を受け持つと言ったが…また取っ組み合いになったなあいつら。……天上の覇権賭けて。」あれ?…兄弟愛の美談は………。
「ああ、それでキレたヘスティアがあの二人を薙ぎ倒して叱り倒した後、籤引きさせたんだったか
……懐かしいな。」
「は………はぁ……。」
皮膚ごしに伝わる楽しそうな振動も
在りし日に思いを馳せて目を細める至近距離のとろけるような笑顔も
今は遠い。
………………………知らなきゃよかった。こんな真相。