口を寄せる 舐める しゃぶりつく 噛み付いて吸い上げる
そうして 溢れる液を己の喉に流し込む
―――とある場所での野の獣の授乳風景である。
生まれてまだ日の浅い獣の子供は押し合いへし合いしながら母の乳に噛り付いている、そんな中
どうにも毛色の違う一匹が横たわる母獣の上体部でその身を擦り寄せていた。
獣の授乳口、つまりは乳首は6つ付いている。そして獣が一度に産む数は大体5匹前後。
で、乳の出というのは全てが一定だという訳でなく下腹部のものが1番出がいいので
その特等席を求めて兄弟間で仁義なき戦いが繰り広げられるのであるが
そんな獣生最初の生存競争を意に介さずその一匹はおそらく1番出の悪いだろう場所で戯れていた。
というよりも飲んでいなかった。
ただ、甘える様にその鼻や額、頬を目前の温かい場所に擦り付ける。
ゆるゆると口を滑らせるほんの少しだけ口で挟む。
小さい手で柔らかく温かい弾力を感じては、そこに背中を預ける。
時折、子からすれば大きい舌が宥める様に子供達を舐め上げるのが見えた。
そして自分の番が来るとその撫ぜる感触に身を任せていた。
他の子供達は、腹を満たしたのかうつらうつらし始める。
そんな子どもたちに歩み寄って擦り寄ると、
小さい温かいそれは自分と同じく頭を当て、頬を寄せ口を自分に這わせる。
そして思い思いに眠りに入る。
温かい時間は過ぎやがて
意を決した様にその一匹はその親子から離れた。
そして消える。
代わりに黒衣の男の姿が現れ―――獣の親子の前に膝まずく。
母獣の頭を撫で頬に手を滑らすと、こそばゆそうに応えてきた。
男は手を離し、また親子から離れる。
と、男の足元に地の割れ目が出来、そこへ彼は飛び込んだ。
ほどなくして割れ目は閉じられ、
安眠を貪る子らとそれを見守る母獣のみが、そこに残された。