「父は何と申しているのでしょうか」
自分に覆い被さる男に向かい舎脂は首を傾げて問うた。
その動きに髪飾りがしゃらりと音を立てた。
「お前をやるといっていた」
憮然とした顔で男は舎脂を見下ろしている。
「先日父にお会いした時に良い縁談が見つかったとは申しておりましたけれど」
「その相手が俺だ」
「そんなはずがありません」
やはり父の言うとおりに護衛をつけて歩くべきであったと舎脂は今更ながらに後悔した。
このままでは未来の夫に捧げるべき貞操を奪われてしまう。
舎脂は秀麗な眉を歪めて考え込んだ。
「今ならまだ間に合います。私を父の元へ帰して下さい」
この状況を打開するためにはどうしたらいいのかと。
「いずれ俺のものになると決まっているのだから今手に入れても同じことだろう」
男は手前勝手な理屈をこねて、舎脂の唇を強引に塞いだ。
思考を巡らせていた舎脂は驚きのあまり差し込まれた舌に噛みつくことも忘れて呆然と男の口づけを受け入れていた。
ぬるりとした感触が咥内を這い回り、混じり合った唾液が唇の端から漏れた。
生まれて初めての口づけの衝撃から舎脂が立ち直った頃には既に衣装は半分ほど脱がされかかっていた。
「い、いやっ! 離しなさい。無礼者! 私を誰だと思っているのですか。阿修羅王が娘舎脂ですよ」
「知っている。俺の妻になる女だ」
悪びれなく言ってのけ、男は舎脂の衣装を遠慮なく引き裂いた。
「きゃあっ!」
じっとしていたままならば綺麗に脱がせていただろうに、舎脂が抵抗しようと暴れたせいか、彼は脱がせることを諦めて手っ取り早く舎脂を裸に剥いてしまった。
「暴れるな。痛い思いはしたくないだろう」
それでも必死で暴れまわる舎脂を縫い止めるように寝台に押しつけて男は体重をかけてのしかかる。
舎脂は身動きがとれずに、悔しげに唇を噛んだ。
「大人しくしていれば悪いようにはせん」
器用に舎脂の両手を縛り上げ、男は体の線をなぞるようにゆっくりと撫であげる。
「俺の子を産む女だからな」
透けるような白さに朱が混じり、目を伏せて顔を背けた舎脂は否が応でも男の情欲をかき立てる。
好色そうな笑みを浮かべ、男は舎脂の肌に舌を這わせた。
びくりと舎脂の体が震える。
彼の手が舎脂の乳房を掴み、弄ぶようにぐにゃぐにゃと揉みしだく。
男の手の中で舎脂の乳房は力を加えられるままに形を変えていく。
男の舌が頂に触れ、舎脂はぎゅっと唇を噛んだ。
こんな男に屈したくはないと矜恃だけが彼女を支える。
男の唇はどんどんと下へ進み、舎脂の体はその度に震える。
男が臍の下に口づけたとき、舎脂は自由な足で男を思い切り蹴りあげた。
低く呻いて体を離した男は顎を押さえて眉をしかめた。
「なんてことをするんだ!」
怒りに瞳を燃やした男は舎脂の膝を掴んで足を割り開く。
「夫に逆らうとどうなるか教えてやる。躾は初めが肝心だからな」
できることならば秘めたままでいたかった場所を露わにされ、舎脂は必死で足を閉じようと試みる。
しかし力の差は歴然で、男は簡単に足の間に体を割り込ませた。
そうこうしている内に男は衣装の前をくつろげて猛った欲望を取り出した。
「や、いやです……いや……」
弱々しく首を振る舎脂に見せつけるように男は軽くしごいてみせる。
「だから大人しくしていろと言ったのだ」
懇願には応じずに男は舎脂の秘裂へ手を添えた。
そこは先ほどの愛撫に反応し身を守ろうと僅かに濡れてはいたが、挿入の助けになるほど潤ってはいない。
「まあ、当たり前か」
男は自らの手のひらに唾を吐き出し、舎脂の秘裂と自身の先端へ塗り付けた。
「可愛い舎脂。お前が誰の物かたっぷり教え込んでやる」
にやりと笑い、男は勢いよく舎脂の中へと欲望を埋め込んだ。
「いやあああああっ!!!!」
準備の整っていない舎脂の体は強烈な痛みと異物感に悲鳴を上げる。
体が引き裂かれるのではないかという衝撃に耐えきれず、舎脂は大粒の涙をこぼした。
男はそれでもかまわずに腰をぐいぐいと押しつけてくる。
「い、いたっ…や、いや……ああっ、いッ、いやぁ」
苦痛を訴える舎脂の唇を塞ぎ、男は咥内を思うままに貪る。
そうしながら、荒々しく乳房をこね回して、腰も休まずに揺らし続けた。
「ふ…んッ、や、あ……ひあっ」
時折唇が離れる度に舎脂は意味をなさない言葉を漏らし、痛みから逃れようと彼の背に爪を立ててしがみついた。
舎脂の体から溢れる蜜により、だんだんと抽送もスムーズになっていく。
淫らな水音を奏で、舎脂の体は彼を受け入れていった。
「お前の中はいいな。俺のためにあるような体だ」
満足げに呟きながら彼は奥を抉るように深く腰を叩きつける。
「んぁ、や……は、あ、ああっ…あッ、あッ」
既に抵抗の力をなくした舎脂は彼にされるがままに体を揺さぶられる。
そうして舎脂の体を十分に弄んだ後、男はおもむろに舎脂の腰を掴んで引き寄せた。
今までよりも激しく舎脂の中を暴れ回る。
「そろそろ子種をくれてやる」
上擦った声で呟き、彼は遠慮なく舎脂の胎内に滾った欲望を吐き出した。
*
「もう、いや……ああっ、また…あッ、あッ、あッ、あああっ!」
激しく体を痙攣させ、舎脂は男の体の上に倒れ込んだ。
男は舎脂の腰を掴み、舎脂の悲鳴にかまうことなく下から突き上げる。
男の胸に顔をすりつけて、舎脂は再び甘く喘ぐ。
「まだ俺は達してない」
「うそ…さっき、たくさ……ひっ、んん! も、やあっ」
「さっきはさっき。今は今だ」
会話している間も男の欲望は遠慮会釈なしに舎脂の体を貫き続ける。
「……壊れてしまってもつまらんな」
叫びすぎて枯れはじめた舎脂の声と虚ろな表情を改めて確認し、男は突き上げるスピードを速める。
「これで最後だ。たっぷり味わえよ」
一際強く打ちつけられた欲望から熱い精が迸る。
射精の衝撃で舎脂もまた体を震わせて達した。
ぐったりと力なく呼吸する舎脂の髪を撫でつけ、男は愛おしげにその姿を眺めた。
「一目見たときから決めていた。お前は俺のものだ」
舎脂はゆっくりと顔を上げ、自分の体を貪り尽くした男の姿を改めて眺める。
「俺の腕から逃げようなんて馬鹿な考えは捨てろよ」
「あなたは……」
先ほどまで自分を陵辱していたとは思えぬほどに男の表情は優しく慈しみに満ち溢れており、舎脂は混乱して言葉を濁す。
罵ってやろうと思ったのになぜかそれができなかった。
「あなたの名前をまだ聞いておりません」
ようやく口をついてでたのがそれで、舎脂は理解不能な自身の感情を持て余す。
「帝釈天だ。お前の父は夫になるべき男の名も伝えておらんのか」
不思議そうに答えた男の言葉に舎脂は心底驚愕した。
乱心した男の戯言だと思っていた台詞がすべて事実であったのだと知り、舎脂は溜め息をついて再び男の胸に顔を埋めて脱力するのであった。
おわり