「やっぱり…… あれが…… そうだよね……」
イブは自分に言い聞かせるようにひとりごとをくりかえす。
意を決し準備を整えた彼女は、
何も知らず眠りこけるアダムのそばに、今、息をひそめて近づいてゆく……
きっかけは、ほんの偶然だった。
その日二人は、いつものように泉で水浴びをしていた。
無邪気に水をかけあって戯れ、疲れ果てて、
ほとりの石に二人が向かい合って腰掛けたとき、
彼女の座った場所がアダムより少し高い位置にあった。
なりゆきで、イブの胸が彼の目の前に突き出される格好となった。
半球形の柔らかそうな彼女の乳房がなにかの果実のように見えて、
彼は、なにげなくそれを口にくわえた。
頼りなく反発する感触がおもしろくて唇を動かす。
そのうちに偶然に舌が乳首に触れた。
反射的にその小さな塊をアダムは舌で転がす。
イブはそれを最初くすぐったいと感じた。
しかし彼が同じ動きを繰り返すうちに、彼女の背筋を電気のようなものが走り始め、
経験したことのないその感覚に、言いしれぬ恐怖を覚える。
「やめて! アダム!」
しかし、いたずら好きのアダムはその言葉を聞き入れず、
さらにもう片方の乳房と乳首も、指と掌でいじくり始めた。
「あっ!」
イブの口をつき、鋭い吐息が漏れ、体が震えた。
しかし、アダムはそんな彼女の異変に気づかない。
「ダメ! やめて! お願い! なんか、おかしいの!」
切羽詰った彼女の口調に、さすがのアダムもいたずらを中断した。
「だ、大丈夫?」
「……ハァ……ハァ……」
乱れてしまった息の中、イブはアダムの問いに答えることすらままならない。
心配そうにアダムが彼女を見つめている。
すぐそばで魚が跳ね、静かな水面にさざなみが立っていた。
徐々にイブの息遣いがおだやかになる。
「……なんか、直った、みたい」
「あ〜よかった」
満面の笑顔を見せてアダムが安堵の声を出した。
「じゃ、食事にしようか?」
「えっと、ちょっと先にいってて。少し休んでから行くから」
「そっか。じゃ向こうで待ってるから」
アダムの姿が消え去るのを待って、イブは自らの太ももの奥へと手を伸ばす。
先ほどの変な感覚とともに、ももの奥が変に濡れてる気がしたからだった。
なんだろう、いったい?
そう思いながら指でそれらしい場所を彼女は探す。
ぬるっ……
突然、彼女の指がぬかるんだ場所に潜り込んでしまう。
「えっ!?」
自分では見ることも出来ない場所なので詳しく調べたことなどなかったが、
しかし今までこんなことは無かった。
さらに指を動かしてみる。
ぴちゃぴちゃと奇妙な音がして、粘液が指先にまとわりつくのがわかる。
後ろのほうに向かって動かすと、くぼみがあって、
「あっ!」
指がそこに触れた瞬間、なにかが彼女を襲った。
これって… なに…?
怖くなったイブはもうやめようと思った。
しかし、その瞬間、そのくぼみの奥から新たなる粘液が漏れ出してきて、
指へとまとわりつく。
あわてて指を引き上げようとするが、上に向かって滑らせたのがいけなかった。
すぐそばの小さな突起に指が勢いよく触れてしまう。
「キャッ!」
強烈な衝撃に後ろに倒れそうになって、あわてて手をつく。
かろうじて後頭部を地面にぶつけることだけは避けられた。
「イブ? どうしたの?」
いくら待っても来ない彼女に業を煮やして、アダムが戻ってきた。
当のイブは泉の中ほどに、むこう向きで腰まで水に使っていた。
「ごめん。あ、あの、なんか水の中が気持ちよくて。すぐ行く」
彼女は彼に気づかれぬようにその場所に指をあて、
ぬるぬるが無くなったのを確認してから、泉から出る。
その晩、アダムが寝息を立てて眠りに入った後も、イブは寝付けなかった。
そっと先ほどの場所に指を這わせる。別に濡れてはいない。
ぴったりと両側の肉が閉じて中を塞いでいる、そんな感じだった。
試しに自分で乳房に触ってみる。
そして、記憶をたどりながらアダムの行為を真似て乳首をこねてみた。
別に変化はなかった。やはりこれじゃなくて…
すっ……
なにかが背筋を通った。あっ、おんなじだ。
しばらく続けるとたてつづけにそれが起こって、そして太ももの奥で……
くぼみに指をあてる。少し押し込んでみると抵抗も無く指が吸い込まれる。
痛くなったらすぐやめようと、用心深く続けた。
指が全て吸い込まれた。くぼみじゃなくて、穴だ、これ。
でもなんのためにこんなものが……
神様にこの件を聞くことに、イブはなぜかためらいをおぼえた。
このことだけは、自分ひとりの胸におさめておこうと、そう決める。
それから毎晩のようにイブの探索は続けられた。
ほどなくして、体が感じるその不思議な感覚を、
彼女は「快感」として捉えるようになる。
それからは探索とか解明とかではなく、いかに快感を得るかが彼女の命題となった。
そこに触れるとそれなりに全体的に気持ちがいい。
穴で指を出し入れするとさらに気持ちがいい。
上のほうの突起をやわらかく触るとそれもかなり気持ちがいい。
しかし、得られる快感が妙に中途半端なような、そんな気がしてならなかった。
この空虚な場所を満たすべき、なにか別なものがこの世にあるのか?
そんなことをイブは考えるようになっていた。
とある日。イブは泉のほとりにいた。
アダムは、先ほどから午睡の真っ只中。
仰向けで寝ているため、その股間には逸物が横向きに顔を覗かせている。
それを何気なく見ていたイブの頭の中に、
天啓のごとく素晴らしい思い付きが突然ひらめく。
あれが……
アダムの持ってるあれが、この、あたしの穴に入るのでは?
魅力的なこの思いつきに、彼女は逆らうことが出来なかった。
いつものように自らの手で乳首をさわり、穴の入り口を刺激して、
ぬるぬるの状態にするのに大して時間はかからなかった。
眠りを妨げぬように音を立てずに彼の元に近づき、逸物をまたぐように中腰になる。
ぐにゃぐにゃのそれを自らの穴のあたりにあてて、そっと腰を落とした……
しかし、硬度のないそれはすぐに元気なく外れてしまう。
幾度かのチャレンジもむなしく事態は変わらない。
イブは位置をずらし、アダムの股間に顔を寄せてその形状を確認する。
だが、いったいどうすればよいのか、まるでわからない。
試しに舐めてみた。
驚いたことにそれがぴくりと動いた。アダムは… 寝たままだ。
もういちど。再び動く。どうなってるんだろう?
思い切って唇の中に収めてみた。ちょうど彼女の口の中がいっぱいになった。
舌で押してみると自由に形がかわる。
とことん変なものだとイブは思ったが、
おもしろくて、吸い込みながら舌で右にやったり左にやったりして遊ぶ。
突然、彼女の口の中でそれは体積を増し始めた。
おどろいた彼女があわてて口を離すと、
なにもしてないのにもかかわらず、ぐんぐん大きくなって天を向き、
次にはさらに反り返って、アダムのお腹に張り付いてしまう。
驚いたのはほんの一瞬だった。
これならもしかして… イブはすぐに次なる可能性に気づく。
再びアダムの腰をまたいで、固くお腹に張り付いたものをはがし、あてがう。
こんどはいけそうだ。
腰をおろすと徐々に中へ……
「痛っ!」
指の何倍もの太さのものが押し入ってくれば、当然のごとく無理が出る。
どうしたものか彼女が迷っていると、アダムが目をさました。
「な、なにやってるんだ、イブ?」
あわてて体を起こそうとするアダム。
勢いが全てを決した。はずみというのは恐ろしいもので、
起き上がろうとした瞬間、アダムの逸物が一気にイブを貫いた。
「あ〜〜〜っ!!!!」
女の絶叫が楽園にこだまする。
しかし、一方のアダムはとんでもない状態になっていた。
勃起したことの無い一物が立ち上がり、それがイブの中に刺さっていて、
それがまたなんとも気持ちよくぬめぬめしてる上に、
ぎゅっぎゅっとしめつけてて……
三秒後にアダムは生まれて始めての射精を経験する。
大量の精液がイブの奥へとまきちらされる。
イブは初めての痛みに耐えながらも、
体の奥でアダムの逸物が激しく脈打つのを感じて、
それが妙な安堵感をもたらすことに気づく。
決して快感とは言いがたいものとはいえ、
この行為こそずっと自分の望んでいたものだと、イブは直感的に理解していた。
果てた二人は並んで横たわる。
「まだ… 痛いか?」
「すこし」
「ところで、これって… なんなんだ?」
「わかんないけど… けど… アダムはどう思った?」
少なくとも、自分と同じ思いをもってくれたらいいと、イブはそっと願う。
「んと… そう、すごく気持ちよかったし……」
「?!」
「……あと、なんか…… うれしかった。イブとひとつになったみたいで」
彼女は彼の体に勢いよう抱きつく。
「ど、どうしたんだよ、急に」
「全然! どうもしないよ!」
イブが上に乗ってアダムの顔を間近で見つめている。
彼も彼女の顔を見つめる。イブの目は少しうるんでいた。
二人の顔が近づく。唇が重なる。
ぎごちない口付けが続く。
「あっ!」
「??」
「アダムの。ほら、また元気になってる!」
「ほんとだ」
「しよ?!」
「?」
「だからさっきの」
「って、お前痛くないのか?」
「えっと、まだちょっと痛いけど、アダムのこれが入ると、
ん〜と、なんていうか… そう、あたしすごく幸せな気分になるんだよね」
「そんなもんか?」
「うん、そんなもん」
こんどはイブが仰向けになって、両足の間にアダムが入り込む。
一度道をつけた場所は、今度はスムーズに逸物を受け入れる。
「痛く… ない?」
「大丈夫… あはっ… みたい… あっ…あっ…」
痛みを上回る快感を覚えてる証拠に、イブの受け答えに喘ぎ声が混ざる。
その声の調子になにかをかきたてられ、たまらずアダムは動き始める。
先ほどよりは長く腰を動かしていたアダムが突然動きを止める。
押し込むように腰をおしつけ、二度目の射精を迎えた。
二度の性急な交わりを終え、いくばくかの時を経て、
ようやく起き上がった二人は、自分たちの悲惨な状態に気づく。
アダムの逸物はイブの初めてのしるしで赤く彩られ、
イブの股間にはアダムの精液があふれていた。
二人は近くにあったイチジクの葉を手に取り、それを拭こうと押し当てる。
「お前たち」
万物の創造主の声が楽園に響き渡った。
「あれほど言ったにもかかわらず、
禁断の果実を食べてしまったようだな」
いつもと違う創造主の冷たい声にアダムはがたがたと震えている。
しかし一方のイブは、健気にも事態の収拾を図ろうとする。
「食べてません」
「??」
「だから食べてません、禁断の果実なんて、あたしたち」
「嘘をつけ!」
「ほんとです!」
「じゃあ聞くが、そのイチジクの葉はなんなんだ?」
「こ、これは」
直感的に、葉の下を見られたほうがもっとまずいことになると判断したイブは、
一瞬のあいだに方針を変更した。
だがアダムは、事の次第をまるで理解できていない。
そんな約一名が置き去りにされたまま、さらに事態は進行していく。
「すみません、勘違いでした。あたしたち食べました、あの実」
「そうだろう、そうだろう」
「でも、それにはわけがありまして、あの…… 蛇が」
「なんだと? 蛇がどうした?」
「蛇が、あの実は食べたらおいしいんだよって、そう、言ったんで、つい」
怒れる創造主は、なぜかその時のイブの嘘を見破れなかった。
その頃はまだ4本の手足があった蛇に、
「おまえは地を這って暮らすのがふさわしい!!」
と言って、問答無用でその手足を奪ってしまう。
イブの咄嗟の言い訳は、このうえなく迷惑な結末を蛇にもたらしたのだった。
そして、改めてアダムとイブの二人には、エデンの園からの追放が言い渡された。
「今から、おまえたちは老いと死と飢えに恐怖しながら生きることになる。
そしてすべての女には、子を産む苦しみが与えられる。
これらはすべて、おまえたちが自ら招いたことだ」
背中を押され門から外に出された二人の背後で、
楽園の門の扉が音を立てて閉ざされる。
二人は顔を見合わせる。しかし、その顔に後悔の念などはまるでない。
振り向くことすらしなかった。
アダムとイブは手をつなぎ、ゆっくりと『世界』へと足を踏み出す。
小道を曲がった瞬間、イブがアダムの耳元でささやく。
「ねぇアダム? しよ?!」
楽園を追われたアダムとイブは、このあと寝食を忘れ延々と子作りに励む。
そして彼らの子孫たる人間は、地に満ち溢れるまで殖え続けたのだった。
- 創世記第三章 終 -