「いってぇ〜」
突然の背中からの衝撃に男は声をあげた。
「ご、ごめんなさい」
思わぬ女性の声に男は振り返る。
それは単に女であったからではなく、その声に聞き覚えがあったからだった。
「急ぎの用がありまして、あの… ほんとに」
「んなことより、まちがったらごめんな。
もしかしたら、おまえ、アメノウズ……か?」
「は、はい。そうです…けど…?」
怪訝な顔で彼女は相手の次の言葉を待つ。
「おれだよ、おれ。アメノコヤネ… もう忘れちまったか?」
「あっ!」
沈黙がその場を支配した。
アメノウズが自分と別れたあとサルタヒコと結婚したと聞き、
アメノコヤネは傷心を引きずったまま最果ての地へと旅に出た。
その話を人伝てに聞き、アメノウズもまた心を痛めていたことを、
彼は知るよしもなかった。
しかしそれも五年前のこと。
愛し合い、体を繋げ、互いに悦楽を貪りあったあの季節は、
遠い昔の思い出として、それぞれの心の隅に整理されていたはずだった。
しかしその相手を今、目の前にして、
二人は同時に、体の奥がかすかにうずき始めるのを感じていた。
情欲の炎に再び包まれること自体が避け切れないと思えるほどに強く……
「で、いつ? こっちに?」
「あぁ、帰ってきたのは昨日。呼ばれたのもあるけど、
まぁこのままじゃ、普通に考えて激しくまずいし」
弟の狼藉に手を焼いて、アマテラスが天岩戸に閉じこもり、
世界が光を失ってから一週間になろうとしていた。
「あなたを呼んだということは……」
「まぁ、言霊でなんとかなるかも、って考えてるんだろうな年寄りたちは」
アメノウズは彼の特技を思い出していた。
そう、昔から言霊は彼の体の一部だった。
人を説得し、あるいは心を穏やかにし、
時として己が意図に沿うように相手の心を塗り替えることすら、彼には出来た。
ただ、彼女に対してその力を使うことは決してなかった。
考えてみればそれは必要の無いことだった。
心も体も、余すことなく全てが彼のものだったのだから……
アメノコヤネが天岩戸をふさぐ大岩の向こうへと話しかけている。
それが始まってから、かなりの時間が経っていた。
褒め称える祝詞の数々は、言霊として呪力を帯び、
アマテラスの心をゆるやかに解きほぐして、
まちがいなく作戦は成功するかと思われた。
しかし、あと一歩のところで太陽神の心は開かれなかった。
あるいはそれは、突然の邂逅によって、彼の心が乱れていた為なのかもしれない。
彼のそばにアメノウズがやって来た。
「わたしの出番のようね」
「みたいだな」
舞台の上にただひとり、彼女の姿だけがあった。
薄絹の衣装をまとって凛とした風情で立つ彼女の美しさに、
観客は喝采を贈る。
軽くお辞儀をしたあと、彼女が舞い始める。
その手には、男の性器をかたどったホコがあった。
ただの剣のように扱って踊りが続くうち、
それは偶然のように、赤く色づく口のそばへと移動する。
挨拶のような口付けのあとに、唇が密着しその先端を執拗に濡らす。
唇を離すと唾液が松明の光に橋を作って光った。
今度は横に咥えて淫靡に舌をも動かす。
あまりにも赤裸々な媚態に、見ている男たちは固唾を呑む。
自らのモノを彼女に弄ばれているような錯覚をおぼえて。
唇で先端を包んだかと思うと、徐々に奥まで咥える。
ゆるやかに唇を上下させる一方で、腰を淫らにくねらせる。
まるで唇で官能を得て、彼女自身が我慢できない状態にあることを、
男たちに訴えるかのように。
唇からその全容を表したホコは、彼女の首筋を滑り降り、
服を持ち上げて自己主張をするその胸元へと達した。
ホコはゆるやかに乳房の周りに円を描く。
繰り返し、幾度も。
片手で肩から衣を落とす。
左の半球があらわになった。
先端の乳首は、既に硬くなってツンと上向きにその存在を主張している。
さらにもう片方の肩から衣が抜かれる。
今や、その服は細い腰にひっかかっているだけで、
上半身はなにも覆うものがなかった。
艶やかに光るホコの先端が薄紅色の乳首に押し当てられたとき、
彼女の唇からかすかに吐息が漏れた。
その音がシンと静まり返った舞台に響き渡る。
やや上向きのその表情には淫らな色が宿っていた。
気づけば片手が下に降りていて、太ももの奥へと消えていた、そのせいなのだろうか。
二重に腰を覆う服の奥で、その指の動きは見ることが叶わなかったが、
自慰を行っているであろうことは、その表情からうかがい知ることができた。
そんな独り舞台が続いたのは何分ほどだったのか、誰にも分からない。
腕が動き、腰をくねらせ、その奥からは隠微に粘液の発する音が漏れていた。
力なくうつむいたその唇からは間断なく喘ぎ声が発せられていて、
観客はその姿をただ呆然と見つめるしかなかった。
彼女が突然顔をあげる。
そして、舞台の周囲にこうべをめぐらせ、とある男に視線を止める。
「ねぇ…… 来て……」
それはあまりにも淫らな要請であると同時に、
恥じらいすら捨てた真実の欲望の言葉でもあった。
彼女が呼びかけた相手は、そう、アメノコヤネその人だった。
手をひかれ、彼が舞台の上に立つと、
背後にまわったアメノウズメはすぐさま彼の上半身を裸にしてしまい、
勢いよくその背中に抱きつく。
胸の双球がおしつぶされ、形を変えて男の背中に密着する。
男の耳元でアメノウズメがささやく。
「遠慮しなくても… いいのよ?」
「?」
「だってわたし、アマテラスを天岩戸から出てこさせるために、
あなたの言霊で操られてるだけなんだから。私の意志と無関係に。
そうよね? アメノコヤネ?」
「……」
人妻の突然の言葉に困惑したままの男の気持ちよそに、
彼女の手は前へとまわされ、服の上から男の股間をなでまわし始める。
人目をはばからぬあからさまな愛撫に、観客からどよめきが起きる。
彼女は突然体を離し、舞台の端で素早く腰の紐を解く。
服は足元に落ち、彼女の体を覆うものは何も無くなった。
眩しいほどに白い太ももの奥に、黒く陰毛が見えている。
つかつかと歩いた彼女は男の前に立つ。
両手を男の首に巻き、のびあがるようにして唇を重ねる。
音を立てながら執拗な口づけが続けられる。
こらえきれなくなった男は自らの手で、半端に残された服を脱ぎ捨てる。
現れた怒張は天を目指し脈打つ。
ちらりとそれを視野の端に収め、アメノウズメは満足そうに微笑む。
彼女は突然体を反転させ、その尻を彼に向けた。
左右の尻を交互に怒張にこすりつけ始める。楽しそうに。
いたぶるような彼女の仕打ちに耐えかねて、彼の手は目の前の細い腰へと動いた。
しかしそれを察知していたアメノウズメはするりとその手をかわす。
いたずらっ子のように微笑んだアメノウズメは、
予想もしない動きに戸惑ったままの彼の前に座り込むと、
両手を彼の尻に置き、大きく上下に脈動する怒張を一気に口に頬張った。
アメノコヤネが気持ちよさのあまり、思わず声を出す。
片手でふぐりを柔らかくもみほぐしながら、
アメノウズメの唇は怒張をとらえたまま激しく前後し始める。
あまりにも淫らな唇の技に男は否応無く高みに向かわされる。
そして男のももがこわばる。既に射精の寸前まで追い込まれていた。
が、アメノウズメの動きが止まる。
唇から怒張が放たれると、彼女の鼻先をかすめ天を指してそれは震えた。
無言のままアメノウズメは四つん這いになり、尻をアメノコヤネに向ける。
陰唇からあふれた愛液がももを伝わり、舞台の床までも濡らしていた。
目の前の痴態にあっけにとられたまま動けないでいるアメノコヤネに焦れて、
彼女は淫らに腰をゆすり始め、催促をする。
我に返ったアメノコヤネが彼女のもとに辿り着き、背後から両腰を抱える。
そのままゆっくりとすすめると、あまりにも滑らかとなった陰唇が、
怒張をその中心へと苦もなく導く。
雁首が入り口を通るときに液状の音が淫猥に響きわたり、
同時に彼女の口からくぐもった吐息が漏れた。
そして奥まで挿入されたとき、彼女の背は限界まで反り返り、
たわわな乳房を見せながら官能のおたけびをあげた。
BR> 女はその体勢のまま後ろを振り返り、男の唇を求める。
再び二人の唇が重ねられる。
しかし男は口付けをかわしながらも、ゆっくりと前後に腰を動かし始めた。
塞がれた女の唇から喘ぎ声が漏れ、つながった場所からも淫らな音がしている。
天岩戸の前の大岩がかすかに動いた。
二人の産み出す物音に、アマテラスの好奇心が負けてしまった結果だった。
その隙をとらえ、待機していたタヂカラオが岩を強引に引き寄せ、
アマテラスを外へ引き出す。
同時にアメノフトダマが岩戸に結界を張り、二度と隠れられないようにする。
高天原と世界に光が戻った。
しかし……
取り戻された明るい陽射しの中、舞台の上でからみあう男女は、
既に周囲のことを忘れ果てて、共に高みへと向かいつつあった。
叫び声、肉のぶつかる音。
淫水の作る水溜りの上でからみあう黒い肌と白い肌。
アマテラスさえ目を離せずに、タヂカラオに抱えられたまま立ち尽くす。
既にアメノウズメの瞳は焦点を失い、
押し寄せる官能の波の合間に、なんとか呼吸をしているに過ぎなかった。
そして、今、アメノコヤネの腰が大きく後ろに引かれた。
すぐさま渾身の力でアメノウズメの尻に激しく叩きつけられ、
最大限に固く巨大化した怒張が、女芯の奥へと突き立てられる。
アメノコヤネが射精を始める。アメノウズメの子宮に達した怒張の先端から、
ありえないほどの精液が噴出し、奥へと満たしてゆく。
その圧倒的な量を感じて大きくのけぞったアメノウズメは、
獣のような雄たけびを発しながら痙攣をする。
白目を剥き、涎を垂れ流したまま。
力尽きた二人が、折り重なるように倒れこんだのはそれからすぐのことだった。
アメノウズメの女芯からは精液が流れ出て、
彼女の陰毛に淫らな模様を作り続けていた。
この事件の後、アメノコヤネとアメノウズメの消息は途絶え、
高天原にも下界にもその姿を見た者はないと、人は言う。