やあ、俺の名前は田村功、通称タコ、誕生日は1987年11月10日の19歳。  
高校中退して盛り場をうろついていた俺が、チンピラに絡まれて  
ボコボコにされてたところを、熊田一家に拾われたのは、2年前。  
俺を拾ってくれたのは、熊田組の若頭だ。  
 
俺の兄貴の若頭には、秘密がある。まず第一に、2代目の親父さんの1人息子で  
次期組長なのに、体に彫り物を入れていない事。まあ、夏に開襟シャツが  
着られるってメリットはあるけどね。次に、《負け犬の遠吠え》って諺の意味も  
知らなかったくせに、一応高校を卒業している事。  
 
そして最後に、あの関東鋭牙会の若頭、トルネードに対する異常なまでの対抗心。  
トルネードの行く処、必ずチェックして先回りし、偶然を装って「おう、榊ぃ。」  
って行く手を遮る。一歩間違えばストーカーだよ?  
 
801な893?って腐女子的疑惑も浮上しているようだ。  
ま、兄貴は女しか抱かないけどね。  
 
 
第一章 大いなる誤解  
 
新宿3丁目の汚い路地裏の雑居ビルの一室。鋭牙会のシマを荒らす事が目的で、  
密かに作られた熊田一家の新宿出張所だ。裸電球が、時折パッパッと  
点滅する薄暗い事務所の奥に、不似合いなほどに高級なマホガニーの机と  
リクライニング式のでかい椅子が置かれ、そこに熊田が座って片足を机の縁に置き、  
たばこを吸っていた。  
 
「おい、タコ。」「は、はい。」いきなり呼ばれて、タコは直立不動の姿勢に  
なった。「電球、取り替えとけって言っただろ。点いたり消えたり、  
パッパパッパと目がチカチカすんだよ。何とかしろ、ごらぁ!」舎弟のタコを怒鳴りつけ、  
寿命の消えかけた電球を交換させながら、熊田はイライラした気分を持て余していた。  
そこに、やっと待っていた男が走りこんできた。それは頭を丸めた、どう見ても  
海坊主の池照ヒロシだ。「ぼっちゃん、いえ、若頭、突き止めました!!」  
海坊主は、熊田が幼い頃から側にいたので、今でも時々坊ちゃんと呼んでしまう。  
 
「おう、ありがとよ。で?」顔を上に向け、口から紫煙をふーっと吐き出しながら、  
熊田が先を促す。「へえ。やっぱりトルネードには意中の女がいました。」  
「そうか、やっぱりな。」「へえ。こいつらです。」海坊主は胸の内ポケットから  
写真を3枚、取り出した。「こいつら?1人じゃねえのか。」  
「はい、3人います。どうぞ。」と、その3枚の写真を熊田に差し出した。  
 
が、すぐには受け取らず、熊田は「どれがナンバーワンだ?雑魚に用はねえ。  
1番の女の写真だけ、見せろ。」と言った。海坊主は言い難そうに  
「そ、それが。この3人の女全員がトルネードのお気にで、大事にしているようです。  
甲乙つけられないというか、ナンバーワンというよりオンリーワンっていうか。」  
「はあ?意味わかんねーわ。ま、いい。寄越せ。」と、手を差し出して写真を受け  
取った。  
 
一枚目の写真を見て「ふん、乳臭え。まだガキじゃねーか。」鼻で笑う。  
2枚目を見て「へ、こんなニコリともしねえ、仮面かぶったみたいな女が  
良いのかよ?」と笑い出す。「まあ、こんな気の強そうな女ほど、ベッドでは  
いい声で鳴きそうだがよ。」この気の強そうな女がベッドではどんな狂態を見せるのか、  
そのギャップを想像して、熊田は唇を舐めた。「へ、いいじゃねえか。悪くねえ。」  
そして3枚目の写真を見て  
「うっ、こ、これは・・・」まるで雷に打たれたように、硬直した。  
「・・・2代目の女じゃねえのか?」「いえ、トルネードの女です。」  
「あのスカした皮コートの女じゃねえのか。」「いえ、トルネードの女です。」  
「あの家の爺の・・・」最後まで言わせず、海坊主が「いえ、トルネードの女です。」  
と答えた。  
 
熊田の手から写真がぱらぱら、と机の上に落ちた。「俺はな、榊の野郎にだけは  
負けたくなかった。俺が唯一ライバルと認めた男、それがトルネードの榊だ。  
俺もあいつも、ちっちゃな頃から悪ガキで、15で不良と呼ばれたよ。」  
ふっとニヒルな笑みを浮かべる熊田。海坊主は『また始まった・・・』という顔で  
首を振った。『うちの坊ちゃんも、早いとこトルネードに負けを認めてくれたら、  
一皮剥けるんだがなあ。』  
 
そんな海坊主の気持ちに気付くでもなく、熊田が言葉を続けた。「俺はなあ、  
かつあげでも、万引きでも、あいつにはひけを取らなかった。」『子供の頃は、  
そんな事を競ってたんですか・・・』海坊主はため息を押し殺しながら胸の内で呟いた。  
「女の数だってそうだ。あいつに負けた事はねえ。バレンタインに金粉まぶした  
チョコだとぅ?!俺なんか、ダイヤモンド粒チョコ入りだったぜ。」  
 
『それは、トルネードに負けさせない為に、組のもんが先回りして  
用意させたチョコです。』心の中で海坊主が明かす。  
 
「3丁目に開店したクラブ夕子のママを、ベッドの中で攻めて攻めて攻め抜いて、  
俺の方が良いと白状させた事もあった。テクニックでもあいつには負けてねえ。」  
熊田の独白は続くが、  
『いや、トルネードはクラブ夕子のママには、手え、つけてねえし。』  
と海坊主は心の中で突っ込みを入れる。  
 
「あのカジノのルーレットの金髪女だって、Oh!Oh!って叫びながら、  
涙ながして俺の方が良いと認めた。」『あ、そっちも手え付けてねえし。  
ってか、坊ちゃん。フライング多すぎ。』  
 
「榊が、【は行】で女いかせる技を会得したと聞いて、俺はオーソドックスに  
【あ行】でいかせる技を極めた。」そして、熊田は目を瞑り、今まで抱いた女達に、  
しばし思いを馳せた。  
 
つんつん、と海坊主の袖を誰かがひっぱった。タコだ。「あのう、池照さん。」  
「おめーがイケテルって呼ぶなあああ!殺すぞ、ごらあ。」海坊主が鬼の形相で  
タコを睨み付けた。「す、すみません。でもあのう、【は行】とか【あ行】とか、  
兄貴、何の事言ってるんすか?」  
 
「ああ。おい、タコ。お前、女抱いて逝く時、どんな声出す?」  
「い、いやだなあ。イケテ・・・あ、テルさん。ええと、自分のあれなんて  
自分で聞く機会無いから、よくわからないけど、多分、ああっとかおうっとか、  
言ってるような気が・・・」「女の方は?」聞かれて、タコは思い出したように  
ニヤニヤして「へへっ、そりゃあもう、あああ、とかいぃ、とか。」  
「だろ。あ、とかい、とかお、つまり【あ行】だ。【あ行】ってのは、  
人間の自然の摂理に叶った本能の叫び声だ。ところがよ、トルネードは。」  
ここで、海坊主はぐっと声を潜めた。「はい?」タコも思わず身を乗り出す。  
 
「なんと、【は行】で逝かせるらしい。」「えええ?」  
「自分はファーファー叫びながら、女をヒーヒー喘がせるって話だ。」  
「あっ【は行】だ!トルネードって、すごいんすね。」  
 
「おい、そこの二人!何をコソコソくっちゃべってるんだ。」「あ、すみません。」  
海坊主とタコは同時に謝った。「とにかく、だ。俺は榊に、でけえダメージを  
与えたい。最後の手段で、あいつが一番大切にしている女を浚って俺のものにして、  
俺がいなきゃ、生きていけない体にしてやろうと思った。  
陵辱と恥辱の限りを尽くして、な。」熊田は薄い笑いを浮かべた。  
 
はあ、とタコと海坊主は神妙に聞いている。  
「だが、榊の野郎が、こんなに女のストライクゾーンが広かったとはよ・・・」  
いきなり、熊田は机をバーンと両手で叩いた。「くそう!!!俺は、俺は・・・  
俺のストライクゾーンは、こんなに広くねえんだよ。」バン、バンと何度も  
激情を叩きつけるように机を叩く熊田。  
 
やがて、頭を抱えて机に突っ伏してしまった。  
「池照よぅ。俺は、負けたよ。榊に完敗だ・・・」  
 
熊田がバンバンと机を叩く振動で、3枚の写真が、ぱらぱらと床に落ちた。  
1枚目には、女子大生になったばかりの、可憐なひかりが。2枚目には、  
授業中らしい、めがねをかけた無表情の百合子が。そして3枚目には、  
緑茶をおいしそうにすする水島先生が写っていた。  
 
 
第二章 陵辱  
 
『ああ、もう。遅くなっちゃった。』  
百合子は、新宿の雑踏の中を走っていた。久しぶりに大学時代の友達4人で、  
東口の近くにある東南アジア料理のレストランで食事をしたのだが、話が弾んで  
気付いたらもう10時を過ぎていた。これから、もう1軒飲みに行く、  
という彼女たちと別れ、駅に急いだ。もう大人なんだし、おしゃれなバーで  
飲みたい気もしたけれど、明日も仕事だ。二日酔いのむくんだ顔で、  
教壇に立ちたくはなかった。「いいじゃん、ちょっとくらい。」  
「そうだよ、行こうよ、百合子お。」と誘う友人達に、  
ごめんごめん、今度は休みの前日に会おうよ、と約束して、なんとか解放してもらった。  
 
『あたしって、本当に損してる。嫌だな、この性格。  
自分で自分の出会いの可能性を低くしちゃってる。判ってるのに・・・』  
 
そんな考えごとをしながら急いでいたせいか、前方不注意になって、  
誰かとぶつかってしまった。「あ、すみま・・」謝りかけた途端、  
「どこ見てんだ、この婆あ!!」ものすごい罵声を浴びせられた。体が恐怖ですくむ。  
「ご、ご、ごめんな・・さ・・・」震えて喉に声が絡みつく。  
ちんぴら風の柄の悪い3人組だった。  
 
「おい、こんなめがねザルの婆あ、相手にすんなよ。」1人が言うと、  
百合子がぶつかったらしい男は、ちぇっと舌打ちし、「前見て歩け、めがね婆!」  
と悪態をつき、そのまま立ち去ろうとした。と、3人目の男が  
「へえ、こいつ。めがねかけてるけど、悪くねえぜ。」と言って、  
いきなり百合子の顔をつかんで、他の2人の方に向けさせた。  
「へえ、婆かと思ったら、若いねーちゃんじゃねえか。」  
「おう、こりゃあ、上玉だぜ?」3人は下卑た笑い声を上げた。  
道行く人々は、係わり合うのを恐れ、みんな顔を伏せて、そそくさと通り過ぎていく。  
 
百合子は、足ががくがくと震えていた。百合子の顔を仰向けにさせた男は、  
その手を離すと、いきなり彼女の胸をコートの上からまさぐった。  
「きゃ、な、何をするの!!」慌てて百合子はその手を振り払った。  
「へっへ。いい声で泣きそうだな、この女。」他の2人も、舌なめずりをする。  
「さ、ねーちゃん、来な。」百合子がぶつかった男が、百合子の腕を掴んだ。  
「やめて下さい!誰か、だ・・」叫ぼうとする百合子に、ちっと舌打ちすると、  
男は百合子の後ろに回りこみ、左手で彼女の口を覆って声を封じた。そして、  
右手で百合子の細い両の手首をやすやすと捕まえると、握った手に力を加えた。  
 
『痛い!』激痛が、両の手首に走る。男は耳元で「おとなしくしな。さもないと、  
手首、折れるぜ。」とささやく。そして、百合子の体を押し出すように無理やり歩かせ、  
路地裏の方に向かった。迷路のように入り組んだ路地裏には、休憩所がたくさんある。  
普段は、こういう獲物が手に入ると、3丁目の神社に連れ込んで姦る事が多い。  
が、こんな上玉は、明かりが煌々とついた鏡張りの部屋で一晩中、たっぷりと  
可愛がりたい。他の2人も慣れたもんで、何も言わずに付いて来た。  
 
男はそんな二人を首だけで振り返り、「俺がぶつかったんだから、  
一番乗りは俺だぜ?」と確認した。後ろの2人は、「ああ、いいぜ。その代わり、  
たっぷり泣かせて、いい声を聞かせてくれよなあ。」と言って、卑しく笑った。  
そんな3人の会話を聞きながら、百合子はどうして私が?とショックのあまり、  
茫然自失の状態で、歩かされていた。  
 
青白い蛍光灯が煌々と照らすのは、部屋の中央にその存在を誇示する巨大なベッド。  
3方の壁は鏡がはめ込まれていた。この部屋に突き飛ばされるようにして  
入れられた百合子は、まずその異様な部屋に息を呑んだ。鏡張りの部屋など、  
見た事がなかったからだ。「さあ、ねえちゃん。まずは服、脱ぎな。」  
「ヒョーッ、ストリップショーの始まり始まりぃ〜!」男達がはやし立てる。  
「だ、誰が!!嫌よ。なんであなた達なんかの前で!」百合子は顔を真っ赤にして叫んだ。  
 
彼女をここまで引っ張ってきた男は、物も言わずに百合子に近づくと、  
両手を後ろでねじ上げた。それから、彼女のコートのボタンを右手ひとつで器用  
にはずしていき、最後に後ろでねじ上げていた手を離すと、  
肩のあたりからコートを下に勢いよくひっぱった。あっけないほど簡単に、  
コートが脱げてしまった。だが、コートが脱がされる勢いで、  
百合子は床に転んでしまった。「立ちな。」男は短く命令した。  
百合子は恐怖に震えながら、両手を床につき、それからなんとか立ち上がった。  
と、男は今度は彼女のブラウスの襟を両手で掴み、引き裂いた。  
いきなりで、男の手を払う暇も無かった。「きゃあああ!」  
百合子は思わず悲鳴を上げて、両腕で体を覆った。  
 
「ほら、もっと声、出しな。」  
男はそう言うと、胸を隠そうとしている百合子の両腕を掴むと、  
片手でそれを掴みなおし、万歳させるように上に持ち上げた。そして、  
空いている方の手で、引き裂かれたブラウスの残骸を、その体から剥ぎ取っていく。  
ビリビリと引き裂かれていくブラウス。  
「いやああ、やめて、お願い、やめて〜〜!!!」絶叫に近い百合子の叫びは、  
男達の笑い声に遮られた。「へっへっへ、いい声だぜ。ほら、もっと泣けよ。  
もっと嫌がれよ。」男達は、完全に慣れていた。  
 
このまま、この男達に陵辱されてしまうのだろうか。  
百合子は、男性経験こそ無かったが、それがどういう行為であるかくらいの知識は  
あった。嫌だ。絶対に嫌だ。こんな形で、こんなけものみたいな男達とだなんて。  
嫌。嫌。絶対に嫌。嫌悪感に身震いした。  
 
だが、男は構わず、今度は百合子のスリップに手をかける。それは、  
ブラウスよりも易々と引き千切られた。今、百合子の上半身を覆うのは、  
白い総レースのブラジャーだけ。「へえ、高そうなブラジャーつけてんなあ。  
あんた、結構良い給料、もらってるだろ。」男はそういいながら、自分の体を  
百合子の後方に移し、楽しんでこの様子を見ていた2人に声を掛けた。  
 
「おい、参加させてやるよ。俺は腕を押さえてるから、どっちか1人こっち来て、  
ねーちゃんの胸、揉んでやりな。」「よし、俺が!」男の1人が勢いよく前に  
飛び出してくると、いきなり百合子のブラジャーを上にたくしあげた。  
「きゃ、な、いやああああ!!!」あまった1人の男は、  
「くぅう、堪んねええ。おい、もっと声出させな。早くしろ。」と急き立てる。  
 
「へ、待ってろって。今、良い声で鳴かせるからよ。」そういうと、  
両手で百合子の形の良く柔らかい胸をこね回した。決して大きくはないが、  
適度な弾力と張りが、形の美しさを保たせている。そして、その頂には  
ピンクの花びら。男は両手で双方のふくらみを円を描くように揉みしだき、  
リズミカルにぐりぐりとこね、そして時々両の親指で乳首をこする。  
「ねえ、やめなさいよ。いや、いやあ、やめてよ!」百合子は身をよじって  
その手から逃れようとするが、後ろから別の男にしっかりと体を押さえつけられていて、  
体の自由がきかない。男は、両の親指でこすっていた花びらが、  
刺激を受けて徐々に立ってきたのを見て、百合子に卑猥な言葉を浴びせた。  
「ねーちゃん、嫌がってる割りに、ここ、立ってるぜ。おい、良治。見てみな。  
このねーちゃん、乳首、おったててやんの。」良治と呼ばれた男は、  
「おい、次は俺にな。」と言って、今まで百合子の胸を、乳首を弄んでいた  
男の体を押しやると、身をかがめていきなり百合子の乳首を口に含んだ。  
 
「ひ、ひゃああああ!!」初めての感触に、百合子が叫ぶ。後ろから百合子を  
抑えていた男は「っくしょう、たまんねえな。ねえちゃん、良い声だぜ。」  
そう言って、硬くなった自分の分身を、後ろから百合子のお尻にぐいぐいと押し付けた。  
 
男は咥えていた乳首を一旦離すと、百合子の方を見上げて、くっくと笑った。  
「乳首、ピンク色だね、ねえちゃん。あんまり男に吸わせた事ないでしょ。」  
 
そして、今度はわざと音を出して、ぴちゃ、ぴちゃ、と舐めだした。  
舐めて、吸って、舌で転がして。味わうように・・・  
 
気持ち悪い。吐きたい。なのに・・・ 百合子は、自分の体の変化に  
気付いていた。気持ち悪いはずなのに。吐き気を催す相手なのに。なのに、  
この執拗で容赦ない乳首への快楽攻めに、自分の意思とは無関係に硬くなっていく乳首。  
恥ずかしかった。自分の体が憎かった。死にたい。もういや、やめて。離して。  
 
「おい、もう充分だろ。最初はおれの玩具になるんだからな。」後ろで  
百合子の体の自由を奪っていた男が、乳首を厭らしく嬲り続ける男に言った。  
男は、名残惜しそうに口から乳首を吐き出すと、最後に未練たらしく、  
ぺろりと舐めあげた。その気色悪い感触に、百合子は「ひぃっ!」と身をよじらせた。  
 
「さ、そろそろ下の方も、脱がせるか。」男が仲間2人に声をかけると、  
2人とも「いよっ、待ってましたあ〜!!!」と囃し立てた。  
え?下も?本当に全部脱がされるの?ここで?こんな人達に?あたしは・・・  
後ろで男はまた百合子の手を左手ひとつに持ちかえると、  
右手でスカートのホックに手をかけた。百合子はびくっと体を震わせると、  
懇親の力を振り絞って「いやああああ、やめてええええ!!!」と絶叫した。  
 
 
第三章 危機一髪  
 
その少し前。「あ、兄貴。なんか変な3人組が女に絡んでます。」  
タコが道の反対側を指差した。「知るか。こんな時間に1人で歌舞伎町を  
ふらつく女は、男に姦られたい欲求不満女なんだよ。」いい加減な事を言って、  
熊田はそのまま行き過ぎようとした、その時。  
 
「あれ、ぼっちゃん。いえ、若頭。あの女は・・・」海坊主が目を凝らした。  
「あれ、榊の女ですぜ。」「何ぃ?!」榊の名前に、思わず熊田は反応した。  
よく見ると、確かに2枚目の写真の女だ。「どうします、若頭。」海坊主が尋ねる。  
「けっ、知るかよ、榊の女なんざ。」そう吐き捨てて、熊田は行き過ぎようとした。  
が。「おい、池照。俺より先に、あの3人が榊の女の味見するってのも、癪だな。」  
海坊主は、承知しましたというように、手下の2人に目配せした。  
2人は了解のしるしに頷いて、道の反対側、ちんぴらたちが消えた路地裏に走った。  
 
「若頭、こちらです。」さっき路地裏に消えた手下2人の内、1人が  
汚い7階建ての雑居ビルの6階に、熊田を案内した。薄暗い廊下の片側は窓、  
反対側にはドアがずらっと並んでいる。エレベーターからほど近い、2番目の  
ドアの前に、もう1人の男が見張るように立っていた。  
 
その男は熊田たちの姿を認めると、「ここです。」  
押し殺した声で、そのドアを指差した。  
と、中から女の絶叫が響いてきた。  
『やべえ、遅かったか?!』慌てて熊田は、そのドアを蹴破った。  
 
ドアを蹴破り、中に入ってまず熊田の目に飛び込んできたのは、  
女の白い上半身だった。ブラジャーが首元近くにまでずり上げられ、  
双の乳房が、ピンクの乳首が・・・  
 
「きゃああ、何よ。もう、何なのよおぉ!!」百合子は新たな男の侵入に、  
また自分を陵辱する人間が1人増えるの?と絶望の内にも数学教師らしく、  
条件反射で人数を数えていた。  
 
背後で百合子のスカートを今まさに下ろそうとしていた男、そしてその手前で  
下卑た顔で囃し立てていた2人の男は、突然の侵入者に最初は驚いたが、  
入ってきたのが1人だけと見て取ると、こっちは3人だとばかりに  
「何だ、てめーは。」「オラア、邪魔すんな!」「殺されてえのか!!」  
と各々が余裕たっぷりに威嚇し、大声で怒鳴った。  
 
熊田は、そんな怒鳴り声に動じるはずもなく。ニヤッと笑うと、  
「その女を離しな。」と低い声で言った。  
 
薄く笑った凄みのある顔、ドスのきいた声。  
ちんぴら3人は長年の経験から、それが極道者だと瞬時に気付いた。  
 
3人対1人なんて生易しいもんじゃない。こいつの後ろには、一体何人のやくざが  
控えているのか。自分達は地雷を踏んだのか?この手にした獲物は、  
実はとんでもないものだったのか?部屋中に緊迫した空気が充満する。  
 
と、百合子の両手を後ろ手に締め上げていた男が、その手を離した。  
急に開放された百合子は、ヘナヘナと崩折れるように床にへたり込み、  
次いで慌ててズリあげられていたブラジャーを元の位置に戻した。  
 
「お前ら、目障りだ。とっとと失せな。」熊田がドアの方を顎でしゃくった。  
男達は媚びへつらうような笑顔で「いや、すみませんね。あの、こちらさんに  
ご縁のある方とは存じませんで。」ヘラヘラとご機嫌取りのように言い、  
出て行こうとしたその時、熊田の耳に男達の1人が、仲間に何か言うのが聞こえた。  
 
「ちっ、あいつ鋭牙会だぜ。」  
 
鋭牙会。榊という単語の次に聞きたくない言葉。この開襟シャツの俺様が、  
夏でも襟袖ぴっちりで暑苦しい、あのカラスの鋭牙会だとぉ?!  
目も眩むような怒りで、熊田は一番近くにいた男の背中を、蹴り倒した。  
男は、2メートルほどぶっとんで、廊下に転がった。  
 
「おい、池照。そいつらに、ちょいと礼儀ってもんを教えてやんな。」  
熊田は入り口の陰に控えている海坊主に、低い声で命令した。  
「へい。」短く答えて、海坊主は手下に目で合図した。廊下に控えていた舎弟達が、  
ちんぴら3人をどこかに引きずって行く。  
 
「え、ちょ、ちょっと待って下さい。すみません、すみません、  
もうしませんから。」3人が口々に必死で謝る声が、どんどん遠ざかっていった。  
 
さて。では、この榊の女の味見でもしようか。  
 
熊田は、親切で助けたのではなかった。  
自分より先に榊の女に手をつけようとした奴らを、排除したまで。  
ちんぴらを追い払ったら、当然榊の女を犯すつもりだった。  
幸い、ベッドはまだ使われていない。他の野郎の精液でベタついた  
シーツの上で女を抱くなんざ、まっぴらだからな。  
 
熊田は、放心して床にへたり込んでいる百合子の前に行くと、  
榊の女の顔をよく見ようとしゃがみ込んだ。その時。  
 
百合子が上半身にはブラジャーしか着けていない事も忘れて、  
いきなり熊田の首に両腕を巻きつけ、抱きついた。そして、  
「ありがとう、ありがとう。」と何度も繰り返しながら、大声で泣き出した。  
「怖かった・・・ヒック、すっごく怖かった・・・ヒック、ありがとう。」  
子供みたいにしゃくりあげながら、熊田に抱きついて泣く百合子。  
 
??? えーと・・・  
 
熊田は想定外の百合子の動きに、戸惑った。心底、驚いてもいた。  
熊田の予想では、自分の事を榊から聞かされている(はずの)この女が、  
俺をきっと睨み付け、「熊田一家の助けなんか要らないわよっ。  
あたしを誰だと思ってるの!」と啖呵切るはずで、そこを俺が  
「なんだとぉ、このアマぁ!!調子に乗るんじゃねえ!」  
と怒鳴りつけて、ベッドの上に放り投げ、暴れるのを押さえつけて、  
へっへっへ、と犯っちまうはずだったんだが・・・  
 
 
 
へっ、ありがとうって言われるのも、悪くねえな。  
 
 
 

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