その愛らしい表情に、真喜男が硬直する。  
「くっ……やべえ!…出る…ッ…!」  
肉柱が熱く痺れ、固く切なく、制御不能ラインを超えそうになる。  
歯を食いしばって、わなわなと全身を震わせていたが、とうとう踏み止まった。  
「――く・はぁっ…………。どうだ……、止めたぜ…………」  
百面相を見ていた百合子に誇らしげに言う。  
「大丈夫だ。一滴たりとも先生の中には漏らしゃしねえから、安心しな…!  
 ここで孕ませちまったら、校長先生にますます顔向けできねえしよお!」  
「ちょっと、父は関係ないでしょ!」  
痛みも忘れて百合子がどなった。  
腹圧がかかり、デリケートな肉茎が粘膜にぐいぐい絞られる。  
「あぁっ、先生、ちょ…、まっ……!」  
 
「中出しはまずいな。カズ、例の物は?」  
「へい、アニキ御用達の『マグナムキング超薄XL』を1ダース差し入れてありやす!」  
「ようし、良くやった!」  
「エヘッ」  
 
「先生、ちょっと抜くぜ……。やっぱゴムつけねえとヤバいわ」  
「え……、――きゃぁ…っ…!」  
内臓が抜け出るような衝撃に、百合子は声を上げた。  
百合子の体内から引き抜いたペニスは、泡立った蜜と細い血の筋をまとわりつかせ、  
凶悪なまでに屹立していた。初めてなのにこれが入ったのだ、さぞ痛かっただろう。  
「……ごめんな」  
小さく口の中で言う。  
 
ベッドサイドテーブルのジュエリーボックスの蓋がずれているのは気付いていた。  
開けてみると、愛用のコンドームが一包ずつバラで入っている。  
「気が利くじゃねえか、カズよ」  
真喜男はそれを一つ口にくわえると、片手でぴっと包みを引き裂いた。  
コンドームが空中高く弧を描く。  
落ちてきたそれを二本の指で捉え、目にも止まらぬ速さで装着する。  
「待たせたな、先生」  
「……はい?」  
5秒も経っていなかった。  
 
「先生は初めてだし、なるべく痛くない方向でいきましょう、ね」  
「は…あ」  
真喜男は百合子の隣に寝そべると、百合子の脇に手を入れて抱き上げる。  
「よっと」  
「きゃ…」  
「俺の上になって下さい。これなら、あんまし奥には入らねえし、楽でしょう」  
真喜男の大きな体の上で、百合子が四つん這いになる。  
「挿れますよ」  
 
「あ、この角度、すげえ……」  
カズが3カメをズームさせると、ベッドの足元からあおった画が大映しになった。  
「アニキの巨砲が、そびえ勃ってる…」  
 
百合子の白く丸い尻を抱え、自身に手を添えて、真喜男が腰を持ち上げた。  
赤く熟れはじけた秘唇の中心に、巨大な肉柱がゆっくりと入る。  
「…は、あ……ぁ!」  
百合子が背を反らせる。  
真喜男の目の前で、可愛らしい乳房がぷりんと揺れた。  
すかさず舌を伸ばし、その桃色の先端を舐める。  
「ん…っ…!」  
いきなりの二点攻めに、身をよじるしかない。  
 
半分ほど挿入したところで、真喜男が唸った。  
「ああ、たまんねえ……。――先生、痛えか?」  
「さ、さっきほどじゃ…」  
「動いていいかな」  
「…うん…」  
真喜男は大きな両手で白い尻をなで回しながら、くい、と腰を上げる。  
「…ああぁ…ぁ…」  
切なくも艶っぽい嬌声が百合子の唇から漏れた。  
「イイ声で鳴きやがって……。聞いてるだけでヤバくなるぜコラ」  
真喜男はにやりと不敵な笑みを浮かべた。  
 
決して急がず、むしろ緩慢に、真喜男は腰を上下させる。  
ゆっくりと出没する肉柱に引きずられ、赤い肉襞が伸び縮みし、形の良い肛門が  
開いたりすぼまったりする。  
圧倒的な太さを誇る肉柱は大量の蜜で濡れ、てらてらとその威容を光らせていた。  
 
虚ろな目をしたカズが、ごくりと唾を飲む。  
「く、黒井さん……。アニキで抜いたら、オレ、人間失格っすよね……」  
血気盛んな若者には刺激が強すぎるのだろう。  
黒井はカズの肩を叩いた。  
「カズ、お前の気持ちは良く分かる。…だがな、今はお二人を見守ることが  
 俺達の務めじゃないのか」  
カズはハッと目を見開く。  
「すいやせん、オレが間違ってました…!…最後までアニキを、いやお二人を、  
 キッチリ見届けさしてもらいやす!!」  
頭を垂れるカズに、黒井は黙ってうなずいた。  
 
「あぁ…っ、は…ぁあ…」  
熱い塊が出入りするのに慣れてくると、こうして肌を合わせて繋がっていることが  
永久に続いても構わないように百合子には思えた。  
大きな手の感触は優しく、ずっとなでていて欲しくなる。  
「んっ……。…さかき…くん……」  
真喜男の広い胸に頬をつけると甘い声が出た。  
尻を抱えていた手が、背中を滑って上がってくる。  
「ぁ……」  
百合子の髪に潜ると、頭を抱え、引き寄せた。  
唇を荒々しく貪られる。  
「んっ、……ん、…ふ……」  
 
エロティックなキスに反応して、膣がきゅっと締まる。  
真喜男は喉の奥で唸りながら、腰の突き上げを速めた。  
「ん…っ…!」  
口中を蠢く舌で、膣内を熱い肉柱で蹂躙され、百合子の体は蕩け出した。  
知らず、拙いながらも、真喜男の動きに合わせて腰を揺らす。  
「ん、…んっ、…ふ、…ぅ…ん」  
激しい摩擦の中に鋭い快感が生まれ、下腹部に凝縮する。  
じんじんと発熱する感覚が限界まで高まり、突然はじけた。  
「……ん、くぅっ!…あっ、ぁ・あー……っ!!」  
膣が休みなく波打って肉柱を締め上げる。  
真喜男の首に額を当て、肩にしがみついて、百合子は小さく身を震わせた。  
 
百合子が達したのを見届けると、真喜男は顔をしかめる。  
 
「――ぅあ!…があぁっ!!……うおおおおおおおおおお――――!!!!!」  
 
空に向かって雄叫ぶと、百合子の尻を鷲掴んで腰を突き上げた。  
肉柱はひと回り膨張して根元からびくびくと大きく震え、果てしなく吐精する。  
 
カズは魂が抜けたように椅子に倒れ込み、目を閉じて幸せそうに微笑んだ。  
目尻から一筋、涙が頬を伝う。  
黒井は静かに立ったまま、汗ばんだ手を握っていた。  
 
放心状態から覚め、真喜男はふううっと大きなため息をついた。  
「危うく先にイくところだったぜ…。なんで今日はこんなにいいんだチクショウ」  
顎の下で目を閉じている百合子をちらりと見る。  
「また寝ちまったのか。やべえ、やりすぎたかな……」  
「――起きてるわよ」  
「うはぁっ!…お、脅かさないで下さいよ」  
「間近であんな大声出されて、寝られると思う?…まだ耳がおかしいわ」  
「すいません……」  
 
百合子はくすっと笑う。  
「相変わらず、声が大きいのね」  
「はあ、まあ……。すいません」  
「謝ることないわ。いいじゃない、榊くんらしくて…」  
少し感傷的に言って、頬をつけた真喜男の胸の、青黒い複雑な模様を指でなぞった。  
 
「はぁんっ」  
真喜男がぴくんと動く。  
「…えっ、何!?」  
「いや…。なんか、今日は感じやすいっつか…。なんでですかね、先生?」  
「……私に聞かないでよ。今はあなたが教師でしょ」  
百合子は頬を染めて、怒ったように言う。  
「あ、ああ…そうでした、はい」  
最高のセックスを教えてやる、と啖呵を切ったのは真喜男自身だ。  
 
宙を睨んで考えていた顔が、小さく歪んだ。  
「…第二弾か…」  
「えっ?」  
「ちょっと動くなよ」  
百合子の体を片腕に抱きながら、もう片方の手を伸ばしてティッシュをごそりと  
つかみ取り、目にも止まらぬ速さで股間の使用済みコンドームを取り外す。  
それを球状に握り固め、手首のスナップをきかせて投げると、ひゅんと風を切って  
トラッシュボックスに鋭いシュートが決まった。  
「待たせたな、先生」  
「……は?」  
 
「じゃあ続きを」  
そう言って腕の中の百合子をくるりと抱え、体を入れ替える。  
「あ…っ」  
百合子の上体が、無数の枕の上にふわりと乗った。  
真っ白な可愛らしい乳房が真喜男の目の前で揺れる。  
 
真喜男はそれを見つめるとおもむろに口を開いた。  
「……頭がおっぱいでいっぱいです」  
「や、ちょっと……!」  
百合子は慌てて両腕で胸を隠す。  
「あ、前にやったんすよ、英語で。なんか今急に思い出したわ」  
「そんな例文、あるわけないでしょ!」  
 
「さっすがアニキ、アレの最中でも知識があふれだしちまうんですね!」  
「ああ、それもすべて百合子先生のご指導の賜だ」  
 
「私はおっぱいのことしか考えられません、だったかな?…ま、いいや、どっちでも」  
真喜男は百合子の腕をあっさり解くと、つんと立った桃色の先端に吸い付いた。  
「あ――、だめ…!」  
百合子は悲鳴を上げる。  
唇に包まれた乳首を舌が舐めこすり、もう一方の乳房もやわやわと揉まれる。  
「あ・はぁあ…っ…」  
抵抗すらできず、百合子は背を反らせて胸を突き出した。  
音を立てて乳首を放すと、尖らせた舌先で嬲る。  
「や…ぁ…、あ、…うぅっ…」  
百合子は目を閉じていやいやをし、力の入らない手で真喜男の肩を押す。  
 
「ああ、柔らけえ…。食っちまいたいくらいだぜ……」  
唇の端を舐めて吐息まじりにそう言うと、唇の先で先端をかすかになぞる。  
「あ・あっ…、…め…、…だ…めっ…」  
百合子は切なげな表情で真喜男の頭を抱え、身をよじった。  
もじもじと動く脚が真喜男の胴をはさんで上下する。  
充血した肉芽が毛深い腹にこすれてちゅくちゅくと疼く。  
 
腰が小さく動き始めたのに合わせ、真喜男は愛撫に拍車をかけた。  
大きな手で形が変わるほど揉んだかと思えば、尖った乳首をきりきりと指先でつまみ、  
熱い舌で舐め回して激しく吸い上げる。  
「んーっ…!…あ…、ぁ・あ………!!」  
腰を押し付け、真喜男の頭を抱きしめて、百合子がのけぞった。  
真喜男の腹の下で柔肉を震わせ、やがて静かになる。  
 
くたりと枕に埋もれた百合子を見下ろし、真喜男は体を起こす。  
透明な蜜で濡れている腹に手をやると、にっと口の端を歪めた。  
「上達が早えな。教えがいがあるってもんだ」  
再びジュエリーボックスからコンドームを取り出すと、光の速さで装着する。  
真喜男がベッドの上に膝立ちになったと同時に、百合子が体を起こした。  
「……っと…!」  
美しい鼻先と、ゴムのてかりをまとった凶悪な肉柱とが、ぶつかりそうになる。  
 
「?!」  
目の前に屹立する異様な物体に、百合子は顔色を変え、息を飲み、身をすくませた。  
「……先…生」  
その姿を見て、真喜男も凍り付く。  
 
……こんな顔、前に見たな……。――ああ…そうだ…。あん時だ……。  
 
破ったシャツの下から彫物が現れた瞬間。  
高校三年生の榊真喜男がこの世から消えた瞬間。  
やはり自分は住む世界が違うのだと、痛いほど思い知らされた瞬間。  
 
…また、あんな顔をさせちまったのか……。  
真喜男は声も出ず、動くこともできなかった。  
 
「…どうしたの、榊くん」  
柔らかな声。  
優しいカーブを描く、美しい唇。  
「えっ…」  
ぴたりとくっついてくる温かな体。  
「好きよ……」  
刺青の入った背中をきつく抱きしめる小さな手。  
 
「せ、先生……」  
凍った体に血が流れ始める。  
瞼の裏がかあっと熱くなって、真喜男は固く目を閉じた。  
壊れてしまいそうな細い体に腕を回す。  
「…先生…っ…」  
切なくて狂おしいほど、百合子が欲しくなる。  
唇を探して噛み付くようにキスをしながら、切れ切れに言う。  
「挿れてえよ……。挿れさしてくれ、…頼む、先生………」  
 
百合子は真喜男の頬をなでた。  
「…もちろんよ。…来て……」  
「ああ…」  
キスが止まらず、二人はもつれて横倒しになる。  
倒れてもなお、真喜男は百合子の頭を抱え込んで唇を吸った。  
「…う…ぅ…、ん…んん……っ…」  
少しずつ百合子の体を組み敷いて上になる。  
 
唇を離し、はあはあと肩を上下させながら百合子の脚の間に入ると、  
柔肉に肉柱を当て、ぐぐ、とめり込ませた。  
「…ぁ・ん…っ!」  
百合子が声を上げて小さくのけぞる。  
真喜男は動きを止め、心配そうに百合子を見た。  
百合子は微笑んで、不安げな真喜男を見上げる。  
その瞳を見つめたまま、真喜男はゆっくりと体を進ませた。  
 
ごつごつした肉柱が膣壁を押し広げ侵入する。  
「はぁ・あ……!」  
百合子の体がせり上がる。  
「ううっ……」  
先端が膣の最奥に触れると、真喜男は息を吐いた。  
苦しげに息をはずませている百合子の額を、そっと指でなでる。  
「わかんねえ…、なんかわかんねえけど、もう、最高に気持ちいいぜ、先生……」  
百合子はにこ、と笑って真喜男の首に腕を回し、キスをした。  
 
「ん、んん……っ」  
眉をしかめて呻いた真喜男がこらえ切れずに腰を動かすと、熱い肉襞が  
ぬめぬめとまとわりついて、肉柱を搦め捉えようとする。  
百合子の顎に添えられていた大きな手が、細い首、張りつめた乳房、  
しまった脇腹に触れながら、尻に下りてゆく。  
滑らかな尻肉を掴んで楽しんだ後、腿をなで、膝を抱えて脚を折り曲げる。  
そうやって両脚を曲げさせ、しっかりと自分の胴を挟ませた。  
 
大きく開かれた秘唇に、ずるりと肉柱がめり込む。  
猛り膨れた先端が、肉襞の最奥部を擦り上げる。  
「あ…、ぁ、…あ…っ」  
下腹を突き抜ける衝撃がたまらなく甘美で、百合子は細く、甘い声を上げた。  
「…は…、あぁ、…ぁ…」  
肉芽が疼いてひくりと動く。  
 
「……っ、さかき…くん……」  
広い背中一面に描かれた青い雲龍と、それに絡み付く白い手足。  
静かな部屋に、二人の熱い息と、かすかな水音が響いていた。  
 
「うぅ…」  
荒い息を続けていた百合子が、喉を押さえ苦しそうな声を漏らした。  
真喜男が動きを止める。  
「ごめ…さ…い、喉が…乾いて…」  
「そうか…。――よし」  
 
真喜男は百合子の体の下に手を入れると、ぐいと引き起こした。  
肉柱を挿れたまま百合子を前に抱えた真喜男は、そのままベッドをおりる。  
「きゃ…!」  
慌てた百合子に笑いながら言う。  
「落としゃしねえよ」  
部屋の中をのしのし歩き、特設ミニバーの冷蔵庫をがん、と足で開けた。  
ミネラルウォーターのボトルを取り出すと、キャップを噛んでねじ切り、吐き捨てる。  
上を向いて水をがぶりと口に含むと、百合子に口移しした。  
 
「――ん…っ、んっ、…んく…っ…」  
百合子は喉を鳴らして飲む。  
飲み終わると、真喜男は再度ボトルの水を含み百合子に飲ませた。  
「ん…っ…、ん、…ん……」  
二人の唇の端からこぼれた水が胸を濡らす。  
「…っ、は…ぁっ……。あり、がと…」  
口中の水を飲み干した百合子が大きく息をつく。  
 
「戻るぜ」  
真喜男がベッドに歩むと、百合子が震え声を上げた。  
「…どうした?」  
「気持ち…いいの……。もう、だめ…かも……」  
恥ずかしげに白状する表情を、真喜男は愛しそうに見る。  
「いいよ、イっちまいな」  
 
真喜男はベッドの上に座ると、百合子の尻を抱えてゆっくりと上下させた。  
肉柱が、充血した肉襞を擦りながら出没し、蜜液を溢れさす。  
「……あ、あ…っ、…ん・んっ……!」  
じゅぷじゅぷという淫猥な音に理性が飛ぶ。  
いつか百合子は真喜男の動きに合わせるように、腰を前後させ始めていた。  
「……先に俺を殺ろうってのかコラ」  
真喜男は口を歪めてつぶやく。  
 
尻からウエスト、胸へと手を移動させて、真喜男は柔肉を突き上げた。  
淡く染まった尻が、肉柱が抜け落ちそうなほどに跳ね上がり、すぐに落下して  
深々と肉柱をくわえ込む。  
「…あ…、さかき…くん……、…さか…き…くん……」  
うわごとのように言って真喜男の首を抱き、下腹を真喜男に押し当てると、  
百合子は体をこわばらせた。  
「さかき……く…んっ…、――あぁ・あ………!!」  
白い喉を反らせ、がくがくと全身を震わせる。  
 
真喜男は舌を伸ばし、その白い喉を舐めた。  
「……最高…だぜ、…先生………」  
極限まで怒張した肉柱が、肉襞の痙攣に激しく絞られる。  
百合子の細い体を抱きすくめると、真喜男は歯を食いしばった。  
「ぐ…ぅう、……ん・ああぁ……っ!!」  
抑え続けた射精の衝動を解放し、欲望を一気に噴出させる。  
 
数分後、百合子を抱いたまま、真喜男は糸が切れたようにベッドに倒れ込んだ。  
そのまま部屋は静かになる。  
 
息を詰め見守っていたカズが、大きく息を吐いた。  
「……今日のアニキ……、テクだけじゃねえって言うか…、なんか熱くて、  
 すげえ気持ち入ってて……。なんつうか、胸にガツンと来やした」  
「そうか」  
「にしても、これじゃ南先生、もう他の男なんか目に入んないんじゃねえですかね?」  
それはお前だって同じことだろうと思いながら、黒井は頬を緩めた。  
「うむ。もしも百合子先生が四代目を産んで下すったら…素晴らしいのだがなあ」  
 
黒井の頭に夢が広がる。  
仲睦まじい若夫婦。二人に良く似た愛らしい赤ん坊。甲斐甲斐しく赤ん坊のおむつを  
取り替えるカズ。そんな幸福な風景を見守る自分。  
「あ、それいいっすね。梅村さんはまだまだ未成年で学生だし、桜小路のヤローも  
 狙ってやがるし」  
黒井は我に返った。  
「いや…、今のは俺の勝手な妄想だ、誰にも言うんじゃねえぞ。もちろん若にもだ」  
「へい。わかっておりやす」  
 
真喜男は食堂の中を走っていた。  
目前のカウンターには美味しいプリンが並んでいる。  
カウンターの向こうにはなぜかエプロン姿の百合子が、女神の如く微笑んでいた。  
後に続く者はなく、堂々トップを決め、百合子の肩を抱いて真喜男は勝ち誇る。  
と、プリンが突然けたたましく鳴った。  
「はぁっ!?……なんだ?!…なんでプリンが鳴るんだコノヤロウ!!」  
真喜男はプリンを引っつかんで凄む。  
プリンから声がした。  
「気持ち良くお休みのところ恐縮ですが、若、そろそろお時間です」  
 
「んあ…?」  
黒井からの内線電話だった。  
「夜も更けて参りました。名残惜しいですが、先生にはお帰り頂く時間かと」  
「ああ……。分かった…、ちょっと待ってろ」  
「はい」  
真喜男は受話器を戻し、肩に頭を乗せて眠っている百合子を見た。  
 
ふっくらした唇を少し開け、安心しきった顔。  
「先生……」  
艶やかな頬を、絹の髪を指でなでる。  
「起きろよ、先生……」  
華奢な肩をそっと揺するが、起きる気配はない。  
真喜男は困り顔で前髪をかき上げた。  
 
今度は少し強めに肩を揺する。  
「おい先生、起きてくれ。彼氏のいない女教師が朝帰りってのはマズいだろうが」  
「…何ですって?」  
百合子がむくりと頭を上げた。  
「わっ、てつ仮面」  
「やめなさい。一気に目が覚めたわ」  
「すまねえ。もっといろいろ教えてやりてえんだが、そうも言ってらんねえ時間だ」  
「えっ…、そうなの?」  
百合子は体を起こして時計を探す。  
 
バスローブを羽織った真喜男は、百合子にも着せかけてやりながら耳元に囁く。  
「シャワー浴びて帰りな。肌に移り香が残ってるといけねえから」  
情事に慣れた男の言葉遣いに背徳の匂いを感じ、胸がどきっとする。  
素直にうなずき、百合子は浴室に入っていった。  
 
「あーあ…、手ぇ出すなって言われてたんだよな……」  
百合子の後ろ姿を見ながら、真喜男は頭を掻く。  
「おう、親父にゃ黙ってろよ、黒井」  
そう言って1カメを睨んだ。  
モニターを見ていた黒井は頭を下げる。  
 
浴室から出てきた百合子は隙なく身支度を整えていた。  
真喜男も黒い服に身を包み、髪をきっちり縛っている。  
百合子は唇を噛んでうつむいていたが、思いきって顔を上げ、口を開いた。  
「――今日は本当にありがとう。楽しかったわ」  
「俺もです、先生」  
 
少し緊張がほぐれて、百合子に笑顔が戻る。  
「…榊くん…、案外、教師に向いてるかも」  
「え?」  
「熱くて、まっすぐで、本気で、人をぐいぐい引っぱって行くとこ、とか…」  
「ヤクザつかまえて何言ってんすか、先生」  
「…そっか。でも少なくとも、聡明で優秀なリーダーになるわね。お父様のように」  
「な…んで、親父が出んだよ…」  
戸惑いと照れくささで、真喜男は少年のような表情になる。  
くす、と笑って百合子は歩き出した。  
「行きましょう」  
 
中庭では黒井とカズが二人を待っていた。  
「あの…、遅くまでお邪魔してしまって、すみません……」  
ばつが悪そうに百合子が詫びると、黒井は慈父の笑みを浮かべた。  
「いいえ、本日は若の為にありがとうございました。また、いつでもお越し下さい」  
そう言ってカズと共に一礼する。  
「は、はい……」  
 
「若、それでは俺がお供して、先生を間違いなくご自宅までお届け致します」  
「おう、頼んだぞ、黒井」  
「承知しました。では先生、参りましょう」  
百合子は真喜男を見上げた。  
「さようなら」  
真喜男はまぶしそうに百合子を見て、頭を下げる。  
「…今日はどうもありがとうございました」  
 
歩きかけた百合子がふと止まって、振り返った。  
「わからない、って言ってた事……、宿題にしましょうか」  
「え?」  
行為中、真喜男が何度も自問していた言葉だ。  
「ああ…あれ……」  
「私も考えるから、あなたも考えて」  
「ああ…はい、わかりました…」  
百合子は小さく笑ってうなずくと、黒井の後に続いた。  
 
「宿題っすか。大変ですね、アニキ」  
「……まあ…、もう答えはわかっちまったんだけどな…」  
真喜男はこぶしで左胸をとん、と叩いた。  
「――カズ」  
差し出した右手の指にカズは煙草をはさみ、火を点ける。  
 
百合子が去った風景をしばらく眺めていた真喜男は、ふうっと煙を吐いた。  
「行くぞ」  
「ヘイッ」  
紫煙で霞んだ闇に背を向けて、部屋の中に消える。  
 
――完――  
 

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