龍の噺である。  
その姿は、元来この国では邪悪とされた蛇のような筈なのだが、どこまでも伸  
びやかで美しく、鱗は一枚一枚が宝石のように煌めいている。何より他とは一  
線を画す雄大さは、巫術師(シャーマン)や忍びの者、神々を屠る侍たちとは別  
次元の、力を誇る者達に全てに無力と絶対な力を一方的に与えるようでもあっ  
た。  
京河は龍である。潮の星の名を取る。青玉(サファイア)のような鱗は一つとし  
て乱れることはない。誇り高く、どこかで自らを特に流星とは違うのだと自負  
する節もあった。青の色を司り、水面院を護る。歴代の超自然を学ぶ徒を見送  
ってきた。夢河の流れを割り、一心に護られた水面院は今日も新たな歴史の士  
を排出すべく理を説き、徒も薄皮を一枚一枚かさねるような修練に余念がない。  
 
 
神河は変わりつつあった。  
この日の時の裂け目も、それらに起因するのだろうか。理由がなんであれ遥か  
彼方から辿り着いたのは、幸か不幸かで言えば『不幸』の兆候であったようだ。  
一匹の巨躯なワームは『時』から這い出るなり、飛べずに夢川に落ちた。  
それが京河の機嫌を損ねた。あくまで目の届く範囲といったごく不完全である  
が、彼女は夢川が穢れるのを嫌う。そんなことは知るよしもなく、突然の急流  
にもがくワーム。夢川は一層濁る。  
このままほっておけば勝手に墜ちるか、溺れるかして死ぬだろう。が、彼女の  
不完全完全主義とも言うべき思想が許さなかった。  
京河はワームの胴に喰らいつくと、そのまま飛んで岸に向かった。水面院の守  
護は師弟達だけで事足りる上にそんなに時間を費やすつもりもない。  
地に捨てれば放すか、説き伏せるか、殺してしまうか。服従させるには飛べな  
いというのは京河の仕事上致命的。ならば、てきとうに放せばいい。  
思索する京河の腹に刺すような熱さが走った。  
「貴様・・ッッ!」  
ワームはその禍々しい牙を、京河の腹部につき立てていた。  
「恩も報も知らぬか!」  
京河がいくら怒鳴りつけようにもワームは耳を貸さない。  
−畜生の類であったかっ!−  
京河は自身の誤算に叱責した。神河では智を持つ者達も、遠い次元の果てでは  
言葉を解さぬ畜生と変わらぬ者に成り果てている。永いこと生きてきたが見た  
ことは、これが初めてだった。  
二つの綱を絡ませるように夢川に墜落し、京河はやっとの思いでワームを夢川  
から引きずり出した。  
「汝、喰ろうてやるぞ!!」  
笛の音のような、美声が岸辺でこだました。  
 
京河は、地に揚げてようやくその体躯の大きさを知った。  
−わらわと・・・いや以上か?−  
同等以上の体つきの獣など今まで眼にしたことがない。五色の龍に匹敵するな  
ど、そもそもがそう居ない。だが大きさが強さではない。  
先に動いたのは、京河であった。怯まず、ワームの首筋を食い千切りにいく。  
「何・・・!?」  
硬い。金剛石もものともせぬ京河の歯が鱗で遮られた。力任せにワームは京河  
を地に押し倒し、自ら体をぶつけた。霊験などない原始的な暴力に敗北した。  
「無様・・・わらわがこんな様か・・・」  
ワームの動きがおかしかった。体をくねらせ、何かを探している。ずりずりと  
無遠慮に京河の体を這い、下へ。辿り着いたのは京河の女たる証拠。  
(食欲でなく、肉欲!・・・・畜生でも淫獣か)  
息を荒げワームは体を打ち付ける。男根を挿れたつもりなのか、もともと足り  
ない智慧が性欲で眩んだか、京河の秘所の周りにぶつかるだけで八度精を打っ  
た。それでも、淫獣は果てなどしない。再び打ち付けるように京河の下半身を  
叩く。性交でこの木偶は何も見えなくなっているのを京河は見逃さなかった。  
「わらわの女陰が所望か」  
京河は筋肉を操り、ワームのそれに自ら当てていった。  
本能的に当たったのが淫口だと悟ったワームは一気に欲望の塊を押し込んだ。  
「ッ!なかなかやる・・・」  
既に自らの精でぬらぬらとした男根は締まる膣の中を突き進む。厄介な求愛行  
動はひたすらに噛んでくる事。一つ一つが耐えるのに全身に力を入れた。  
ぐちゃぐちゃとふしだらな音も気にせぬどころか、聴覚からより高揚し、ワー  
ムは咆哮をあげる。  
「図に乗る・・な」  
勢いをつけ、今度は京河が上に乗る。涼しげな瞳に妖しい怒りを灯された。  
「遊んでやるわ。下衆種め」  
先ほどとは打って変わって京河が女陰で男根を飲みにいく。  
「童が。性戯の術などとうに得ておる。おぉ光栄に思え。わらわが死と快楽を  
賜らせてやる」  
無論通じるはずもないが、言わねば気がすまなかった。絶妙に揺れ、ワームの  
全身に快感を与える。抗い様のない快感にワームは身悶えした。京河もその光  
景に愉悦をおぼえていた。  
腹に落ちるような唸り声を揚げたかと思った瞬間。  
「誰がわらわの中で果てさせると言ったか、阿呆が」  
仰け反るワームの喉笛から鮮血がほとばしる。夢川のほとりは噎せ返るような  
精と血の匂いで溢れた。  
 
「さて、どう説明する」  
三匹の巨躯があった。一頭は既に息がない。  
一つは先ほど神河に迷い込み死に果てたワーム。一つは潮の星・京河。  
そしてもう一つは昇る星と称される緑の龍、珠眼。  
京河のしなやかな美しさとは違う、全身に翠の鎧をはべらした圧倒するような  
存在感。居るだけで、空間が歪んでいるようだった。  
「霊(マナ)は緑であった。貴様の僕か」  
「言の葉すら解せぬ者を我は従えぬ。それにこやつは別の世界から来たのは誰  
よりもお前が見たのだろう」  
喉を抉り取られたワームを持ったまま珠眼の元に来た。珠眼の服属でないと分  
かってはいたが、考えるよりも飛んでいた。飛んでいたのはただ珠眼に会いた  
かったのかもしれないが、京河の自尊心はこんな時にひねくれ者にさせる。  
「兎に角だ。こいつはお前が捨て置け。夢川に捨てるのは許さん」  
珠眼はその大きな口でため息をついて見せた。  
「素直になれ。我に会いに来ただけであろう」  
京河の体が強張る。京河に比べ珠眼は飾らない。力を尊重するだけ剛直な性分  
があった。  
「千年生きようと、お前は乙女のままだな」  
「愚弄するか・・・」  
「美しいと言っているのだ」  
ワームのことなど忘れ、珠眼は全身を京河に絡ませ、面と面を合わせた。  
「こうして、戯れるのも久方ぶりだ。いいではないか」  
人が見れば龍が龍を喰っているように見えるのだろう。実際には人の口付けと  
変わらぬ行為すら、雄大な絵になった。  
珠眼は京河と絡み合いながら適当な場所を探した。  
「森だ。お前と最後に交わったのはあの岡の下だ」  
「そうだったか。ではそうするぞ」  
何十本の樹をなぎ倒しながら降りる。京河を壁面側に、並んだ。  
「随分と派手にやられたものだな」  
先の求愛行動の傷跡は小さくはない。何故か珠眼には見られたくなかった。  
「見るでない・・・!」  
横を向いてもいたるところに傷は残っている。  
「可哀想になぁ」  
千年、生きてきた。それでも珠眼にとっては年下の女でしかない。女として珠  
眼の隣に居られるのは嬉しい反面、またしても生来の自尊心が働いた。  
 
可愛がってもらう。相手が相手なので、秘匿にするのとそう多くも隣に居られな  
いのも歯がゆかった。  
珠眼は今、京河の傷を舐めている。ぞくぞくするような感触は次第に猛毒のよう  
に京河の中を駆け巡る。まさかこんな行為が快感をもたらすとは思っても見なか  
った。  
「っつぅ!もう・・いい・・・」  
「おう。ではな」  
流石にワームとは違う。しっかりと当ててから正確に、埋め込む。  
巻きつく力が互いに強くなる。岩にぶつかる。大きく砕けた。百年は擦り減らな  
かっただろう。ぼんやりと珠眼が考えた。  
「わらわは・・・淫らか?」  
美しい声。それも珠眼は好きだった。  
「畜生相手に愉悦をおぼえ。同じ太陽のうちにお前を欲した。・・・ぁわらわは淫ら  
な者であるか?」  
「っくくく・・・阿呆である。阿呆は可愛いものだ。我が愛でてやる」  
-全く二人とも阿呆じゃ。世に名を馳せる『星』などでないわ-  
「そうか。ならばもっと愛でて見せ。花は稀にしか咲かぬぞえ」  
地震。神河全てが揺れたような衝撃を京河が襲う。  
珠眼は大きく息をついて止まる事はない。  
「そっ!そうじゃ。もっと、はぉッ!もっと・・・わらわを愛でてくれ!」  
地震が止む。代わりに断罪の炎のような熱と、叩きつけられて無理矢理与えられた  
ような、快感が京河を包んだ。  
「京河。花ならば『実』もなるものじゃ」  
 
龍の噺である。  
水面院を護った美しい龍の瞳は、ある日を境に母のような温かさを湛えるようにな  
ったというのである。  
 
 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!