「Little Girl 召喚」
――――その一言により、全ては始まった。
「たっだいまー!」
石造りの家の扉を、壊れんばかりの勢いで開いて少女が飛び込んできた。
「マリィ、ドアを開けるときはお行儀良くって昨日も言ったでしょ」
厨房で夕飯のしこみをしていたレイシアはふりかえって少女に告げる。
つむじ風のように家に飛び込んできた少女の名はマリィ=ウィンスタール。レイシア=ウィンスタールはその母である。
12歳のマリィが住んでいるのは、小さな海沿いの村、ボルニッコフである。
都市部から離れたこの村は村民のほとんどが漁師をして暮らす漁村であり、
村は豊かとはいえないが、季節を通して海の恵みが豊富で、つつましい暮らしを送るには絶好の土地であった。
ボルニッコフはシオテヤン大陸の南部、ギシューティン国の南西の沿岸に位置する。
数代前の国王がこの国を統一して以来数百年、ボルニッコフとその周辺部では戦乱の火があがることも無く、
この村には穏やかで平和な時間が流れていた。
シオテヤン大陸を支配するのは人間族であり、この地域にもかつてはマーフォークやエルフなどの知的種族なども
暮らしていたと言われるが、人間との闘争によって彼らは深海や森林の奥深くに追い込まれたとされる。
現在ではそれらを伝承にのみ登場する空想の産物と考える人間も少なくない。
「おーい、漁に出てったやつらが帰ってきたぞー」
家の外から村人の叫ぶ声が聞こえてきた。沖に漁に出た村人達が、獲物をもって帰ってきたのだ。
「あら、今度の漁は早く終わったのね」
マリィは目を輝かせながら飛び上がった。「あたしお父さん迎えに行ってくる!」
「気をつけていってらっしゃ…」レイシアが言い終わらないうちにマリィは家を飛び出していた。
「本当に落ち着きのない子なんだから」不満をもらしつつも愛娘に対するレイシアの口調には優しさがこめられている。
娘が元気で素直な良い子に育ってくれたことに、レイシアは常々神に感謝していた。
「まあ、仕方ないか。一ヶ月ぶりにお父さんに会えるんだもの」ひとりごちるレイシアは気づいていなかった。
それが、彼女が最後に目にした娘の姿であったことを。
浜辺に向かってマリィは走った。久しぶりにお父さんに会える。今日は思いっきりお父さんに甘えよう。
一緒にお風呂に入って、それからベッドでたっぷり土産話をしてもらうのだ。
と、その時マリィは前方に自分と同じくらいの年格好の子供が走っているのを見つけた。
「レリア!」呼ばれた娘は振り返った。レリアはマリィの家の隣に住んでいる、マリィの一番の親友である。
レリアの父も、マリィの父と同じ漁師であり、マリィの父と同じ船に乗って漁に出ていた。
「マリィ!ね、聞いた?お父さん達ホマリッドの大物を捕らえて帰ってきたそうよ」
「へー、あたしホマリッドはカマリッドしか見たことないわ!早く見てみたい!」
ホマリッドは巨大な甲殻類の一種で大きいものは鯨ほどの大きさになる。カマリッドはその幼生である。
そうこうしているうちに、浜辺が近づいていた。もうこの丘を越えれば浜辺はもう目の前。そこにお父さんが待ってるはずだ。
「お父さん!」
浜辺に漁船が泊まっている。なるほど、確かに大人5人分ほどの大きさはあろうかという
巨大なエビのような、今回捕れた大物を漁師達は数人がかりで浜辺に引き上げているところだ。
その男達の中に、マリィやレリアの父もいた。
「やあ、マリィ!元気にしてたか!」マリィの父ゲオルガは娘に気がついて手を振る。
「おかえりなさい!お父さん!」引き上げ作業の真っ最中だというのにマリィはかまわずゲオルガに向かって一直線に突進し、
あわてて網から手を離したゲオルガによって抱きかかえられた。
「おー、暫く見ないうちにまた重くなったんじゃないか」
「やだ、お父さんったら。これでも私女の子なのよ。」
ふん、と気取って大人の女ぶったポーズをとるマリィ。その姿はまだマリィの年では相応に見えず、ほほえましくも笑いをさそう。
「これはこれは失礼しました。お嬢様。ほら、お父さんはもう少し仕事があるから、これを持って帰って
お母さんに料理してもらっててくれ」ゲオルガはマリィに魚の入った”びく”を手渡しながら言った。
「ん、分かったけど…今日は海であったことをいーっぱいお話してよ、約束よ」
「ああ、約束するよ。あ、ちょっとおまち」ゲオルガは家へ戻ろうとするマリィを呼び止めた。
「これ、良い子で留守番してたマリィにおみやげだ」言いつつゲオルガはマリィに虹色に輝く首飾りをかけてやった。
「わ、真珠だ。ありがとうお父さん」
真珠はギシューティンの沿岸では非常に身近な鉱物である。産出量が多いため、それほど高価なものではない。
そのため女性の装飾品として使われることもあるが、それは身分の低い女性向けで、高貴な身分の装飾用の
宝石としての用途にはあまり好まれない。
「真珠貝が網にかかったから、その中から真珠を集めて作ったんだ。くず真珠ばかりですまないが」
「ううん、とっても素敵よ!ありがとお父さん!」
マリィは父親に抱きついて頬にキスをすると、村に向かって走り出した。
「待ってよマリィー」後ろからレリアが追いかけてくる。
「でっかかったねえあのエビったらもう」マリィはレリアを振り返りつつ言った。
「エビじゃないよホマリッドだよ。」
「あんなにでかい生き物見たの初めてだわ、びっくりしちゃった」
「でも、こないだ本で読んだドラゴンやワームってのはもっと大きいそうよ。なんでも山が動いたと思ったら、それが…」
「レリアったら、その話何度目?ワームもドラゴンもお話の中だけの生き物よ。」
「そうかなあ、わたしはドラゴンとかトロールもどこかにいると思うんだけどなー」
「またレリアの夢みたいな話が始まった。そんなのはおとぎ話だけの…」
言い終わらないうちに地面を衝撃が走った。轟音とともに世界が揺れる。
「地震!?」叫んだ少女の目に映ったのは、異様に歪んでゆく世界だった。木々が揺れ大きく曲がったと思うと
梢は地に着いた。空が足下に見え、地面は頭上に浮かんでいる。
マリィは自分が逆さづりになったのかと思ったが、そうではなかった。
彼女は今、巨大な泡のようなものに包まれている。泡から見える景色が光の屈折でゆがんでいるのだ。
その泡に手を触れようとするとその手から先が消滅した。驚いて手を引っ込めると手は元に戻っていた。
ほっと安心したのも束の間、泡の向こう側の世界がめまぐるしく変わっていく。
マリィの知っている世界が消え、どこか知らない別の景色に変化する。
かと思うとまた、彼女のよく見知ったボルニッコフの村の景色に戻る。景色は一瞬ごとに刻々と変化していく。
「レリアーッ!!」レリアは呆然とマリィを見つめている。
見たことのない世界、山岳地や大砂漠、人の大勢行き交う大都市、さまざまな世界がマリィの目に映り、
その移り変わっていく世界が重なりだし、レリアの姿がどんどん薄まっていく。
瞬間、耳をつんざく轟音とともに世界が真っ暗になり、マリィは大空からいきなり投げ出され、
地面にたたきつけられたかのような衝撃を感じて気を失った。
・・・気を失ってからどれだけの時間が経ったのだろう。
目を開いたとき、そこはマリィがこれまで見たこともないような世界だった。
彼方では雷鳴が轟き、耳をつんざく風の音は獣の咆吼のように荒れ狂っている。
足下に広がるのはひび割れた大地と石ころばかりの荒野。風に吹き飛ばされる砂が容赦なく顔を打ちつける。
自分が今どこにいるのか、それを知りたかったマリィだが、あいにくそれに答えを与えてくれる者はここにはいなかった。
空は分厚い暗雲の壁に覆われており、太陽は欠片も見えない。また稲妻が落ちた。
音のした方を思わずみやり、目をこらす。すると地面が途中でとぎれており、
そこから先は完全なる暗闇が横たわっているのが分かった。地面と虚空の海との境界は
雷光のような、青白く輝くあの泡、そうマリィが先ほど包まれたあの泡に似た光が二つの空間を仕切っている。
次の瞬間、暗闇の中になにか渦巻く煙のような、形のない恐怖のようなものを感じ取って
マリィは思わず顔をそむけた。すると反対側にも同じような青白く輝く光の面が見えた。
その先は、また恐ろしい暗闇の海が広がるのかと思ったがそうではなかった。
浜辺育ちのマリィがよく見知った、本物の海だった。といっても、海とこちらの境目は浜辺ではない。
青白い光の境界を境に荒野が突然とぎれ、紺碧の海が続いている。
よく目を凝らしてみると、光の境界と、そのまた向こうにも光に包まれた火山地帯がかすかに見える。
何がなんだか分からなくなって周囲を見渡すと、光の境界はそこらかしこに点在し、
その一つ一つの奥に別の景色が見えるのに気づいた。
まるで、精巧なはりぼてに描かれた様々な世界が集められた中央に自分が置かれてしまったようだ。
もしくは世界の模型が入ったガラス玉の玩具が、大きさをそのまま巨大サイズにして空中に浮かんでいるようにも見える。
その景色は、噴火する火山地帯だったり、はたまた巨大な雲間を泳ぐ天空の城だったり、獣どもの潜む亜熱帯の密林
輝く荘厳な近代建築の群れ、ガスが湧き出す泡立つ沼地、砂漠にそびえ立つ黄金に輝く城・・・・・・
それらは常に揺らいでおり、さながら二重三重の蜃気楼のようだった。
あまりに突然な事態と、流れ込んできた情報量を処理しきれず、幼い少女は気を失いかけた。
しかし、そういうわけにはいかなかった。黒くて巨大な影が、びちゃびちゃと不気味な音を立てながら
彼女の方へまっすぐ向かってくるのに気がついたからである。
"それ"を目にしたとき、マリィはほっと胸をなで下ろした。
なあんだ、これは夢なんだ。
そうだよ、夢でなければどうやって、こんな風邪で寝込んだ時の悪夢かレリアの描いた落書きから
そのまま現れたような化け物が、自分の目の前にいるという事態を説明できる?
今、マリィの眼前でキシキシと金物をすりあわせるような不愉快な鳴き声(もしくは歯ぎしりの音?)をさせている
その物体は、どう形容してよいのか困ってしまうくらいに常識を超えた形状の、奇っ怪な生き物だった。
そう、先ほど述べたように、それはまるで誰かが歌でも歌いながら描き散らした絵みたいに
体のパーツの数、ついている位置、その全てがとにかくでたらめだった。黒光りしたぬらぬらした軟体動物のような体に
いくつもの目玉と口がくっついている。口には鋭い歯が並び、粘りの強い涎まみれの長い舌がそこから
飛び出して、何かを探しているかのように空中をさまよっている。そして、その舌によく似た触手が胴体から
(といってもどこまでが胴体でどこからが顔なのか、聞かれてもはっきり答えるのは難しいのだが)
のびており、触手は途中で枝分かれしている物から、やたらと長く地面をひきずっている物まで
一本一本多種多様だったが、そのどれもがミミズのように粘着性の液に覆われて、常にゆっくりと伸縮している。
その触手から一滴の粘液がマリィの頬へしたたり落ちた瞬間、彼女は初めて現実に引き戻された。
「いやあああぁぁぁぁぁぁ!!」
この生理的嫌悪感をもよおす悪夢のような物体は、残念なことに現実に自分の目の前に存在している。
マリィが生き物(なのか?)を目にして嫌悪感を覚えたのは、父親に動く海綿を見せられて以来だったが
こいつは海綿どころのさわぎではなかった。わけのわからない鳴き声を発しながら
じりじりと近づきつつ、触手をにゅるりにゅるりとこちらに伸ばしてくるこいつは、近くにいるだけで吐き気が襲ってくる。
マリィは踵を返して逃げだそうとした。が、逃げようとした足に向かって、触手が勢いよく伸びる!
哀れな少女は右足を絡め取られて転倒してしまった。
「はなしてえええっ!!」
絶叫するマリィ。だが化け物は少女の哀願を聞き届ける耳は持ち合わせていない。
そもそもどこが耳かも、耳がついてるのかも分からないのだこの化け物は。
粘液まみれの触手の群れは、少女の四肢を抑えつけ、身動きがとれないようにした。
両手両足をじたばたさせて抵抗するマリィ、だが幼い少女の力では怪物の巨体に対してあまりに無力だった。
怪物は少女の体に覆い被さるとその体重でもって、いよいよその拘束を完璧なものとする。
体の自由を奪ったあと、怪物はゆっくりと少女をその幾つもある目玉でぎょろりと眺め回した。
品定めがすんだのか、見るだけでは足りないとばかりに、涎をだらだらと流しながら、
そいつの口の奥から舌がのびてくる。顔をなでる巨大な舌。耳、頬、それから口と、顔全体を探っている。
口に舌先が侵入してくる。「や、やえへ・・・!!!」構わず口中を犯す舌。
「んー!んんー!んんー!!」もはや叫びは言葉にならない。
別の触手が少女の腹をなでる、さらに他の一本が上着を剥がし、服の内側に侵入する。
一本が口中を犯しつつ、二本の触手が上半身を粘液まみれにしながら両の乳首を弄ぶ。
さらに、マリィの両足を拘束していた触手が動いた。ゆっくり、じわじわと、だが強引に股を開かせる。
それまで役目がなく、遊んでいた触手がぶらりとマリィの足の間に垂れ下がった。
(・・・・・・!)本能でマリィは、その触手だけは自由にさせてはならないと直感した。
何とかして触手をふりほどこうと全身で抵抗する、が、無駄だ。
それならばと、ぬめる触手が目的の場所に達しないように、体を捻って必死でよけようとする。
もちろん、そんなことは無意味な行動にすぎない。力の差は歴然であり、触手はマリィが腰を動かすたびに
くねくねと動いてその股間を正確に狙ってくる。化け物から伸びる太くて柔らかいその突起は、
彼女の下着をはぎとり、ついに少女の幼い割れ目があらわになった。
まだ誰にも侵入を許したことのない無毛のそれは、触手の粘液と失禁した尿にまみれて、まるで愛液があふれだしたかのように
なっている。もちろん彼女自身はこの状況に恐怖以外の感情など感じてはいない。
そこへ、股間の両側から二本の触手がのびてきて、幼い花弁を両側からぱっくりと開いた。
「んんーーー!!んーー!!」
触手の先端がついに目的としていた地点に達した。そう、薄ピンク色の汚れ無き少女の花弁に――――