「あら…?」
暗がりの中に誰か…走り方が不自然な人の影が見えた。
タツマイリ村の東側に住んでいるダスターさんかな?
近くに来たので、
「こんばんは」
と軽く挨拶。やはりダスターさんのようだった。私が確認できていなかったらしく、ダスターさんはは少し驚いて、
「やあ」
とだけ言って、去っていってしまった。
それにしても、あのダスターさんが動くなんて珍しい。
その後私は、バザールで用事を足し、YADOに戻った。
翌日、井戸の方に人だかりができていた。
事情を聞くと、ダスターがんがブッチちゃんの「カネ」というものを盗んだんだとか。
私は耳を疑った。ダスターさんは、いくらドロボーの技術をもっていても、今までで一度も人のものを盗んだことなどなかったのに。
きっと何かの間違いだと思い、ダスターさんを探し出そうとした。すると、ウエスさんと…見知らぬ女の子?がやってきた。
それを確認するやいなや、ブッチちゃんはウエスさんに向かって、
「ウエス爺さん!ダスターの野郎はどこだい!?」
と、早速質問しはじめた。それも、怒鳴りながら。
ウエスさんはわからないといった表情でブッチちゃんを見ていた。
「ダスターだけに、この井戸にカネの入った袋を隠した事を教えたら、それが無くなっていたんだ!ってことは、犯人はダスターだろう!?あれは俺のカネなんだぜ?」
近くにリサさんがやや不満そうな顔をして、
「だから…さっきから言ってるけど、貴方が何でそんなもの持ってるのよ。大体、カネとやらって何のことよ!」
ブッチちゃんと同じく声荒く質問した。
それにつられて、ブレンダさんも、
「どうもおかしな話だねぇ…」
と相槌をうった。
私も何か言うべきかと思ったけれども、まだ話がよく飲み込めていないので、何も言わなかった。
すると、ブッチちゃんが
「うるさいうるさいうるさーい!」
あわててそう叫んだ。続けて、
「ウエスもダスターもなんだかんだ言ってドロボーだろ!?この村に盗む物が無かったからドロボーを休んでたんだろうけど、
カネみたいないいものを見たらやっぱり盗むんじゃないの!?」
そうも言った。
「ちょっとブッチちゃん、それは…」
私がそう言うのと同時に、ウエスさんの隣に居た子が大声で
「黙って聞いてやりゃいい気になりやがってこの野郎!」
そう怒鳴るとブッチちゃんに向かって行った。
身の危険を感じたのか、ブッチちゃんはビフさんの背後に回って
「誰だよ、お前は…?ドロボーの仲間か?暴力反対!」
なんて言いながら、その子に向かっても文句をたれていた。
そんな殺伐とした雰囲気の中口を開いたのはフリントさんだった。
「ブッチもみんなも、一旦落ち着こう。ダスターが居ない所で幾ら騒いでも、何も分からないだろう?
…俺も村の人達も、あんたたちを信じてる。今はとにかくダスターが戻るのを待とう。」
その言葉を聞いて、みんな少し落ち着いたみたい。まだ女の子とブッチちゃんは睨み合ってるけれども…
「あの…あほ……早く帰ってこい…」
ウェスさんが呟いた。私も落ち着いたので、YADOに戻ることにした。
あの日の次の日も、その次の日になっても、ダスターさんは帰ってこなかった。
どうしたものか、ウエスさんの家を尋ねてみた。
「おや、テッシーさんじゃないか。何か用事かの?」
早速ウエスさんの家に上がらせていただいた。
入って右側のテーブルの方に、ブッチちゃんと言い合っていた女の子が座っていた。
「はじめまして…では無いですね。私はテッシーです」
「クマトラだ。宜しくな」
お互いに自己紹介を済ませた後で、あの日の夜に何があったのか聞いてみた。
オソヘ城最上階の【お宝】を手に入れる為に、ダスターさんとウエスさんとで進んでいる最中、罠にかかったクマトラちゃんと合流したこと。
そして、最上階に辿り着いたと思いきや、オバケとは違う【敵】に出会い、テンパって【お宝】の罠を発動させてしまったこと。
その際、水に流された三人のうち二人はタツマイリに流れ着いたけれども、ダスターさんはまだ見つかっていないこと。
【お宝】については【お宝】としか言ってくれなかった。きっと、普通じゃないものなんだろうなぁ…
「あのあほは未だに見つかっておらん。あの日からずっとそれらしき所を探しておるのじゃが、靴の一つも見つかっておらん」
ウエスさんは言った。言葉はぶっきらぼうでも、心配しているようだった。
「オレが罠にちゃんと注意していれば…ダスター、ごめん」
クマトラちゃんもダスターさんを探していたのか、服がやや濡れている。
ダスターさんは一体何処に…無事であってほしい。
あれから早3年。フリントさんはまだクラウスちゃんを探し続け、ウエスさんとクマトラちゃんもダスターさんを探していた。私はYADOの仕事で忙しかった。
「いらっしゃい。YADOへようこそ」
入って来たのはブロンソンさんだった。と、入ってくるなりジャッキーさんと話し出した。どうやら世間話のようだった。
「今日もコーバで働いてきたんだ。肉体労働ばっかでクタクタだよ」
「そ、そう。たいへんだったね」
「…ところでジャッキー、DCMCは知ってるよな?」
「し、しってるよ。そ、それぐらい…」
「DCMCのベースにタメキチってやつが居るんだ。だけど、どうにもそいつが行方不明のダスターに似ててな…?」
「ブロンソンさん!それは本当ですか!?」
「おわ、なんだテッシー、どうかしたのか?」
あの事件以来、久々に聞いた名前だった。私は堪らず、ブロンソンさんに聞いていた。
「DCMCのベースの方はダスターさんなんですか!?」
「とりあえず落ち着け……あくまでも似てるだけなんだ。それに、あいつがDCMCに居る理由なんてわからんし、ダスターだと決まった訳じゃない。」
「そうですか……」
納得のいく返答を得られずに残念だったが、それと同時にコーバへ行こうと思った。
ブロンソンさんが帰った後、ジャッキーさんに休みをもらえないか相談した。
ジャッキーさんは少し驚き、言葉を噛みながらも「いいよ」と言ってくれた。
「電車は歩いていくより疲れません。それに、とても早く目的地に到着します。
コーバ行きの電車は、お一人様2500DPになっております。」
コーバ行きの電車賃は高いと聞いていたけど、私の想像を遥かに超えていたのに驚いた。
一ヶ月間どんなに頑張っても、およそ1000DPしか稼げない私にとって、その額はあまりにも厳しいものだった。
「あのー…250DPほどにはまけて頂けませんか?」
すると駅員の方は驚いて、
「え…まさか電車に乗るおつもりで?この電車はコーバで働いている人しか乗らないもので…いや、そのような事を言われるとは意外だったんです。
因みに、コーバで働いている人は一人50DPなんですよ。ですので、一度コーバで働いてみては如何でしょう?」
と言ってきた。私は少し考えて、
「日帰り労働でもその値段にになりますか?だとしたら、働かせて頂きたいのですが…」
この結論を出した。流石に2500DPは払えないし、かといって歩いて行くとしたら日が暮れてしまうし。
「ええ、大丈夫です。……それでは、50DP確かに頂きました。電車は後10分程でこちらに到着します。そちらのベンチにお掛けになってお待ちください」
良かった。財布には600DPしか入っていなかったので、ここで駄目と言われると休みを貰った意味がなくなってしまう所だった。
…きっかり10分後、コーバ行きの電車が到着した。
「こちらはクラブ・チチブー行きのロープウェイです。」
タツマイリから1時間強、電車に揺られてコーバに到着した。
【ああ、今日も何か素敵なレジャータイムが欲しいなぁとお思いの貴方。クラブ・チチブーは宜しくお願いしています。強烈な違和感を、貴方に!】
の看板が真っ先に目が入り、その案内通りに北のロープウェイ乗り場に向かったのだけど…
「…チケットをお持ちでないようですね。残念ながら、チケットの無い方にはお乗せすることが出来ません。」
と、ロープウェイの方に止められてしまった。
「お尋ねしたいのですが、そのチケットは何処で入手するのかご存知ありませんか?」
ロープウェイの方は、
「確か…工場の方で働いた方が、【疲れを癒す】の名目でチケットを手に入れたと聞きました。恐らく、労働手当てとして入手するのではないでしょうか?」
少し考え、こう言ってくれた。
「そうですか…有難う御座います。恐らくもう一度ここに来ると思いますので、その時にまたお願いしますね。」
私としたことが迂闊だった。DCMCのベースの方がダスターさんかを確かめることが頭に焼きついて、一日労働の件を忘れていた。
駅員さんに指示された場所に行き、仕事の内容を聞いた。どうやら、私は工場の食堂で働けば良いらしかった。
自分で言うのもあれだけど、私は料理はできる方だと思っている。それもあり、食堂の労働もさして苦にはならなかった。
「ほい、これが日当。それと、チチブー行きのチケットね。今日一日お疲れさん!」
驚いた。なんと、一日働いただけで100DPもの稼ぎだった。違う土地の労働ってのは、こんなにもタツマイリと違うものなのかなぁ…
それはおいておいて、早速ロープウェイの方へ向かった。ロープウェイには、昼間会話した方が立っていた。
「こんばんは。夜も遅くにお疲れ様です。今度はちゃんとチケットを持ってきましたよ」
「おや、貴方は。コーバでの労働はどうでした?」
「さしてタツマイリと変わりませんでした。そのおかげで、失敗することなく働けました。」
「なるほど、それは良かった。……はい、確かに。どうぞ、お乗りください。」
軽く世間話を交し、私はゴンドラに乗り込んだ。
肌寒さを感じた。なにしろ、ここは山の上だ。強い風が吹く。
「チチブーはすぐそこです。ところで、そこの双眼鏡を覗いてみては如何でしょう?」
チチブー側のロープウェイの方に案内され、双眼鏡を覗きこんでみた。
あれは…なんだろう。金属らしき柱が連なっていて、上の方にまあるいのがついている。
途端、雷の音がした。目を瞑ってしまったが、その音がした時に、あのまあるい何かが激しく光ったような…?
いけないいけない、当初の目的を忘れる所だった。私は双眼鏡を覗くのをやめ、チチブーに行く事にした。
「ハァイ。クラブ・チチブーへようこそ。うっふん」
早速ウェイトレスの方が話しかけてきた。最後の「うっふん」は…なんなのかしら?
丁度良い機会だと思い、私はタメキチさんに会えないか尋ねてみた。
「ごめんなさぁい、DCMCのメンバーとは直接は会えないのよ。でも、たまにトイレに行くのを見かけるかしら?うっふん」
…ここのしきたりだと思うけど、YADOで働いている私にとっては、ちょっとだけ不快だった。
お礼の言葉を述べて、トイレの方でダスターさんが来ないか待っていた。
15分ぐらい待ったけど、来る気配が無かったので、演奏会場に向かおうと思った時だった。
ダスターさんだ。あの、ちょっと貧乏な感じがするけど格好のいいダスターさんだ。
私が見ているのに気が付いたのか、ダスターさんは一言
「やあ」
と言い、トイレに入っていった。
この感じ、間違いない。3年前、ダスターさんを見た最後の夜と同じだ。
ダスターさんが出てくるのを確認し、早速詰め寄った。
「ダスターさん!私です、テッシーです!覚えていますか?」
やや声が荒くなったけど、仕方ない。
「ダスター…?俺の名前はタメキチだ。それに、君は今初めて見たよ」
…え?ダスターさんじゃない…?…そんな筈は?
頭の中がグルグルしている、やや放心状態の私に、
「悪いけど、もうすぐライブが始まるから、俺は行く。
君もライブを見にきてくれないか?」
そう言い残すと、去っていってしまった。
まだ現状の整理がままならないないまま、ライブを見にいった。
が、そのモヤモヤも初めてのライブの熱気で吹き飛んだ。
溢れる熱。伝わる気迫。流れてくる音楽。ライブって、こんなものだったんだ…
私はさっきまでの事を忘れて、ただひたすらこの心地良い時間を満喫した。
一通りの演奏が終わった後、だいとかいコーラを飲みながらアンコールを待っていた。
「あれ、もしかしてテッシーさん?」
後ろで呼ばれたので振り返ると、そこにはリュカちゃんが立っていた。
「どうしたの、こんな所で?」
まさかリュカちゃんがこんな店に来るとは思ってもいなかった。
「うん…ちょっと訳があってね。ところでテッシーさん、DCMCの演奏は聞いた?僕、来るのが遅くて…」
ありゃりゃ、それは残念。いい演奏だったのになぁ…
「うん、とっても良かったよ。でも、アンコールであと一曲あると思うから、待ってるといいよ」
「ほんと!?よかったぁ。…ところで、ベースを弾いているタメキチって人がダスターさんに似てるって聞いたんだけど、どう?」
聞かれてはっと思い出した。また当初の目的からずれてる…私って忘れ癖ひどいのかなぁ?
「確かに、あのベースのタメキチさんって、ダスターさんに似ているのよね。だけど、なーんか違うよな気もするのよ…」
改めて考えると、髪はアフロだったし、態度もそっけなかった気がするし…やっぱり人違いなのかしら?
「ピンポンパンポン…間もなく、DCMCのアンコール演奏が始まります。間もなく、DCMCのアンコール演奏が…」
「あっ、演奏が始まる!それじゃあテッシーさん、またねー」
アナウンスを聞いて、リュカちゃんは席についた。私もどこかに座ろう。
アンコール演奏が終わった。演奏中、タメキチさんを見ていたけど…
やっぱり、ダスターさんじゃないかしら?確かにアフロではあるけど、演奏中にポンって飛んだような…ウィッグ?
とにかく、完全には確かめられないが、似ているという事実は確認できたので帰ろうと思った。
「あっ…」
ふと尿意が襲う。さっき、だいとかいコーラを飲んだからかな?
人もぽつぽつと帰り始めたが、私はそのままトイレへ向かった。
意外にも長蛇。前の方には4人ぐらい並んでいた。
ちょっと、ほんのちょっとだけ不安になったけど、大丈夫。4人の間ぐらい我慢できる。
……ようやく私の番にまわった。後ろには誰も居なかったので、少しだけトイレでくつろいだ。
あと一人間に入っていたら、危なかったかも。
用を足してトイレから出ようと思ったら、遠くの方で二回音がした。こう、ビンタみたいな音が。
何事かと思って音の方に向かってみると、人影が見えた。それも、三人…四人ぐらいの。
とっさにカウンターの中に身を隠して、様子を伺った。
出てきたのは、リュカちゃんとクマトラちゃん、ボニーちゃんにタメキチさんだった。
これは一体…?リュカちゃんにボニーちゃんにタメキチさんは分かるとしても、クマトラちゃんまで?
「どうした?」
あれこれ考えていると、クマトラちゃんがタメキチさんにそう言っていた。
「…ステージに、誰か居る」
と、タメキチさんが言うのと同時に、ホールの方から音楽が流れてきた。
もう演奏は無い筈だった。なにしろ、カウンターにもどこにもウェイトレスは居ないし。
タメキチさんの様子を伺ったのか、二人と一匹は出ていってしまった。
そう、タメキチさんは泣いていた。その演奏を聞いて。
「トンダゴッサ…。ありがとう、みんな…。」
呟くと、アフロ…アフロのウィッグをとり、足元に置いた。そして、外に出ていってしまった。
間違いない、あれはダスターさんだ。
クマトラちゃんの様子を見ても、さっきの様子を見てもわかる。絶対にダスターさんだった。
結局ダスターさんと口を聞いたのはトイレの場面だけ。それも、ほんの僅かな時間。
それでも、その後で本人だとわかる出来事があった。それだけで、目的は果たされた。
3年のブランクの事について色々と話したかったけれども、とても話せる余裕は無かったし、それは仕方がない。
ダスターさんは生きていた。本当に良かった。その事実だけで、今日コーバまで来た収穫があった。
リュカちゃんにクマトラちゃんもついてるから、これからもきっと大丈夫!
さあ、私はYADOに戻ろう。今日一日休んだ分、急いで取り戻さないと!