明日、わたしたちロボットになっちゃうのね・・・。  
 
最後の戦いを明日に控え、ネス一行はどせいさんの村、サターンバレーで  
夜を明かす事にした。今まで幾度となく難解なピンチに立ち向かってきたが、  
明日はそれ以上のものに立ち向かう事になるのだろう。  
 
「ねぇ、ネス起きてる?」  
「ん?」  
ポーラが隣で寝ているネスに話し掛ける。ネスはポーラに背を向けて横になった  
まま、返事を返す。ネスも、もちろんジェフやプーも眠れないのであろう。  
「ポーラ、早く寝ないと。」  
ジェフが起き上がって言う。  
「寝不足ではPKが上手く使えなくなるぞ。」  
と、プーも半身を起こす。  
「そうね。起こしてごめんなさい。」  
ポーラはそう言うと自分の布団の中へ潜り込んだ。  
明日になり、ギーグと戦って、もし負けたら・・・。  
勝ったとして、二度と人の姿に戻れないとしたら・・・。  
わたし、みんなの足手まといになりたくない・・・。  
ポーラは布団の中でひとり、明日への恐怖に怯えていた。  
「ネス・・・わたし不安だよ・・・。」  
そうネスに伝え、この不安を取り除いてもらいたい。しかし、大事な戦いを前に  
ネスもきっと・・・いや、みんな怯えているだろう、とポーラは思い、自分のワガママな  
思いは伝えない事にした。  
みんな、もう寝てしまったんだろうか?  
ポーラは布団から顔をだし、様子を見た。  
みんなの寝息が聞こえる。  
ポーラは布団を抜け出し、みんなを起こさぬよう、そっと温泉へ向かい歩き出した 
 
服を脱ぎ、温泉に浸かる。  
温かい温泉が気持ちを落ち着かせる感じがした。  
ふぅ、とため息をつくと、思い切り足を伸ばした。  
生きている、という安心感と、心のもやもやが晴れていきそうな安堵感がポーラを  
優しく包む。  
「わたし、絶対負けない。」  
ポーラは声に出して言った。それは、寝ているみんなへのメッセージと共に、  
自分へ言い聞かせるものだった。  
 
温泉から出ようと、立ち上がる。  
その時、温泉の湯気の向こうに、人影が見えた。  
その人影は温泉に向かい、むかってくるようだった。  
「やだ。早く服着なきゃ・・・。」  
ポーラは焦って服を自分の元へ引き寄せる。  
「ポーラ?」  
聞き覚えのある、優しい声がした。  
「ネス?!」  
ポーラは急いで服を着た。  
人影に近付くと、そこには腰にタオルを巻いただけのネスの姿があった。  
「きゃっ!」  
ポーラは両手で顔を覆うと、  
「ご・・・ごめんなさい・・・。」  
と、ネスに謝った。ネスも、自分の姿を思い出した様に、  
「あ・・・いや、ごめん・・・!!」  
と、謝り、後ろを向いた。  
「あの・・・眠れなくて・・・。」  
ネスがポーラに言う。ポーラも、両手を顔にあてたまま、わたしも、と答えた。  
「あ・・・わたし、入ったし、もう戻るね。」  
ポーラが急いで帰ろうとすると、ネスがポーラの腕を優しく掴んだ。  
「え?」  
「ポーラ・・・変な意味に取って欲しくないんだけど、一緒に温泉に入らない・・・?」  
「え・・・?あ・・・。」  
ポーラはどう答えて良いのか分からず、顔を真っ赤にしてその場に立ち尽くした。  
「あ・・・ごめんね、変な事言って・・・。」  
ネスの手がポーラの腕から離れた。  
「もう遅いし、早く寝た方がいいよ。・・・さっきの事は忘れて・・・さ?」  
照れ笑いをしながらネスは言った。そして温泉の中にそのまま飛び込んだ。  
 
ネスは反省していた。なぜ、年頃の女の子にあんな事を言ってしまったのかと。  
温泉に頭まで浸かりながら、「これじゃ変態だよ・・・」と心の中でつぶやいた。  
プハっと思い切り頭を外に出す。肺に入ってくる空気がなんとも心地良い。  
明日、またポーラに謝ろう、と思いながらネスは温泉を泳ぎだした。  
「ん?」  
温泉の端の方に人がいる。・・・ポーラだ。  
「ぽぽぽ・・・ポーラ?!」  
あやうくおぼれかけそうになる。  
「あのっ・・・ぼく見てないから・・・!」  
慌てて後ろを向き、温泉の反対側へ行こうとする。  
「待ってネス!」  
ポーラがそれを制止する。  
「わたし、ネスと一緒にいたいの。」  
ゆっくりとネスに近付き、ネスの手を握る。  
「ネス、わたし・・・。」  
怖くて不安でたまらないの、と続けようとした言葉を飲み込む。  
「不安なのはネスも同じ。わたしが安易に言ったらその不安がネスの体に広がるだけ。」  
ポーラは改めて自分に言い聞かすと、ネスを自分の方に向かせた。  
「ネス、これ見て。」  
と、自分の腕をネスの目の前に出した。そこには5cmほどの傷跡があった。  
「これ、覚えてる?わたしがスターマンに襲われた時、避けようとして  
  転んじゃった時に出来た傷。あの時恥ずかしくて、痛くてもうホントに  
  泣いちゃいそうだった。・・・でもネスが攻撃もせずにすぐわたしのとこに  
  来て、ライフアップしてくれたよね。あれ、すごく嬉しかったんだから!」  
「あぁ、そういえばそんな事もあったね。でも泣きそうになりながら頑張ろうと  
  必死だったポーラ、凄く可愛かったよ。でさ、その後のフライパン攻撃、  
  すごかったね。スターマン怯えててホントに痛そうだったよ。」  
「やだ!そんなことまで覚えてるの?」  
ハッとポーラはネスの言葉を頭の中でリフレインさせる。  
『可愛かったよ。』  
 
ポーラの顔があっという間に赤く染まっていく。  
「わっ!どうしたのポーラ!茹っちゃった?!」  
ネスがポーラの体に触れた。何も着けていない肌に。  
「亜qwせdrftgyふじこpl;」  
ポーラはいきなりの事にパニックになった。  
ネスは、本格的に茹ってしまったのかと思い、お姫様だっこでポーラを抱え上げた。  
「あ。」  
二人の時が一瞬止まる。お互い何も着けていないに等しい姿を、思いっきり  
見てしまったのだから。  
「きゃーーー〜〜っ!」  
「わわわわわわっ!!!」  
ネスが手を引っ込める。ドボーンという音と共にポーラが温泉に落ちる。  
「ごめめめめ・・・そんなちゅもりじゃぁぁあなくてぇえええ・・・。」  
ポーラが湯の中から顔を出す。  
「もー!ネスのバカっ!」  
「ごめん・・・あの・・・何でも言う事聞くから許して・・・。」  
「そんな命令したい事なんてないわよぉ!もー!ネスのバカバカバカ!」  
「ごめんね・・・。ははっ。」  
「何がおかしいのよ!もうっ!ふふっ。あははははは。」  
言い合い(いつもポーラの独壇場だが。)をしたあとは決まって笑って終わる。  
それがふたりの終結宣言であり、仲直りの仕方だった。  
「あ、そうだ。言う事聞いてもらおうかな!」  
ポーラがニコっと笑ってネスに言った。  
「え?・・・難しいこととかやめてね。」  
ネスは少し怯え気味に答えた。  
「キスして。」  
「はぃ?」  
 
突然の事にネスの笑いが止まる。  
「だから、キスして!って命令なの!」  
ポーラは顔を耳まで真っ赤にしてネスに訴える。  
「え・・・でも・・・いいの?ポーラ初めてじゃないの?」  
「初めてよ!でもいいの!ネスの事好きだから構わないのっ!・・・好きだから・・・?あっ・・・!」  
ポーラは自分の言っている言葉にはっとした。  
二人の時がまた止まる。  
「あ・・・、いや、なんていうか・・・ネスの事好きっていうのは友達として、  
  っていうか・・・あの・・・。」  
ポーラは自分でも何を言っているのか分からなかったが、とにかく弁解した。  
本音を言って嫌われたりこの関係がおかしくなったりするのが怖かったから・・・。  
ふと、ポーラはネスの顔を見る。なぜ何も返してこないのだろうかと不安になったからだ。  
ネスは、いつものとぼけた顔ではなく、少し大人びた、まっすぐな瞳でポーラを見ていた。  
そして、「ごめん。」と言った。  
ポーラの目に涙が溜まっていた。  
「もう、おしまいだ。ネスとは今までみたいに付き合えない!」  
そう思い、ポーラは涙を流した。目を瞑り、ネスの顔を見ない様に涙を流した。  
そっと何かがポーラの唇に触れた。その何かはすぐに離れた。  
驚いて目を開けると、ネスの顔がポーラのすぐ近くにあった。  
「え?」  
ポーラは事態を認識できないまま、ネスを見た。  
「ごめんね。女の子から言わせるなんて。」  
ネスは言いにくそうに言った。  
「ぼくもポーラの事、好きなんだ。でも、伝えたら、この関係が終わってしまいそうで  
  怖くて言えなかったんだ。明日、無事に帰れたら真っ先に言おうと思ってたんだ。」  
ポーラは事態が少しつづ飲み込めてきた。  
「ポーラから言ってもらうまで自分の気持ちを伝えれなかった自分が情けないよ・・・。」  
ネスは心から後悔している様子だった。ポーラは、嬉しい半面、ネスの心中を思い、複雑だった。  
「ねぇ、ネス、わたしたち、もう両思いなんだよ?こんなに嬉しい事、ないじゃない!」  
ポーラは極めて明るく言った。  
「ネス、そんな顔しないで。」  
ポーラはゆっくりとネスの唇に自分の唇をつけた。  
ネスは、「そうだね。」と言い、ポーラの体を抱き寄せた。  
 
 
「っかぁ〜!見てらんないよ!ネスのやつぅ!」  
「う・・・うむ。情けない奴だ・・・。」  
草葉の陰に隠れて羨ましがる影がふたつ、甘いくちづけを楽しんでいるふたりを見つめていた・・・。  
 

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