あたいの名前はポーラ。今は訳あって、監禁されている。まあ、煩わしい子守から解放されて、楽には楽なんだけど…
「あー…退屈だわ…」
備え付けのベッドに寝転びながら、独り愚痴る。
表向きにはHH教団に誘拐されたって事になってるけど、実際にはちょっとしたアバンチュールを求めて、あいつら付き合ってあげただけの事。そうでなきゃ、あたいがあんな奴等に捕まるわけが無い。
てか、ぶっちゃけ今監禁されてるこの小屋も、あたいのPKファイアーを使えば楽に抜け出せるんだよねー。
「何か面白い事ないかな…」
そうそう…あたいは夢の中で、ネスって少年に出会った。そいつは世界を救う旅に出てて、あたいも付いて行かないといけないらしいのよねー。何かめんどくさいわ…
そんな事はまあいいわ。問題なのは、そのネスって少年が美形かどうかよ。あたいって結構面食いなのよね。
「さてと…いつも通り定時交信しようかな…」
あたいはテレパシーを送るため、意識を集中させる…これでも地元では超能力少女って持て囃されてるのよ。
…よし、繋がった。
『…………しはポーラ、わたしはポーラです。私の呼びかけを感じますか?ネス助けて!助けにきて!ここがどこなのかわからない。…遠くから水の流れる音が聞こえる…。ネス!ネス、助けにきて!』
……とまあ、こんなところでいいか。何気に緊迫感が出てていい感じだわ。今頃必死になってあたいを探してるんだろうね。
自分を必死になって探すネスの姿を想像し、笑みを零すポーラ。と、そんな時小屋の扉が開き、何者かが中に入ってくる。
「気は変わったかね?ポーラ君…」
カーペインターだ。HH教団の宗祖にして、あたいの誘拐を企てた張本人。
「いえ、あなた達には従いません。」
「おいおい、自分の立場が分かってるのか?」
そう言って傍からしゃしゃり出て来た肉達磨は…確かポーキーだったけ?…まあ、どうでもいいわ。それに、立場が分かってないのはあんたの方でしょ。
ポーラは心の中で失笑する。
「そうかね…君の力があれば世界を平和に出来るのだが…」
世界の平和ねー…言ってる事は素晴らしいんだけど、世界を青く染める事と平和に何の関連性があるんだか…カーペインターの呟きを聞きながらあたいは思う。
それに…こいつからは、何かとてつもなく邪悪な意思を感じるのよね…まあ、それがあたいの拒む大きな理由なんだけど…
「まあ、いいでしょう…時間はまだまだある…じっくり考えなさい…」
そう言ってカーペインターは小屋を出て行った。
…で、何であんたが残ってるのよ?
「まだ何か?」
その場に一人残る肉達磨に冷たく声を掛ける。
「へへっ、別に。」
何かいやらしい目付きなのよね…この肉達磨…
少し気になったあたいは、こいつの思考を読み取ってみた…案の定、こいつはいやらしい事を考えていた…
「ふーん…あんた今、いやらしい事考えてるでしょ?」
「…テレパシーねぇ…勝手に人の心覗いて楽しい?」
嫌味ったらしく肉達磨が言ってくる。
「別にテレパシー使わなくても、あんたみたいなエロガキが考えてそうな事ぐらい分かるわよ。」
嫌味には嫌味で返すのがあたいの信条。
「ぐっ…言わせておけば…」
肉達磨の顔がみるみる赤くなっていく。
あー怒ってる怒ってる…だいたい、嫌味であたいに勝とうなんて百年早いわよ。
「今にみてろよ…」
そう言いながら肉達磨は、自分のズボンのポケットを漁りだす…そして取り出したのは…
「これが何か分かるか?」
「鍵でしょ?ここの檻の。」
「そうだ。今から入ってやるからな。」
肉達磨は檻の鍵を開けて中に入ってきた。そいつの黒々とした意思がひしひしと伝わってくる。
「…そんなにわたしを襲いたいの?」
「ああ。」
そう言って肉達磨が迫ってくる。シチュエーションとしてはなかなか面白いけど、あんたはあたいの好みじゃないのよね…
あたいは意識を集中させる、肉達磨はそうとう頭に血が上っているらしく、自分の犯したミスに気付いていない…
「アチィ!!な、何だ!?」
突然肉達磨の服が燃え出す。あたいが放ったPKファイアーだ…
肉達磨が怯んだ隙に、あたいは檻から抜け出す。そのまま檻の鍵を閉めてやった。
「お、おい!待て!!」
「待てって言われて待つバカはいないわよ。」
バカはほっといてあたいは小屋を後にする。
ここにいる事にも飽きてきたし、もう帰ろう…と村に続く洞窟に入った時の事だ…
あたいは油断してた…今考えれば、あのバカを懲らしめてやった事で頭が一杯で、周囲に気が回らなかったのだろう…それに、自分の力を過信しすぎていた…だから、あんな事に…
「ん!?うんんー…」
あたいは不意に後ろから口を押さえられ、羽交い絞めにされた。
気付けば数人の信者達に取り囲まれていた……あたいのテレパシーで感知できなかった…なぜなら彼らには心が無かったから…その事に気付いた時には鳩尾を殴られ、薄れていく意識の中で自分の甘さを悔いた…