きみのこえ  
 
きみのこえが、空を渡り、  
いつか、僕の元に届くだろうか。  
いつか、僕の想いが、君に伝わるときが来るのだろうか…  
 
●  
 
僕等はツーソンのホテルに一泊していた。  
トンブラブラザーズのカオス劇場ラストライブまで、一日の時間が必要だったのだ。  
流石にポーラの家に泊まるわけにもいかず、  
こうして決して安くないお金を払ってホテルに泊まっていた。  
「ねぇ…ネス…」  
「ん?」  
ベットに座ってバットを磨いていた僕に、椅子に座っていたポーラが僕に声を掛ける。  
「私を助けるとき…怖かった?」  
ポーラがそんな事を問いかけてきた。それに僕はこう答えた。  
「そりゃ、怖かったよ。でも、ポーラが監禁されている時の不安を考えたら、そんなことはないさ」  
と言って、僕はまたバット磨きに戻る。  
うーん、僕なんかかっこいい事言ったなぁ…  
しかし、ポーラは、ツーソンに戻ってきてから何かおかしい。  
リリパットステップの音を取りにいくときは、戦闘も率先して、そのじゃじゃ馬さを見せ付けていたのに、今は、ボーッと窓の外を眺めていたり、時折ため息をついたり。  
どこか、調子が悪いのかなぁ……  
まだまだ子供で経験不足なネスには分からなかった。それが恋の悩みだと言う事は。  
 
●  
 
その夜、僕はガタッという物音で目が覚めた。  
旅が始まってから、体が常に緊張状態にあるのか、小さな物音でも眠りがさめてしまう。  
僕は、頭の近くにある電気スタンドの明かりをつけて、その音源を探る。  
……………?  
何も…ない?  
部屋中見回しても、何か変化は見当たらない。  
だが、その風景に僕は違和感を覚えた。  
何かが足りない…………  
頭の中でこの違和感の正体を探る。  
が、何も見つからない。  
ふと、僕の隣のベットを見る。そこにあるはずの姿がない。  
ポーラがいないのだ。  
「ッ!?ポーラ!?」  
僕はポーラの名前を呼ぶ。だが、返事は無い。  
代わりに、ドアを開けるギィっという音が部屋に響いた。  
「お客様、もう夜更けでございます。他のお客様の迷惑になりますので、お静かに…」  
そこから姿を現したのは、ホテルのボーイであった。  
どうやら、部屋の見回りに来ていたようだ。  
「すいません……あのッ!僕と一緒にいた女の子を知りませんか!?」  
僕はボーイに聞いてみる。  
「お客様と一緒にいらっしゃったお嬢様なら…先程外に出て行かれましたが?」  
僕はその言葉を聞くと、すぐにドアから部屋を出る。  
視界の片隅に、ホテルボーイが手をすり合わせているのが見えたが、  
今はチップをやっている場合ではない。  
僕は少し罪悪感を残しながらも、それを無視し、ホテルを出る。  
 
 
開けた道路には、車は通っておらず、街灯だけが町を照らす光であった。  
「ポーラッ!?ポーラッ!?」  
僕はポーラの名を叫ぶ。だが、どこからの返事は無い。  
ポーラ一人の足ではそう遠くに行けない筈だ。  
僕は、隣の自転車屋さんのモニターのマウンテンバイクに目をやる。  
………ごめんなさい!  
PSIで繋げてあったチェーンを切り、僕は全速力で自転車を漕ぐ。  
交差点、デパート、ヌスット広場、ポーラスター幼稚園。  
どんどん風景が変わっていくが、何処にもポーラの姿が無かった。  
一体何処に!?  
僕の焦りはどんどん増して行く。  
そして、僕の考えはどんどんネガティブな方向に向かっていくが、  
それを全て振り払う。  
なんで、でていったんだ!?  
僕は必死に自転車を漕ぐ。  
バスターミナルの洞窟付近にも向かってみるが、  
そこには、蠢く植物どもしかない。  
てか、囲まれた!  
あるくキノコ、あるくめ、それらの大群が、僕の周りを包囲していた。  
こんなときに!!  
僕の焦りを知ってか、知らずか、どんどん植物どもは増えていく。  
あるくめが種を撒き、あるくキノコが仲間を呼び寄せるのだ。  
チッ…  
僕は自転車を捨てて、ここを走り抜ける決意をする。  
そして、僕は比較的集まりが薄いところを目掛けて走る。  
植物たちは慌てて、僕を追いかける。  
逃げ切れる!  
 
僕は、最大限の速さで駆ける。  
だが、そう想ったのも束の間、僕は、あるくめのつるで僕の足を絡められ派手に転ぶ。  
僕の体が、地面にズザザザと音を立てながら転ぶ。  
パジャマは土だらけに汚れて、破れている部分もある。  
だが、今はそんな事を言ってられる場合ではない。  
足のつるを何とか解いて再び走り出す。  
だが、遅かった。転んだのは、植物たちが僕に追いつくのは十分な速さだった。  
再び僕は植物に囲まれていた。  
植物たちは、次々と僕の体に引っ付いてくる。  
くそっ…  
どれだけ手で払ってもまた引っ付いてくる。  
僕は、右手に気をためる。  
そして、それが最大限になると同時、物たちに向かってそれを解き放つ。  
植物の大半は、それに呑まれ倒せたが、まだまだ残っている。  
 
僕は、今度は両手に気をためる。  
両手に分割する分、威力は落ちるが、それだけ広範囲に攻撃できる。  
最大限になった気を一気に解き放ち、植物たちを一掃する。  
これで、もう植物はいなくなった。  
僕は、走り出す。  
残り行ってない場所は、スリークに繋がるトンネル。  
そこにポーラはいる事を祈る。  
 
●  
 
そこに、ポーラはいた。寝巻きのまま、佇んでいた。  
だが、雰囲気が違う。どこか冷たい感じをさせる。  
「ポーラ…」  
「何で、何でネスは来たの?」  
ポーラは僕の方へ振り返る。  
その目には涙が流れていた。何で、泣いているの?とは聞けなかった。  
ポーラは、僕の姿を見て、  
「何で、ネスはそんなになってまで私を探したの…?」  
僕は、昼に言ったような事はいえなかった。  
実際、ポーラのその雰囲気が、僕に言葉を発する事を出来なくしていた。  
「ねぇ…ネス……何でよ………」  
泣き崩れるポーラに僕は何の言葉も、何の行動もしてやれなかった。  
どうして、ポーラは泣いている?  
僕は終始その疑問が頭に浮かんでいた…  
 
 

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