きみのこえ
きみのこえが、空を渡り、
いつか、僕の元に届くだろうか。
いつか、僕の想いが、君に伝わるときが来るのだろうか…
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僕等はツーソンのホテルに一泊していた。
トンブラブラザーズのカオス劇場ラストライブまで、一日の時間が必要だったのだ。
流石にポーラの家に泊まるわけにもいかず、
こうして決して安くないお金を払ってホテルに泊まっていた。
「ねぇ…ネス…」
「ん?」
ベットに座ってバットを磨いていた僕に、椅子に座っていたポーラが僕に声を掛ける。
「私を助けるとき…怖かった?」
ポーラがそんな事を問いかけてきた。それに僕はこう答えた。
「そりゃ、怖かったよ。でも、ポーラが監禁されている時の不安を考えたら、そんなことはないさ」
と言って、僕はまたバット磨きに戻る。
うーん、僕なんかかっこいい事言ったなぁ…
しかし、ポーラは、ツーソンに戻ってきてから何かおかしい。
リリパットステップの音を取りにいくときは、戦闘も率先して、そのじゃじゃ馬さを見せ付けていたのに、今は、ボーッと窓の外を眺めていたり、時折ため息をついたり。
どこか、調子が悪いのかなぁ……
まだまだ子供で経験不足なネスには分からなかった。それが恋の悩みだと言う事は。
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その夜、僕はガタッという物音で目が覚めた。
旅が始まってから、体が常に緊張状態にあるのか、小さな物音でも眠りがさめてしまう。
僕は、頭の近くにある電気スタンドの明かりをつけて、その音源を探る。
……………?
何も…ない?
部屋中見回しても、何か変化は見当たらない。
だが、その風景に僕は違和感を覚えた。
何かが足りない…………
頭の中でこの違和感の正体を探る。
が、何も見つからない。
ふと、僕の隣のベットを見る。そこにあるはずの姿がない。
ポーラがいないのだ。
「ッ!?ポーラ!?」
僕はポーラの名前を呼ぶ。だが、返事は無い。
代わりに、ドアを開けるギィっという音が部屋に響いた。
「お客様、もう夜更けでございます。他のお客様の迷惑になりますので、お静かに…」
そこから姿を現したのは、ホテルのボーイであった。
どうやら、部屋の見回りに来ていたようだ。
「すいません……あのッ!僕と一緒にいた女の子を知りませんか!?」
僕はボーイに聞いてみる。
「お客様と一緒にいらっしゃったお嬢様なら…先程外に出て行かれましたが?」
僕はその言葉を聞くと、すぐにドアから部屋を出る。
視界の片隅に、ホテルボーイが手をすり合わせているのが見えたが、
今はチップをやっている場合ではない。
僕は少し罪悪感を残しながらも、それを無視し、ホテルを出る。
開けた道路には、車は通っておらず、街灯だけが町を照らす光であった。
「ポーラッ!?ポーラッ!?」
僕はポーラの名を叫ぶ。だが、どこからの返事は無い。
ポーラ一人の足ではそう遠くに行けない筈だ。
僕は、隣の自転車屋さんのモニターのマウンテンバイクに目をやる。
………ごめんなさい!
PSIで繋げてあったチェーンを切り、僕は全速力で自転車を漕ぐ。
交差点、デパート、ヌスット広場、ポーラスター幼稚園。
どんどん風景が変わっていくが、何処にもポーラの姿が無かった。
一体何処に!?
僕の焦りはどんどん増して行く。
そして、僕の考えはどんどんネガティブな方向に向かっていくが、
それを全て振り払う。
なんで、でていったんだ!?
僕は必死に自転車を漕ぐ。
バスターミナルの洞窟付近にも向かってみるが、
そこには、蠢く植物どもしかない。
てか、囲まれた!
あるくキノコ、あるくめ、それらの大群が、僕の周りを包囲していた。
こんなときに!!
僕の焦りを知ってか、知らずか、どんどん植物どもは増えていく。
あるくめが種を撒き、あるくキノコが仲間を呼び寄せるのだ。
チッ…
僕は自転車を捨てて、ここを走り抜ける決意をする。
そして、僕は比較的集まりが薄いところを目掛けて走る。
植物たちは慌てて、僕を追いかける。
逃げ切れる!
僕は、最大限の速さで駆ける。
だが、そう想ったのも束の間、僕は、あるくめのつるで僕の足を絡められ派手に転ぶ。
僕の体が、地面にズザザザと音を立てながら転ぶ。
パジャマは土だらけに汚れて、破れている部分もある。
だが、今はそんな事を言ってられる場合ではない。
足のつるを何とか解いて再び走り出す。
だが、遅かった。転んだのは、植物たちが僕に追いつくのは十分な速さだった。
再び僕は植物に囲まれていた。
植物たちは、次々と僕の体に引っ付いてくる。
くそっ…
どれだけ手で払ってもまた引っ付いてくる。
僕は、右手に気をためる。
そして、それが最大限になると同時、物たちに向かってそれを解き放つ。
植物の大半は、それに呑まれ倒せたが、まだまだ残っている。
僕は、今度は両手に気をためる。
両手に分割する分、威力は落ちるが、それだけ広範囲に攻撃できる。
最大限になった気を一気に解き放ち、植物たちを一掃する。
これで、もう植物はいなくなった。
僕は、走り出す。
残り行ってない場所は、スリークに繋がるトンネル。
そこにポーラはいる事を祈る。
●
そこに、ポーラはいた。寝巻きのまま、佇んでいた。
だが、雰囲気が違う。どこか冷たい感じをさせる。
「ポーラ…」
「何で、何でネスは来たの?」
ポーラは僕の方へ振り返る。
その目には涙が流れていた。何で、泣いているの?とは聞けなかった。
ポーラは、僕の姿を見て、
「何で、ネスはそんなになってまで私を探したの…?」
僕は、昼に言ったような事はいえなかった。
実際、ポーラのその雰囲気が、僕に言葉を発する事を出来なくしていた。
「ねぇ…ネス……何でよ………」
泣き崩れるポーラに僕は何の言葉も、何の行動もしてやれなかった。
どうして、ポーラは泣いている?
僕は終始その疑問が頭に浮かんでいた…