「おにーちゃーん♪」
「うおっ!」
家のノックをした途端、いきなりドアを開けて飛び出してきた少女に抱きつかれ、ポーキーは目を見開いて驚く…(まあ、目は前髪で隠れていてパッと見分からないのだが…)。
「ど、どうしたんだ?トレーシー…」
明らかに動揺しているポーキー…こんなに動揺しているのは、弟のおやつを勝手に食べた事が、親にバレた時以来だ…。
彼のそんな様子にはお構いなしと、抱きついて来た少女トレーシー≠ヘ、彼のでっぷりと太(ry…福与かな腹に顔を埋め、嬉しそうにしている。
「ポーキーおにいちゃんのお腹…あったかい…」
「そ、そうか…」
本当はやめて欲しいのだが、彼女の幸せそうな顔を見て言葉を失ってしまう…。
『恋人は10歳!?』byえろえろマスター380
この少女トレーシー≠ヘ、彼の隣の家に住んでいて何度か顔を合わす事もあるが、毎回会う度にこれをやられるのは敵わない…。ポーキーは危うく、ここに来た理由を忘れるところだった…。
「そ…そうだ、ネスはいるか?」
ネスとは、彼女の兄の名だ。家がすぐ隣なのと、歳が近いという事もあり、一緒によく遊ぶ仲だ。
「ネスおにいちゃんならいないよ。」
「そうか…じゃあ、いいよ。」
いないのか…と、引き返そうとした時、トレーシーに引き止められる。
「えー帰っちゃうのー?一緒に遊ぼうよー。」
「うーん…」
悩むポーキー。…俺は子守をしに来たんじゃないんだけどな…と、考え込んでいたが、気が付けばトレーシーにうまく乗せられて、彼女の家のリビングで寛いでいた…。
「まあ…いいか。」
一人納得するポーキーだったが、ソファに座る彼の目の前にあるテーブルには、瞬く間にお菓子の山が出来上がっていた。
「おいおい…いくら俺でもこんなに食えないぞ…」
「え…」
なぜか泣きそうな顔をするトレーシー。おいおい…俺なんか悪い事言ったか?…とポーキーは狼狽えるが、理由が思い当たらない…。トレーシーの様子は見るからに沈んでいき、目元に薄っすらと涙がにじんでいる。
と、ポーキーは気付く。…もしかしてこれか?…彼の視線の先に山のように積み上げられたお菓子の山…。
「あ…ああ、これ全部食ってやるよ…」
「ほんとに?」
さっきまでの様子とは打って変わり、嬉々とした表情になるトレーシー。はあ…これじゃあ、夕飯食えねーな…と、自宅に帰ってからの言い訳を考え、気が沈んでいくポーキーだが、
嬉しそうに微笑むトレーシーを見て、…まあいいか…と、考えるのをやめた。
―――――――――――――――――――――――――
「あー食った食った。」
どうにか完食し終えたポーキー。さすがにきつかったが、トレーシーの笑顔につられて食べてしまった…。
「おにいちゃん…聞いてもいい?」
「なんだ?」
どこかしらよそよそした様子でトレーシーが話し掛けてくる。それをジュースを飲みながら聞くポーキー。
「おにいちゃんって彼女いる?」
「ぶふっ!」
予想外の問い掛けに、ポーキーは飲みかけのジュースを噴出した。
「ああ!汚いよー。」
「わ、わりぃ…。」
自分の噴出したジュースを拭き取りながらポーキーは考える。…何でそんな事聞くんだ?こいつは…。
「で、どうなの?」
期待と不安が入り混じった様な表情で聞いてくるトレーシー。…なんでそんな表情をするんだ?…まあ、嘘ついても仕方ないか…と、ポーキーは正直に話す。
「いないぞ。」
「ほんとに!?」
目をキラキラさせながらトレーシーが聞き返してくる…何がそんなに嬉しいんだか…。トレーシーの反応に、少しムッとしていたポーキーだったが、彼女が次に発した言葉に驚愕する。
「じゃあ…私を彼女にして!」
「はぁ!?」
「…私じゃ…ダメ?」
そう言って上目遣いに自分を見ているトレーシーに、思わずドキッとするポーキー。
「い、いや…そんな事はないが…」
俺のどこが良いんだ?…俺はどちらかと言えば他人から嫌われるタイプなのに、なぜこいつは…分からん…と、本気で悩むポーキー。
「やったー!おにいちゃんの彼女になれたー♪」
「おいおい…俺はまだ…」
いいとは言ってないぞ…と、言いかけてやめるポーキー。すぐ傍では大喜びのトレーシー…こいつもよく見ると可愛い奴だし、彼女にしても問題ない…というか、この機会を逃したら二度とチャンスがないかもしれない…。
そうだ…これはチャンスだ!俺に与えられた唯一のチャンスなんだ!!
一人納得するポーキーだった…。
「おにいちゃん…」
「何だ?」
晴れて恋人同士になった二人。…とは言っても、何をしたらいいのか分からん…。とりあえず、こいつに合わせるか…。
「キスしよ。」
「はぁ!?」
おいおい…いきなりかよ…。
「だめ?」
頬を薄っすらと紅く染め、上目遣いに俺を見つめるトレーシー…やべぇ、すげー可愛いんだけどよ…いいのか?本当にいいのかよ!?
「いや…お前がしたいんなら俺はいいぞ…」
俺の呟きを聞くや否や、トレーシーは俺の唇に唇を重ねてきた。その柔らかな感触に、自然と鼓動が速くなる。
「んちゅ…うむ…」
トレーシーの舌が俺の口の中に入ってくる…おいおい…これってディープキスってやつじゃないのか?…こいつ意外とませてんな…やべぇ…心臓がバクバクいって止まんねえぞ…
冷静を装っていたポーキーだったが、それも限界が近い…口内で絡み合う舌先の感触に、ポーキーの心臓は物凄い早さで脈打っている…
「ぷは…」
唇を離す二人…。
「おにいちゃんのお口…オレンジジュースの味がするね…」
そう言って微笑んでくるトレーシー…すげぇ可愛いぞこいつ…ポーキーの思考回路は既に、トレーシーで埋め尽くされていた。そして、彼女の体に手を掛けようとするポーキーだったが…
―ガチャ…
「ただいまー」
ネスだ。
「あっ…ネスおにーちゃん。ポーキーおにいちゃんが来てるよー。」
「ポーキーが?」
「邪魔してるぞ。」
突然邪魔が入った事に、内心舌打ちしながらネスを迎え入れるポーキー。
「それで今日は何の用?…っポーキーどうしたんだ?顔が真っ赤だけど熱でもあるの?」
「え?…いや、そんな事は…ないぞ。」
ネスの鋭い指摘に、狼狽えるポーキー…まさか、トレーシーと…なんて言えるはずも無く、適当に誤魔化す。
「ああ!!」
突然大声を上げるネス。…何だ?もしかしてばれたのか…と、身構えるポーキー。
「僕のお菓子食べちゃったのー!?」
何だ…その事か…と、胸を撫で下ろすポーキー。…てか、これは勝手にトレーシーが持ってきた物で、俺は悪くないだろう…
だが、視線の先にはオドオドした様子のトレーシー…こいつ本当に勝手に持ってきたのか…仕方のない奴だな…
「あ…ああ、すまん…腹が減ってたんでね。」
その言葉を聞いて、パッと目を丸くするトレーシー。勝手にネスのお菓子を持ち出した事を怒られると思っていたのだが、ポーキーが全面的に罪を被ってきたおかげで、怒られずに済んだ…
「まあ、いいけどさ…」
どこか納得のいかない様子のネスだったが、諦めた様だ…
気が付くと、窓の外は夕焼け空だった。
「じゃあ、俺は帰るわ。」
「はいはい…」
ネスは少し不機嫌だ…まあ、それは気にしないでおこう…
「……」
と、無言のトレーシーと目が合った。
「ありがとう…おにいちゃん…」
「俺達、恋人だろ?これ位の事はするさ。」
ネスに聞こえない様に小さく呟くと、トレーシーは嬉しそうに微笑んだ。
彼女の頭を軽く撫でると、ポーキーはそのままネスの家を後にした…。
終